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2026.01.29

未来を創る「GX」!
企業価値を高めるグリーントランスフォーメーションと
組織の実践ロードマップ

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「グリーントランスフォーメーション(GX)」という言葉をご存知ですか。ここ数年で耳にされたことのある方も増えているのではないでしょうか。その響きから「環境対策系の概念である」という想像をされる方、また、「X(トランスフォーメーション)」から、企業として何かしら取り組む必要のあるものとして認識された方などそれぞれいらっしゃるかと思います。

いずれも正しいとも言えますが、それぞれのイメージを合わせた上で深掘りをする必要があります。GXは単なる環境問題への対応ではなく、企業の競争力と持続的成長にも関わる、本質的な部分での業務改革ともいえるものです。しかし同時に、技術的な限界、莫大なコスト負担、社会的な摩擦といった、見過ごせない課題も抱えています。

ここでは、「GXとは何か?」という基本的な問いから一歩踏み込んで、そのメリットだけでなく、リスクやジレンマについても率直に解説します。さらに、「DXと何が違うのか」「GXは本当に唯一の選択肢なのか」「自社・組織としてどう判断し、取り組むべきか」といった、より実践的かつ本質的な疑問にも答えていきます。企業が主体的に最適な道を選択するために、多角的な視点から検討していきましょう。

そもそも、GX(グリーントランスフォーメーション)とは何か?

GXを戦略的に推進するためには、まずその定義と背景、そして関連する重要キーワードとの関係性を正確に理解することが不可欠です。国際的コンセンサスの中で進められている日本政府によるGX推進の取り組みを中心に紹介します。

GXの定義と背景

GXとは、「温室効果ガスの排出削減と経済成長の両立に向けた社会変革の取り組み」とされ、産業革命以来続いてきた化石燃料中心の産業構造・社会構造を、太陽光や水素などのクリーンエネルギー中心の構造へと転換し、それによって経済社会システム全体を変革しようとする取り組みを指します。重要な点は、これが単なるエネルギー源の置き換えに留まらないということです。GXは、産業構造、社会システム、さらには個々のライフスタイルに至るまで、あらゆる側面での変革を含む、極めて広範な概念であると言えます。

GXの定義と今求められている背景と日本政府の施策
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GXが求められる背景には、気候変動問題の深刻化があります。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書(※1)は、「人間活動が気候を温暖化させてきたことに疑う余地はない」とし、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて1.5℃に抑える努力を追求することが、壊滅的影響を避けるために不可欠である」と警告しています。この国際的な危機感の高まりを受け、2015年にはパリ協定が採択され、世界共通の目標が設定されました。日本政府もこの流れを受け、2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を宣言。GXを国の成長戦略の重要な柱として位置付けました。

日本政府が打ち出すGX戦略のポイントは、環境対策のみならず、将来の産業競争力の強化やエネルギー安全保障の確保という、2つの国家戦略的な目的を同時に達成するための手段として推進されている点です。2022年7月には「GX実行会議」を設置し、2023年2月には「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(通称、GX推進法)」を閣議決定して、具体的な政策として本格的に動き出しています。そして政府は、今後10年間で150兆円超という巨額の官民GX投資の実現をめざしています。

※1 JCCCA:IPCC1.5℃特別報告書

「カーボンニュートラル」「SDGs」「ESG」、GXと混同しやすいキーワードの整理

GXについて議論する際、「カーボンニュートラル」「SDGs」「ESG」といったキーワードが頻繁に登場します。これらは密接に関連していますが、その役割とスコープはそれぞれ異なります。これらの関係性を正しく理解することは、自社のGX戦略を位置づける上で極めて重要になります。

GXと共に語られる関連用語、「カーボンニュートラル」「SDGs」「ESG」のそれぞれの視点と関係性
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・カーボンニュートラル
GXの文脈におけるカーボンニュートラルとは、GXの実践でめざす状態や具体的目標を指します。温室効果ガス(CO2など)の排出量から、植林やCO2回収技術などによる吸収・除去量を差し引いて、合計を実質的にゼロにすることを意味します。GXとは、このカーボンニュートラルという目標を、経済成長を犠牲にすることなく達成するための変革のプロセスです。

