
2026.02.06
日立ソリューションズが運営するコミュニティ「ハロみん」は、2025年12月18日にオンラインイベント『GLOBAL TREND NOW Vol.8 ~AIトレンド 2025年の総括と2026年の展望~』を開催しました。
2025年、AIエージェントが私たちの働き方・暮らし方を根本から変え始めています。ChatGPTやGeminiに代表される生成AIは、今や「エージェント化」のフェーズへと進化。自律的にタスクをこなし、意思決定を支援するAIが、企業活動の中核を担い始めています。
本イベントでは、シリコンバレーに駐在する現地メンバーもリモートでライブ登壇。グローバルのリアルな空気感とともに2025年のAIエージェントに関する動向を振り返りつつ、2026年に向けたスタートアップ戦略や主要トレンドも一挙にご紹介しました。
また、2025年12月10日~11日にアメリカ・ニューヨークで開催された世界最大級の商用AIカンファレンス「The AI Summit New York」で見聞した最新情報も速報で紹介。2026年に向けて予測される技術・ビジネスの変化や、世界のAIトレンドを牽引する米国からの展望、そして今後日本企業がとるべきAIエージェント導入戦略などについて熱く語りました。
以下にその内容をダイジェストでお伝えします。最新のAIトレンドに興味のある方、AIを事業活動や企業活動に活用されたい方は必見です。ぜひご覧ください。
<登壇者>

鈴木 伴英
Hitachi Solutions America, Ltd.
Director, Business Development and Alliance Group.
日立ソリューションズに入社後、衛星画像受信システムの開発・導入や、米国州政府向けの固定資産税評価サービスの運用に従事。その後、ロケーションベースサービス(LBS)製品の企画・プロモーションを担当。2020年からはシンガポール・タイを拠点に、Hitachi Solutions Asia Pacific/ Indiaと連携し、アジア太平洋地域の財閥企業向けに製品企画・開発・マーケティング・販売をリード。2023年以降は、自動車のソフトウェア・ディファインド・ビークル(SDV)および建設テック分野の製品マーケティングを推進。2025年よりシリコンバレーに拠点を移し、スタートアップのソーシングや日系企業とのオープンイノベーションに取り組んでいる。

北林 拓丈
株式会社日立ソリューションズ
業務革新統括本部 AIトランスフォーメーション推進本部 AX戦略部
チーフAIビジネスストラテジスト
AIアンバサダー
新卒で現日立ソリューションズに入社し、JavaエンジニアとしてECサイトの開発・運用に従事後、米国での研修を経て、主に大手通信事業者のシステム再構築プロジェクトにコンサルタント、ITアーキテクト、プロジェクトマネージャーとして参加。2020年から2023年までシリコンバレーに駐在し、スタートアップとのパートナーシップや日系企業間連携による新規事業の立ち上げと拡大に従事。その間生成AIにも関心を持ち、帰国後は新規事業支援とオープンイノベーションを推進する傍ら社内や顧客向けに生成AIトレンドをレポート。2024年4月から新設されたAIトランスフォーメーション推進本部と兼務になり生成AIエバンジェリストとして活動中。
セッション1では、「2025年総括と2026年の展望」と題し、AIエージェント時代の到来と2026年に向けたスタートアップ戦略について鈴木が論説しました。
2025年の総括について、鈴木は「ユーザー企業では2023年~2024年に行われていたAIのPoC(概念実証)が終了し、特化型のバーティカルAI(各業務・業界に特化したAI)を活用し始めました。現在はAIエージェントと既存システム統合が主テーマとなり、本格的な実装・統合フェーズに入りました。
一方、スタートアップは、バーティカルAIで勝ち筋は見えたものの、プレイヤーが多すぎて勝者不明となる、技術進化の速さで優位性がすぐ陳腐化してビッグテック(Big Tech)との競合も激化するなど、まさにAI乱世という表現が正しい時代でした」と述べました。
米国では、生成AIによるソフトウェア開発が主流となり、エントリーレベルの業務が代替されるなど自動化が進展。一方の日本では、人の作業のサポートでAIが活用されているのが主流です。また、2022年以降、IT企業だけではなく非IT企業も生成AIを用いたソフトウェア開発にシフトしたため、AI関連職(AIエンジニア、AIコンサル)の求人は増加し、非AI関連職(ソフトウェア開発)の求人は大幅に減少しています。
エンドユーザー企業はこれまでITサービス業へシステム導入・運用・保守を外部委託していましたが、今後はソフトウェアを買うのではなく作る(内製化の)方向にシフト。生成AIの普及に加え、バーティカルAIも数多く登場したことで、ソフトウェア開発の容易化が進み、エンドユーザー企業は自前のAIソリューションを構築する方向に傾きつつあるということです。
そこで、海外のエンドユーザー企業による内製化の事例も紹介されました。
世界的な金融機関のモルガンスタンレーでは、COBOLのようなレガシー言語をモダン言語に移行できるAI「DevGen.AI」をわずか20名のチームで開発。約900万行のコード処理により約28万時間(約750人月)の工数を削減しました。
