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2024.09.25

座談会【トップリバー×日立ソリューションズ東日本】
DXで未来を耕す
儲かる次世代型農業へ、データによる可視化で変革を先駆け

138回表示しました

高齢化や人手不足などの農家が抱える課題解決に向けて、スマート農業の取り組みが加速しています。トップリバーさまでは、農業における「データ」の重要性にいち早く着目し、2000年の会社設立以来、ITを活用したシステム化を推進。持続可能な社会を見据え、若手農業経営者の育成・輩出に多大な実績をあげてきました。農業は従来、経験や勘が物を言う世界でしたが、自社システムに蓄積された膨大なデータをもとに、収穫量の安定化や向上、人財育成をめざして、デジタル化を進めてきました。協創による先駆的な取り組みは今、社会に明るい光を放ちはじめています。

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    嶋﨑 隼人

    有限会社トップリバー 
    代表取締役社長

    2023年、現職に就任。高原野菜を中心としたスマート農業を推進するかたわら、新規就農者・経営者の人財育成に注力。先進的な取り組みを実践する次世代リーダーの一人として、共感のネットワークを広げながら、業界の意識変革に挑んでいる。

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    野田 勝義

    株式会社日立ソリューションズ 
    経営戦略統括本部 経営企画本部 担当本部長

    入社後、開発事業、ネットワーク事業、コンサルティング事業などに従事。2020年、日立の顧客協創手法やデジタルサービス基盤を活用したオンライン協創空間「DXラボ」を立上げ、2022年より、全社SX(サステナビリティトランスフォーメーション)プロジェクトのリーダーとして、MVV刷新、マテリアリティ特定などを推進。また、2024年には、「ハロー、みんなのSX」を旗印としたオープンなコミュニティ「ハロみん」を立上げ、サステナブルな未来社会の実現に挑んでいる。

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    大江 康一

    株式会社日立ソリューションズ東日本 
    イノベーションビジネス推進本部 イノベーション推進センタ 
    主任技師

    次世代の農業を担う農業生産者の育成・発展のための取り組みを推進。
    農業分野でのIT活用による生産効率化、利益向上の実現に向けて、お客さまとの協創により、最適な仕組みを提案・構築する役割を担う。

「経験と勘」のデータ化で
農業経営に新たな価値を吹き込む

野田:新型コロナウイルス感染症が拡大した後、社会の様相にも変化が見られるようになりました。まずは、農業を取り巻く環境についてお聞きしたいと思います。トップリバーさまでは、レタスなどの高原野菜の栽培を手がけていますが、業界全体が抱える課題に対してどのような認識を持ちですか。

嶋崎:農業には課題が山積しています。高齢化、農業人口の減少といった問題をはじめ、天候に左右されたり、収入が安定しないなどのイメージを農業へ持たれていることも事実です。
農家は多数存在しますが、農業を経営するという視点でとらえている人はごく稀です。最も憂慮しているのはこの点です。持続可能性といっても、結局は人に尽きると考えています。生産性の向上と同時に、未来を担う農業経営者をどれだけつくれるかが鍵になります。人財育成に軸足を置いて活動しているのはこのためです。

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野田: 日本の農業にも、特有の良さがあると思うのですが、ここは活かしたほうがいい、踏襲したほうがいいといった点はありますか。

嶋崎:古き良き時代の家族経営型農業のおかげで、日本の食料は守られてきた部分がたくさんあると思っています。優れた品質、安心・安全性の高さなど、普遍的な良さがありました。今も、地域農業の担い手であることに変わりはありません。
一方、課題もあります。家族型経営のため、資本主義に基づく働き方やコスト管理ができていません。これから農業をはじめようとする人たちを、足踏みさせる原因にもなっています。

野田:おいしさをはじめ、日本は品質を重視する傾向がありますからね。
後継者不足が、家族経営の難しさに拍車をかけているようですが、技能伝承についてはどのようにお考えですか。

嶋﨑:従来の家族経営では、経験や勘に頼っていた部分が多く、親から子へとノウハウを口頭で伝えていくやり方が主流だったと思います。現在、トップリバーでは、システムによるデータ管理に基づいた教育を実践しています。常に新しい就農者が入ってくる状態なので、即戦力の人財育成には、技術面の指導も客観的、計量的な根拠に基づいたわかりやすいものである必要があります。

野田:昔から農業へ取り組んできた、高齢の方の「勘」に、ナレッジが詰まっているように思えてなりません。熟練の技という暗黙知をどのようにデジタル化していくのか。言語化しにくいものだけに、集積や活用には困難を要すとは思いますが、実現できたらすごいことですよね。

嶋﨑:高齢の方に、情報を直接入力してもらうことは難しいので、どうすれば暗黙知を言語化しデータに落とし込めるか、挑戦を重ねているところです。今も、レタスのスペシャリストの方にご協力いただき、「知恵の蓄積と見える化」に取り組んでいます。

