2024.08.22
2024年7月4日、東京・恵比寿において、リアルイベント「GLOBAL TREND NOW ~ヨーロッパ最大級のテック&スタートアップ見本市からみる、サステナビリティ最前線~」が開催されました。今回は、2024年5月にフランス・パリで開催された「Viva Technology」(以下、Viva Tech)について、グローバルのトレンドを13年ウォッチし続けてきた日立ソリューションズ 市川 博一が、実際に参加して得られた2024年のトレンドや、ヨーロッパのサステナビリティに関する取り組みを自身の視点でレポートしました。また、イベントにご参加いただいた皆さま同士で、新たな繋がりや連携を深めていただくための交流会も開催いたしました。以下にその概要をお伝えします。
<登壇者プロフィール>
市川 博一
株式会社日立ソリューションズ
グローバルビジネス推進本部
チーフイノベーションストラテジスト
入社後、製造業向けSI、大手商社・サービス企業向け企画業務を担当。2010年からアメリカ・シリコンバレーへ赴任し、新規商材発掘業務を担当。2017年に帰国し、アメリカでの活動支援や、スタートアップ創出制度の設計・運用を担当。現在でも年に10回ほど渡米し、現地でのトレンドをウォッチしている。
フランスで開催されるViva Techはヨーロッパ最大級のテック&スタートアップ見本市です。去年は16万5,000 人が参加。2016年に第1回目が開催され、2024年の今年は8回目となります。世界の様々な課題に挑戦するスタートアップ企業やテクノロジーリーダー、大企業、投資家などが多数参加し、有機的に結びつくことでイノベーションを加速させることを目的としています。毎年視察している市川は「サステナビリティへの取り組みは米国よりも欧州の方が活発に活動している印象です。特にフランスは国策でViva Techを活用し、ネクストユニコーンとなる会社を輩出して新しい産業を作ろうとしているようです」と分析します。
Viva Technologyのウェルカムボード
Viva Techでは毎年Country of the yearを決めるのですが、今年は日本の年にあたり、会場の中央には巨大なジャパンパビリオンが設置。そこにはジェトロ(独立行政法人日本貿易振興機構)主催で約50社の日本企業が出展し、日本のスタートアップの売り込みと海外VCからの出資の呼び込みを行っていました。
約50社の日本企業も出展
Viva Techの特徴のひとつが、大企業の課題解決を支援する「チャレンジ」のイベントです。一般的なスタートアップのイベントではカテゴリ別に展示場所を分けるのですが、ここではフランスに拠点をもつ企業を中心とした大企業が求めるテクノロジーを提示し、それにチャレンジしたいスタートアップを募集します。例えばLVMH モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン グループや、La Poste(フランス郵政公社)、KPMGなどの企業ブースの中で選ばれたスタートアップが出展やピッチ(プレゼンテーション)を行えるようになっています。それを見ることで、今年は各企業がどのようなスタートアップに注目し、どの分野に出資しようとしているのかが分かるようになっているわけです。
もうひとつ特徴的だったのは、フランスらしくアート・芸術に最先端技術の融合が見られたこと。LVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン が展示しているブースでは、Louis VuittonやDior、Tiffany & Co. などのブランドとテクノロジーを組み合わせた展示を行っていました。さらに中国のFancyTechは、超高精細の3Dモデルを生成可能な生成AIサービスを提供しており、わずか数枚の素材画像を元にEC向けの自動プロモーション動画を生成できるといいます。
一方、女性をテーマにしたイベントも多数開催されました。女性企業家チャレンジ(女性CEOによるプレゼン)やWoman in Tech Lounge(女性起業ならではの問題を語るメンターからの指導)など、Viva Tech委員会が女性企業家・社員の働き方改革、支援をコミットしていました。
