
2026.04.13
株式会社日立ソリューションズ(以下、日立ソリューションズ)が運営するコミュニティ「ハロみん」は、2026年2月25日に『ワクワクする未来のモビリティ ~「モビリティ×AI」でめざす、交通事故ゼロの社会~』を開催しました。
本イベントでは、「モビリティ×AIでめざす交通事故ゼロの社会」をテーマに、AIの進化がモビリティをどのように変えていくのかが議論されました。SDV(Software Defined Vehicle)などクルマのソフトウェア化が進むなか、モビリティは単なる移動手段から社会インフラとしての役割を担う存在へと変わりつつあります。
基調講演には、ナカニシ自動車産業リサーチ代表アナリストの中西孝樹氏が登壇。モビリティとAIの融合による産業構造の変化や、SDVの進化によってクルマが社会インフラのデバイスへと拡張していく未来像を解説しました。
続いて日立ソリューションズの下澤昌史が登壇し、SDV開発の課題や交通事故ゼロをめざしたシミュレーション技術など、AIを活用したモビリティ開発の取り組みを紹介しました。
パネルディスカッションでは、中西氏、下澤に加え、日立ソリューションズ 戦略アライアンス部の田中秀治が参加。AI時代のモビリティ産業の勝ち筋や、10年後のモビリティ社会の姿について議論が交わされました。
本レポートでは、モビリティ×AIの進展がもたらす産業構造の変化と、交通事故ゼロをめざす社会の実現に向けた技術や取り組みを紹介し、これからのモビリティの可能性を探ります。
<登壇者>

中西 孝樹氏
ナカニシ自動車産業リサーチ
代表アナリスト
オレゴン大学卒。山一證券、メリルリンチ証券などを経由し、JPモルガン証券東京支店株式調査部長、アライアンス・バーンスタインのグロース株式調査部長を歴任。
現在は、ナカニシ自動車産業リサーチ代表アナリスト。
日経金融新聞・日経ヴェリタス人気アナリストランキング自動車・自動車部品部門、
米国Institutional Investor自動車部門ともに6年連続第1位の不動の地位を保った自動車アナリスト。
最新著に「トヨタ対中国EV」(日経新聞出版)(2025年10月26日発売)、ほか「トヨタのEV戦争」(講談社)「自動車新常態」(日経新聞出版)「CASE革命2030年の自動車産業」(日経新聞出版)など多数。

下澤 昌史
株式会社日立ソリューションズ
サステナブルシティビジネス事業部
モビリティソリューション本部
エバンジェリスト
入社当初は組込みソフトウェアエンジニアとしての業務を担当し、その後、日立製作所中央研究所においてシミュレーション環境の研究開発に従事。
現在は、シミュレーション環境の開発、MBD(モデルベース開発)の普及活動、ならびにAI技術の導入推進など、技術と現場の橋渡し役として活動し、社内外の多様な関係者との連携を通じてモビリティ分野の最前線において新たな価値の創出に努めている。

田中 秀治
株式会社日立ソリューションズ
グローバルビジネス推進本部
戦略アライアンス部
イノベーションストラテジスト
2010年(株)日立ソリューションズ入社。
システムエンジニア、サービスエンジニアとしてプロジェクトマネジメント、サービス開発を担当。2018年よりグローバルビジネス本部に異動し、スタートアップ協業による事業開発を担当。2021年よりシリコンバレーに赴任し、海外商材の探索、トレンド調査、日系企業との新規事業協創に従事。2025年8月に帰任し、引き続きスタートアップ協業によるオープンイノベーション活動を推進している。