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キーワードは儲かる農業
DXが持続可能性を加速する

野田:日立ソリューションズ東日本にとって、未知なる業界だったトップリバーさまとのご縁はどのようにはじまったのですか。合意形成に至った経緯を教えてください。

大江:日立ソリューションズ東日本では、かねてより第一次産業、なかでも農業の発展にお役に立ちたいという思いを強く持っていました。「GeoMation農業支援アプリケーション」を中心とした農協(JA)向けの仕組みを提供していましたが、今まで接点がなかった農業法人の分野での事業構築をめざし、暗中模索の状態で営業活動を開始したのが今から15年ほど前のことでした。
そのときすでに、トップリバーさまでは、農作物の生産管理を製造業のように計画的に行うべきとのプランをお持ちで、貴重なデータを蓄積されていました。それをどのように可視化して計画的な農業の実現を支援するかは、私たちの得意とするところでしたので、連携して運用に取り組ませていただくことになったのです。

野田: 生産性向上の「決め手」を可視化する手段としてBIツール(※1)を活用したのですね。

※1 BI: Business Intelligence 蓄積されている多様なデータを収集・分析して使いやすくし加工・可視化し、意思決定を支援するツールやソフトウェアのこと。
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大江:トップリバーさまに3カ月ほど常駐させていただき、作業現場にも出ながら、生産工程の全体像を把握した上で、どういう経営を展望されているのか。儲かる農家を実現するために必要なデータはどのようなものかを理解するところからはじめました。データを活用するために100を超えるテンプレートを作成するなど、試行錯誤を繰り返しながら、目的に応じた最適な可視化を実現していきました。
活用したデータは、トップリバーさまの会長が、会社の設立当初からシステムを構築し、従業員の皆さんがコツコツと入力されたものです。蓄積された貴重なデータが次々と、重要な分析や判断の材料として活用されていくのを見守ることは、会長の労苦が報われていく瞬間に立ち会っているようで、ある種の感動を覚えたものです。

野田:国の施策と関係するところでは、農林水産省が策定した「みどりの食料システム戦略」への取り組みが採択されたと伺いました。内容についてお聞かせください。

嶋﨑:「みどりの食料システム戦略」は、カーボンフリーをはじめとするSDGsへの取り組みが主体になっています。
しかし、このテーマの本来のポイントは、持続可能な農業にあるはずです。それを達成するには、①環境に負荷をかけない、②儲かる農業の実現、この二つに取り組む必要があると考えました。環境への配慮は当たり前。その上で、儲からなければ意味がありません。データ管理により、どれだけのロスをなくすかが重要になってきます。追求すべきはDX(デジタルトランスフォーメーション)。そこに力点を置き、取り組み事例としてまとめたものを、農林水産省「スマート農業推進フォーラム事務局」に提出したところ採択され、令和3年9月30日に開催された「スマート農業推進フォーラム2021 in 関東~スマート農業とみどりの食料システム戦略の推進に向けて~」にて、全国の農業者を代表して発表するという栄誉に浴すことができたのです。

野田:トップリバーさまの、経営的な視点を盛り込んだスマート農業への取り組みが、その後の国の施策に影響を与えたかもしれませんね。 

大江:スマート農業というと次世代のハードウェアの導入が着目されがちですが、当時、トップリバーさまの取り組みだけが唯一、「データを活用して、儲かる農業を実現する」というものでした。

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農業の働き方改革に率先
キャリアアップをサポート

野田:次世代人財育成といっても、若い世代に興味を持ってもらい、ナレッジを共有していける仕組みづくりが必要になると思うのですが、どうやってアプローチを図っていこうとお考えですか。

嶋﨑: 日本の農業人口の減衰は著しく、このままでは100万人を切る日も遠くないと思われます。これからの農業を変えていくのは若い世代。女性の感性も重要です。カッコいい産業、儲かる産業というイメージ作りも必要ですが、DXは、若者を惹きつける魅力的な手段の一つになると考えています。

野田:そうですね。雰囲気も大切ですが、最先端技術に挑戦していかないと若者の興味が持続していかないという面があります。最近のトレンドで取り組まれていることはありますか。

嶋﨑:注目度の高いAIをはじめ、ドローンや最新の収穫機の導入は必須だと思っています。 
若い世代には終身雇用という概念がありません。はじめて就農する人も、一般企業に入社するのと同様に、キャリアアップを求める感覚の人が増えているように感じています。新しい技術を取得できることを歓迎する傾向にあるようです。 

野田:私たち日立ソリューションズグループには、AIを手掛けてきた実績が数多くありますが、生成AIを独自の技術で開発するケースも増えています。AIは、DXの一翼を担うものとしても注目を集めていますが、農業ではどのような活用が望ましいと思われますか。

嶋﨑:農産物のサプライチェーン全体の中で、生産者が決定権を持つ部分は限られています。それを拡大するには、新しい技術を使いこなせる力が必要だと思っています。AIチャットサービスも、積極的に活用しています。文章作成は本当に早くなりますよね。みんな、あっという間に使いこなすようになりました。
タスク管理をはじめ、AIを使って改善したいことは、数えきれないほどたくさんあります。先ほどの技能継承なども、再現性のあるAIならではの活用方法がありそうですね。

