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2025.02.12

【イベントレポート】
外部技術活用のオープンイノベーションが必要となる時代
ベンチャークライアントモデル(VCM)が世界の共通認識に!

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2024年12月16日、東京都港区虎ノ門において、ハイブリッドイベント「第13回イノベーションBUNKASAI TOKYO『ベンチャークライアントモデル』と『スタートアップ創出制度』の最前線」が開催されました。今回は、日立グループの社内ネットワーク活動である「Team Sunrise」からスピンアウトして社内外の方々とオープンイノベーションに向けて活動する「SIGN(Social Innovators Global Network)」と日立ソリューションズとの共催イベントとして開催。ベンチャークライアントモデルの日本における第一人者であるデロイト トーマツ ベンチャーサポート COO 木村 将之氏と、日立ソリューションズ グローバルビジネス推進本部 チーフイノベーションストラテジスト 市川 博一が、企業が新たな価値を創出するための「ベンチャークライアントモデル」(VCM)の実践的知見や、同モデルの実践、シリコンバレーでの起業支援制度の導入・運営を通じた豊富な知見などを披露しました。また、講演後には様々な業種や企業からのピッチ(短時間のプレゼンテーション)や、イベント参加者同士の交流会も実施。新規事業で社会課題解決に取り組むためのノウハウを学ぶ意義深いイベントとなりました。以下にその概要をお伝えします。

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    木村 将之 氏

    デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
    COO / パートナー

    2007年3月有限責任監査法人トーマツ入社。M&A、損益改善、KPI改善等の各種業務に従事。2010年より、スタートアップ支援と大企業のイノベーション支援に特化したデロイト トーマツ ベンチャーサポートの第2創業に参画。スタートアップ支援として、200社超の成長戦略、資本政策立案をサポート、数多くの企業のIPO実現に貢献。その後、大企業向けイノベーションコンサルティング事業を立ち上げ、現在は全社執行責任者を務める。Deloitte Asia Pacificのユニコーン支援セクターの代表(Deloitte Private Asia Pacific Emerging Growth Lead Partner)にも就任するとともに、スタートアップ共創からの利益を最大化する「ベンチャークライアント(Venture Client)」のリーディングカンパニーである27pilotsの日本リードパートナーも務める。現在はシリコンバレーと日本に拠点を置き、日本発で世界を席巻する事業を生み出すことに貢献することをミッションとして活動。

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    佐藤 雅彦 氏

    株式会社日立製作所
    研究開発グループ (研開)技術戦略室 技術戦略室 イノベーションプロジェクト統括センタ オープンイノベーション推進室
    チーフストラテジスト

    日立製作所にて、情報通信事業のシステムエンジニアリングや新会社設立、M&Aなど新事業企画に従事しながらMBAを取得。本社IT戦略本部、研究開発グループ主任研究員などを経て、2023年より現職。日立製作所における研究開発戦略の立案やオープンイノベーションの推進を担っている。2006年より継続する社内ネットワーク活動「Team Sunrise」や企業や自治体などオープンイノベーション活動の発展に寄与する任意団体「SIGN」の代表を務めている。

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    市川 博一

    株式会社日立ソリューションズ
    グローバルビジネス推進本部
    チーフイノベーションストラテジスト

    入社後、製造業向けSI、大手商社・サービス企業向け企画業務を担当。2010年からアメリカ・シリコンバレーへ赴任し、新規商材発掘業務を担当。2017年に帰国し、アメリカでの活動支援や、スタートアップ創出制度の設計・運用を担当。現在でも年に10回ほど渡米し、現地でのトレンドをウォッチしている。

大企業とスタートアップ双方の価値観の違いを解決するVCM

初めに登壇した木村氏は、2015年からシリコンバレーにおいて事業開発コミュニティや新規事業を推進させる有志活動に携わり、数々の有力スタートアップと日本企業との協業を支援してきました。その経験から木村氏は「スタートアップとの協業は成功することより失敗することの方が多く、非常に難しいというのが率直な感想でした。それを改善するためイノベーション手法を研究する中で出会ったのがVCMでした」と振り返ります。

