2025.04.10
2025年2月28日、Hakuhodo DY ONEと日立ソリューションズが共催するオンラインイベントが開催されました。本イベントでは、生成AIの最新トレンドや、両社が実際に活用している協創事例が紹介され、参加者からも多くの質問が寄せられました。
本記事では、オンラインイベントで語られた内容をレポートし、生成AIがもたらす可能性とビジネス変革のヒントをお届けします。
柴田 康平
株式会社日立ソリューションズ
イノベーションデザイン技術部 技師
企業のDXを支援する「日立ソリューションズ DXラボ」の開設時から活動に参画。社内外の新規事業企画でアイデア創出から仮説構築・検証、ビジネスモデル構築まで伴走し、ワークショップを通じて必要なプロセスや検討観点を整理し事業立ち上げを支援。
堅田 一惠
株式会社日立ソリューションズ
イノベーションデザイン技術部 技師
入社後は、ユーザー体験の向上やデザイン改善を通じて、製品・サービスの価値向上に取り組むUI/UXデザイン業務に従事。 現在は企業のDXを支援する「日立ソリューションズ DXラボ」にて新規事業の推進企画を担当。
島原 正列
株式会社Hakuhodo DY ONE
プロセスイノベーション局 ディレクター
ECにおける企画・運営の経験を経て、HakuhodoDY ONEに参画。幅広い業界において、デジタルマーケティングの各領域に精通し、事業成長に寄与する統合的なソリューション提供を得意とする。
現在は、業務効率化とマーケティング高度化の両立を実現するソリューションの浸透や開発に取り組んでいる。
第一部では、ChatGPTの登場から現在に至るまでの進化を振り返り、AIが社会やビジネスに与えた変化について、Hakuhodo DY ONE 島原氏により解説されました。
ChatGPTが登場してから約2年の間に、GPT-4、Claude、Geminiといった高度な大規模言語モデル(LLM)が次々と発表され、AIの機能は飛躍的に向上しました。現在、生成AIは単なる「質問応答」のツールではなく、推論や分析を行い、より高度なタスクをこなす段階へと移行しています。
特に注目される技術の発展として、以下が挙げられました。
●推論モデルの進化により、AIが文脈を深く理解し、適切な回答を提示する精度が向上
●画像・動画生成AIの進化によって、高品質なビジュアルコンテンツの生成が容易に
●AIエージェントの登場により、単なるチャット機能にとどまらず、自律的な業務遂行が可能に
生成AIは、従来の技術者向けツールから、直感的に使える設計へと進化しています。例ば、GoogleのNotebookLMは、ドキュメントをアップロードするだけで独自のチャットボットを作成可能です。また、Claude Artifactsでは、テキスト生成を視覚的に整理するUIが採用され、情報管理が向上しました。
さらに、リアルタイムAI対話の精度も向上し、GPT Searchは検索結果を統合して「ハルシネーション(誤った情報の生成)」を軽減。音声AIも進化し、リアルタイム翻訳やカスタマーサポートへの活用が進んでいます。
今後の注目キーワードのひとつとして、「AIエージェント」が挙げられました。これは、単なる対話型AIではなく、タスクを自動で遂行する自律型AIを指します。
例えば、以下のAIエージェントが挙げられます。
●OpenAI Operator は、ブラウザを操作し、食材の注文や旅行計画の予約を自動化
●Google Deep Research は、膨大なウェブ情報を整理し、最適なリサーチ結果をレポート化
●Felo Agent は、競合分析や市場調査を自動化し、リサーチ業務を効率化
このようなAIエージェントの活用が進むことで、情報収集やデータ整理にかかる時間が大幅に短縮され、人間はより創造的な業務に集中できる環境が整いつつあるといいます。
生成AIの進化は、業務の効率化だけでなく、仕事の進め方そのものを変える可能性を秘めています。単なる「自動化ツール」としてではなく、人間の思考を補助し、より高度な創造活動を支援する「パートナー」としての役割が期待されます。今後も、AIの発展とその活用方法に注目が集まりそうです。
オンラインイベントの第二部では、生成AIを活用したHakuhodo DY ONEの業務改善の具体例が紹介されました。