大江:人財を評価する仕組みとしては、IT業界で使われていた安定した企業活動を行うためにやるべきことをまとめた辞書「iCD(※2)」を農業版として整備した「農業版iCD」の構築を支援しました。農業界では初の試みになります。

※2 iCD(i コンピテンシ ディクショナリ):組織が成長していくために求められるタスク(業務)とスキル(能力)を体系的にまとめたもの

嶋﨑:ここまでできれば農場長クラス、これ以上なら独立も可能というようにクラスを可視化し、今、自分はどの位置にいるのか、点数評価とあわせてわかるようにしました。モチベーションアップに確実につながっていると感じています。
最近では、露地物栽培以外の新しいものにチャレンジする人も出てきました。ワインをつくり、地域で開催されるマルシェなどで販売しているケースもあります。

野田:挑戦が可能になる実験的な仕組みづくりは大切ですよね。挑戦のアイデアは、現場からあがってくるのですか。

嶋﨑:すべてボトムアップです。挑戦したいという気持ちを応援するようにしています。ただし、コスト管理は必ずさせて、収益が上がりそうなものについては、今後の戦略などを話し合って決めています。

農業が社会にもたらす豊かなめぐみを
協創で次世代へつなぎたい

野田: これまでの協創を通じて、トップリバーさまからキャッチアップしたことをもとに、今後はどのような提案をしていきたいと思っていますか。

大江:稼働中のAIによる収穫日予想は、従来の植物の生育状況を見ながら収穫時期を予測するエンジンとは異ったアプローチでディープラーニングという技術を使い、農作物の専門的な知識がなくても解析を行えるようにしたものです。この他にも、圃場の状況管理、作業の細分化や体系化、機械の効率的な運用を可能にする仕組みづくりなど、新たに提案したいアイデアや、ブラッシュアップしたいシステムはたくさんあります。当面は、トップリバーさまの地域での事業拡大、将来的には儲かる農業のDNAの全国展開に向けて、連携を強化しながらサポートしていきたいと思っています。

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野田: SDGsは世界共通のテーマですが、トップリバーさまが特に意識して取り組んでいるのはどのようなことですか。

嶋﨑:日本の農業は、食糧の安定供給と多面的機能の保持という、二つの大きな使命を担ってきました。多面的機能とは、例えば水田が一時的に雨水を貯めることで洪水や土砂崩れを防いだり、農地が多様な生きものを育んだり、美しい景観を保つことで人々にやすらぎを与えるといった役割のことです。しかし残念なことに、水質保全や環境整備などにより、社会の豊かさを支えてきた陰の努力は、農家にとっての経済的な効果には結びついていませんでした。環境面の豊かさを守る取り組みにも、データに基づくコスト管理が必要だと思います。

大江:環境保全は地域の農家の努力に負うところが大きいと感じています。データにより環境保全にかかるコストを明確にし、地域全体でコストを負担し、支えていくことが重要と考えています。社会にもたらす豊かな恵みが途絶えることもありません。

嶋﨑:SDGsの具体的な取り組みとしては、化成肥料を2030年までに現状の50%に削減する、障がい者を5人雇用することなどを目標に掲げています。また、食品安全、労働環境、環境保全に配慮した「持続的な生産活動」を実践する優良企業に与えられるグローバルGAP認証(※3)も受けています。

※3 グローバルGAP認証: GOOD(適正な)、AGRICULTURAL(農業の)、PRACTICES(実践)を証明する国際基準の仕組み

野田:農業にとって取り組みにくいテーマもあったのではありませんか。

嶋﨑:化成肥料も、安定供給とのバランスを考慮しながら、ドローンを使って散布量の削減を図るなど、目標達成に向けた努力をしています。

野田:環境面だけでなく経済性にも目を向け、デジタル技術とうまく融合させながら、社会に適合した責任を果たしていく仕組みをつくろうとされているんですね。

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農業をウェルビーイングなビジネスに

野田:農業の変革をめざし、協創で挑戦したいことはありますか。

嶋﨑:私たちの経営理念は、「農業活動を通じてすべての人を幸せに」というものです。農業を盛り上げることで、日本の発展を支えていきたいとの想いを持っています。
現在、農業のECサイトはBtoCのプラットフォームが中心です。今までは生産現場で努力を重ねてきましたが、今後は、売り先を自分たちで確保できるような市場流通の新たな仕組みづくりが必要だと考えています。サプライチェーン全体に関わることで、トレーサビリティから生産者の想いといった面まで、情報を一元的に消費者に伝えられるシステムも欲しいですね。日立ソリューションズ東日本の力を借りて挑戦していきたいと思っています。

野田:多くの仲間を糾合したコミュニティづくりも必要になるのではありませんか。 

嶋﨑:同世代を中心としたネットワークづくりにも取り組んでいます。最近では、女性の農業従事者も少しずつ増えてきました。このように、女性や若い世代の人たちが農業へ参画してもらうことで、新しいアイデアもどんどん取り込んでいきたいですね。社会的弱者にも働きやすい場所を提供し、若者も女性も高齢者も、たくさんの人を巻き込んで、生産地から消費者の食卓までのすべての人を笑顔にしたい。DXで、農業を変革し、持続可能な社会へ貢献したいと思っています。

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