ここからは、サステナビリティに関連したスタートアップの展示を紹介します。
まず、電力網に依存しない太陽光発電自動車を開発するLightyearは、EV(電気自動車)車体に高効率の太陽光発電パネルを取り付け、1日の発電で最大70㎞もの走行を 可能にしました。スペインやポルトガルのような晴れの日が多い地域であれば1度満充電すれば7ヵ月間は充電なしに走行できるとしています。
Lightyearが展示していたソーラー充電方式のEVカー
米国最大の垂直農業テクノロジー企業Bowery Farmingは、サービスを提供する都市の中にAIを用いた最新のスマート屋内農場ビルを建設し、野外農園に比べて水の使用量を95%も削減する有機農法を実践。独自のフードシステムを活用することで、農薬を一切使わず効率的に有機栽培を行っています。
植物性代替肉ブランドTiNDLEを開発するNext Gen Foodsは、ヴィーガンチキンの開発で有名になりましたが、最近は鳥肉や豚肉以外にもシーフードや乳製品、砂糖を使わないデザートなどにもポートフォリオを拡大しています。
Reebikeは、普通の自転車を電動自転車に変えるキットを提供しています。最短20分で装着可能な電動ユニットと、最大150㎞走行できる取り外し可能なバッテリーが特徴。自転車競技が人気のフランスらしく、自転車を大切に使おうというメッセージです。
普通の自転車を電動自転車に変えるキットを販売するReebike
農業用気象観測局サービスのSencropは、地元の気象観測所に接続された農業気象アプリケーションにより、農家に提供しているセンサーを用いて農家ネットワークを構築。気象ビッグデータをリアルタイムに収集・分析することで、最適な農地や推奨作物のアドバイスを行います。
Deep Isolationは、政府の廃棄物管理プログラムと連携し、使用済み核燃料の廃材を厳格な安全基準と地域社会の希望を満たす方向性を満たした形で処理するためのボーリングホール廃棄ソリューションを設計・開発しています。廃棄物の形態に応じて安定した岩盤まで深く掘るための最先端技術を持っています。
また、毎年Viva Techの最終日には、パリ市内の小・中学生が招待されます。最先端のテクノロジーに触れてもらう機会を与えることも、教育のサステナビリティとしては非常に重要な取り組みだといいます。
最後に、市川はまとめとして、(1)フランスは国家プロジェクトとしてスタートアップを支援している、(2)チャレンジ制度による課題解決に取り組んでいる、(3)サステナブルファーストはAIが不可欠であることなどを挙げ、セッションを終了しました。
その後に行われた恒例の交流会では、参加者の皆さんが会社や業種の垣根を超えて積極的に情報交換を行い、親睦を深めて、予定時間いっぱいまで大いに盛り上がっていました。
一部の方に今回の感想をうかがってみると、「海外でも特に欧州のイベントに参加するのは難しいので、ヨーロッパでのサステナビリティへの取り組みの話は大変参考になりました」(精密機械、50歳代)、「海外のスタートアップ企業の情報はなかなかキャッチアップできないのでとても勉強になりました」(システム開発、40歳代)、「技術戦略を担当していますが、ヨーロッパの企業はサステナビリティへの取り組みが進んでいる印象です。イノベーションとサステナビリティは相性がいいのではないでしょうか」(製造業、60歳代)、「建設現場におけるサステナビリティや廃棄物の削減などに取り組んでいますが、ヨーロッパはアップサイクルやサーキュラーエコノミーなどが進んでおり、今回の報告は貴重でした」(建設業、30歳代)、といった声が寄せられました。
日立ソリューションズでは協創で未来をつくっていくオープンなコミュニティ「ハロみん」を2024年4月に スタートしました。ワクワクする未来へ一歩踏み出す協創の出発点を掲げ、心豊かに暮らすためのサステナブルな地球社会をめざしてサステナビリティをテーマにコミュニティを作って活動してまいります。その一環で、今回のようなイベントも継続して実施し、オウンドメディア「未来へのアクション」でもご紹介していきます。皆さんのご参加もお待ちしています。今後のイベント予定はこちらをご参照ください。