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2025.04.18

座談会【Honda×日立ソリューションズ】
Hondaのフルカーボン車いすレーサーで日立ソリューションズの選手が疾走 スポーツにかける両社の想いと挑戦する人たちへの支援

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本田技研工業株式会社(以下、Honda)は2024年11月、株式会社日立ソリューションズ(以下、日立ソリューションズ)とスポンサー契約を行い、パラスポーツチーム「AURORA(アウローラ)」に所属する車いす陸上競技部の岸澤 宏樹選手へHonda製の陸上競技用車いすレーサー(以下、レーサー)「翔<KAKERU>」に関するサポートを提供しています。車いす陸上競技をはじめ、幅広くスポーツ活動を続けるHondaと、日立ソリューションズ「AURORA」の岸澤選手に、スポーツに対する取り組みと想いをお聞きしました。

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    松浦 康子

    本田技研工業株式会社
    経営企画統括部 スポーツプロモーション部 部長

    海外営業、広報、渉外などのコミュニケーション領域の部門を経て2023年7月より現職。
    三重ホンダヒート、Honda陸上競技部、Honda硬式野球部の部長を兼任。

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    池内 康

    株式会社本田技研研究所
    先端技術研究所 知能化・安全研究ドメイン チーフエンジニア

    パワードスーツなどの装着型ロボットや歩行動作計測システムの研究を担当する傍ら、2018年から車いす漕ぎ力計測システムの開発にも従事。2021年からは車いすレーサーの開発にも取り組む。論文「車いす陸上競技者のための漕ぎ力計測システムの構築」 で2023年度バイオメカニズム学会論文賞を受賞。

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    岸澤 宏樹

    株式会社日立ソリューションズ
    チーム「AURORA」車いす陸上競技部

    2022年9月より、日立ソリューションズ チーム「AURORA」車いす陸上競技部に入部。種目は、陸上トラック(400m・800m・1500m)、マラソンなど。学生時代は陸上部に所属し、ハードル競技等で活躍。21歳の時下肢機能障がいとなり、2018年にパラスポーツ選手に転向。T54クラスの認定を受け、2025年2月にUAEで行われたシャルジャ2025インターナショナルオープンの5000m(T54クラス)で日本新記録(※1)を樹立。

※1:2025年3月時点

長年幅広くスポーツ活動を続けるHondaの取り組み

「Honda Sports Challenge」として幅広くスポーツ活動を行っている目的や意義についてお聞かせください。

松浦:Hondaというと、まずモータースポーツのイメージを持たれる方が多いと思いますが、企業スポーツという面でもHondaは長い歴史を持っています。65年前、埼玉の工場内に野球部が発足し、現在野球、ラグビー、陸上、サッカー、ソフトボール(女子)の5競技7クラブが活動を行っています。元々は工場勤務の従業員および地域の皆さんとの一体感を醸成したいという目的で活動を開始したのですが、各事業所が継続的に強化を図り、今ではそれぞれのクラブが強豪クラブへと成長してきました。長い歴史の中で感じるのは、一人ひとりのアスリートの情熱は我々の想像を超えるような感動を与えてくれるということです。アスリートがチャレンジする姿を見た世の中の人たちが、自分ももう一歩踏み出してみようとする、挑戦の輪が広がっていくことを目的に、活動を続けています。

自動車業界を取り巻く環境は、大きな転換期を迎えています。従業員やHondaに関わってくれている人たちも大きく変わっていかなければならない中で、あらためてスポーツの持つ魅力や価値が、皆さんの背中を押してくれるのではないかと考え、2022年8月に公式スポーツクラブやアスリートスポンサー、大会協賛をまとめたスポーツプロモーション部を設立し、より一層スポーツに力を入れていくように舵を切りました。

その時に「Hondaのスポーツ活動を通じて、挑戦する人々を増やし、あらゆる人の人生を豊かにする」ことをめざす「Honda Sports Challenge」というスローガンをHondaとして掲げ、活動を展開しています。

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池内:Hondaは、モビリティカンパニーとして乗り物などの動くものを中心に研究をして商品として世に出しています。極限をめざす世界でこそ技術が生きると思っているので、スポーツと我々の技術は相性が良いと考えています。さらなる高みに登りたいという選手の夢の実現に、我々の技術が生かせると思うのです。トップアスリートが次に何に取り組むべきかを悩んだときに、技術と情報を提供することでスポーツに貢献できると考えています。

岸澤:スポーツを行う上で、靴やウェアなどの道具、僕の場合で言うとレーサーが必要となり、道具によって結果が変わってくるので、企業のサポートがあってこそ競技ができていると日頃から感じています。所属企業はもちろん、複数の企業と関わりながらスポーツ活動を行うので、日本が誇る技術力を持ったHondaさまがさまざまな競技を幅広くサポートしているのはアスリートとして心強いです。

日立ソリューションズはパラスポーツを通じて社会に貢献するため、「AURORA」に力を入れており、岸澤選手も所属されています。岸澤選手は「AURORA」の取り組みをどのように感じていますか。

