2025.10.02
持続可能な食の未来をめざし、多くのステークホルダーを巻きこんだ共創型のプラットフォーム「V みんなのエシカルフードラボ」を展開するCCCMKホールディングス株式会社さま。このプロジェクトに日立ソリューションズが参画することで、どのような化学反応が生まれたのでしょうか。キーワードになるのは、消費者にとっての価値と、エシカルという価値の接続です。その実現には「意識の変化」だけでなく、マーケティング、売場、データ、そしてテクノロジーを跨いだ仕組みづくりが不可欠になります。エシカルフードという新たな市場の創出に向けた取り組みの、舞台裏に迫りました。
瀧田 希
CCCMKホールディングス株式会社
経営企画本部
「V みんなのエシカルフードラボ」リーダー
ブランド戦略担当として、2011年より東日本大震災復興支援、地域活性、持続可能な漁業などをテーマとした共創型の社会価値創造プロジェクトの立ち上げ及び責任者を務める。2021年3月、持続可能な食をテーマとした共創型プラットフォーム「V みんなのエシカルフードラボ」を発足。
渡邉 浩史
株式会社日立ソリューションズ
ビジネスイノベーション事業部
デジタルソリューション本部
デジタルソリューションサービス部 部長
モバイル向け映像配信や共通ポイントのゲートウェイサービスなどのコンシューマに密接な新規事業創生を立ち上げ後、現在は、デジタルマーケティングソリューション「PointInfnity」の製品責任者として、グローバル含めた事業拡大、次世代SXサービス創生に取り組んでいる。
瀧田:普段はあまり意識されませんが、「食」という分野には、驚くほど多くの社会課題が潜んでいます。環境負荷の大きさはもちろん、食品ロスや過剰包装、人権問題、アニマルウェルフェア(動物福祉)など。フードチェーンを担うあらゆるステークホルダーが、それぞれの現場の課題と日々向き合っています。
その反面、「食」は私たちにとって、非常に身近なものでもあります。ごく当たり前のことですが、人は何かを食べなければ生きていけません。だからこそサステナブルな取り組みを、誰もが生活の中で実践しやすいことが、「食」という領域の特徴です。
たとえば、当社は約1.3億人のV会員を抱えています。もし彼らに「普段からエシカルな消費を意識する」というライフスタイルを提案できたとしたら。それは持続可能な食の未来をつくるための、ひとつの足がかりとなるはずです。
渡邉:正直に言うと、私自身は今回のプロジェクトに参画するまで、エシカルフードについてしっかりと考えたことがありませんでした。食品業界との接点もなかったので、「エシカルフード」と聞いても、最初はあまりピンとこなかったというのが本音です。「なんとなく環境にいい食品」くらいのぼんやりとした認識でした。
瀧田:きっとそれは、多くの消費者にとっても同じだと思います。というのも、日本ではまだまだエシカルフードという市場自体が、ほとんど成立していないからです。「ニワトリが先か、タマゴが先か」ではありませんが、商品が少ないから消費者の関心も高まらないし、企業もなかなか本腰を入れて事業に取り組めない。そんな悪循環が続いています。
だからこそ、まず私たちが大切だと考えたのは、市場そのものを育てることでした。もちろん、そのためには消費者と食品メーカー、小売・流通企業をはじめ、さまざまなステークホルダーとの連携が欠かせません。そのような思いを背景に、食にまつわるあらゆるひとが共に対話を重ねながら「持続可能な食」につながるエシカルフードアクションについて考える「場」として、2021年に立ち上げたのが、共創型プラットフォーム「V みんなのエシカルフードラボ(以下、エシカルフードラボ)」です。
瀧田:実はきっかけは、タクシーの車内で目にした日立ソリューションズさんのCM動画でした。「これからは社内外で協創して、SXを加速していくんだ」と語られていました。その言葉が心に引っかかって「それなら一度ご相談させてもらおう」と思ったことが、最初の一歩です。
渡邉:それは初耳です(笑)。たしかに、日立ソリューションズは、SX活動を推進していて、企業活動を通じて持続可能な社会の実現をめざしています。その核となるのが、お客さまやパートナー、地域やコミュニティなどとの協創活動です。
瀧田さんたちのエシカルフードに関する活動は、まさにさまざまなステークホルダーとアイデアを出しあい、力を合わせて、社会課題を解決しようとする取り組みであると感じ、その「思い」の部分で共感し、参画させていただきました。
また、CCCMKホールディングスさまは日本最大級の共通ポイントであるVポイントを中核とした事業を展開されています。一方、日立ソリューションズは会員管理やポイント管理をコアとするデジタルマーケティングソリューション「PointInfinity」を事業展開しています。会員・ポイントを起点とするデジタルマーケティングという共通項にも、連携可能性を大いに感じました。
瀧田:消費者向けの啓発イベントや期間限定のエシカルフードフェアの開催など、さまざまな活動を行っています。私たち自身が第一次産業従事者や地域のみなさんと一緒になって、エシカルフードの開発にも取り組んできました。
2024年からは、フードサプライチェーンとその周辺にいる企業のみなさまをつなぎ、共通認識を築くことを目的に「食のサステナビリティフォーラム」というイベントも開催しています。その中で、特に重点的に議論してきたのが、「エシカルフードのマーケティング」についてです。
渡邉:私も第1回からフォーラムに参加させていただいていますが、とりわけ印象に残っているのが、「エシカルフードの社会的価値を伝えるだけでは、消費者の行動は変わらない、買わない」という、ある食品メーカーさまの発言でした。アンケートなどの結果を見ると、「エシカルフードを積極的に購入したい」という回答は多いのですが、実際、お店に行くと、購入しない、つまり消費行動には結びつかないことが分かっています。
