
2025.11.13
2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)では、メインテーマに「いのち輝く未来社会のデザイン」を掲げ、3つのキーメッセージとして「いのちを救う」「いのちに力を与える」「いのちをつなぐ」を設定しました。その一環で、世界中の国々が地球的規模の課題の解決に向け、対話によって"いのち輝く未来社会"を世界とともに創造する取り組みを「大阪・関西万博テーマウィーク」と位置付け、上記3つのメッセージと密接に関連した8つのテーマが設けられました。
その1つ、「学びと遊び ウィーク」では、2025年7月27日(日)に「Inclusive JAM "We are ALL MINORITIES!!!"」というトークイベントが開催され、日立ソリューションズのチーム「AURORA」スキー部に所属する新田 佳浩選手と、同じくチーム「AURORA」車いす陸上競技部に所属する岸澤 宏樹選手が2部構成のうち第1部に登壇。活発な意見が交わされ、イベントをリアルおよびリモートで視聴する参加者に多くの示唆と気づきを与えることができました。
また、2025年8月20日(水)~21日(木)には、大阪・関西万博の会場近くにあるミズノ株式会社のイノベーションセンター「MIZUNO ENGINE」と、西尾レントオール株式会社の大規模木造施設「咲洲モリーナ」にて、ミズノ株式会社が主催した2日間限定のスポーツフェス関連イベント「咲洲スポーツフェス2025」も開催されました。その8月21日に日立ソリューションズはチームAURORAを紹介するブースを出展。ソチ2014パラリンピック冬季競技大会バイアスロン種目で銅メダルを獲得したチームAURORAの久保 恒造選手が特別参加するなど、親子連れを中心に多くのお客さまにお楽しみいただきました。
今回はこれら日立ソリューションズが大阪・関西万博とその関連イベントを通じて多様性を尊重し、ともに未来を創るという思いを込めた2つの活動についてダイジェストでレポートいたします。
<モデレータ>

中島 さち子 氏
テーマ事業「いのちを高める」(2025年日本国際博覧会協会)
音楽家・数学研究者・STEAM 教育者
(株)steAm 代表取締役、(一社)steAm BAND代表理事、大阪・関西万博テーマ事業プロデューサー、内閣府STEM Girls Ambassador、東京大学大学院数理科学研究科特任研究員。国際数学オリンピック金メダリスト。音楽数学教育と共にアート&テクノロジーの研究も進める。

武藤 久慶 氏
文部科学省
初等中等教育局 教育課程課長
平成12年文部省入省。教育課程企画室、長期在外研究員(ハーバード教育大学院)を経て、北海道教育委員会に4年間出向。教育制度改革室長補佐、外務省一等書記官、大臣官房総務課副長、学校デジタル化プロジェクトチームリーダーなどを経て、令和6年4月より現職。
<登壇者>

中西 良介 氏
株式会社ノーサイド 代表取締役、
クラゲ館インクルーシブ統括ディレクター
大阪で医療を必要とする重度障がいのある子どもから大人までの支援を行う。「どんなに重度の障がいがあっても子ども達に安心できる居場所をそして社会と繋がれる機会を、またどれだけ障がいが重くても仕事に取り組める環境づくりを!!」をテーマに活動を展開している。

新田 佳浩
株式会社日立ソリューションズ
チーム「AURORA」スキー部
小学3年生からクロスカントリースキーを始め、1998年長野パラリンピック大会を前に日本代表にスカウトされる。以降7回連続パラリンピック大会に出場し、金メダル3個、銀メダル1個、銅メダル1個を獲得した。日本のパラクロスカントリースキーを牽引するレジェンドとして存在感を放つ。

岸澤 宏樹
株式会社日立ソリューションズ
チーム「AURORA」車いす陸上競技部
2018年から車いす陸上競技を始め、翌年の大分国際車いすマラソンハーフで新人賞を獲得。2022年には日本パラ陸上競技連盟の強化指定選手に選出。今年2月のUAE・シャルジャにおける国際大会で日本新記録を樹立した。2028年のロサンゼルスパラリンピック大会出場をめざし、成長を続ける。

和田 浩一 氏
公益社団法人NEXT VISION
1958年、愛媛県生まれ。中学2年生のときに網膜の難病と診断され、30歳で失明。35年間にわたり盲学校の教員として勤務し、視覚障害教育における情報教育の推進に取り組み、ソフトウェアの開発にも携わる。現在は神戸アイセンターにて、「失明しても失望させない」ロービジョンケアを実践する。

