
2026.04.24
スマートシティとは、IoTやAI、データ連携基盤(都市OS)などの先端技術を活用し、都市の課題解決や新たな価値創出を図る持続可能な都市モデルです。重要なのは従来の都市づくりのように、道路や建物といった「ハード」を整備して終わりにするのではなく、都市に蓄積されるデータを活用しながらサービスを改善できる「アップデート可能な都市」をつくる点にあります。
ポイントは、単なるテクノロジーの導入ではなく、自治体・企業・市民の協働による「まちづくりの変革」だという点です。本記事では、スマートシティの基本的な定義から、バルセロナやシンガポールなどの海外先進事例、日本独自の課題と解決策までを体系的に解説します。
スマートシティとは、IoTやAI、データ連携基盤(都市OS)などの先端技術を活用し、都市の課題解決や新たな価値創出を図る持続可能な都市モデルです。重要なのは従来の都市づくりのように、道路や建物といった「ハード」を整備して終わりにするのではなく、都市に蓄積されるデータを活用しながらサービスを改善できる「アップデート可能な都市」をつくる点にあります。
スマートシティで対象となる領域は幅広く、例えば各分野で下記のようなことが実現します。
さらに、コネクテッドカーのような「移動体」が都市のセンサーとして機能し、交通の流れの最適化や事故防止、防災対策に活かされるなど、技術と生活が一体化する動きも注目されています。
スマートシティは、国や地域が抱える課題や政策方針によって、発展の方向性が大きく異なります。たとえば、欧州では市民参加や環境配慮、アジアでは経済成長や国家戦略、日本では人口減少やインフラ老朽化への対応が重視される傾向にあります。
ここでは、海外の先進的なスマートシティモデルを紹介します。各都市がどのような課題をどの技術と仕組みで解決し、どういった成果を出したのかを見ていきましょう。
欧州では、スマートシティの取り組みに対してテクノロジーの導入そのものよりも「市民の合意形成」と「環境負荷の低減」を優先する傾向にあります。つまり、「市民が納得した上で都市をどんなルールで運用するか」を丁寧に設計しやすい点が特徴です。
●スペイン・バルセロナ
参加型プラットフォームの「Decidim」を活用し、市民が政策に対して投票や意見提出を行える仕組みを構築しました。(※1)また、都市データを扱うIoT基盤「Sentilo」などを通じて、行政施策の根拠となるデータを共有し、説明責任と透明性を高める取り組みも進めています。(※2)
このような「参加しやすさ」と「データ公開」により、交通・環境などの課題に対してより多くの市民が参加しながら、規制に対する理解・合意を得やすくし、施策を推進していく土台をつくっています。
●オランダ・アムステルダム
官民連携で低炭素化をめざす「気候ストリート」の取り組みを展開しました。店舗や街路灯にスマートメーターを導入し、エネルギー使用量を可視化することでエリア単位での省エネと脱炭素化を推進しています。(※3)
一方、アジアでは国家主導の大規模プロジェクトとしてスマートシティを推進し、都市の競争力を高める事例が見られます。
●シンガポール
国家プロジェクトである「Smart Nation」構想に基づき、国全体のスマート化を進めてきました。その代表例が、全国規模のセンサーネットワーク「SNSP」です。シンガポールでは、中心部における交通渋滞の解消が長年の課題とされていました。そこでSNSPを通じて人の流れや交通量といったデータを集約することで、渋滞の解消に役立てています。(※4)こうしたスマートシティの推進による社会的課題の解決は単なる利便性向上にとどまらず、国際競争力を強化するための国家戦略としても機能しています。
●韓国・松島(ソンド)
約350億ドルという巨額の投資を背景にゼロから計画的に建設されたスマートシティです。しかし、道路やビルなどのハード面や都市機能を先行して整備しただけで企業誘致が進まず、「技術だけでは人は集まらない」という教訓を残しました。(※5)
これらの事例が示すのは、欧州の「ボトムアップ型合意形成」、アジアの「トップダウン型効率追求」という対比です。日本は両者の中間として、社会課題解決を軸に市民の納得を得ながらスマートシティの実装を進めるアプローチが求められます。
近年、日本では「デジタル田園都市国家構想」(※6)などの政策方針の下、スマートシティの社会実装が各地で進んでいます。国は「スマートシティ実装支援事業」(※7)を通じ、データ連携基盤(都市OS)の整備や成功モデルの横展開を後押ししてきました。
両者に共通するのは、単に技術を導入するのではなく、住民が実際にメリットを感じられるサービスを実装している点です。
●柏の葉スマートシティ(千葉県)
都市のデータ基盤を活用し、ヘルスケアやモビリティなど複数領域のデータを連携させながら、住民向けサービスの利便性向上を実現しています。たとえば、ポータルサービス「スマートライフパス」に登録すると、自分の健康データを一元管理できるだけでなく、フィットネスアプリの利用など健康増進サポートを受けることが可能です。