織井 奈津乃
株式会社日立ソリューションズ
モビリティサービス営業本部
主任
入社当初はSEとしてインフラ対応に従事し、システム基盤の安定運用を支援。
その後、営業職へ転じ、モビリティサービス営業本部にて自動車業界のお客様を担当。
ITの力で業界課題を解決し、お客様の事業成長に貢献することを使命とし、つねに「支えたい」「力になりたい」という思いを胸に取り組んでいる。
本イベントの基調講演には、ナカニシ自動車産業リサーチ代表アナリストの中西孝樹氏が登壇しました。自動車アナリストとして30年以上業界を分析してきた立場から、モビリティの拡張性、AI化に伴うSDVの進化、そして両者が掛け合わさることで生まれる新たな価値について解説しました。
まず中西氏は、自動車産業が直面している構造変化について説明しました。従来はConnected、Autonomous、Shared、Electricを指す「CASE」で変革が語られてきましたが、地政学的変化やコロナ禍によるデジタル化の加速、中国のAI投資拡大などを背景に、自動車産業は次の段階「CASE2.0」へ移行しつつあります。これはGX(グリーン・トランスフォーメーション)とDX(デジタル・トランスフォーメーション)が重なり合う新たなフェーズだと説明しました。
また自動車産業は、長い時間をかけて変化する産業から、将来像を具体的に議論すべき段階に入りつつあると指摘します。こうした変化の中で、モビリティは車両単体の進化にとどまらず、社会システムへと拡張していきます。車両はSDVとして知能化し、コネクティッドカーとして多様なサービスと接続。さらにデータの範囲はユーザー情報にとどまらず、交通やエネルギーへと広がり、モビリティは交通、エネルギー、物流、生活インフラと連動する社会システムの一部へと進化していくと説明しました。
中西氏はその先の姿として、「クルマは社会インフラのデバイスになっていく」と述べました。モビリティは都市や生活と一体化し、多層的なデータを活用する社会基盤の一部として位置づけられていくという見方です。
こうしたモビリティの進化を支えているのが、SDVのAI化だと中西氏はいいます。生成AIによって仮想データ生成やシミュレーションが可能になり、限られた実データから大量の学習データを生み出せるようになりました。これにより企業が競争力を一気に高める可能性が生まれていると説明しました。
この変化を積極的に取り込んできたのが中国の自動車産業です。2000年代以降、生成AIへの戦略投資を続けた結果、従来のADAS(先進運転支援システム)にE2E(エンドツーエンド)型AIモデルが導入されるようになりました。AIモデルは、入力から出力までを一体で処理するモノリシック型から、世界モデルと組み合わせて環境理解を行う方向へ進化しています。
AI化されたSDVの目的は、開発効率の向上ではなく「魅力的なUXをどれだけ創造できるか」にあると中西氏は述べました。その象徴が「家電化するクルマ」です。Vehicle OSと高性能半導体(SoC)によるデジタルコックピットにより、スマートフォンや家庭のデジタル機器と連携したユーザー体験が生まれています。
一方、日本の自動車産業にはUX起点でモビリティを設計する「文化革命」が必要だと強調しました。ハードウェア中心の開発思想ではUX中心の車づくりが難しく、グローバル競争で差が広がりつつあると指摘します。
また、自動運転技術も急速に進展しています。ナビゲーション・オン・オートパイロット(NOA)は目的地設定後に車両が自動走行し、ドライバーは監視のみを行う仕組みで、中国では高級車の約50%、大衆車でも約30%に搭載されていると紹介しました。
さらに世界最大級のテクノロジー見本市である「CES」では象徴的な変化も見られました。これまでモビリティ企業が集中していたウェストホールでは完成車展示が減り、AI・半導体企業が集まる「CES Foundry」へ車両展示が移り始めています。これは自動車産業がハードウェア中心からソフトウェアやAI中心へ再定義されつつある流れだと指摘しました。
こうした変化を象徴する技術として、NVIDIAの自動運転開発システム「Alpamayo」も紹介されました。このシステムではAIが推論(リーズニング)を行う仕組みが導入されており、AIにどこまで意思決定を委ねるのかという新たな議論も生まれています。一方、モービルアイは意味理解や社会性の判断は人間がルールとして定義すべきだと主張しており、中西氏は「AIと人間の役割分担は今後の重要な論点になる」と述べました。
最後に中西氏は、CESで発表されたソニー・ホンダモビリティの「AFEELA」にも触れました。最新モデルのAFEELA 2ではモビリティのエコシステムを広げるプラットフォーム構想が示され、オンチェーン型のモビリティサービス基盤や「X to Earn」型のクリエイターエコシステムが紹介されました。こうした仕組みをオープンプラットフォームとして展開することで、新しいエンターテインメントやビジネスモデルが生まれる可能性があると述べました。

