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2025.10.31

クラウドAI入門:なぜ今、ビジネスに必須?
生成AIを加速させるクラウド活用術

AI DX
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人工知能(AI)、とりわけ「生成AI(Generative AI)」の活用領域が急拡大し、現代のビジネス環境は、類を見ない規模と速度で変容しています。応用拡大とICT技術の進歩によって、AIとその基盤となるプラットフォームの技術は日々進化し続けています。

データを共有して高度なAI処理を実行するクラウドAIや、秘匿性の高いデータを扱うオンプレミスAI、さらにはユーザーの手元で迅速な処理を実行するエッジAIなど、AIの実装形態には特徴の異なる様々なプラットフォームがあります。AIの高度な認識・予測・判断能力、テキスト、画像、コードなど多様なコンテンツを高品質かつ迅速に作り出す能力を有効活用するためには、これらのプラットフォームそれぞれの性質を深く理解する必要があります。ここでは、ビジネスの中で多様な用途に活用されているクラウドAIを中心に、その特徴や利用のメリットを解説します。

クラウドAIとは?「生成AI時代」に必須の基礎知識

クラウドAIを理解するため、まずその構成要素である「AI」と「クラウド」それぞれの基本的概念を正確に把握しておきましょう。

AIとクラウド、それぞれの基本をわかりやすく解説

AIとは、従来人間にしかできなかった知的作業をコンピュータで代替する技術の総称です。近年では、「機械学習」と呼ばれる技術が中核を担っています。「ディープラーニング(深層学習)」や「大規模言語モデル(Large Language Model:LLM)」といった技術の名称を耳にしたことのある方も多いと思いますが、これらはすべて機械学習が発展・大規模化した技術です。その基本コンセプトに大きな違いはありません。これらの技術は大量のデータを学習し、そこに潜むパターンや法則を見つけ出すことで、高精度な「予測」「分類」「判断」などを自動的に行います。過去の販売データから将来の需要を予測したり、画像データから不良品を検知したりというのが機械学習の典型的活用例です。

いわゆる「機械学習」と言われた場合、学習のためのデータは人間が提供することが多くなっています。一方ディープラーニングは、人間の脳の神経回路網を模した「ニューラルネットワーク」を多層(深く)にしたモデルを使い、より複雑なモデルでデータを学習させることで画像認識などを実現します。データから自動的に特徴量を学習する点が特徴的です。そしてLLMではより大規模な言語に関するデータを学習させることで言語を操って文書や画像などを生成できる能力を獲得しています。近年、一般の生活者の中でもユーザーが増え、インフラの一つとなりつつある「ChatGPT」や「Gemini」といった生成AIサービスはこちらのLLMを使用しています。

一方、クラウドとは、サーバー、ストレージ、データベース、ソフトウェアといったITリソースを、自社内で物理的に保有・管理するのではなく、インターネットを介して、必要な時に必要な分だけ利用するサービスの形態です。利用した分だけ料金を支払う「従量課金制」が一般的であり、高額な初期投資が不要で、最新かつ高性能なITインフラを柔軟に利用できます。現代デジタルビジネスにおける標準的基盤となっています。

そして「クラウドAI」とは、これら2つの技術が融合した形態を指しています。具体的には、AIモデルの学習や推論といった高度な計算処理を、クラウド上の高性能なサーバーで行う仕組みです。ユーザーは手元の端末からデータをクラウドに送信。クラウド側に置いたAIによって複雑な処理を実行して、ユーザーがその結果を受け取って活用します。この仕組みにより、個々の企業が高価な専門機材を持つことなく、世界最高水準のAI機能を手軽に利用できるようになりました。なお、先ほども触れた「ChatGPT」や「Gemini」など、我々生活者も使用する生成AIサービスもクラウドAIの一つです。

クラウドAI、オンプレミスAI、エッジAI:ビジネスシーンでの使い分け

AIをビジネスに導入する際、学習や推論の処理をどこで実行するかは、極めて重要な戦略的判断になります。選択肢を大別すると、クラウドAI以外に「オンプレミスAI」と「エッジAI」があり、それぞれ異なる特性と最適な用途が存在します。

