
2025.12.19
2025年11月7日に、東京・渋谷で株式会社日立アカデミー主催のリアルイベント「未来共創サロン Green × AI × Talk~環境に配慮したまちのつくりかた、みんなの小さなアクションに向けたワークショップ~」が開催されました。このイベントは"環境×まちづくり"をテーマに、協賛・賛同する各社のさまざまな取り組み事例が紹介されたほか、環境に関連する生成AI活用術も学べるプログラムも用意。企業の枠を越えて多様な視点や経験を持つ仲間との交流や発見を通じて、持続可能な未来への意識を高める興味深いワークショップとなりました。そこに日立ソリューションズが運営するコミュニティ「ハロみん」も協賛の形で参加。PETボトル水平リサイクルを普及させるための社内の取り組みをご紹介しました。
今回はその内容をダイジェストでお伝えします。身近な環境問題に対応する企業事例を知りたい方や、あなたのアイデアをまちづくりや環境活動に活かしたい方、AIを活用したワークショップに興味のある方などは必見です。ぜひご覧ください。
<登壇者>

大滝 竜馬
株式会社日立ソリューションズ
ビジネスイノベーション事業部
企画部 部長
日立ソリューションズの前身の会社に就職。当初は貿易業や流通業のお客さまを対象としたアカウントシステムエンジニアとして活動。昔から社会イノベーションや社会貢献、新事業への思いが強く、2016年にJICAのODA案件としてASEAN地域の途上国向け貿易システムを構築するプロジェクトを立ち上げた。本システムは、紙運用からシステム運用へと大幅に業務を改善し、経済発展に寄与した。
現在は事業企画部門にて、主にDX(デジタルトランスフォーメーション)、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)新事業の創出や新商材の発掘活動に従事。
環境をテーマにした事例紹介セッションの冒頭で、『循環型社会の実現をテーマとしたPETボトル水平リサイクルの取り組み ~どうやったら人はごみを分別するのか?~』をテーマに、登壇した大滝は、「日立ソリューションズは循環型社会の実現に向け、資源の有効活用と環境負荷の低減に取り組んでいます。今回はPETボトルの水平リサイクルに関する自社オフィスでの活動をご紹介します」と述べました。

日立ソリューションズ社内のPETボトル水平リサイクルについて説明する大滝
PETボトルの水平リサイクルとは、使用後の回収したPETボトルを細かく破砕・洗浄し、それを原料にPETボトルを再生することです。「ボトルtoボトル」とも呼ばれ、石油から生成するPET樹脂を節約しCO2排出量を抑制する効果があります。
「PETボトルが不適切に廃棄されると、その多くは海に流れ込み、マイクロプラスチックという微粒子にまで破砕され、世界規模で深刻化する海洋プラスチックごみ問題に発展します。2050年には海洋プラスチックごみの量が魚を上回るほどに増えると予測されているほか、PETボトルがマイクロプラスチックになってしまうと、自然に分解されるまで400年かかるともいわれています」と大滝は述べました。

世界規模で深刻化する海洋プラスチックごみ問題
日本のPETボトル回収率およびリサイクル率は世界トップレベル(回収率は92.5%、リサイクル率は85.0%)ではあるものの、水平リサイクルはまだそのレベルに達していません。水平リサイクルが可能になると、原油から生産した場合に比べてCO2排出量を63%削減できるという試算もあります。そのため大手清涼飲料水メーカーも「2030年ボトルtoボトル比率50%宣言」を行い、2023年時点で33.7%にまで達していましたが、その後は頭打ちになっています。なぜでしょうか。
国内のPETボトル回収はルート別に大きく2種類に分かれています。1つは市区町村回収で、現在は33万2,000トンです。主に家庭内から回収されるPETボトルのため、ラベル・キャップは取り除かれ、洗浄もされているため比較的きれいで、水平リサイクルしやすくなっています。もう1つは事業系回収で、現在は37万4,000トンです。こちらはラベル・キャップの除去や洗浄があまり行われていないため、別製品化やサーマルリカバリー(焼却して発電や地域暖房などに再利用する手法)に回されてしまいます。そのため、事業系回収分を可能な限り水平リサイクル化することが重要だと考えられています。