・SDGs
SDGs(持続可能な開発目標)とは、2030年までに持続可能でよりよい世界をめざすための、17の国際目標です。貧困や飢餓、教育、ジェンダー平等など、極めて広範な社会課題を網羅しています。

GXの推進は、特にSDGsの目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」、目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」、目標13「気候変動に具体的な対策を」といった複数の目標達成に直接的に貢献します。つまり、GXはSDGsという、より大きな国際的枠組みの中で推進される重要な取り組みの一つと位置づけられます。

・ESG
ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字をとったもので、投資家が企業の持続的な成長性を評価する際に用いる視点や評価基準のことを指します。近年の投資家は、財務情報だけでなく、企業が環境、社会、企業統治という収益活動以外の部分にどのように配慮しているかを重視するようになりました。いかに高収益であっても、社会や環境にネガティブな影響をもたらす企業は持続性の観点で危ういと考えられるようになっているためです。企業がGXに積極的に取り組むことは、ESG評価における「E(環境)」のスコアを直接的に高め、企業価値を向上させるための重要な要素となります。

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GXはなぜ今、企業・組織にとって重要なのか?

現在、GXの取り組みは、法規制、市場、金融、サプライチェーンといったあらゆる側面から、企業経営に直接的な影響を及ぼすようになってきています。

企業を取り巻く環境の変化とGXの必要性

既に世界各国で環境関連の規制が強化されており、炭素排出が「コスト」として認識される場面が増えています。その象徴が「カーボンプライシング」です。これは、炭素の排出量に価格を付ける仕組みであり、炭素税や排出量取引制度(ETS)といった形で導入が進んでいます。つまり、企業における環境対策の成果は、財務諸表上の業績値として現れるようになったのです。
日本でも、政府が「成長志向型カーボンプライシング構想」を打ち出し、段階的な制度導入を計画しています。

また、前述のとおり世界の金融市場ではESG投資が主流となりつつあり、企業の非財務情報、特に環境(E)への取り組みが投資判断を大きく左右するようになりました。GXに積極的に取り組む企業は、環境に配慮した持続可能な企業として評価され、資金調達において有利な条件を得やすくなります。逆に、対策が遅れている企業は、将来の炭素排出コストが負債として認識される「炭素負債」のリスクを抱えていると見なされ、投資家から敬遠されたり、融資条件が悪化したりする可能性があります。

加えて、世界有数のテクノロジー企業や大手自動車メーカーなどのグローバル企業においては、自社の工場やオフィスでの排出(スコープ 1, 2)だけでなく、原材料の調達から製品の使用・廃棄に至るサプライチェーン全体での排出(スコープ 3)の削減を強力に推進しているケースもあります。「スコープ」とは、温室効果ガスの排出形態を分類する際の視点のことです。機器を生産する企業が自社排出分をサプライヤーなどに転嫁することがないよう、視野を広げた厳密な管理を求めて各国の規制などに導入されるようになりました。スコープ3まで含めて管理することで、事業者自身の排出量削減だけでなく、取引先である部品メーカーや素材メーカー、物流業者に対しても脱炭素化を求める動きが加速しています。今後、取引先を選定する基準として、価格や品質、納期に加えて「環境への貢献度」が重要な要素となることが確実です。

さらに、消費者の環境意識も年々高まっており、製品やサービスを選ぶ際に、企業の環境への姿勢を重視する傾向が強まっています。環境に配慮した製品は、価格が多少高くても選ばれるケースが増えており、企業のブランドイメージを大きく左右します。同様の変化は、人財市場でも起きています。特に若い世代を中心に、就職先を選ぶ際に企業の社会貢献意識や環境への取り組みを重要な判断基準とする人々が増えています。

GX推進が企業・組織にもたらす具体的なメリット:守りから攻めの経営へ

ここまでの内容から、企業にとってのGXは、外部圧力に対応するための「守りの経営」と捉えられがちです。しかし実際には、新たな企業価値を創造し、持続的な成長を実現するための「攻めの経営」の機会が多く含まれます。

・先進性によるブランディング
先進的なGXに取り組むことで、環境問題への高い意識と技術力を持つ企業としての強力なブランドイメージを構築できます。これは、顧客や取引先からの信頼獲得に直結し、他社との明確な差別化要因となります。