クラウドAI、オンプレミスAI、エッジAIそれぞれの特徴と使い分け
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・クラウドAI

データをクラウド上のサーバーに集約して処理する中央集権型のアプローチです。膨大なデータの分析や複雑なモデルの学習、リアルタイム性が厳密には求められないタスクに適しており、その強みは計算能力とスケーラビリティの高さにあります。

・オンプレミスAI

自社が所有・管理するデータセンター内のサーバーでAI処理を行うアプローチです。機密性の高い情報や規制対象のデータを扱う際に、セキュリティとデータ管理の完全なコントロールを確保するために選択することが多いと言えます。ただし、高額な初期投資と継続的な維持管理コストが課題です。

・エッジAI

スマートフォンや工場のセンサー、自動運転車といった「エッジデバイス(末端の機器)」上でAI処理を完結させるアプローチです。ネットワークを介さないため、リアルタイムの応答性(低遅延)が求められる場面や、通信環境が不安定な場所での利用に適しています。

これら3つの選択肢の活用イメージとして、例えば、高速で稼働する工場の生産ラインで瞬時に不良品を検知するには、ネットワーク遅延が許されないためエッジAIが採用されるケースが多くなります。また、数年分の顧客データを分析して市場トレンドを予測するようなタスクには、クラウドの巨大な処理能力が不可欠です。一方で、金融機関が顧客の機密情報を扱う不正検知システムでは、厳格なセキュリティ要件を満たす運用が必要であるためオンプレミスAIによって処理がされます。このように、環境や目的によって使い分けがされています。

クラウドが「生成AI」の活用を加速

近年、AIの中でも特に生成AIがビジネスの世界に大きなインパクトをもたらしています。生成AIとは、より多くのデータを学習することで、そのパターンや特徴を組み合わせて、統計的にあり得る、新規性の高いコンテンツを生成する能力を備えたAIのことです。生成可能なコンテンツの形式は、テキスト、画像、音声、プログラムコードなど、多岐にわたります。

これまでAIの活用は、データサイエンティストなど一部の専門家に限られていましたが、ChatGPTのような対話型AIの登場でこの技術を利用する際のハードルを劇的に引き下げました。対話型AIは、自然言語での利用が可能なため、営業、マーケティング、企画、開発といったあらゆる職種のビジネスパーソンがその恩恵を受けられるようになりました。そして、ビジネスのあり方そのものを根本から覆すパラダイムシフトを引き起こしています。

生成AIの活用が拡大する中で、クラウドAIの重要性はかつてないほど高まっています。その理由は大きく3つ挙がります。

クラウドが生成AIの活用を加速する3つの理由
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・膨大な計算能力の活用が必須

生成AIの中核をなす大規模言語モデル(LLM)は、数十億から数兆にも及ぶパラメータ(モデルの複雑さを示す指標)で構成されています。このような巨大なモデルを学習させたり、高速で応答させたりするためには、GPU(Graphics Processing Unit)やTPU(Tensor Processing Unit)といった特殊なプロセッサを大量に連結した、極めて高性能な計算基盤が必要になります。これを自社で構築・維持することは、コスト的にも技術的にも大半の企業にとって非現実的です。クラウドプラットフォームは、こうした膨大な計算リソースをオンデマンドで提供できるため、生成AIの活用を支える生命線となっています。初期投資がほぼ不要であるため、資本力に限りがある中小企業やスタートアップでも、大企業と遜色ない世界最高水準のAI基盤にアクセスできます。

・圧倒的なスケーラビリティと柔軟性

クラウドは、必要に応じて計算リソースを瞬時に増減させられる「スケーラビリティ」に優れています。AIのライフサイクルでは、「モデルの初期学習時には膨大なリソースが必要だが、日常的な運用(推論)ではそれほどでもない」といったように需要が大きく変動します。クラウドを利用すれば、こうした需要の波に合わせてリソースを最適化し、過剰なハードウェア投資を避けつつ、常に安定したパフォーマンスを維持できます。小規模な実証実験(Proof of Concept:PoC)から、全社規模での本格展開に至るまで、必要に応じて計算リソースを瞬時に、かつ無段階に拡張・縮小できる点も柔軟性が高ければこその利点です。