PETボトル水平リサイクルの現状
大滝は、「企業で出る使用済みPETボトルは事業系回収分になるため、まずは社内で取り組んでみようと考えました」と述べました。事業系回収PETボトルの水平リサイクル率向上には、利用者の意識を変化させ、正しい分別方法を理解した上で行動に移してもらい、それが習慣となり定着化することが不可欠だといいます。
そこで、データと行動科学の知見に基づいた「ナッジ」という手法を活用し、利用者の自発的な行動変容を促すことを検討しました。ナッジとは、「そっと押す」「ひじで軽く突く」という意味で、ちょっとしたきっかけを与えることで自発的に望ましい行動を選ぶように促す理論です。しかし、きっかけを与えてもすぐに実行できる人もいれば、関心がない人もいます。そのため、それぞれの状況をステージ化し、そのステージごとに最適な施策(ナッジ)を講じる「行動ステージモデル」を定義しました。

事業系回収PETボトルの水平リサイクル率向上には利用者の継続的な協力が不可欠なためナッジを活用
行動ステージモデルは「無関心期」「関心期」「準備期」「実行期」「維持期」の5つの段階を設定。ポスター、イントラポップアップ(社内ネットワーク上で自動的に表示される通知ウィンドウ)、教育コンテンツなどを通じて水平リサイクルの周知と関心を持ってもらうほか、リサイクルステーションの配置や分別BOXの改善など分別環境の整備や模範的な分別状態の可視化を行います。また、行動へのフィードバックや分別効果の可視化、ゲーミフィケーション(ゲームのメカニズムやデザイン要素を応用することでユーザーのモチベーションを高める仕組み)を用いることで楽しみながら分別に取り組んでもらうように工夫しました。

ナッジ活用による低コストでの行動変容施策
活動する中で、最も効果が高かったのは、リサイクルBOXの改善と配置変更だったといいます。キャップ、ラベル、ボトルを分別するごみ袋を透明なものに替え、分別を間違えると外側からすぐに気付くようにしたところ、分別精度は格段に向上したといいます。
2024年度は、日立ソリューションズの本社オフィス(22階建てビル)で事業系回収PETボトルの品質が向上し、全フロア合計で水平リサイクル率95%を達成。CO2削減効果は約6 トン/年に達しました。
大滝は「取り組みを開始してから1年経った現在もその値はキープできており、ナッジの効果はあったと考えています」と述べました。また、収集運搬・中間処理業者や水平リサイクル専門業者のご協力により、水平リサイクルのサプライチェーンも確立。低コストかつ高品質な水平リサイクルが実現し、CO2削減と従業員のウェルビーイング向上に貢献しているということです。

PETボトル水平リサイクルにおける今後の活動
最後に大滝は、「今後は幅広くステークホルダーと協創し、この取り組みの拡大とITサービスの活用によって、環境負荷の少ない循環型社会を実現していきたいと考えています。PETボトルの水平リサイクルに興味をお持ちの企業・団体からのご連絡をお待ちしています」と呼びかけ、セッションを終了しました。
続いて、他のイベント参加企業からも事例の3分ピッチが行われました。
株式会社Gabは、ゲーム感覚ごみ拾いイベント「清走中」を紹介。悪の組織がごみで街を汚し、そこに参加する人がヒーローになってごみを拾いながら街を清掃していくというごみ拾いとゲームが融合したイベントです。

Gabはごみ拾いとゲームが融合したイベントを全国で実践
Trash Lens株式会社は、スマートフォンで不要品やごみを撮影するだけで捨て方や活用法が分かる未来のごみ分別アプリ「Trash Lens」を紹介しました。AIが画像から種類を自動検出し、捨て方を教えてくれるほか、リユース/リサイクルが可能ならば近隣のリサイクルショップを紹介してくれます。