・コスト削減
また、省エネルギー設備の導入や生産プロセスの効率化を推し進めることで、光熱費や燃料費といったエネルギーコストを直接削減できます。工場の照明をLEDに切り替えたり、高効率な空調設備を導入したりするだけでも、大きな効果が期待できます。

・市場開拓、新規事業開発
さらに、環境配慮型の製品や、脱炭素化を支援する新たなサービスを開発することは、成長著しいグリーン市場を開拓し、新たな収益の柱を育てる絶好の機会となります。

GXへの取り組みは、気候変動がもたらす異常気象などの物理的リスクや、規制強化をはじめとする市場・技術・評判の変化といった移行リスクへの適応力を向上させ、事業継続を可能にする強靭な経営基盤を築くことにつながります。

デジタル技術でGXを加速する理由:企業・組織の変革戦略

多くの企業にとって、GXの実践は、コンプライアンス対応にとどまらず、経営戦略の重要な検討項目の一つとなりつつあります。とはいえ、その推進には慎重な検討と、自社の状況に応じた最適なアプローチの選択が求められます。それらのことを踏まえ、ここからは、GXを実践していくにあたってのポイントについてお話を進めていきます。

GXを目に見える成果を伴う取り組みにするために不可欠な要素がDXです。デジタル技術が具体的にどのようにGXを加速させるのか解説します。

GXとDXの関係
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GXとDXの違いと共通点:企業変革の視点から

GXとDXは、どちらも「トランスフォーメーション(X)」の名を冠していることからわかるように、既存のあり方を根本から覆す「変革」であるという点で共通しています。単なる業務改善やツールの導入にとどまらず、ビジネスモデルや組織、プロセス、企業文化といった事業の根幹に関わる再設計を伴う点が本質であると言えます。その一方で、それぞれの目的と対象領域には明確な違いがあります。

DXとは、企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革。業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立することです。その主たる目的は、デジタル技術を駆使して企業の競争優位性を確立することにあります。

一方、GXは、化石燃料中心の経済社会システムをクリーンエネルギー中心へと移行させるための変革です。その目的は、持続可能な成長と脱炭素社会の実現にあります。

DXとGXは、それぞれ異なる目的を持つ概念ですが、「DXなくしてGXなし」とも「GXがDXの新たな方向性を示す」とも言えるような、相互に深く関連し、相乗効果を生み出す関係にあります。デジタル技術は、GXの目標達成を強力にサポートし、効率的かつ効果的な変革を可能にし、GXへの取り組みは、企業がDXを進める上での新たな価値創造やビジネスチャンスにつながるのです。

デジタル技術がGX推進にどう貢献するか:企業・組織における具体的なDXを活用したGX実践例

では、具体的にデジタル技術はどのようにGXの実践に貢献するのでしょうか。ここでは特に重要な5つの領域における活用例を紹介します。これらは、GXがDXなしには成り立たないことを明確に示しています。

デジタル技術がGXの実践に貢献する5つの領域
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・エネルギーマネジメントの最適化(見える化と制御)
GXの第一歩は、自社のエネルギー使用状況を正確に把握することから始まります。ここでDXが絶大な力を発揮します。工場やオフィスビル内の各所にIoTセンサーを設置すれば、電力使用量、温度、湿度、CO2濃度といったデータをリアルタイムで収集・可視化できるようになります。これによって、エネルギーの無駄をデータに基づいて正確に特定できます。

また、AIを活用して、収集した膨大なデータを分析すれば、生産計画や天候、室内の人の数などに応じて、空調や照明、生産設備の稼働を自動で最適化できるようになります。実際に、世界最大手のテクノロジー企業は、AIを活用してデータセンターの冷却に使用する電力を大幅に削減したとする報告を出しており、その効果の大きさを示しています。

・サプライチェーンの脱炭素化(トレーサビリティと効率化)
企業のCO2排出量の多くは、自社以外のサプライチェーン(スコープ 3)から発生します。この複雑で広範な領域の管理は、DXなしには不可能です。デジタルプラットフォームを導入することで、原材料の調達から生産、輸送、販売、廃棄に至るまでのサプライチェーン全体のCO2排出量を算定し、追跡・可視化することが可能になります。これにより、サプライチェーン上のどこに排出量の多いホットスポットがあるかを特定し、具体的な削減策を講じることができます。