・最先端モデルと開発ツールにアクセスできる

Google、Microsoft、Amazon Web Services(AWS)といった主要なクラウドプロバイダーは、単なる計算リソースだけでなく、生成AIを活用するための最先端の基盤モデルや開発ツール、MLOps(機械学習モデルの運用管理)環境をパッケージ化した、マネージドサービス(例:Azure OpenAI Service, Google Vertex AI, Amazon Bedrock)を提供しています。これによって、AIモデルを一から開発する手間が不要になり、既存の高性能モデルを自社のデータでカスタマイズ(ファインチューニング)することに集中できます。この点が、AI開発のプロセスを根本から変え、導入スピードを劇的に加速させる要因となっています。

メリットが多いクラウドAI、ただし留意するべき点もある:現実的な意思決定のために

クラウドAIの導入は、企業に多大なメリットをもたらします。その一方で、留意するべき点もあります。導入を成功させるためには、両面を冷静に評価し、現実的視点から導入と運用を考える必要があります。

まず、クラウドAIには、セキュリティとプライバシーのリスクがあります。インターネットを介して第三者であるクラウドベンダーのサーバーに自社のデータを送信・保存して利用するためです。特に、顧客情報や技術情報といった機密性の高いデータを扱う場合には注意が必要です。信頼性の高いベンダーの選定や、データの暗号化、厳格なアクセス制御といった強固なセキュリティ対策が不可欠になります。

さらに、特定ネットワークへの依存と遅延も懸念材料の一つです。クラウドAIは、安定した広帯域のインターネット接続が生命線です。ネットワーク障害や通信の遅延が発生すれば、サービスが停止したり、応答が著しく遅れたりする可能性があります。利用するネットワークインフラの信頼性と、アプリケーションが要求するリアルタイム性のレベルを慎重に評価しておく必要があります。

また、ベンダーロックインもリスクの一つです。特定のクラウドプロバイダーが提供する独自のAIサービスやツールに深く依存してしまうと、将来的に他のベンダーや自社のオンプレミス環境へシステムを移行することが、技術的にもコスト的にも極めて困難になります。オープンな技術の採用や、複数のクラウドを組み合わせるマルチクラウド戦略を検討することが、このリスクを回避する上で重要です。加えて、生成AIを活用する場合には、特有の課題が残っていることを念頭におきながら利用する必要もあります。AIの回答に紛れ込むハルシネーションと呼ばれるもっともらしい嘘や、ユーザーが意図しない著作権と知的財産の侵害、学習データに含まれる偏見(バイアス)の混入などです。

今、ビジネスにクラウドAI(特に生成AI)が必要な理由

現在、あらゆる企業において、デジタル技術によるデータ活用に基づく業務改革「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の実践が進められるようになりました。もはやDXは、特定の業界や大企業だけに見られる先駆的取り組みではなくなりました。長年にわたって伝統的ビジネスを営んできた中小企業やITシステムの利用とは縁遠かった業界の企業も積極的に取り組むべき業務改革になっています。

コスト削減・効率化を超えた、新たな価値創造の必要性

こうした環境下で、クラウドAIの活用、特に生成AIの活用は、多くの企業にとっての最重要課題になっています。なぜならば、クラウドAIと生成AIは、いずれもデジタル技術によるデータ活用の適用領域を拡大し、専門知識不要で先進的技術を活用するための仕組みだからです。DXの本質は、単に紙の業務をデジタル化することではありません。デジタル技術とデータを駆使して、ビジネスモデル、業務プロセス、組織文化そのものを根本から変革し、新たな価値を創出することにあります。業務に携わる全ての人が、デジタル技術やデータを主体的に活用できるようにする必要があります。

