
2025.12.05
株式会社日立ソリューションズ(以下、日立ソリューションズ)が運営するオープンなコミュニティ「ハロみん」は、2025年10月22日にオンラインイベント『AIの世界の歩き方~AIのキャリア形成に興味のある方必見!スペシャリストに聞く仕事との向き合い方~』を開催しました。
近年、生成AIをはじめとする技術の進化が著しい中で、「AIの仕事」と一口に言っても、提案・開発・運用など関わり方は多様化しています。AIを扱う仕事の実態やキャリア形成の考え方を知りたいという声に応える形で、異なる領域でAIに携わるスペシャリストたちが登壇しました。
パネリストは、AIに関する情報の社内外への発信や顧客とのディスカッションを行う北林拓丈、生成AIを活用したサービス開発や提案活動を推進する江角忠士、そしてAI技術者としてグローバルの視点から提案・技術支援を行うGugan Kailasam。
モデレーターは、社内外におけるAI活用の推進と戦略立案を担う牧野由美が務めました。
イベントでは、AI領域の仕事の実態や求められるスキル、業務における面白さ・難しさなどを中心にパネルディスカッションを実施。AIの進化に合わせて自らをアップデートし続ける彼らが、現場での挑戦や学びを通して見えてきたAIキャリアの歩き方を語りました。
AI関連業務に携わる若手社員や、これからAI分野へのキャリアを考えている方にとって、リアルな現場の声を知る貴重な機会となった本イベント。その内容を、本レポートで詳しくお届けします。
<パネリスト>

北林 拓丈
株式会社日立ソリューションズ
業務革新統括本部 AIトランスフォーメーション推進本部 AX戦略部
チーフAIビジネスストラテジスト AIアンバサダー

江角 忠士
株式会社日立ソリューションズ
産業イノベーション事業部
グローバル本部 第2部 部長

Gugan Kailasam
株式会社日立ソリューションズ
経営戦略統括本部
グローバルビジネス推進本部 事業推進部 主任
<モデレーター>

牧野 由美
株式会社日立ソリューションズ
業務革新統括本部
AIトランスフォーメーション推進本部 AX戦略部 担当部長
最初のテーマは「AI領域の仕事」。北林は、日立ソリューションズのAI事業の全体像として、顧客向けのAIソリューション提案と、自社の業務変革について紹介しました。
顧客向けには、課題の発掘から提案、導入後の運用支援までを一貫して行っています。一方、社内向けでは、2024年に設立された「AIトランスフォーメーション推進本部」を中心に、全社のAI戦略や技術開発、リテラシー向上を推進しています。また、国内外のグループ会社やシリコンバレー拠点、パートナー企業と連携しながら事業を展開しています。
牧野は、「AIの仕事というとデータサイエンティストのような専門職を思い浮かべがちですが、実際は非常に広い領域の仕事があることがわかりますね」とまとめ、キャリアの広がりを伝えました。

続いて、異なるバックグラウンドを持つ4名が、自身の携わるAI関連業務について語りました。
北林は、2000年に入社し、Javaエンジニアとしてキャリアを開始。モバイルサイト開発や米国IBMの製品開発研究所での研修、通信事業者向けシステムの構築、新規事業の企画など幅広い領域を経験しました。
2020年からは米国シリコンバレーに駐在し、スタートアップとの協業や新規ビジネス開拓を推進。ChatGPT登場後は現地でも生成AIのリサーチが最重要テーマになったと振り返ります。
現在はその経験を生かし、社内外へのトレンド発信や啓発を担う「エバンジェリスト」として活動。「新しい価値を生み、お客さまに届けたい」という想いを原動力に、AIによる生産性向上をめざしています。

江角は、2001年に入社し、ITコンサルタントやプリセールスとして顧客対応を担当しました。2014年にMicrosoft事業へ異動し、IoTデータを活用した機械学習に取り組んだことをきっかけにAI分野へ。
その後、メタバースやXRなどの先端技術にも携わり、現在は生成AIを中心とした製品開発・提案活動をリードしています。画像認識技術を活用し、店舗で製品を撮影するとAIが商品情報を返す実証実験にも取り組むなど、技術をビジネス課題の解決へと結びつける役割を担っています。

Guganは、2017年にHitachi Solutions Indiaへ入社し、CRM開発で日印双方のチームをつなぐBridgeSEとして活動。
2020年からはR&DセンターのAIチームリーダーとして、機械学習から生成AIまで幅広い技術研究を指揮し、人財育成にも注力しました。
2024年からは日立ソリューションズに出向し、企画段階のアイデア検討から導入支援まで、AI活用をグローバルな視点で推進しています。「予測分析や画像処理で用いたディープラーニングで得た知識や経験が、現在の生成AI活用の基盤となっています。」と語りました。

牧野は、2006年に入社し、システムエンジニアからプロジェクトマネージャーとして受託開発を担当。その後、データ利活用事業でアライアンス商材のプロモーションやマーケティングを手がけました。
2024年からは「AIトランスフォーメーション(AX)推進本部」の発足当初からの参画メンバーとして、社内のAI活用促進に向けた施策や、社外への情報発信をリードしています。
活動のテーマは「DX by AX toward SX」。AIによる業務変革(DX)を起点に、持続可能な企業変革(SX)につなげることをめざしていると話しました。

