2020.04.28
手持ちのスマホにアプリをダウンロードし、コンパクトドライ(細菌検査の試薬)で培養したコロニーをクラウドサービス上にアップロードするだけで、世界中どこにいても、判定結果をわずか3秒で知ることができる----。検査試薬の分野のリーディングカンパニー、日水製薬は、日立ソリューションズとの協創によって、昨年、革新的なクラウドサービスの提供をスタートさせました。約3年に及んだプロジェクトを振り返り、協創によって生み出される新しい社会価値とイノベーションへの想い、今後の取り組みについて、プロジェクトの最前線でリーダーを務めた日水製薬の寺田氏に、日立ソリューションズの岡本が伺います。
岡本:新サービス@BactLAB®が、昨年8月にリリースされました。半年ほど経ちましたが、市場の反響はいかがですか。
寺田:当社の主力製品である@BactLAB®は、食中毒の原因となる細菌や微生物の検査を行う菌数測定用乾式簡易培地CompactDry®を利用いただく企業や研究者向けに、培養されたコロニーを自動計測するためのクラウドサービスです。2018年8月より海外限定で試験運用を経て機能向上などの改良を加え、2019年8月に上市できました。はじめは海外市場向けでしたが、日本でもサービスへのニーズが高く、10月に国内市場に向けてサービス開始することになりました。現在、国内外で約7,000〜8,000ユーザーが@BactLAB®のアプリをインストールしています。当初予想していた倍以上のユーザーにご利用いただいています。
岡本:ここまで成果を上げることができ、私もプロジェクトを支えてきた一人としてうれしい限りです。特定業務に特化したアプリとして、これだけのインストール実績があるということは確かなニーズを捉えていると実感します。振り返ってみると、プロジェクトが始まったのは今から3年前のことでした。
寺田:そうでしたね。CompactDry®は、食品メーカーなどで、食中毒の原因となる細菌や微生物の検査に使われるものです。乾式培地であることから冷蔵での保管が必要なく、常温保管が可能です。その簡易性や利便性を活かして、専門的な検査環境やインフラが整備されていない、世界の貧困地域で水の衛生検査などにも使われています。
岡本:そのお話を御社の小野社長から直接お伺いして、毎日の飲み水に困るような国や地域でも使用されていることを知り驚きました。
寺田:水や食品の細菌をチェックすることは、私たちの生活の安心安全を守るうえで大切なことです。ただ、細菌のコロニーカウントは容易ではなく、専門的な知識やノウハウが必要です。そこで、広く普及しているスマートフォンなどのモバイルデバイスを使って、世界のどんな場所からでも、細菌の検査・計測結果を知ることができたら----。そんな想いから生まれたのが今回の@BactLAB®です。
岡本:CompactDry®はユニセフやWHO(World Health Organization)などの国際機関でも利用されていて、社会的な意義を強く感じました。私たちの得意とする画像処理技術やAIを活用することで、食や水の安全安心を守ることができるという、非常に高いモチベーションを持って@BactLAB®の開発に取り組むことができたと思っています。
寺田:岡本さんをはじめ、日立ソリューションズの皆さんはソリューションの提供を通じて、さまざまな業種のお客様とお付き合いしており、幅広い知見と豊かな経験を持っています。それに加え、私たちの強みとする試薬検査やCompactDry®の特性をよく理解いただき、お互いにビジョンや最終的なゴールを共有できました。それが今回の成功に通じたと感じています。
岡本:新しいITを取り入れ、システムやサービスに組み込んでいけるのが日立ソリューションズの強みです。今回は、私たちの得意とする画像認識技術に、AIによる機械学習(ディープランニング)を取り入れ、コロニーカウントの自動化と高速化を実現することができました。細菌の種類によってコロニーの形状や色などはそれぞれ複雑で、機械学習による精度の向上、高速化など、越えなければならない壁はいろいろありましたが、技術的な理解も含め、お互いがうまくコミュニケーションをとれるよう努めたことが良かったと思っています。
スマートフォンにコロニー画像をアップすれば、判定結果の表示までわずか3秒という速さを実現したコロニーカウンターグローバルサービス@BactLAB®
寺田:人々の健康と幸せを実現するという当社のCSV(Creating Shared Value−共通価値の創造)、あるいは水の安全や海洋資源を守るといった社会課題解決に取り組むSDGs(Sustainable Development Goals−持続可能な開発目標)の観点から見ても、たいへん意義のあるプロジェクトです。そのためパートナー企業にチャレンジ精神がないと、長期のお付き合いは難しいと思っていました。しかし、今回のプロジェクトが始まって、御社からさまざまな提案をいただく中で、新しいサービスを一緒に作り上げていこうという強い意気込みと可能性を感じ、日立ソリューションズをパートナーとして選びました。今年で4年目を迎えましたがたいへん満足しています。今後もサービスの発展に向けて協力していただければうれしいです。
岡本:次のステップがもう動きだしていますね。
寺田:スマートフォンアプリを使い、世界中どこにいても細菌検査の結果を瞬時に伝えることができる。それが今回のステップ。次のステップは、食品メーカーなど企業の基幹システムと連携し、その企業固有の品質管理ガイドラインに基づいた検査結果を瞬時に出すシステムとして発展させることを目標にしています。
岡本:企業内のシステムと連携させる上では、セキュリティをどうするか、AIの精度をどこまで求めるかなど、これからも課題はいろいろ出てくると思います。どのような状況でも食の安心安全の観点から最適なシステムを提供するために、今後もディスカッションをしながら進めていきたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いします。