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VCMとは、競争優位の確立および戦略的利益の実現をめざしてスタートアップの顧客になるイノベーション手法のことです。ベンチャーキャピタル(VC)がスタートアップにキャピタル(資金)を提供するのとは対照的に、VCMは企業がスタートアップの顧客になり、その技術力やサービスなどを評価することで、自社の収益向上やコスト削減などの戦略的利益のために活用することを再現性をもって実現する手法です。ベンチャークライアントモデルでは、企業にとっての戦略的な利益創出に通じる重要な課題を抽出し、課題を解決することができるスタートアップを選抜し、選抜したスタートアップの顧客になるプロセスを丁寧に実行します。

前提には、大企業にとってスタートアップと適切に協業することが競争優位を獲得するために重要になっているという考え方があります。この重要性が年々増しているのは、ビジネス環境が激変し、スタートアップが競争優位やイノベーションの重要なリソースとして考えられているからだと木村氏は指摘します。「これまでは機能性追従の時代でしたが、現在は多様な技術を組み合わせ価値、体験を創出する時代になってきています。自社が取り組んでいる領域の機能強化を主眼とした自社R&Dだけでは差別化が難しい時代になってきました。今後は顧客が求める体験価値を先取りしてアジャイルな環境で外部技術、特にスタートアップの技術を活用するオープンイノベーションが必須になるというのが世界の共通認識になっています」と木村氏は語ります。

スタートアップは新しい技術・ビジネスモデルで社会に新たな価値を提供し、事業の価値を短期間で飛躍的に高める組織のため、成長スピードが早く、常に市場・顧客に合わせた軌道修正を行います。木村氏は「安定性を重視する大企業と成長、変化のスピードを重視するスタートアップではそもそも文化や行動様式が異なります。また、知的財産についてもスタートアップが知的財産を保全したいと考えているのに対して、大企業も貢献した分は知的財産を獲得したいと考えます。このような潜在的なギャップがある状況では、成り行きに任せていてはうまく協業が進みません。VCMでは、必要以上に交渉をせず大企業が素早くスタートアップの顧客になることでこれらのギャップを解消できるのです」と分析します。

では、VCMはどのように導入するでしょうか。木村氏はイノベーション部署やコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)にVCMを推進する機能を持たせ、ベンチャークライアントモデルとして機能させることでスムーズな導入が可能になるとします。「従来、イノベーション部署は事業部から課題を吸い上げ、必要なスタートアップを探索する機能を担ってきました。ベンチャークライアントモデルの考え方にのっとり、更に要件を詳細化することで、スタートアップとの協業を成功させる可能性を飛躍的に高めることができます。また、既存事業の業績を少しでも改善することを至上命題としている事業部にかわって、VCMの推進・支援を行う部署『ベンチャークライアントユニット』に予算を持たせることで、事業部だけに任せておくと滞りがちな、難易度が高いがインパクトが大きい課題の抽出や、課題にもとづくスタートアップを探索する活動が加速します。」とアドバイスします。

新規事業創出に必要な概念や思考法の習得もめざす日立ソリューションズ

次に登壇したのは、日立ソリューションズの市川です。「日立ソリューションズはアメリカ・カリフォルニア州のシリコンバレーにオフィスを置き、先端製品ベンダー(スタートアップ)とのパートナーシップ(再販契約)による事業の強化・拡大と、パートナーシップのライフサイクル管理を通じた企業活力の維持・向上を目的とした活動を行っています」と説明します。日立ソリューションズの戦略アライアンス部には「キャッチャー」と呼ばれる担当者が配置され、事業部と連携するとともに、シリコンバレーオフィスやロンドンオフィスにいる「ピッチャー」と呼ばれる担当者が商材を発掘して日本側に最新技術情報を提供します。