齋藤 凜花 氏
外資系企業マーケティング職
2002年、愛知県生まれ。先天性重度聴覚障害を持ち、差別や孤独と向き合いながら、弁論で自らの声を届け続ける。内閣総理大臣杯や文部科学大臣杯で優勝。ウクライナ国境での支援活動や、女性の政治家育成プロジェクトに最年少で選出。2025年に早稲田大学を首席で卒業し、現在は外資系企業勤務。

信田 光宣 氏
株式会社日立医薬情報ソリューションズ
総務部
聴覚障がいを持ちながら、約30年以上勤続している。デフリンピック日本代表として約20年間でデフリンピックに6回目出場。経験を活かしデフキッズバレーや各地バレー指導を行っている。
「学びと遊び ウィーク Inclusive JAM "We are ALL MINORITIES!!!"」は、ジェンダー、障がい・病気、国籍・人種などのテーマに対して、多様な立場・特性の人が集い、普段あまり深く踏み込めない領域で対話し、どうすればより多様ないのちが輝く未来社会を構築できるかをともに考えるイベントです。
オープニングセッションでは、大阪・関西万博 テーマ事業プロデューサー 中島 さち子氏がモデレータを務め、文部科学省 初等中等教育局 教育課程課長 武藤 久慶氏が登壇。日本の教育の現状と課題について議論しました。武藤氏は、教育現場での多様性の包摂と、「正解主義」「同調圧力からの脱却」による共生社会の実現が急務と指摘。多様性を、福祉的な要素として捉えてきました。今後は多様性をケアすべき対象ではなく力に変え、個々の児童生徒が可能性を追求できる社会をめざすと語り、チーム「AURORA」が登壇する第1部に入りました。
第1部では、「多様な学びとは何か?」をテーマにトークセッションが行われました。ステージには、日立ソリューションズ チーム「AURORA」スキー部 新田 佳浩、チーム「AURORA」車いす陸上競技部 岸澤 宏樹のほか、公益社団法人NEXT VISION 和田 浩一氏、株式会社日立医薬情報ソリューションズ 総務部 信田 光宣氏、外資系企業マーケティング職 齋藤 凜花氏が登壇。モデレータは、株式会社ノーサイド 代表取締役 クラゲ館インクルーシブ統括ディレクター 中西 良介氏が務めました。

第1部「多様な学びとは何か?」トークセッションの登壇者
冒頭、モデレータの中西氏から、陸上競技練習中の怪我により下肢機能障がいを負ってもスポーツをやめずに続けた背景について問われた岸澤は、「子どもの頃からスポーツに親しみ、体育教師をめざすなど、スポーツに関わる機会が多かったためでしょうか。不自由な生活になった後もスポーツに関わり、スポーツで活躍できる未来を進みたいと思いました。車いす生活になった時、大きな喪失感はあったものの、パラスポーツという世界で陸上競技を続けることができるとすぐに切り換えました」と振り返りました。
中西氏は、「再起にあたり何か特別なターニングポイントがあったわけではなく、自然な形で陸上競技を続けていくというのはアスリートならではのすばらしい生き方だと思います」と感想を述べました。

日立ソリューションズ チーム「AURORA」車いす陸上競技部 岸澤 宏樹
一方、新田はパラクロスカントリースキーを続ける理由について、「3歳の時にコンバインに巻き込まれ左腕の肘下を失いましたが、障がいを理由に選択を狭めさせたくないという両親の勧めもあり、4歳からアルペンスキーを始めました。小学校低学年までは毎日できないことがあるたびに泣いていましたが、できない状態からできるようになる喜びを一つひとつ知ることで、今日の自分より明日の自分は強くなるんだと思うようになったのです。障がいの有無に関わらずできることを楽しむという気持ちが大切だと考えています」と述べました。

日立ソリューションズ チーム「AURORA」スキー部 新田 佳浩
また、チャレンジする環境が得られない障がい者の中には諦める人もいることを問われた新田は、「私は現在パラクロスカントリースキーの強化指定選手ではありますが、競技だけではなく、スポーツ庁などが支援し世界レベルの競技大会で活躍できるトップアスリートを発掘する『J-STAR』プロジェクトで、障がいを持った有能な選手を育成するチームにおいても毎月指導しています。私の座右の銘は『不可能とは可能性だ』というもので、考え方を変えればできることも増えると信じているのです。今回のイベントでその思いが少しでも伝わればいいと思っています」と話しました。