ここまでモビリティの拡張とAI化の進展について説明してきた中西氏は、SDVが自動車産業のビジネスモデルそのものを変えていく可能性についても紹介しました。
まず中西氏は、SDVの競争力を左右するのは車体ではなく「アプリケーションの価値」だと指摘。SDVは単なる車両アップデート技術ではなく、バリューチェーン全体を変革する概念だと強調します。
従来の自動車ビジネスは車両販売による売り切り型モデルでしたが、SDVの普及によって継続課金型のビジネスへ移行する必要があると説明しました。現在の自動車産業は数兆円単位の投資が必要な巨大産業へ変化しており、車両販売だけでは投資回収が難しくなっているためです。
また、トヨタ自動車(以降、トヨタ)が掲げるSDV戦略にも触れました。一般的に自動運転の目標は「人間より安全な運転」とされますが、トヨタはあえて「交通事故ゼロ」という極めて高い目標を掲げています。
この実現には、周囲の状況を理解して将来の行動を予測するAIモデルと、ドライバーの行動を変えるAIエージェントが重要になると説明しました。こうしたAIが信頼できるパートナーとして機能することで、データドリブン開発や車両とインフラをつなぐプラットフォームが成立するといいます。
さらに、車両のセンサーは新たな社会インフラとしても活用できます。車は約95%の時間が駐車状態にあるため、防犯や物流など新たなサービスにつながる可能性があると紹介しました。また、AIエージェントがドライバーの行動を予測し、商業施設やサービスと連携することで新たなマネタイズの仕組みも生まれると述べました。
一方で中西氏は、こうした未来像が「ワクワクする話」だけではないとも指摘しました。現在、自動車産業ではテスラや中国メーカーが急速にシェアを拡大しており、この5年間で世界シェアの約10%が伝統的メーカーから新興勢力へ移ったといいます。
革新的企業の多くはAIや半導体を活用した「車中心の進化」を進めています。一方で日本メーカーの強みは、車両と周辺産業を組み合わせた価値創出にあると中西氏は指摘しました。
今後の競争の主戦場は「知能化」に移る一方で、日本はものづくりの強みを生かしながら、SDVのバリューチェーンと周辺産業を組み合わせた独自戦略を描く必要があると述べました。
最後に中西氏は、モビリティとAIの融合によって産業構造が大きく変化する中で、どのような勝ち筋を描くのかが今後の重要なテーマになると語り、講演を締めくくりました。

株式会社日立ソリューションズ サステナブルシティビジネス事業部 モビリティソリューション本部の下澤昌史は、「クルマが"移動手段"から"社会の一員"になる未来」をテーマに講演しました。
講演では、モビリティ変革の潮流とSDV開発の課題を整理したうえで、自動運転やAI開発の進展を踏まえた日立ソリューションズの取り組み、そして交通事故ゼロを見据えた将来像について語りました。

下澤は、モビリティ産業のソフトウェア化が進む中で開発の複雑化が急速に進んでいると指摘しました。車両ソフトウェアのソースコードはすでに3〜5億行規模に達しており、機能の増加に伴い今後さらに増えていくと見られています。
こうした中で課題となるのがソフトウェア人財の不足です。経済産業省のモビリティDX戦略でも、生成AIによる効率化を考慮しても将来的に大きな人財不足が生じる可能性が指摘されています。
対応策として下澤は、シミュレーション技術の重要性を挙げました。従来は実車試験を補完する検証ツールとして活用されてきましたが、自動運転のAI化が進む現在では、現実では発生しにくい「レアケース」を生成し、AIの学習データを生み出す基盤として重要性が高まっていると説明しました。
また自動運転の普及に伴い、安全評価の方法も変化しています。欧州の自動車安全評価プログラム「Euro NCAP 2026」では、ADAS機能の評価においてシミュレーションの活用が認められるなど、制度面でもその重要性が高まっています。
一方、自動運転システムの設計にも課題が残っています。例えば2025年にサンフランシスコで発生した大規模停電では、Waymoのロボタクシーは安全側に判断して停止した一方、Teslaは人間の運転に近い形で走行を継続しました。下澤はこの事例を挙げ、どちらが良い・悪いというわけではなく、同じ自動運転技術でも設計思想によって挙動が異なると指摘しました。こうした背景から、自動運転AIの安全性を検証する指針として「ISO/PAS 8800」などの規格整備が進んでいると説明しました
こうした課題を踏まえ、下澤は日立ソリューションズの取り組みとして、シミュレーションと生成AIを組み合わせた交通安全検証のアプローチを紹介しました。
少子高齢化が進む日本では交通環境がより複雑化しており、事故の未然防止や被害軽減を前提とした安全設計が求められています。こうした背景から、従来のテストケースだけでは十分ではなく、歩行者を中心とした交通環境の検証が重要になると指摘しました。
そこで紹介されたのが、生成AIを活用した歩行者シミュレーションです。地図データと事故情報から危険地点を抽出し、その交通環境をシミュレーター上に再現。生成AIによって歩行者の行動を自律的に生成し、車両と歩行者の相互作用を再現します。
歩行者には仮想カメラ映像を入力として与え、「道路を横断して目的地に向かう」といった役割を設定することで、周囲の状況に応じて行動するモデルを生成します。これにより、従来のテストシナリオでは想定されていなかった危険な交通状況も再現できると説明しました。
さらにADAS機能を組み込んだ車両モデルを投入することで、車両が適切に減速・停止できるかを検証し、安全性評価の精度を高められるます。
そして、その先にあるのが「交通事故ゼロ」をめざすモビリティ社会です。自動運転技術によって車両に「譲り合い」や「配慮」といった社会的なふるまいを組み込むことも可能になると述べました。例えば学校周辺では登下校の時間帯に合わせて速度を落とす機能や、夜間に子どもが一人で歩いている状況を検知して支援につなげる仕組みなど、人に優しいモビリティの実現が考えられるといいます。
こうした車両が広がれば、「車は危険な存在である」という前提も変わり、クルマは移動手段にとどまらず社会の一員として機能する存在になっていくと語り、講演を締めくくりました。