企業活動を通じて生成される膨大なデータ(ビッグデータ)は、それを保有しているだけでは価値を生みません。クラウドAIは、IoTデバイスや各種デジタルプラットフォームから収集されたデータを処理・分析し、単なる数字の羅列を「実行可能な知見」へと昇華させるツールを必要とします。しかも、そのツールは、誰もが使いこなせるものである必要性が出てきています。

現代の市場環境では、「スピード」と「俊敏性(アジリティ)」が企業の競争力を大きく左右するようになりました。クラウドAIは、新しいアイデアの試作(プロトタイピング)、テスト、そして市場投入までのサイクルを劇的に短縮し、企業が市場の変化に迅速に対応する能力を高めます。競合他社に追随していくためには、導入は避けて通れない戦略的選択と言えるでしょう。

クラウドAI導入の初期段階では既存業務の自動化によるコスト削減や効率化が主な目的となるケースが多いのではないかと思います。確実なROI(投資対効果)が見込めるため、重要な第一歩であるからです。しかし、クラウドAIの真価は、その先で新たな価値と収益源を創造する「ゲームチェンジャー」となることにあります。自社の持つデータや専門的な知見を活用して、新しいサービスや製品を開発することが重要です。生成AIを用いれば、顧客一人ひとりのためだけにデザインされた商品や、個別のニーズに応えるサービスを提供できる可能性もあります。

クラウドAI導入が向いている企業・組織とは?

クラウドAIはあらゆる企業に恩恵をもたらす可能性があります。特に、以下のような特徴を持つ企業・組織は大きな成果を期待できます。

クラウドAIの導入が向いている企業
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まず、豊富なデータを持つ企業。小売、製造、金融、ヘルスケアなど、日々の業務で大量のデータを生成・蓄積している企業。データが豊富であるほどAIの精度と価値は高まります。

次に、中小企業やスタートアップなどの高額なITインフラ投資が困難な企業。クラウドAIを利用することで、低コストで大企業と対等な技術基盤を手にし、競争の土俵に立つことができます。

さらに、市場の変化が速く、常に新しい製品やサービスを投入し続ける必要がある、俊敏性が求められる業界に属する企業。クラウドAIがもたらす開発スピードの加速は、強力な武器となります。

また、構造化されていないデータの活用に課題を抱える企業。社内に散在する文書、マニュアル、メール、議事録といった「非構造化データ」の活用に悩む企業。生成AIを搭載した企業内検索や要約ツールは、これらの埋もれた知識資産を価値に変える力を持っています。

そしてリモートワークが多かったり、組織が地域分散していたり、従業員が地理的に離れた場所で働く企業。時間や場所を選ばずにアクセスできるクラウドプラットフォームは、こうした働き方と非常に親和性が高いと言えます。

クラウドAIがビジネスにもたらす具体的な価値と活用事例

クラウドAI、特に生成AIがビジネスにどのような変革をもたらすのか。その可能性を具体的に理解するためには、実際の活用事例に見られる利用シーンをいくつか紹介したいと思います。

効果を発揮したクラウドAIの活用例
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・業務自動化

クラウドAIは、特に定型業務の自動化において絶大な効果を発揮します。例えば、AIの判断能力とRPA(Robotic Process Automation)の定型作業実行能力を組み合わせれば、より複雑な業務プロセス全体を自動化できます。例えば、顧客からのメールの内容をAIが理解し、その内容に応じてRPAが基幹システムを操作して必要な処理を行う、といった一連の流れを完全に自動化することが可能です。

・コンテンツ生成

生成AIの登場により、クリエイティブな領域でも自動化の波が押し寄せています。例えば、ターゲット顧客のペルソナを入力するだけで、生成AIがその心に響く広告コピー、メールマガジンの文章、SNSの投稿を何パターンも瞬時に作成することができるようにもなってきています。さらに、画像生成AIを使えば、広告キャンペーン用のビジュアルや、実在しないAIモデルを起用したテレビCMさえも制作可能です。これにより、コンテンツ制作のコストと時間が劇的に削減されるだけでなく、多様なクリエイティブを試すことでキャンペーン効果を最大化できます。