まずHakuhodo DY ONEが開発した「0次AI仮説」について、島原氏からの解説がおこなわれました。
「0次AI仮説」は社内限定での利用を想定し、広告業界の情報収集や戦略立案を効率化し、仮説構築を迅速に行うために開発されました。従来膨大なリサーチが必要だった初期段階を、わずか数分で下書きできるようになっています。
Webブラウザ上で簡単な情報を入力するだけで、商品・市場・顧客理解を順に進められる仕組みが整っており、最終的にカスタマージャーニーの作成や広告施策の選定、提案書の自動生成までを一貫して行えます。
このアプリには、積み上げ式の分析プロセスが組み込まれており、各ステップの結果を次のステップの入力データとして活用する形になっています。島原氏は、「商品の特徴を分析した結果をもとに提供価値を明確化し、それを市場理解に活かす」といった連動性の高さが強みであると語りました。
具体的な分析プロセスは、以下の流れで進行します。
●基本情報の入力:簡単な項目を入力するだけで、商品・市場・顧客の理解を深める
●カスタマージャーニーの作成:AIが3人分のペルソナを生成し、行動分析を実施
●広告施策の選定:事前に読み込まれた20種類以上の施策の中から、AIが最適な5つを選択
●提案書の自動生成:選定された施策をもとに、広告戦略の下書きを作成
この仕組みにより、マーケティング担当者は、従来よりも短時間で高精度な分析を行うことができるといいます。
「0次AI仮説」の成功には、現場の知見・技術・生成AI環境の整備の3要素が大きく関わっています。
島原氏は、業務課題を的確に言語化し、最適なプロンプト設計を行うことが不可欠だったと指摘。さらに、ローコードプラットフォームの活用により、非エンジニアでもAIアプリを開発できる環境が整ったと述べました。
また、社内でのAI活用推進や研修を通じ、スムーズな導入と業務効率化が進んだことも成功要因の一つとしています。今後は、AIの学習精度向上や新たな活用シナリオの開発が期待され、マーケティング業務のさらなる最適化に向けたAIと人間の協働が鍵となりそうです。
日立ソリューションズからは、生成AIを活用した新規事業開発の取り組みを紹介しました。アイデア創出から仮説構築、価値検証、ビジネスモデルの設計までを一貫して支援するプロセスを構築し、議論の質を向上させるために生成AIを積極的に活用しています。
柴田は、新規事業の検討にワークショップ形式を取り入れ、アイデア創出のプロセスを確立していると説明しました。しかし、ブレインストーミングでは初期のアイデアが出にくいことや、議論の背景となる業界知識の差が議論の妨げになる課題があったと指摘しています。
これに対し、事前にAIでアイデアの種を生成し、それを基に議論を進める手法を導入することで、課題の解決につなげています。
また、「ブレインライティング(ブレストの参加者が先ずアイデアを書き、記載されたアイデアを参考に次の人がアイデアを追記する手法)」では、参加者のアイデアが固定化されやすい問題を解決するため、参加者(人間)が出すアイデアとアイデアの間に生成AIのアイデアを挟み込み、多角的・多面的な視点を加える工夫を取り入れたと述べました。これにより、より広がりのあるアイデア創出が可能になったとしています。
堅田は、仮説検討においても生成AIが有効に機能すると指摘しました。特に、ユーザー像の生成やカスタマージャーニーマップの作成では、AIが重要な役割を果たしていると述べています。
日立ソリューションズでは、簡単なプロフィールや課題を入力するだけで詳細なペルソナを自動生成する仕組みを導入します。ただし、そのままでは不完全なため、人の手で微調整し、より実用的な形へと仕上げる必要があるとしています。
また、カスタマージャーニーマップの作成にもAIを活用し、ユーザーの行動や感情の流れを整理します。ただし、一度に大量の情報を生成すると扱いにくくなるため、ステップごとに区切り、調整しながら進める工夫を取り入れています。
堅田は、仮説を具体的なサービスとして可視化するため、ユーザーストーリーボード(4コマ漫画)やアプリの画面イメージの作成に生成AIを活用していると述べました。
以前は、4コマストーリーを作成する際に、人物のアングルが不統一になる、キャラクターの顔が似てしまうといった課題がありました。しかし、生成AIの進化により、シーンごとの描写精度が向上し、リアルで説得力のあるストーリーを短時間で作成できるようになったとしています。