パネルディスカッションでは、モデレーターを日立ソリューションズ モビリティサービス営業本部の織井奈津乃が務め、講演を行った中西孝樹氏、下澤昌史に加え、日立ソリューションズ 戦略アライアンス部の田中秀治が参加しました。
田中は、海外スタートアップとの協業や商材導入の経験を踏まえ、グローバルの技術トレンドを紹介しました。AI分野では、インフラ層や汎用アプリ層に続き、今後は業界特化型の「バーティカルAI」が価値を生む領域になるといいます。モビリティやSDVでも同様に、アプリケーションレイヤーで新たな勝ち筋が生まれていくとの見方を示しました。

まず中西氏は、下澤の講演について、日立ソリューションズが開発に寄り添う姿勢や思想面に刺激を受けたと述べました。そのうえで、自動運転はテスラ型、Waymo型、Mobileye型といった異なる方向で進化しており、今後は技術そのものよりも、どう運用し規模を拡大するかが重要になると指摘しました。また、AIによる事故ゼロと、日本が描く事故ゼロの社会像を掛け合わせることが、日本の勝ち筋になり得るとの見方を示しました。
下澤は、中西氏の著書『トヨタのEV戦争』をモビリティ領域を学ぶ入口として読んだ経験に触れ、SDVという概念を早い段階から整理していた点に学びがあったと振り返りました。そのうえで、日本の自動車産業がめざすべき理想像について中西氏に問いかけました。
これに対し中西氏は、日本の自動車産業はものづくりとしては強い一方、プロダクトアウトの発想が依然として強く、UX起点の変革が遅れていると指摘しました。だからこそ、いまが企業文化を変える最後の機会だと考え、オピニオンを発信していると述べました。
田中は、中西氏の「クルマは社会インフラのデバイスになる」という見立てに強い共感を示しました。車単体ではなく、あらゆるものが接続された世界の中で、シミュレーションも車両から仮想空間全体へと広がっていくといいます。開発スピードや人財不足の観点からも、モビリティ産業はIT産業と似た転換点にあると整理しました。
最初のテーマ「モビリティ×AIの観点で10年後はどうなっているか」では、登壇者3人がそれぞれの視点から将来像を語りました。
中西氏は、2035年は決して遠い未来ではなく、モビリティのプラットフォーム化がさらに進む時期だと指摘しました。ロボタクシーのようなアプリケーションに加え、トヨタのウーブン・シティのようにモビリティと周辺産業を組み合わせた取り組みも本格化するといいます。一方、日本がテスラのようなエンドツーエンド領域で競争するのは難しく、周辺産業との掛け算やものづくりの強みを生かした別の競争力が必要だと述べました。
下澤は、10年後を正確に描くことは難しいとしつつ、AI研究の進化の流れから考察を示しました。ChatGPTの登場からAIエージェント、さらにマルチAIエージェントへと発展してきた流れを踏まえると、今後は車同士が情報をやり取りするような研究も進む可能性があるといいます。複数の車が自律的に情報共有することで、より人に優しい交通が生まれる可能性がある一方、新たなリスクも生まれる可能性があり、この領域は重要な研究テーマになるとの認識を示しました。
田中は、技術そのものより「誰が使うのか」という視点から将来像を語りました。2030〜2035年にはZ世代やミレニアル世代が主要なユーザーとなり、車もアプリケーション中心の設計へさらに移行するといいます。カスタマーサクセスやチャーンレート(顧客離脱率)といったSaaS的な発想も重要になり、世代をまたぐコンテンツ体験や新しいビジネスモデルがモビリティ領域でも価値を持つ可能性を指摘しました。