・データ分析

AIは、人間では処理しきれないほどの膨大なデータから、ビジネスに有益な知見(インサイト)を掘り起こすことが可能です。前述のとおり、従来、データ分析は専門のアナリストの仕事でした。最新のAIを搭載したBI(Business Intelligence)ツールでは、自然言語で「先月の地域別売上トップ5を教えて」と質問するだけで、AIがデータを分析し、グラフ付きの分かりやすいレポートを自動で生成してくれます。これにより、経営層から現場の担当者まで、誰もがデータに基づいた意思決定を行えるようになります。

・顧客体験向上

またAIを活用すれば、画一的なサービスを一人ひとりの顧客に最適化した体験へと進化させることができます。例えば、現在のECサイトでは、顧客の閲覧履歴、購買履歴、カートに入れた商品などの行動データをAIがリアルタイムで分析し、その顧客が最も興味を持ちそうな商品を的確に推薦するのが当たり前になりつつあります。これにより、顧客の購買意欲を高め、サイト内での回遊を促進します。

・新規事業創出

AIを活用することによって、従来ビジネスとは異なる領域で、新規事業を創出できるようにもなりました。

例えば、これまで医学など専門性の高い分野の海外文献を翻訳する必要性に迫られた企業は、専門的知識を持つ翻訳者がいる翻訳会社に依頼をするというような例がありました。しかし、医学と英語の両方に高いスキルを持つ人財が翻訳業務を請け負っている例は稀で、思うような品質の翻訳ができないことがよくありました。そうした中、医学技術のコンサルティングサービスをビジネスにしている企業は、最先端の専門知識を持っているのですが、翻訳サービスを提供することはほぼありませんでした。英語翻訳のスキルが必ずしも高いわけではなかったからです。これが、AI翻訳のレベルが上がったことで、高い専門性を持つ企業の翻訳サービスへの参入が容易になりました。

上記のケースのような場合、専門文献の翻訳依頼者は、流暢な翻訳文を期待しているのではなく、専門分野の最新知識を反映した高精度な翻訳を期待しています。しかも、最新情報を反映した専門的知識が求められる業務は、AIだけで対応することも困難な領域です。このため、コンサルティング会社が新規事業として、翻訳事業を開拓できるようになってきているのです。

クラウドAI(特に生成AI)導入のステップと成功の秘訣

クラウドAI、特に生成AIの導入は、多くの企業がそのポテンシャルに期待を寄せる一方で、「実証実験(PoC)で終わってしまった」「現場で使われない」といった失敗に陥るケースも少なくありません。こうした失敗の多くは、AI導入を一度きりの「プロジェクト」として捉え、継続的な「プログラム」として推進する視点が欠けていることに起因します。AI導入を成功に導くためのステップの中で留意すべき実践的チェックポイントを紹介します。

クラウドAI導入の成功に向けたチェックポイント
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・導入目的の具体的な特定とスモールスタート

AI導入では、AI導入そのものを目的にしてはいけません。最初にすべきことは、「どの業務の、どのような課題を解決したいのか」を具体的に特定することです。そして、全社展開をいきなりめざすのではなく、まずは小規模なPoCから始めるのが鉄則です。PoCの目的は、特定のビジネス課題に対してAI技術が有効かどうか、その実現可能性と投資価値を低コスト・短期間で検証することにあります。単なる実験ではなく、全社展開への戦略的な足がかりと位置づけます。加えて、AIはデータなしには機能しないことを明確に意識することが重要になります。プロジェクトに必要なデータが、質・量ともに十分に存在するかを事前に評価する必要があります。

・全社を巻き込んだ推進体制の構築と人財の育成・獲得

AI導入はIT部門だけの仕事ではないことも、十分留意する必要があります。全社を巻き込んだ推進体制の構築が成功の鍵です。

導入効果を高めるためには、ビジネス課題を理解する事業部門、技術を実装するIT部門やデータサイエンティスト、そして法務・コンプライアンス部門など、多様な専門性を持つメンバーから成る部門横断型のチームの編成が不可欠になります。さらに、途中で壁にぶつかってもプロジェクトを推し進めるためには、経営層がその重要性を理解し、リスクを許容し、強力に後押しする姿勢を示すことが極めて重要です。