●会津若松市(福島県)
会津若松市では市民の明確な同意(オプトイン)に基づいてデータを活用する仕組みを整備し、市民中心の環境づくりにつなげています。具体的には、各家庭の電気使用量を見える化することで市民に節電への意識が生まれ、結果として電気代の削減につながりました。
国の実装支援事業を通じて、データ連携基盤(都市OS)の整備やモデル事例の展開が進みつつある一方、現状としては実証・個別サービスの導入が先行し、継続運用や横展開(他分野・他地域への広がり)が課題になりやすい点が特徴です。
多くのプロジェクトが国の補助金に依存しており、事業終了後に運用費を確保しながら継続する体制づくりに苦戦するケースは少なくありません。加えて、縦割り行政による連携の難しさや、特定ベンダーへの依存が強まりやすい「ロックイン」の問題も指摘されています。
こうした課題を乗り越えるには、標準化されたオープンな都市OSの採用が欠かせません。さらに、スモールスタートで成果を積み上げ、住民の納得感を得ながら段階的に進める姿勢も重要です。
スマートシティの成否は、個別のアプリケーションよりも、データを継続的に「集める・つなぐ・活用できる状態に保つ」基盤設計に左右されます。ここでは、スマートシティの土台となる基盤技術と実装が進んでいるスマートソリューションについて解説します。
スマートシティを機能させるには、「1. 都市のあらゆる場所からデータを集め」、それを「2. 統合した上でサービスの改善や意思決定などに活用できる状態にする」2つの段取りが必要です。
1.IoTセンサーと次世代通信によるデータ収集
データ収集の基盤となるのが、IoTセンサーネットワークです。カメラや環境センサー、車両端末などさまざまなデータソースから情報を取得します。そして、これらを支えるのが5Gなどの高速・低遅延な通信ネットワークです。膨大なデータを瞬時に送受信することで、一刻を争う災害対応や自動運転が可能になります。
センサーは、増やして観測密度を上げれば得られる情報は増える一方で、運用コストやセキュリティリスクも高まる点には注意が必要です。そのため、まずはKPIに直結する観測対象から着手し、成果を確認しながら段階的に拡張していく設計を行うのが現実的といえます。
2.都市OSによるデータ活用基盤
収集したデータを統合・活用する中核となるのが「都市OS」です。都市OSは異なるメーカーのシステムや異なる部門や事業者同士でもデータがやり取りできる標準APIで接続し、分析やサービス連携に活かせる形に整える「共通言語」を提供します。さらに、アクセス権限の管理、個人情報利用への同意管理など、都市データを安全に運用するための仕組みを担います。
都市OSを活用した具体的なサービスは、分野ごとに実装が進んでいます。主要な領域を以下に整理しました。
スマートシティの強みは、分野が個別最適で終わらず、都市OSを介してデータが連携することで相乗効果が出る点です。たとえば交通の人流データを、防災時の避難誘導や、高齢者見守りのリスク検知に活用できる可能性があります。
ただし、データ連携が進むほど、個人情報の取り扱いやセキュリティリスクへの配慮も重要になります。特にヘルスケア領域では、個人情報の同意取得や匿名加工を前提とした設計が、社会実装の成否を左右するポイントです。
スマートシティを継続的に機能させるには、単発の実証や個別サービスではなく、自治体・企業・住民が参加し続けられる「エコシステム」を作ることが重要です。ここでいうエコシステムとは、次の要素がそろい、改善サイクルが回る状態を指します。
●推進体制(誰が意思決定し、誰が運用するか)
●データ基盤とルール(集める・つなぐ・安全に使う仕組み)
●市民合意(透明性と参加の仕組み)
●財源・契約(運用を続けられるコスト設計)
特に官民連携では、解決すべき都市の課題とKPI(例:移動時間、CO2削減、窓口待ち時間、出動回数など)を明確にした上で、スモールスタートで効果を検証しながら段階的に拡張するアプローチが現実的でしょう。
最初から全分野の統合をめざすと、関係者の調整や合意形成のハードルが高くなり、プロジェクトを進めにくくなります。そのため、将来的な拡張を見据えてデータの相互運用性を確保した上で、まずは「使えるデータ」の活用から始めることが成功のポイントです。
データ活用は利便性向上につながる一方、プライバシーやセキュリティへの懸念も伴うため、市民の参加と合意形成も欠かせません。データ活用の目的やメリットだけでなく、リスクや対策も含めて透明性高く開示し、運用中も継続的にフィードバックを得る仕組みが必要です。
継続運営のためにはビジネスモデルの設計が不可欠です。補助金依存では初動の立ち上げはできても、運用を進めるうちに資金が枯渇して継続運営が困難になりかねません。そのため、予算化(費用対効果に基づく継続投資)や共同利用・広域連携によるコスト按分、PPP(Public Private Partnership:官民連携)/PFI(Private Finance Initiative)や包括委託、成果連動型契約(PFS)による最適化、住民・事業者向けサービスの一部有料化(適用可能な範囲で)などを組み合わせ、運用の標準化も含めた収益・コスト設計を初期段階から組み込むことが重要です。