考え方を変えればできることも増えると話す新田
次に、盲学校の教員を35年間務めてきた和田氏が、教育者として活動する経緯について述べました。「高校から盲学校に入学し、将来何になるか考えた時、目が見えない人のために何か役に立つ仕事につきたいと考えました。子どもの頃、目が見えなくなったことで運動能力が低いと見なされ辛い思いもしましたが、アイススケートと出会うことで自信につながりました。1つでも得意なものがあれば子どもは伸びるのです。生きる目標をどのように工夫すればいいのか、私はさまざまな人たちと関わりながら教育者としての道を歩んできました」と話しました。
一方、齋藤氏は、自身の差別経験について語りました。「私は1歳半の時に左耳に人工内耳を埋め込み、日常生活がおくれるようになったため、幼稚園から一般の教育を受けてきました。しかし、学校の先生からは障がいを理由に学級委員になることを止められたり、海外留学も認められなかったり、身近な大人から進みたい進路を制限されてしまうことが多かったのです。しかし、高校時代に文部科学省の奨学金を得てアメリカの高校に留学すると、アメリカの高校の先生から、何をしたらあなたが快適な高校生活を送れるかと聞かれたことが一番の驚きでした。すべてのハンデキャップを個性として前向きにとらえていこうという社会が作られていたのを目の当たりにし、私自身も前向きに生きていくことができたのです」と齋藤氏は述べました。
同様に聴覚障がいを持つ信田氏も「耳が聞こえないことでいじめられたり、苦しめられたりすることもありましたが、今は障がいを持つ人が学校や職場で当たり前の存在になっていると実感しています」と自身の体験を語りました。
和田氏は、「数十年程前は虐げられることもありましたが、今は杖を持って立っているだけで多くの人がやさしく声をかけてくれるので、ハッピーな気持ちになります」と述べました。それを受けて岸澤も、「自分に障がいがあるとは考えていません。自分にプラスのこと、例えば車いすで座ったまま移動できてラッキーとか、小さなことでもポジティブに考えることを心がければ、周囲にもそうしたムードが広がります」と話しました。その意見に新田も同意し、「長野パラリンピックの時に車いすを使う選手と出会ったのですが、その方は車いすに乗っていれば自然と目立つので、他の人から顔と名前を覚えてもらいやすいと前向きに話していたのが印象的でした。障がい者であることのプラス面を考えることで、自分も周囲の人も楽しく生きられる、そうしたマインドを持った人たちが増えれば世の中は楽しいし、世界は虹色に見えてくるのです。誰でもできることはできるし、できないことはできないといえる社会が健全なのではないでしょうか」と伝えました。
中西氏は、「障がいにひとりで心を悩ませるのではなく、困っていることがあればみんなで考え、語り合い、楽しく乗り越える社会を作っていきましょう」と提案し、第1部のトークセッションを終了しました。
最後に、今回のトークイベントのクロージングに再登壇した中島氏は、「1部、2部とも、皆さんの熱意溢れる活発な議論でとても楽しい時間となりました。1部のセッションでは、たとえ身体的な障がいがあっても"We are ALL MINORITIES!!!"を体現されているアスリートが多様性を具体的なエピソードでお話いただいたのが印象的でした。障がいは多様性であり、誰しもが持っている個性だということ。多様性を認めることで自分との違いをおもしろく感じ、それが自分を知ることにもつながります。このイベントが出会いを生み出す仕組みを考えるきっかけになればうれしく思います。今日から何がまたはじまるかがすごく楽しみです。1部2部の登壇者のみなさま、今日はほんとうにすばらしい時間をありがとうございました」と語り、イベント全体のまとめとしました。
本イベントのアーカイブ動画は以下からご覧いただけます。
そして、2025年8月21日(木)には、大阪・関西万博会場の夢洲に近い咲洲エリアにあるイノベーションセンター「MIZUNO ENGINE(ミズノエンジン)」と咲洲モリーナ(西尾レントオール株式会社)を会場としたミズノ株式会社(以下、ミズノ)主催の「咲洲スポーツフェス2025」にも日立ソリューションズがブースを出展しました。