また、AIを一部の専門家だけのものにせず、全従業員を対象にAIリテラシーを底上げすることも重要です。これにより、現場からの自発的な活用アイデアが生まれやすくなります。並行して、AI導入を主導する専門家(AIスペシャリスト)の育成、採用を推し進める必要もあります。

・セキュリティとガバナンス:安心して使うためのルール作り

AI、特に生成AIを安全に活用するためには、技術的な対策と組織的なルール作りを両輪とした体制づくりが必要になります。

まず、全従業員が遵守すべきAI利用に関する公式なガイドラインを策定します。入力してはならない情報(個人情報、機密情報)、生成物の利用ルール(事実確認の義務など)、利用可能なAIサービスの種類などを明記します。ガイドライン策定にあたっては、「AI事業者ガイドライン」(※1)などの公的なフレームワークを参考にすることで、網羅的かつ社会的に受容されるガバナンス体制を効率的に構築できます。

※1 経済産業省:AI事業者ガイドライン

・失敗しないためのその他の注意点

また、生成AIで作り出した生成物は必ず人間がレビューし、事実確認(ファクトチェック)を行うプロセスを業務フローに組み込みます。社内の信頼できる文書データベースのみを参照して回答を生成する「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」という技術の活用も、ハルシネーションを抑制する上で非常に有効です。加えて、個人や一般消費者向けの無料AIサービスではなく、入力したデータがモデルの再学習に使われないことが保証されている法人向けのセキュアなクラウドAIサービス(例:Azure OpenAI Service)を利用することが大前提となります。データの匿名化やアクセス制御の徹底も欠かせません。AIが生成した情報やAIが行った判断の結果について、誰が最終的な責任を負うのかを事前に定義しておくことが、トラブル発生時の混乱を防ぐ上で重要です。

AI導入の成功は、一度の導入で終わるものではありません。導入後の利用状況をモニタリングし、現場からのフィードバックを収集し、継続的に改善していくサイクルを回し続けることこそが、最も重要な成功の秘訣です。

これからのビジネスを切り拓くクラウドAI:今後の展望ととるべきスタンス

クラウドAIの進化はまだ始まったばかりです。AIの進化は、私たちの働き方と、そこで求められるスキルセットを再定義することになりそうです。

データ入力やレポート作成、定型的な問い合わせ対応といった、ルールに基づいた反復的な業務は、今後ますますAIによって自動化されていきます。人間の役割は「作業の実行」から、より上位の「戦略立案」「創造」「監督・意思決定」へとシフトしていくことでしょう。

また、AIが論理的・分析的なタスクを担うようになることで、AIには真似のできない人間固有の能力の価値が相対的に高まります。AIに解かせるべき「正しい問い」を立てる能力、そしてAIの出した答えを鵜呑みにせず、その妥当性を批判的に検証する能力が極めて重要になります。AIを適切に管理・活用していくためには、利用するAIの特徴をユーザー側が正確に把握し、業務の目的に合った質の向上を可能にする利用法を確立しておくことが求められてきます。

ユーザーとAIが、お互いの苦手を補完し、得意な部分を伸ばし合うことを、個人や組織、ひいては社会レベルで実現し、「人間vs AI」といった対立構造ではなく、AIを自らの能力を拡張するための強力なパートナーとし、「人間+AI」の協働関係を適切に築いていきましょう。



・ChatGPTはOpenAIの商標です。
・Gemini は Google LLC の商標です。
・Amazon Web Services、AWS、Amazon Bedrockは、Amazon Technologies, Inc.の米国およびその他の国における商標です。
・Microsoft(Azure)は、マイクロソフトのグループ企業の、米国およびその他の国における商標または登録商標です。
・その他、本サイトに記載の会社名、製品名は、それぞれの会社の商号、登録商標または商品名称です。

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