また、スーパーマーケットチェーンのウォルマートは、商品需要予測、棚卸最適化、チャットボット、配送経路最適化など、様々なツールを社内AIチームが開発。その結果、店舗業務の効率化や、開発工数の大幅削減、在庫管理の最適化などで成果を創出し、現在は週あたり90万人以上の従業員がAIツールを活用中だといいます。
一方、AI業界のプレイヤーを俯瞰してみると、ビッグテックのServiceNow、Salesforce.com、Snowflake、OpenAI、AnthropicなどはAIエージェントを動かすためにはワンプラットフォームにすべきだというメッセージを発信しています。また、それらビッグテックとつながるために数多くのスタートアップが登場しているほか、専門分野や業務に特化したAIも次々と生まれています。
鈴木は「ここまで見ていくと、米国では相当AI活用が進んでいるように思えますが、MIT(マサチューセッツ工科大学)から出されたレポートでは、生成AIのパイロットプロジェクトのうち、実際に効果や収益拡大につながっているのは全体の約5%程度に過ぎず、約95%は期待していた成果を出せていないか、PoC止まりになっていると指摘しています」と述べました。
また、スタンフォード大学でも、AIがソフトウェアエンジニアの生産性に与える真の影響を明らかにするために600社以上、10万人以上のソフトウェアエンジニアを対象とした大規模な分析を行いました。その結果、現状はAIがエンジニアを置き換えるどころか、反対に手戻りが約2.6倍に急増するなど生産性を悪化させていることが判明したということです。
MITは失敗する要因として4つ挙げています。1つ目はスケーリングの難しさ。PoCでは動いても、全社規模や顧客向けプロダクションに展開できないケースです。2つ目は、データ統合の課題。AIが既存システムや業務プロセスと統合できず、ROI(投資対効果)が生まれにくい状況があります。3つ目は、スキル・人財不足。AIエージェントや生成AIを活用できる人財・組織体制が整っていない問題です。4つ目は、リスクとガバナンス。セキュリティやコンプライアンス面の懸念がAI導入を阻害していると指摘します。
では、成功している企業は何が行われているのでしょうか。MITではいくつかの要件を挙げていますが、鈴木が特に注目したのが、経営層の強いリーダーシップと戦略整合性です。「成功企業ではAI 活用が単なる技術プロジェクトではなく、経営戦略と整合した取り組みとして推進しています」と述べました。
続いて、鈴木は2026年の展望について言及し、「企業は全社エージェント化へ進み、現在あるスタートアップの多くは淘汰されていくでしょう。イノベーションの民主化が拡大し、ユーザー部門の誰もが自分たちの業務フローを流すために、自由にAIアプリやAIエージェントを作り使いこなしていく時代になると予測されています」と述べました。
Microsoftの年次カンファレンス「Ignite 2025」で提唱された「Ubiquitous Innovation」というテーマでは、AIが特定の開発者や限られた専門チームだけのものではなく、すべての人、すべての部門で利用・創造されるイノベーションに変わるという考え方が示されました(イノベーションの民主化)。今後は人とAIエージェントが対等な戦力として協働する組織へと進化するための議論が必要になってくるといいます。
そうした予測がある一方で、クラウドベンダーの標準的なセーフティ機能に任せるのではなく、企業自身が独自のポリシーや規則をAIエージェントに適用し、統制するためのGCR(※1)レイヤーを用意。従業員と同様に、AIにも企業ルールを守らせるための二層型ガバナンスモデルが必要だという考え方も出ています。
最後に鈴木は、日系企業が今後取り組むべきテーマについて、「今手元にあるAIエージェントを業務で実際に動かし、改善しながらAIを運用しつつ、AIを安全に使える仕組みを標準化し、GCRレイヤーの検討を開始するという両輪で進めることが重要なポイントになります」と提案し、セッションの結びとしました。
セッション2では、「グローバルに学び、ローカルに活かす」をテーマに、北林が日本企業のAIエージェント導入戦略について論じました。
冒頭で北林は、The AI Summit New Yorkで見聞した最新情報を紹介しました。今回はAIエージェントに関する4つの潮流があったと北林はいいます。
1つ目は、人間中心のAI体験です。AIは単なる業務効率化だけでなく「体験価値」の強化につながるものに進化。ルールベースはAIが担う一方で、創造性や重要な判断は人間が担うなど、役割分担の明確化が進むといいます。
2つ目は、産業横断イノベーション及び現場主導のROI志向による活用拡大です。AIエージェントの活用自体がバリューチェーン全体へ拡大するとともに、個人の感情・感性・個別最適化領域へも進出します。
3つ目は、マルチエージェントプラットフォームの高度化です。単一モデルから複数エージェントが強調する仕組みへ変化することで、エージェント間で意思決定を分散したり複雑タスクを自律的に処理したりできるようになります。
4つ目は、信頼・倫理・安全性です。AIに任せる範囲が拡大することで、導入判断のカギはリスクと信頼性に置かれ、人間の監督や説明責任、データ品質が不可欠となります。