さらに、AIを活用した高精度な需要予測は、過剰生産やそれに伴う在庫、廃棄を大幅に削減します。天候や交通状況のデータをリアルタイムで分析し、最適な輸送ルートや輸送手段を導き出すことで、物流における燃料消費とCO2排出を削減することもできます。実際に、ある廃棄物収集運搬業の企業では、AIを用いて収集車両の配車ルートを最適化し、CO2削減効果を見込んでいます。

・グリーンイノベーションの加速(開発とシミュレーション)
GXの実践において、省エネだけでなく、新たな環境配慮型技術の導入や製品の開発(グリーンイノベーション)が必要になってきます。DXを実践することで、こうした技術・製品の開発プロセスを劇的に効果的かつ効率的にできます。

例えば、マテリアルズ・インフォマティクスという技術は、AI技術や情報科学を活用して膨大な材料データを解析し、新材料開発の効率化・高速化を図るアプローチで、次世代太陽電池や高性能バッテリー、グリーン水素を製造するための触媒など、新たな素材の開発を加速させています。Google傘下のDeepMindが開発したAI「GNoME」は、既知の物質の構造から学習し、安定して存在しうる220万種類もの新しい結晶の構造を予測したと発表しており(※2)、これは人の手だけでは数百年かかるとされる成果です。

また、現実の製品や生産ラインを、デジタルの世界にそっくりそのまま再現する「デジタルツイン」技術を活用すれば、物理的な試作品を作ることなく、コンピュータ上で何度もシミュレーションを行い、製品のエネルギー効率を最大化する設計や、最も省エネな生産プロセスを、短期間かつ低コストで探求することが可能になります。

※2 Google DeepMind:Millions of new materials discovered with deep learning

・業務プロセスの変革(ペーパーレスとリモートワーク)
日々の業務の中にも、DXを通じてGXに貢献できる領域が数多く存在します。例えば、電子契約サービスやクラウドストレージ、ワークフローシステムを導入することで、紙の使用量を劇的に削減できます。これは、森林資源の保護、紙の製造・輸送・廃棄に伴うエネルギー消費とCO2排出の削減に直接つながります。

・循環型経済(サーキュラーエコノミー)の実現
大量生産・大量消費・大量廃棄を前提とした従来の経済システムから、資源を循環させ続けるサーキュラーエコノミーへの移行はGXの重要な要素です。DXはこの実現を技術的に支えます。例えば、製品にICタグなどを埋め込み、製造から使用、廃棄、リサイクルまでの全ライフサイクルデータを追跡・管理し、製品がどこでどのように使われ、いつ修理や交換が必要か、どのようにすれば効率的に回収・再資源化できるかを正確に把握するといったことも可能となります。また、モノを「所有」するのではなく、必要な時に「利用」するシェアリングエコノミーを促進するデジタルプラットフォームは、製品の稼働率を高め、社会全体での資源の総量を減らすことに貢献します。

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政府のGX推進戦略と支援策:企業・組織が活用すべき制度

日本政府は、企業のGXへの挑戦を強力に後押しするため、官民連携のプラットフォームの構築や、大規模な財政支援策を打ち出しています。これらの制度の適切な理解と積極的な活用で、GXに伴う投資負担が軽減され、取り組みが加速することでしょう。

GX推進を支援する制度
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民間企業が政府や大学・研究機関(官・学)と一体となって、GXによる未来の市場創造やルール形成を主導していくため、「GXリーグ」(※3)と呼ばれる官民連携の場が設置されています。2024年4月時点で747社が参画しており、その排出量は日本の総排出量の5割超をカバーする巨大な枠組みとなっています。ここでは、排出量取引制度(GX-ETS)の施行、認証制度などの市場ルール形成、先進的技術を保有するスタートアップと連携したビジネス機会創発、課題やノウハウを共有する企業間交流などが行われています。