また、アプリの画面イメージにはAdobe Fireflyを活用し、リアルなデザインを迅速に生成します。これにより、スムーズな議論が促進され、アイデアを直感的に伝えやすくなったことで、意思決定のスピードも向上したと話しました。
仮説が固まり次第、アンケートやインタビューを活用した検証フェーズに移行します。柴田は、仮説には想像した内容を基にしたものと、実際のデータに基づいた内容が混在しており、どの部分を重点的に検証すべきかを見極める必要があると指摘しました。
このプロセスでは、生成AIを活用して想定質問を作成し、インタビュー、アンケート設計を実施します。例えばインタビュー実施の場合、先に述べた前者(創造で構築した部分)が仮説として検証の優先度が高い内容となるので、限られたインタビュー時間などを鑑み、質問の優先順位を上げて質問するようにする等は、人手で進めます。また、収集した回答データをAIで分析し、商品の改善点や顧客の価値認識を抽出することで、仮説検証をスピーディーに進める事が可能です。これらの活動を通じて、仮説の妥当性、提供価値等を検証します。
柴田は、生成AI活用の基本方針として、完璧なアウトプットを求めるのではなく、シンプルなプロンプトで誰もが容易に活用できる環境を整えることが重要だと語りました。デザインシンキングのアプローチを取り入れ、素早く多くのアイデアを生み出し、その中から質の高いものを選別・改善する手法が有効だと考えています。
また、生成AIの進化により、新規事業開発のさらなる効率化とスピードアップが期待されるとのことです。堅田も、より実践的な活用方法を模索し、組織全体でAI活用を促進していきたいと述べました。
オンラインイベントの第三部では、生成AI活用の課題と今後の展望について、両社の実践事例をもとにディスカッションが行われました。
島原氏は、生成AIによって大量の情報が瞬時に得られる一方、それを整理し、解釈する負担が増えていると指摘しました。プロンプトを設定すれば即座に結果が得られるものの、その後の分析作業が増え、「情報の処理に疲れる」という声が現場から上がっているといいます。
堅田も同様の課題を挙げ、情報量の多さがかえって業務の負担になっていると指摘しました。これに対し、①出力プロセスを分割し、段階的に情報を整理する、②直感的に理解しやすいフォーマットで表示するといった工夫を取り入れています。
AI活用の進展に伴い、どれをAIに任せて、どれを人間が判断すべきかが重要な課題として挙げられました。柴田は、「生成AIに依存しすぎると、出力をそのまま鵜呑みにするリスクがある」と指摘し、特にアイデア出しでは過去のデータに基づくため、既視感のある提案が多くなると述べました。
そのため、AIの出力を「参考データ」とし、人間が再解釈し独自性を加えるプロセスが不可欠としています。島原氏も、AIの提案に対して「なぜこのアイデアが生まれたのか?」を考えることで、新たな視点が得られると述べました。
柴田は、生成AIの進化が想像以上に速く、この2年で大きな変化があったと振り返り、「今重要なのは、実際にAIを使い、学びを蓄積すること」と強調しました。社内でもプロンプト設計のノウハウを更新しながら、適切な活用法を模索しています。
また、新技術の導入に際し、「試しながら適応する姿勢」が企業の競争力向上につながると指摘。島原氏も、AIの進化により、現在は人間が主導しているが、数年後にはそのバランスが変わる可能性があるとし、柔軟な対応の重要性を述べました。
本イベントを通じ、生成AIの活用には、情報の整理、適切な役割分担、技術の進化への適応が重要なポイントであることが明らかになりました。今後、AIが業務の一部として定着し、人間の判断を補助する形でどのように進化していくかが、企業の成長に影響を与えると考えられます。
日立ソリューションズの協創で未来をつくっていくオープンなコミュニティ「ハロみん」では、ワクワクする未来へ一歩踏み出す協創の出発点を掲げ、心豊かに暮らすためのサステナブルな地球社会をめざしてサステナビリティをテーマにコミュニティを作って活動してまいります。その一環で、今回のようなイベントもオウンドメディア「未来へのアクション」でご紹介していますので、皆さんのご参加もお待ちしています。今後のイベント予定はこちらをご参照ください。