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日立ソリューションズのパートナーシップ促進活動スキーム

その取り組みにおいてのポイントは、"やらない領域を決めること"だといいます。日立ソリューションズではコア技術は自社開発し、新規チャレンジ分野や開発スピードが早い分野の中で不足している部分は社外の技術を導入し、迅速にトライするよう明確に区別しています。市川は「スタートアップはそれぞれ規模や成熟度が異なっているため協業は簡単ではありません。まずはやる領域とやらない領域を分けることが問題回避に向けた重要な要素と考えています」といいます。

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日立ソリューションズの社内事業ポートフォリオマップ

続いて、市川はVCM活動の拡大について言及しました。日立ソリューションズでは、まず5~10ライセンスほど購入してスタートアップの顧客になることで、様々なものを可視化するとともに、VCMフレームワークに合わせることによってスタートアップの再現性も可視化します。市川は「それによりプロダクトのみならずスタートアップのサポート体制やビジョン共有など、打ち合わせだけでは知り得ないスタートアップの活動を把握します。また、フレームワークで可視化することで、スタートアップ協業の再現性を高めることもできるのです」と説明します。

最後に市川は、世界有数のテック企業が集まるシリコンバレーで起業方法を学びながら、外部VCからの出資を受け入れ可能なスタートアップ設立をめざすプログラム「スタートアップ創生制度」について紹介しました。社内公募で選ばれたチームが北米市場で自らの事業アイデアで事業化検証し会社設立可否を判断。複数の外部VC(シード)に対してプレゼンを行い、彼らの目線でジャッジしてもらった結果、合格すればスタートアップとして会社を設立し、出資を受け入れるというものです。市川は「こうした活動により、シリコンバレーマインドの理解、新規事業創出に必要な概念や思考法の習得をめざしています」と話します。

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日立ソリューションズのスタートアップ連携エコシステム

VCMや新事業開発に携わる人が直面する3つの課題の解決策を議論

その後、行われたパネルディスカッションでは、佐藤氏がモデレータを務め、木村氏と市川が参加しました。ここでは、佐藤氏が分析したVCMや新事業開発に携わる人が直面する、ライン部門の関心、社長の関心、社員の関心の3つの課題の解決策について活発な議論が交わされました。

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最後に行われたのは、イノベーションBUNKASAI TOKYO恒例のピッチコーナーです。今回は6名が登壇し、それぞれ数分の持ち時間で現在取り組んでいる新規事業に関するユニークな発表が行われました。

人的交流と情報収集で熱気に溢れる懇親会

以上でメインのセッションは終了ですが、その後、リアル会場では来場者による懇親会も開催されました。皆さん人的交流と情報収集に余念がなく、盛況のまま時間いっぱいまで熱気に溢れていました。一部の方に感想をうかがいましたのでご紹介します。

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「スタートアップと企業が連携するための仕組みや良い事例を学ぶことができ、優れたスタートアップに選ばれる事業を作らなければならないと改めて感じました」(製造、40代) 「特に事業部の中で味方を作ることの重要性についてとても参考になりました。今後は、実際に社内ベンチャー立ち上げに成功した事例の生々しい話を聞きたいと思います」(通信、40代) 「現在、マーケティング部門で新規事業立ち上げに向けて情報収集しています。今後は社内ベンチャーの立ち上げも視野に入れているので、知見のある異業種の方々と交流できて有意義でした」(IT、40代)

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日立ソリューションズからのお知らせ

日立ソリューションズの協創で未来をつくっていくオープンなコミュニティ「ハロみん」では、ワクワクする未来へ一歩踏み出す協創の出発点を掲げ、心豊かに暮らすためのサステナブルな地球社会をめざしてサステナビリティをテーマにコミュニティを作って活動してまいります。その一環で、今回のようなイベントもオウンドメディア「未来へのアクション」でご紹介していますので、皆さんのご参加もお待ちしています。今後のイベント予定はこちらをご参照ください。

https://future.hitachi-solutions.co.jp/community/

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