岸澤:「AURORA」は陸上競技部とスキー部の二枚看板で活動を行っています。パラアスリートは何らかの挫折や葛藤を必ず経験しています。そういった困難を乗り越えて、次に何にチャレンジできるのかを考えた上で、スポーツに取り組んでいます。企業に所属する部としてスポーツ活動ができるのは、アスリートにとってありがたいですね。競技費用だけでなく会社や社員の皆さんが応援してくれることが力になりますし、多くの人とのコミュニケーションを通じて自分を高める結びつきを作ってもらえるのは、非常に安心できます。

フルカーボンのレーサー開発に挑むHondaの歴史と苦悩

レーサーを開発するに至った経緯や目的について教えてください。

松浦:1981年、当社の特例子会社としてホンダ太陽が設立された年に、第1回大分国際車いすマラソンも開催されました。そこに出場した選手が後にホンダ太陽に入社をしたことが、Hondaと車いす陸上競技との関わりの始まりでした。自分たちでレーサーを作りたいというホンダ太陽の従業員に対して、本田技術研究所が協力をし、両社によるレーサー開発が始まりました。車いす陸上競技のアスリートへのスポンサーは2019年から始めて、日立ソリューションズの岸澤選手へは2024年からサポートしています。

本田宗一郎は「Hondaの技術で世の中の役に立ちたい」と言っていました。レーサーの領域はまさにそれを具現化したものだと思っています。

SDGsの観点から言えば、目標3の「すべての人に健康と福祉を」と、目標11-2のような、すべての人に持続可能な交通手段を提供するという考えが、我々の活動に当てはまるのかなと思いますが、我々が考えていたのはもっとシンプルで、「夢に向かってチャレンジするアスリートを応援することで、世の中を元気にしたい」ということと、「Hondaの技術で世の中の役に立ちたい」ということです。

池内:ホンダ太陽が自分たちでレーサーを作りたいとなった時に加わった本田技術研究所のメンバーの1人が、Honda Jetの機体に使うCFRP(カーボン)のスペシャリストで、そこからフルカーボンのレーサーの研究が始まりました。2014年に、最初のフルカーボンレーサーを八千代工業株式会社(現:マザーサンヤチヨ・オートモーティブシステムズ株式会社)との共創で製造販売をはじめました。2019年にはHondaブランドのレーサーとして「翔<KAKERU>」をリリースしました。

研究者の立場から言えば、良いレーサーを作るにはトップアスリートに乗ってもらう必要があります。誰が見てもかっこよく、子どもたちのあこがれとなるレーサーを作るためには、世界のトップ選手が気に入るレーサーを作る必要があるのです。トップアスリート用の「翔」だけでなく、これから競技に挑戦していきたい人が入手しやすい「挑<IDOMI>」も開発しました。「翔」はフルカーボン、「挑」は車体の一部にアルミを使っています。

レーサー開発において苦労された点や工夫された点を教えてください。

池内:「翔」の開発中は車いす陸上競技のトップアスリートに協力してもらったのですが、「重くて乗れない。ガタもある」とダメ出しをされました。そこで、重くてガタつきのあるモデルを見直し、構造をガラッと変更するモデルをめざしましたが、みな苦労していましたね。それを乗り越えてきたからこそ、世界のトップ選手が認めるレーサーを作れるようになったのだと思います。

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Hondaが岸澤選手の所属する日立ソリューションズとスポンサー契約をすることになった経緯について教えてください。

松浦:岸澤選手については、2018年から車いす陸上競技を始められ、2019年の第39回大分国際車いすマラソンで新人賞を取り、これからの活躍が期待される、チャレンジング・スピリットを持った選手として注目しておりました。一方、岸澤選手もHondaのレーサーに関心を持って頂いているとお聞きし、双方の思いが通じ合い、2024年に岸澤選手が所属する日立ソリューションズとのスポンサー契約が決まりました。

岸澤:フルカーボンのレーサーなどの進化が大きく、ここ数年で一気に記録が塗り替えられていました。そんな光景を目の当たりにし、何か対策を練らないと世界の舞台で戦っていけないと考えていました。以前からフルカーボンのレーサーには興味があったのですが、高額な上、乗りこなす技術が自分には足りないと感じていました。

しかし、世界のレベルが上がっている中で、日本人選手として食らいついて高みをめざすには、Hondaさまにサポートをいただき、フルカーボンのレーサーに挑戦していく必要があると考えていました。

松浦:我々もレーサーの性能を上げていくためには、こういった志を持つ選手が必要です。

岸澤:Hondaさまのフルカーボンレーサーの開発が進むことは、選手にとって非常に心強いことです。選手が自分自身だけで技術を高めていくのには限界があります。Hondaさまが自分と一緒に走ってくれることで、自身の技術力向上や、レーサーの性能向上につながり、双方がチャレンジを通じて成長出来ていると感じています。

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2024年11月に行われた「第43回大分国際車いすマラソン」や2025年2月に5000mの日本新記録を出した「シャルジャ大会(※2)」でも「翔」を使っていましたね。