企業と自治体では、スマートシティへの参画方法が大きく異なります。企業は既存アセットの活用が起点となり、自治体は地域課題の解決が出発点です。ここでは、それぞれの立場から実践的なステップを解説します。
企業がスマートシティに参入する際は、まず自社の既存アセットが都市のどこで価値を生むかを見極めることから始めます。具体的には、自社が以下3層のどこに強みを持つかを特定した上で、次のステップに進みます。
スマートシティでは、異なる強みを持つ企業間でのパートナーシップが不可欠です。技術力だけでなく、データガバナンスや長期的な運用体制を共有できる相手を選定し、自治体との対話を早期に始めることで、地域課題と自社ソリューションの接点を見つけられます。具体的な参画の入口としては、自治体の公募・PoC募集への応募、コンソーシアムへの参加、PPP/PFIや包括委託での参画、既存事業(交通・防災等)にデータ連携を付加して自治体へ提案、などがあります。
また、実証実験で終わらせないためには、初期段階から収益化の見通しと運用コストを明確にすることが大切です。技術的に実現できるかだけでなく、市民が継続利用してくれるかという「受容性」をKPIに設定し、達成が難しい場合には早期に改善や撤退を判断しましょう。
自治体では、地域課題を起点にスマートシティを設計します。特に重要となるのは、マスタープラン策定・財源確保・段階的実装の3点です。
マスタープラン策定では、たとえば「10年後にどのような町にしたいか」というビジョンを定め、そこから逆算して必要なデータを整理します。同時に、庁内の縦割りを超えて意思決定できるよう、全部署横断の推進組織を設けることが大切です。
財源については、補助金だけに依存せず実証後に運用できるよう、予算化(費用対効果)や共同利用によるコスト按分、PPP/PFI、広告モデルやデータ提供による収益化、成果連動型契約(PFS)、など現実的な選択肢を早期に検討しましょう。初年度は補助金を活用した小規模実証に注力し、2~3年目以降で収益モデルの確立をめざす段階的な計画が現実的です。
実装は特定地区や課題に絞ったスモールスタートが基本です。住民がメリットを実感できる成功事例を作り、効果検証を経て対象範囲を広げていきます。
具体的な進め方については、総務省の「スマートシティサービス事例集」(※8)に、スマートシティに取り組み始めた段階の自治体が、どのように進めていくべきか、事例をもとに詳しく解説していますので、ご参照ください。
国が作成しているスマートシティ施策のロードマップでは、2030年をさまざまなスマートシティサービスが実装される「第三世代」と位置付けています。
2030年に向けて、スマートシティは私たちの生活を大きく変えようとしています。移動、買い物、医療といった生活シーンがデータ連携でシームレスにつながり、日常生活の利便性が向上するためです。たとえば、移動の手配や行政手続きなどが効率化されれば、人々はより重要な活動に時間を割けるようになるでしょう。
ただし、利便性の追求だけでは真のスマートシティは実現しません。技術はあくまでも手段であり、目的は「人々の幸福」です。市民参画、プライバシーへの配慮、情報格差を生まないための対策など、「人間中心の都市設計」が持続可能なスマートシティの基盤となります。
また、スマートシティの価値は、過疎化が進む地方都市や超高齢社会において、より大きく発揮されるでしょう。遠隔医療や自動運転が高齢者の「移動の自由」を支え、見守りセンサーやインフラの自動点検が、限られた労働力でも都市機能を維持する環境づくりにつながります。
「誰一人取り残さない」社会を実現するためには、技術革新と人間中心の都市設計を両輪として進めることが重要です。
スマートシティは、もはや遠い未来の構想ではなく、すでに社会実装が進む現在進行形のビジネス領域です。都市の課題が複雑化する中で、スマートシティは都市経営を支える基盤として重要性が高まりつつあります。
ただし、スマートシティを成功させるためには、技術を導入するだけでは不十分です。運用体制や市民との合意形成までを含めたエコシステム全体を設計する視点が欠かせません。
特に重要なのは以下の3点です。
日立ソリューションズでは、こうしたスマートシティの実現に向けて、データ連携基盤の構築から可視化技術の提供まで、建設・都市向けDXソリューションを提供しています。たとえば、「都市・建物向け xRトータルソリューション」を活用すると、デジタルツインで現実空間の建物や設備を仮想空間上に再現し、xR技術(※9)により建物や設備の維持管理の作業状況を可視化できるため、作業効率の向上を図れます。
自社の技術やデータを都市づくりに活かしたいとお考えの際は、ぜひご相談ください。
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