さらに政府は、GX投資の初期負担を軽減するため、今後10年間で20兆円規模の「GX経済移行債」を発行し、それを原資とした大胆な支援策の展開を計画しています(※4)。企業が今すぐ活用できる代表的な制度として、省エネ性能の高い設備(高効率なボイラーや空調など)の導入を支援する「省エネルギー投資促進支援事業」や、中小企業の生産性向上とGXへの取り組みを同時に支援する「ものづくり補助金(製品・サービス高付加価値化枠 成長分野進出類型(DX・GX))」、さらには思い切った事業転換を後押しする「事業再構築補助金(グリーン成長枠)」など、目的や規模に応じて多様な補助金が用意されています。

加えて、「カーボンニュートラル(CN)投資促進税制」も導入されました。これは、生産プロセスの脱炭素化と高い生産性向上を両立するような、野心的な設備投資に対して、最大10%(中小企業などは最大14%)の税額控除、または50%の特別償却のいずれかを選択適用できるという税制優遇措置です(※5)。これは、企業のキャッシュフローに直接的なインパクトを与え、GX投資の意思決定を強力に後押しします。

※3 GXリーグ
※4 経済産業省:GX経済移行債を活用した投資促進策について
※5 経済産業省:カーボンニュートラルに向けた投資促進税制

企業・組織がGXを推進するためのロードマップと具体的なアクション

DXとの連携の重要性を勘案したうえで具体的にGXの取り組みをどのように始めたらよいのか、明確なロードマップを描いて、長期的視野で進めていくGXの施策を紹介します。GXの推進は、以下の4つのステップからなるPDCAサイクルとして捉えることができます。一度きりのプロジェクトで完遂をめざすのではなく、継続的な改善を伴うプロセスです。

長期的視野からGXを推進する際の4ステップで進めるロードマップ
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・ステップ1:現状把握と目標設定の把握
全ての変革は、現在地を正確に知ることから始まります。まず、自社の事業活動がどれだけのCO2を排出しているかを算定・可視化します。まずは、自社での燃料使用や電力消費に伴う直接・間接排出(スコープ1, 2)から着手し、将来的にそれ以外のサプライチェーン全体での間接排出(スコープ 3)へと拡大していくのが現実的です。

日本商工会議所が提供する「CO2チェックシート」のような簡易ツールから始めることもできますし、より精緻な分析のためには専門のコンサルティングやITソリューションの活用が有効です。そして、算定結果に基づき、自社の削減目標を設定します。目標は、単なる努力目標ではなく、パリ協定の目標と整合するような科学的根拠に基づいた目標(SBT: Science Based Targets など)であることが望ましいと言えます。

・ステップ2:戦略策定と推進体制の構築
設定した削減目標を達成するための具体的な実行計画(アクションプラン)を策定します。どの事業領域で、どのような施策(省エネ、再エネ導入、プロセス改善、製品設計の見直し、サプライヤーへの働きかけなど)を、どのような優先順位で実施するのかを明確にします。

さらに、GXは特定の部署だけで完結する課題ではありません。経営トップの強力なコミットメントのもと、関連部署を横断する専門の推進チーム(「カーボンニュートラル推進室」や「GXタスクフォース」など)を組成することが成功の鍵となります。このチームには、生産、調達、開発、営業、財務・経理、ITといった、CO2排出に直接・間接的に関わる全部門から責任と権限を持つメンバーを集めることが不可欠です。

・ステップ3:具体的な施策の実行とDXの活用
策定したアクションプランに基づき、具体的な取り組みを開始します。例えば、工場のボイラーを高効率なものに更新する、使用電力の契約を再生可能エネルギー由来のプランに切り替える、主要なサプライヤーと連携して排出量削減の取り組みを開始するなどです。

そして、この実行段階であらゆるデジタル技術を駆使します。エネルギーマネジメントシステム(EMS)を導入してエネルギー使用を最適化する、サプライチェーン管理プラットフォームを活用してスコープ 3の排出量を追跡する、デジタルツインで新製品の環境性能をシミュレーションするなど、DXをいわば「てこ」にして施策の効果を最大化します。

・ステップ4:効果測定と情報開示
実行した施策が、実際にどれだけのCO2削減に繋がったのかを定期的にモニタリングし、設定したKPI(重要業績評価指標)の進捗を評価します。統合報告書やサステナビリティレポート、自社ウェブサイトなどを通じて、GXへの取り組みの進捗と成果を、投資家や顧客、取引先といったステークホルダーに対して積極的に開示します。これはESG評価の向上に不可欠です。そして、測定・評価の結果から得られた学びを次の戦略策定(ステップ2)にフィードバックし、継続的な改善のサイクルを回していきます。