なぜだろうと不思議に思いましたが、自分自身を振り返ってみると、腑に落ちる部分がありました。やっぱり、食べものを買うときに、まず考えるのは「美味しいかどうか」です。「健康に良いかどうか」や「安いかどうか」も考えますが、「エシカルかどうか」はあまり考えないし、「エシカルなだけ」では購入には至らない。きっとそういう人が多いのではないでしょうか。
瀧田:そこがエシカル消費の難しいところです。「しなければならない」という義務感だけでは、人は動きません。購買データや調査の分析からも、日本の消費者は「それがエシカルだから」という理由だけでは、あえて高価な商品を手に取ろうとはしないことがわかっています。だから現状でエシカルフードを販売しようとなると、メーカー側が企業努力で価格を抑えているケースがほとんどです。それでは、持続的なビジネスとは言えません。
瀧田:もっとも衝撃的だったのは、「そもそも食に興味がない人が、世の中にはいっぱいいるんだ」という言葉です。それまでは私が思い描いていたのは、食への関心が高まるにつれ、次第にエシカルフードにも興味を持つようになる―そんなカスタマージャーニーでした。だからこそ、生産者や産地のストーリーを伝えることが、エシカルフードの訴求につながると考えていたのですが......。
思わず頭を抱えそうになりましたが、この指摘があったからこそ見えてきたのが、潜在的なターゲット層の広さです。アプローチを変えれば、これまで食に無関心だった層に、いきなりエシカルフードを届けられるかもしれない。マーケティングのセオリーが確立していない今だからこそ、柔軟な発想を持つことの重要性を痛感させられた出来事でした。
渡邉:その議論は、私もよく覚えています。たしか、その流れで「エシカル消費を意識させる必要があるのか?」という話にもなりましたよね。意識せずとも、知らず知らずのうちにエシカルフードを選んでいた。そんな仕掛けをつくることが大切なのではないか、と。
瀧田:それがマーケティングとしては、ひとつの理想型かもしれません。もともと私たちが構想しているのが「エシカルフードアクションスコア」という仕組みです。
V会員であれば、エシカルフードの購買データを抽出し、それをスコア化することは、理論的にはそれほど難しいことではありません。
たとえば、そこに上手くゲーム性を持たせれば、食に関心のなかった人たちも自然なかたちでアプローチできるはずです。そうした仕組みを通じて、エシカルな行動が気づかないうちに習慣化されるような消費空間をつくれないかと考えています。
瀧田:最初にお話ししたように、食にまつわる社会課題は非常に多岐に渡っています。そのため、ある商品を選ぶことで「どんな良いことが起きたのか」が見えづらくなっていました。
だからこそ、私たちはエシカル消費をスコアというかたちで可視化することで、「自分の選択には、こんな意味があったんだ」と実感できる仕組みをつくりたいと考えています。それは大量の購買データを所有している当社にしかできないことでもあるはずです。
渡邉:エシカル消費におけるアクションの可視化は、消費者にとってある種の承認欲求を満たすことにもつながるのではないでしょうか。特にZ世代は、SDGsやサステナビリティに対する意識が高く、それが行動にもあらわれていることが知られていますが、一方で、自分がとった行動で、社会や環境がどのように変わったか知りたい、というニーズも抱いています。エシカルアクションスコアは、彼らを巻きこむきっかけになり得るかもしれません。私たちとしても、ぜひ一緒に検証したいテーマです。
瀧田:ただ、現在の市場はまだまだ未成熟で、消費者が主体的に選べるだけの商品が、そもそも十分に存在していないことも事実です。そもそも日本では、何をもってある商品を「エシカル」だとするのか、その定義が曖昧なままでした。
そこで私たちが取り組んでいるのが、エシカルフードの基準づくりです。2021年から有識者と議論を重ね、認定の大枠は固まっています。ここからは、それを企業のみなさんにどのように活用していただくかを検討していくフェーズです。
基準を満たした商品は、V会員にリコメンドするなど、企業にとってのインセンティブもしっかりと設計しながら、Win-Winの仕組みをめざしていければと考えています。
渡邉:基準採点を簡易化するためのツールづくりなどは、私たちが支援できる領域だと思います。たとえ基準自体が厳しいものだったとしても、審査のプロセスはなるべく効率的であるべきでしょう。食品メーカーをはじめとする企業のみなさまが、必要以上に負担を感じることなく基準を採点できる体制づくりを支えることで、商品数の拡大をサポートしていければと考えています。
瀧田:エシカルフードが増えていけば、リアルな売場のかたちも大きく変わってくるはずです。特にこれから考えていきたいのは、いわゆる高級店ではない普通のスーパーで、どのようにエシカルフードを売っていくのか、ということです。
そこで消費者にとっての価値を、いかにエシカルとつなげていくのか。お客さまとのコミュニケーションはどのようにあるべきなのか。小売・流通企業とも連携しながら、検証を重ねていきたいと考えています。今年度の「食のサステナビリティフォーラム」では、そのあたりも議論していきたいと思っているので、ぜひ渡邉さんのアイデアもシェアしていただければ幸いです。
渡邉:そこでどんな気づきがあるのか、今から楽しみです。私たち自身も、ITの知見を生かしながら、今後はより主体的にエシカルフード市場に携わっていきたいと考えています。誰もが意識せずに、当たり前のようにエシカルフードを選べる。そんな未来をつくることは、社会課題の解決だけではなく、新たな事業の創出にもつながっていくはずです。
言い換えれば、社会の持続性に貢献することは、企業の持続性にもつながっていると感じています。今回の協創は、まさにそのことを体現できる取り組みになると信じています。