Trash Lensは未来のごみ分別アプリを開発
NOK株式会社は、資源を蘇らせる「廃棄物アップサイクル」を紹介しました。同社は主力製品の製造過程で、製品を型抜きした後の残余部分が大量に発生。そこで、社内組織横断的に廃棄物の利活用やアップサイクルを検討するワーキングチームを立ち上げ、関係会社の協力のもと、 残余部分は細かく砕いてゴムマットやスポーツ用具向けのチップに加工するなどアイデアを蓄積しています。

NOKは廃棄物の利活用やアップサイクルを検討
株式会社日立アカデミーは、廃プラスチックに新たな価値を創る「Precious Plastic」を紹介しました。Precious Plasticとは、プラスチック廃棄物をリサイクルすることを目的とした世界規模のオープンソースコミュニティです。人財育成を事業とする同社は、SDGsの一環として教育活動と組み合わせてこの取り組みを開始。2025年春に社内でプラスチックキャップの回収をスタートし、キャップを裁断・溶解・整形して製品に再生するための機器を製造。今後はその知見を元に環境・SDGsに関する出前授業やワークショップを希望する小・中・高等学校に行っていくといいます。

日立アカデミーはプラスチックキャップの再生にチャレンジ
次に、日立アカデミーによる生成AI活用法セミナーが行われました。ここでは生成AIに指示するプロンプトをより効率的に作るための"メタプロンプト"の重要性などがレクチャーされました。メタプロンプトは、AIの振る舞い、タスク、制約を定義する上位レベルの包括的な指示です。具体的には、1)ペルソナ(AIの役割やアイデンティティ)、2)タスク(AIが達成すべき具体的な目標)、3)コンテキスト(必要な背景状況やデータ、前提条件)、4)制約条件(トーンや長さなどのルール、禁止事項)、5)出力形式(最終的な構造)が指示する上で重要な要件となります。そうすることで、AI応答の正確性と関連性を大幅に向上させ、無関係な出力や間違った出力を最小限に抑えるほか、望む結果をより速く得ることができ貴重な開発時間を節約するメリットがあるといいます。

日立アカデミーは生成AI活用法セミナーでメタプロンプトの重要性を伝授
その後、参加者はグループごとに、「ごみの分別を広めるには?」、「ごみ拾いをエンタメにするには?」、「ポイ捨てをなくすごみ箱って?」というテーマを与えられ、メタプロンプトを用いた30分間のワークショップを実践。プレゼンテーションでは短時間にも関わらず、清掃活動を謎解きゲームやSNSと組み合わせて楽しく続ける方法や、ごみを正しく分別するとモンスターを育成できるキャラクターごみ箱などのアイデアが次々と披露されました。

ワークショップ中にメタプロンプトを活用し短時間でアイデアを創出

ユニークなごみ問題解決案が多数披露されたプレゼンテーション
最後に、参加者同士のネットワーキングタイムが設けられ、イベントは盛況のうちに終了しました。

業界や企業の垣根を超えたネットワーキングで新たなビジネスチャンスに期待
今回の参加者に、日立ソリューションズの取り組みに関する感想をお聞きしました。
日立ソリューションズでは、協創で未来をつくっていくオープンなコミュニティ「ハロみん」を、2024年4月より運営しています。「ワクワクする未来へ 一歩踏み出す、協創の出発点」を掲げ、「繋がる」「探索する」「深める」「創る」をコンセプトにイベントや参加者同士の交流などの活動を行っています。モビリティ、セキュリティ・建設テック・先進技術などを幅広いテーマを取り上げております。その一環で、今回のようなイベントもオウンドメディア「未来へのアクション」でご紹介していますので、皆さんのご参加もお待ちしています。今後のイベント予定はこちらをご参照ください。
https://future.hitachi-solutions.co.jp/community/