GXを「唯一の正解」とするか。代替シナリオと多角的検討の必要性

ここまで、企業におけるGX実践の重要性についてお話ししてきました。しかしすべての企業が今すぐ取り組むべきかという点については議論が必要です。GXは企業の存続と競争力強化に向けて重要な選択肢ではありますが、負の側面や注意すべき点も存在します。企業が真に主体的な判断を下すためには、その点についても理解を深めることが必要です。3つの視点で見てみましょう。

コスト負担の視点:技術的限界と「理想」と「現実」のギャップ

・GX投資の重い財務負担と未成熟な技術
再生可能エネルギーへの全面的な転換、高度な省エネ設備への投資、炭素税などカーボンプライシングの強化といったGX関連コストは、従来の環境対策と比較して大幅な追加負担となります。これらの投資やコスト増は、短期的には営業利益率を圧迫し、ROE(自己資本利益率)などの収益性指標を悪化させる可能性があります。特に初期投資が大きい設備転換では、投資回収に十年単位の時間を要するケースもあり、財務的な負担は小さくありません。

さらに重要なのは、現在のグリーン技術が必ずしも成熟しているとは言えないという現実です。例えば、水素はクリーンエネルギーとして期待されていますが、再生可能エネルギーで製造する「グリーン水素」は製造コストが高く、輸送・貯蔵のインフラも未整備です。現時点では経済的に成り立ちにくく、多くの水素が化石燃料由来の「グレー水素」や「ブルー水素」に依存しているのが実情です。

蓄電池技術についても同様の課題があります。電気自動車(EV)の普及には大容量バッテリーが不可欠ですが、その製造には大量のレアメタル(リチウム、コバルトなど)が必要です。脱炭素に必要な資源(銅、リチウム、レアアースなど)の需要が急増することによって価格が高騰する可能性もあるため、調達コストにも意識を向けておく必要があります。

・AI活用とエネルギー消費の矛盾:デジタル化の隠れたコスト
さらに、皮肉なことに本記事で推奨しているDXによるGX推進そのものが、新たな環境負荷を生み出すという矛盾も認識する必要があります。特に近年急速に普及している生成AIやAI技術の活用は、膨大な電力を消費します。

国際エネルギー機関(IEA)の試算によれば、データセンターの電力消費量は2022年の約460テラワット時から、2026年には最大1,000テラワット時超に倍増する可能性があるとされています(※6)。これは日本の年間総発電量に匹敵する規模です。特にAIの学習(トレーニング)フェーズでは、大量の計算資源を必要とするため、CO2排出量も無視できません。

企業がGX推進のためにAIやIoT、ビッグデータ解析などのデジタル技術を導入すればするほど、データセンターやクラウドサービスへの依存度が高まり、間接的なエネルギー消費とCO2排出が増加するという構造的なジレンマが存在します。つまり、「環境のためのデジタル化」が、「デジタル化による環境負荷増大」を招くという本末転倒な事態に陥るリスクがあるのです。

この矛盾を解消するためには、データセンター自体を再生可能エネルギーで運用することや、より少ない計算量で同等の性能を実現するAIモデルの効率化、データをクラウドではなく現場で処理するエッジコンピューティングの活用(データ転送量の抑制や冷却コストの低減などのメリットがあるケースもあるが、無秩序な増加には注意が必要)など、デジタル技術そのもののグリーン化が不可欠です。しかし、これらもまた追加的な投資とコストが必要となります。

※6 IEA:Electricity 2024

事業の複雑化の視点:サプライチェーンとエネルギー安全保障

先述の「スコープ3」(自社だけでなくサプライチェーン全体)での排出量管理について、今後より多くの企業が求められるようになることが予想されます。しかし、中小のサプライヤーに対するデータ提出要求や指導は、現場に事務負担等を生む可能性があります。そうなると、管理工数の増加にとどまらず、設備投資の負担が経営を圧迫するリスクがあります。サプライチェーン全体での脱炭素要請は、対応できない中小企業を淘汰する可能性もあり、産業構造の急激な変化が地域経済や雇用に深刻な影響を及ぼすことが懸念されます。