北林は「全体を通して、AIが進化すればするほど人間がどのように関わるかが重要になるという印象を受けました」と述べました。
次に、The AI Summit New Yorkで見たグローバルトレンドと、日本の現場の現状を比較したギャップについて言及しました。グローバルでは、人間中心のAI活用(体験価値・創造性重視)や、産業横断・現場主導のROI志向、マルチエージェントによる権限分担およびモジュール化設計、信頼・倫理・安全性への投資・ガバナンスなどがトレンドになっています。
一方、日本の現場では、業務効率化・自動化が中心で、部門間連携や現場主導のAI活用が進みにくいサイロ化・トップダウン傾向が見られます。自動化も単機能ボット・エージェント止まりでモジュール化の不足、ガバナンス・リスク管理体制の未整備、AIリテラシー・教育不足が課題となっています。
では、日本企業流の導入アプローチには何が有効でしょうか。北林は、前述の課題やギャップに対して、まずは現場でAIを使う⇒ROIを確認する⇒高度化する⇒信頼で持続させるという順序でのアプローチを推奨しました。
「ギャップの解消でめざすべきは完全自動化ではなく"高度な協働"であり、"Human-in-the-Loop"(人間が意図的に関与してフィードバックや管理を行うプロセス)が日本企業における成功の鍵になると考えています」と北林は述べました。
そこで、AIエージェント導入の3ステップと導入フェーズの考え方を紹介しました。北林はAIエージェント導入ステップに「守破離」という考え方を取り入れています。またAIエージェント導入には3つのフェーズがあるといいます。
続いて、実践事例として日立ソリューションズで効果を実証した活用例を紹介しました。
1件目は、社内業務の高度化(Human-in-the-Loopの実践)事例です。Allganize社の生成AI「Alli LLM App Market」を活用し、社内問い合わせ対応及びFAQ作成の自動化に取り組みました。問い合わせ回答だけでなく、その内容をFAQ記事化する下書きまでをAIが実行し、人間は承認するだけの運用にしたところ、作業時間が短縮し、従来の3倍の量でFAQ記事を公開できるようになりました。
2件目は、クラウド監視アラートの高度化事例です。クラウド環境(Amazon Web Services/Microsoft Azure)からの膨大なアラートをAIが分析した上で、過去の対応履歴と照合し、重要度判定と一次切り分けを自動化。その結果、運用担当者の負荷軽減と障害対応の迅速化につながりました。
3件目は、建設業向け技術情報検索の事例です。国交省の公開資料や膨大な社内規定など、複雑な非構造化データをAIが横断検索し、新旧規格の比較表を作成するなど「専門家のアシスタント」として機能させた結果、専門知識が必要な調査時間を劇的に短縮できたということです。
そこで北林は、AIエージェント導入にあたり、注意すべき点についてアドバイスし、「エージェント活用の大前提はデータであるため、AIは"ゴミ"を食べると正しく働くことはできません」と述べました。古い規定や重複ファイルはAIにとってハルシネーション(誤った回答)の原因にもなるため廃棄と選別を行うとともに、見出し付きテキスト(Markdown)やQ&A形式へ変換する構造化を行います。そして、「誰に向けた」「いつの」といった情報をタグ付けして検索精度を高めるメタデータ付与が有効だといいます。
また、AIエージェントに安全に活躍してもらうためには、GCRレイヤーの実装が有効だと指摘します。
Governance(統制)においては、AIエージェントにNHI(Non-Human Identity:固有の非人間ID)を発行し、共通APIキーの使い回しを禁止した上で、どのAIが、何をしたかを追跡可能にします。
Compliance(法令・倫理)では、データの学習利用禁止、著作権配慮など、人間用の規定だけでなく「エージェント用の行動規範」(System Prompt)を策定します。
Risk(リスク管理)には、AIを信用しないゼロトラストの考え方を導入し、「権限最小化」(Least Privilege)の原則に基づき、必要なデータ以外へのアクセスを物理的に遮断します。
最後に北林は、「AIエージェントは"魔法使い"ではなく新しい部下・同僚です。そしてその部下・同僚たちが私たちに"仕事の再定義"を迫っているという事実に正面から向き合いましょう」と語りかけ、セッションを締めくくりました。
その後、参加者から寄せられた質問に登壇者が答えるQ&Aセッションに移りました。数多くの質問に対して予定時間いっぱいまで論考が交わされ、盛況のうちに全てのプログラムは終了しました。
日立ソリューションズでは、協創で未来をつくっていくオープンなコミュニティ「ハロみん」を、2024年4月より運営しています。「ワクワクする未来へ 一歩踏み出す、協創の出発点」を掲げ、「繋がる」「探索する」「深める」「創る」をコンセプトにイベントや参加者同士の交流等の活動を行っています。モビリティ、セキュリティ・建設テック・先進技術などを幅広いテーマを取り上げております。その一環で、今回のようなイベントもオウンドメディア「未来へのアクション」でご紹介していますので、皆さんのご参加もお待ちしています。今後のイベント予定はこちらをご参照ください。
https://future.hitachi-solutions.co.jp/community/