「咲洲スポーツフェス2025」の案内用チラシ

久保 恒造
株式会社日立ソリューションズ チーム
「AURORA」車いす陸上競技部
高校時代は野球部で活躍するも、高校3年生の時の事故で脊髄を損傷し下半身麻痺となる。病床で見た車いすマラソンに惹かれ、競技を開始。2008年より車いすマラソンからスキーに本格転向。2013年、ワールドカップ大会のバイアスロンで優勝6回、年間総合ランキング1位に輝く。ソチパラリンピックでは悲願の銅メダル獲得。ソチの2年後の夏季リオデジャネイロ大会は男子5000mとマラソンの車いすのクラスに出場。
本イベントは子どもたちの心と体を育むスポーツスクール体験をコンセプトに、咲洲エリアの活性化も目的として開催されました。野球・サッカー・卓球・柔道など10種以上のスポーツを楽しみながら自然に36の動きを取り入れられるマルチスポーツスクール「MISPO!」や、運動会必勝塾(走り方教室)、エコワークショップ(野球グラブの端材でミサンガ作り)、ミズノオリジナルの運動あそびプログラムのほか、海外で大流行のピックルボール体験、Motion DNA(歩行測定)、パラリンピック正式種目のボッチャ体験など、スポーツを思い切り楽しむためのコンテンツを取りそろえて開催されました。
日立ソリューションズブースでは、チームAURORA所属の久保 恒造選手がソチ2014パラリンピック冬季競技大会のバイアスロン・ショートで獲得した銅メダルを始め、チームAURORAが過去に獲得したメダルも複数展示されたほか、バイアスロン競技の射撃体験も実施。久保選手本人も特別に参加して、子どもたちにライフルの構え方を直伝するなど、メダリストからの貴重な体験に参加した方々は大いに盛り上がりました。また、メダル展示コーナーでは、初めて見る本物のパラリンピックメダルの重さと大きさに驚きながらも、記念撮影を楽しむ光景が見られました。

「咲洲スポーツフェス2025」の日立ソリューションズブース

本物のパラリンピックメダルをかけて、はいポーズ
体験者からは、「バイアスロン競技では的が想像以上に遠くにあることに驚きました」という声や、「久保選手はクロスカントリースキーを滑り息切れした状態でも的中率98%というのにはびっくりです」という感想も聞かれました。

久保選手本人が子どもたちにライフルの構え方を直伝
また、期間中日立ソリューションズのスタッフはミズノ社員とも交流し、普段見ることができないイノベーションセンターも見学させていただくことができました。ミズノでは当社同様にサステナビリティ活動を積極的に推進されています。今回交流のご縁をいただいたことで、将来的な両社の取り組みについて情報交換を行いました。業種・業界は異なりますが、今後のコラボレーションの可能性も感じる非常に有意義な機会となりました。

サステナビリティ活動を積極的に推進されているミズノ社員の方とも交流しました
日立ソリューションズグループのシンボルスポーツとして、「チームAURORA」を全社一体で応援し、障がいをもつ才能ある選手たちに競技に専念できる環境を提供しています。
2004年11月に障がい者スキー部を設立。選手や監督はパラリンピックなど世界で活躍し、2006年トリノ大会、2010年バンクーバー大会、2014年のソチ大会、2018年のピョンチャン大会、そして2022年の北京大会のノルディックスキー競技において、5大会連続でメダルを獲得し、合わせて金メダル5個、銀メダル3個、銅メダル2個となりました。
また、2014年4月、新たに「車いす陸上競技部」を設立し、夏季と冬季のパラリンピックでの活躍をめざす総合的なパラスポーツチームとして活動を拡大しています。
日立ソリューションズでは、協創で未来をつくっていくオープンなコミュニティ「ハロみん」を、2024年4月より運営しています。「ワクワクする未来へ 一歩踏み出す、協創の出発点」を掲げ、「繋がる」「探索する」「深める」「創る」をコンセプトにイベントや参加者同士の交流等の活動を行っています。モビリティ、セキュリティ・建設テック・先進技術などを幅広いテーマを取り上げております。その一環で、今回のようなイベントもオウンドメディア「未来へのアクション」でご紹介していますので、皆さんのご参加もお待ちしています。今後のイベント予定はこちらをご参照ください。
https://future.hitachi-solutions.co.jp/community/