また、太陽光パネルやEVバッテリーなどの生産に不可欠な重要部材が特定の国や地域に偏在しているため、サプライチェーン断絶のリスク(経済安全保障リスク)など、再生可能エネルギーへの急速な移行はエネルギー安全保障上の新たなリスクを生む可能性があります。太陽光や風力は天候に左右されるため、安定供給には大規模な蓄電設備やバックアップ電源が必要ですが、これらのコストと技術的課題は未解決です。

社会的摩擦の視点:負担の不公平性とグリーンウォッシュ

企業が実質的な削減努力をせずに、表面的な環境配慮をアピールする「グリーンウォッシュ」は大きな問題です。カーボンオフセット(他所での削減分を購入して相殺)に過度に依存したり、スコープ3を算定せずに「カーボンニュートラル達成」の宣言をしたりなど、実態が伴わずに環境配慮を装うことは、ブランド毀損や訴訟リスクにつながる可能性があります。

さらに、既存の事業の内で、事業の推進とCO2排出が切り離せない部門(例えば内燃機関を利用する部門など)と、新規のグリーン事業部門との間で予算や人員を巡る対立が起きやすくなる点も認識しておく必要があります。そもそもGXを推進できる専門人材は圧倒的に不足しており、多数派である既存事業の人員との意識合わせには相応の取り組みが必要になってきます。

主体的な判断と継続的な対話が未来を拓く

GXは、気候変動という人類共通の課題に対する重要なアプローチの一つであることは間違いありません。しかし同時に、技術的限界、社会的コスト、公平性の問題など、解決すべき課題も多く存在します。

重要なのは、「GXを推進すべきか、否か」という二項対立ではなく、「自社にとって、そして社会にとって、真に持続可能な道は何か」を多角的に検討し、主体的に判断することです。外部からの圧力や流行に流されるのではなく、GXのメリットとデメリット、代替アプローチの可能性を十分に理解した上で、自社の状況に最適な戦略を描く必要があります。

画一的な「GX推進」の掛け声ではなく、各企業の置かれた状況に応じた多様な選択肢が尊重されるべきです。GX推進は、技術、経済、社会、倫理といった多面的な要素が絡み合う複雑な課題です。一部の専門家や政策立案者だけで決定するのではなく、企業、投資家、消費者、労働者、地域住民といった多様なステークホルダーが参加する対話と検証のプロセスが不可欠です。

企業は、自社にとって何が真に「持続可能」なのかを、短期的な規制対応やESG評価の向上だけでなく、長期的な視点で多角的に検討する姿勢が求められます。GXという「手段」に固執するのではなく、「持続可能な社会と企業価値の創造」という「目的」に立ち返って考えることが重要です。

GXの実践を「他人ごと」にせず、明確に「自分ごと」として向き合うことは重要です。しかし、やみくもに推進するのではなく、批判的思考を持ちながら、長期的で多面的な視野で考え続けることを意味します。一人ひとりが問いを持ち、対話を重ね、学び続ける姿勢こそが、本当の意味で持続可能な企業文化を根付かせる力となります。

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2025/11/07
「サステナビリティ」とは?未来を創る持続可能な社会へ、今日からできること
その概念が登場してから久しく、今や日常生活においても毎日のように接する言葉となった「サステナビリティ(Sustainability)」。それはビジネスの文脈でも同様で、現在、多くの企業が公開するウェブサイトや年次報告書などの中にも登場し、その視点は現代社会において不可欠なものとなっています。その一方で、この言葉の意味や指し示す状態などを明確に理解することは難しく、曖昧な定義で使用されているケースも多く存在します。「サステナビリティとは環境問題のことではないのか?」と考える人や、「なぜ何十年も前から存在するこの概念が、今になってこれほどまでにビジネスの最優先事項として扱われるようになったのか?」といった疑問を抱く人も多いことでしょう。また、「持続可能な社会の実現と言われても、あまりに漠然としていて自分ごととして捉えられない」と感じている人もいるかもしれません。この記事では、サステナビリティが現代ビジネスを営むうえでなぜ不可欠な概念なのか、そして、私たち一人ひとりがサステナビリティを高めるための取り組みを進めることでいかなる未来が拓くのか、明らかにしていきます。
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