2つ目のテーマ「モビリティの未来を考えたとき、特にAI活用で気をつけるべき点は何か」では、AIの活用範囲をどう設計するか、人がどう関与するかが主要な論点となりました。
田中は、生成AIの普及によって現在もっとも重要な論点は、ガバナンスとセキュリティだと指摘しました。AIエージェントにどこまで権限を与えるのか、データをどう守るのかは、自動車のように人命に関わる領域では避けて通れないテーマです。生成AIには大きな可能性がある一方、暴走のリスクもあるため、人がマネジメント役として関与する前提をどう設計するかが重要だと整理しました。
下澤はAI時代における人間の役割について語りました。AIそのものの進化だけでなく、それを使いこなす人財の育成や組織の受け入れ体制が重要だといいます。今のAIは未来を知っているわけではありません。望ましい未来を描き、それをAIに教えるのは人間の役割だと強調しました。
中西氏は、AIの進化は止められないとしても、それがそのまま人間にとって望ましい未来につながるとは限らないと指摘。AIに引っ張られるのではなく、人間がどう寄り添い、制御しながら共生するかを考える必要があると述べました。エンドツーエンド型の進化は重要な潮流ですが、それだけが唯一の未来ではなく、AIと人間の役割分担を含めた設計思想が今後の鍵になるとの見方を示しました。
最後に織井は、ワクワクする未来像が見え始めている一方で、産業を越えた連携や協創がこれまで以上に重要になるとまとめました。

パネルディスカッションの後半では、会場から寄せられた質問をもとに、モビリティとAIの今後について議論が行われました。
まず、認知判断系や対話型以外で、今後クルマに実装され得るAIについて質問が出ました。
中西氏は、SDVの価値はソフトウェア更新だけでなく、ハードウェアのアップデートにも広がると指摘。日本の自動車メーカーでは、使うかどうか分からないハードを事前に仕込む設計は文化的に馴染みにくい一方、必要な機能を後から追加する方が親和性が高いといいます。また、車内体験はエンターテインメント以外の領域にも広がる可能性があるとの見方を示しました。
下澤は、車同士が会話するというより、情報共有する方向に可能性を見ていると述べました。例えば、前方の路面状況を後続車に伝えたり、緊急時に周囲の車へ状況を共有して道を譲ってもらったりするなど、車同士の情報連携が新しい交通の仕組みを生む可能性があるといいます。
田中は、車に人格のような要素を持たせる可能性にも触れました。AIによって標準化が進みすぎると面白みが失われる一方、車ごとに異なるキャラクターやパーソナライズされた体験が実装されれば、新しい価値が生まれるのではないかと述べました。
次に、東京都市圏を前提とした場合、今後モビリティは増えるのか減るのかという質問が寄せられました。
田中は、都市圏では効率化が進み、車両台数は減る可能性が高いとの見方を示しました。車だけでなく他の移動手段も含めて最適化が進めば、移動全体の効率は高まると考えられるといいます。
下澤は、効率の観点では減る方向に向かう可能性が高いとしつつも、AIによってクルマが社会や家族の一員のような存在として受け止められれば、別の価値軸が生まれる可能性もあると述べました。車に名前をつけるような愛着ある関係性が生まれれば、単純な効率論では説明できない未来もあり得るといいます。
中西氏は、台数ベースでは減る可能性がある一方、移動が安く安全になることで人々の移動意欲そのものは高まると整理しました。移動距離とモビリティ価値の掛け算で見れば、市場はむしろ拡大する可能性があるといいます。また、自家用車は「いつでも、どこでも、思ったときに動ける」存在として、今後も重要な意味を持ち続けるとの見方を示しました。

その後の交流の時間では、講演やパネルディスカッションで提示された論点をきっかけに、モビリティ×AIがもたらす産業構造の変化や、交通事故ゼロをめざす取り組みについて活発な意見交換が続きました。登壇者と参加者が直接言葉を交わす場面も多く、技術の進化と社会実装を結びつける新たな視点や連携の可能性が生まれる時間となりました。

本レポートが、モビリティとAIの融合によって社会や産業がどのように変化していくのかを考える手がかりとなり、交通事故ゼロをめざす次世代のモビリティ社会を構想する一助となれば幸いです。
日立ソリューションズでは、協創で未来をつくっていくオープンなコミュニティ「ハロみん」を、2024年4月より運営しています。「ワクワクする未来へ 一歩踏み出す、協創の出発点」を掲げ、「繋がる」「探索する」「深める」「創る」をコンセプトにイベントや参加者同士の交流などの活動を行っています。モビリティ・セキュリティ・まちづくりDX・先進技術など、幅広いテーマを取り上げております。その一環で、今回のようなイベントもオウンドメディア「未来へのアクション」でご紹介していますので、皆さんのご参加もお待ちしています。今後のイベント予定はこちらをご参照ください。
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