※2:シャルジャ2025インターナショナルオープン

岸澤:「翔」は大分国際車いすマラソン前の調整期間に初めて乗ったのですが、どういった姿勢で乗るのが良いのかなど、毎日のように姿勢やポジションを変えて試していました。それを踏まえてトラックレースやロードレースに出場したのですが、しっくりこないまま大分を迎えました。しかし、長距離を走ることで、「翔」の転がりや性能の良さが見えてきて、これならいけると手ごたえを感じました。さらに、シャルジャ大会の5000mで、トラックでも使える良いレーサーだと確信が持てました。

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ほかのアスリートはHondaのスポーツ支援やレーサー開発の取り組みをどのように評価しているのでしょうか。

松浦:我々が応援しているアスリートからは、「いちアスリートとしてHondaが自分たちに向き合ってくれることに、これまでとは違う驚きや喜びを感じている」という声をお聞きします。アスリートの可能性を少しでも拡げたいという想いで活動を続ける中、選手からそうした言葉をもらえるのは非常に喜ばしいことです。

池内:大分国際車いすマラソンでレーサー用のホイール型の計測装置を展示しました。選手がホイールをキャッチしてリリースする一瞬を数値化する装置です。これによって、力の向きなどがわかるようになり、クセや速度が出ない原因を見つけられます。
会場では出場選手の注目の的となり、人だかりができていました。車いす陸上競技では新しい取り組みで、興味を持って質問をしてくれる選手が多かったですね。研究開発の過程でさまざまなクラスの選手を計測させてもらっていて、実際に計測した選手からは「計測した結果を見てレーサーをこう調整した」といったことを教えてくれて、自分たちの培った技術がすぐに役立っているのがうれしかったですね。

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車いす陸上競技の未来と挑戦する想い

今後のHondaのスポーツ支援活動およびレーサー開発の未来についてお聞かせください。

松浦:スポーツプロモーション部が設立されて数年間の活動を経て、スポーツが持つ価値や尊さを改めて感じています。これからも、主役であるアスリートの方々の国内外でのチャレンジを我々は応援していき、そんなアスリートの姿を通じて世の中の人が一歩を踏み出す力になりたいと思います。車いす陸上競技はまだまだ競技人口が少ないので、エンジニアの技術を通じて競技人口を増やしていき、スポーツで世の中を元気にしていきたいですね。社会貢献という一面もあると思いますが、夢に向かってチャレンジするアスリートの応援とスポーツ振興が、Hondaがスポーツ活動を続ける一番の想いです。

池内:研究の方向性を決めるときに大事にしているのは、道具をより良いものに発展させることと、車いす陸上競技をより盛り上げていくことの2つがあります。「翔」と「挑」をより良いレーサーにして、より多くの選手とともに走りたいと思います。

競技を盛り上げるという点では、科学的にスポーツを解析して選手のスキルを高めてもらう活動を行っています。トップ選手だけでなく、成長過程にある選手が課題を見つけたり、トップ選手との差を可視化したりすることで何をしていけば良いのかを判断する材料にしてもらいたいと思います。数多くの団体・選手に声がけして活動の輪を広げ、さまざまな選手に計測してもらうことで、科学的に競技を面白くしていくことに貢献できればと考えています。

岸澤選手の今後の目標や、Hondaとともに車いす陸上競技に取り組むことで社会に伝えたい想いをお聞かせください。

岸澤:目標としては、アスリートとして結果を残したいという想いがあります。パリで行われた国際大会では、T54クラスの男子マラソンで日本人選手が久々にメダルを獲りました。まずはそこに追い付きたい。そのメダリストとなった選手が日本国内では突出しているので、皆が食らいついていかないとその後が続いてこないと思います。そこを僕が先頭を切って追いかけていきたいです。その先にメダルや国際大会の舞台に立つことが見えてくると思います。もちろん、世界一になることも選手としてめざしたいところです。

ケガなどで車いす生活になった人が車いす陸上競技を見て、自分も一歩踏み出したいと思ってもらえるように、アスリートとして活動する僕らには大きな責任があると思っています。もっと活動を広めて活躍し、車いす陸上競技で時速30km以上の速いスピードで走る、迫力ある姿を見せたいですね。僕も事故で挫折を味わっています。それでも這い上がっていけることを知ってもらい、色々な人に力を与えられる存在になりたいです。

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日立ソリューションズグループ
シンボルスポーツチームAURORA(アウローラ)とは

日立ソリューションズは、才能ある闊達な選手たちが競技に専念できる環境を提供し、有望な選手を育成したいという想いから、日本初の障がい者スキー部を2004年11月に設立しました。また、2014年4月から車いす陸上競技部を加え、総合的なパラスポーツチーム「AURORA」として、選手の発掘からトレーニング、チーム運営まで積極的に支援しています。
今後も、日立ソリューションズグループのシンボルとして、「AURORA」の活動を支援し、国内のパラスポーツ界のさらなる発展に貢献していきます。

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