次のテーマは、AI領域の仕事における「面白さ」と「難しさ」。技術も社会も急速に変化する中で、どんなやりがいを感じ、どんな課題に向き合っているのか、それぞれの現場視点から語られました。
江角は、AI活用を提案する仕事の魅力を「AIの活用領域が非常に広く、あらゆる業務を変えられる可能性があること」と語りました。営業や経理など多様な業務で新しい価値を生み出せる点がやりがいだといいます。
一方で、「提案内容が数週間後には生成AIの標準機能で実現することもある」と、進化の速さに苦労も。つねに最新情報を把握し、費用対効果を見極めながら、お客さまとともに最適解を探っていると述べました。
Guganは、「変化を楽しめる人にとって、AIの仕事はとても面白い」と話しました。日々新しい技術や発想に触れ、顧客とともにアイデアを形にしていく過程そのものが刺激的だといいます。
一方で、「AIを既存業務にそのまま当てはめるのではなく、どこで価値を生むかをともに考えることが重要」と指摘。また、最初から完璧をめざすより、データやモデルを改善し続ける必要があると述べました。
牧野も「まずは使ってみることから始めてほしい」と呼びかけました。
北林は、AIの仕事の醍醐味を「技術も市場も目まぐるしく変化する環境で働けること」と語りました。生成AI登場以降、技術の進化だけでなく、企業への導入スピードもこれまでにないほど早まっており、そのダイナミズムを肌で感じているといいます。
一方で、ガバナンスやセキュリティなど、幅広い知識が求められる点を難しさとして挙げます。お客さまから"何でも知っている"と期待される場面も多く、その上で曖昧な情報は「まだ明確ではない」と伝えるようにしていると話しました。

続いてのテーマは、「今の業務で意識していること、求められるスキル」。AIの技術や市場が急速に変化する中で、どのような姿勢で仕事に臨み、どんな力が求められていると感じているのかを語りました。
北林は、「グローバルのトレンドをつねに把握し、自社の戦略やソリューションに反映すること」を重視していると話しました。特に生成AIでは米国を中心に変化が速く、「最新の技術や事例をつねにキャッチアップすることが欠かせない」と述べました。
同時に、外部情報の収集だけでなく「自社の強みやソリューションを理解し、AI以外の選択肢も含めて最適解を考えること」が重要だと強調。
さらに、米国駐在時代も同じ姿勢で仕事に臨んでいたと振り返り、「環境が変わっても考えるべき本質は変わらない。ただ、AI時代はそのスピードが格段に速い」と語り、変化に対応し続ける姿勢の大切さを示しました。

江角は、「多くの顧客がまだ"生成AIで何ができるのか"を模索している」と述べ、日々ユースケースや社内外の事例を把握し、わかりやすく伝えることを意識していると話しました。
一方で、生成AIは万能ではないと指摘します。「苦手な領域では無理にAIを適用せず、別の方法で最適な解決策を導くことも必要」とし、誠実な提案姿勢を大切にしているといいます。
また、提案書やプレゼン資料の作成には生成AIを積極的に活用する一方で、「顧客理解やニーズ把握は人との対話でしか得られない」と強調。さらに「AIを活かすには、まずデータの蓄積と整備が欠かせない」と述べ、顧客の基盤づくりから伴走する姿勢を示しました。
Guganは、「昨日正しかった方法が、今日はもう最適でないこともある。つねに意識を更新し、最新のトレンドを取り入れる姿勢が必要」と話しました。
また、AIが誤った回答を出す「ハルシネーション」の可能性や、出力の制御が難しい点など、技術的な特性を理解して設計することが重要だといいます。
さらには、海外のグループ会社やパートナー企業と協働する機会も多く、文化や言語の違いを超えたコミュニケーションが重要だといいます。それにより、新しいソリューションを生み出せると話しました。
求められるスキルとしては、「新しい技術を素早く理解し続ける学習力」「お客さまの業務を深く理解する力」「クラウド技術の知識」の3点を挙げました。

イベントの後半では、参加者から寄せられた質問にパネリストが回答しました。それぞれの実務経験を踏まえたリアルな視点から、AI領域で働くうえでの資質やスキル、そして仕事の変化について語りました。
北林は、エバンジェリストに求められるのは「知的好奇心と説明力」だと語りました。新しい技術を自ら取り入れ、それをわかりやすく説明できる論理的思考が欠かせないといいます。「最初からエバンジェリストになるのは難しい。プロジェクトや事業開発を通じて積み重ねた経験が、説得力ある発信の土台になる」と語り、現場経験の重要性を強調しました。
Guganは、SNSと研究論文の両輪で情報を収集していると話しました。LinkedInやXでAI研究者をフォローし、最新の技術やモデル開発の動きをいち早く把握。さらに、大学や研究機関が公開する論文サイトを定点的にウォッチし、世界的なトレンドを追っているといいます。
江角は、グループ内外のAIコミュニティへ参加し、日立グループ内の取り組みを把握するほか、外部の勉強会を通じて「今どんなテーマに注目が集まっているか」を意識して見ていると話しました。

北林は、「デメリットはほとんどない」と断言。AIの活用が当たり前になる時代において、早くから関わることで技術理解が深まり、社会変革に携わるチャンスも広がると述べました。
江角は、AIを正しく活用できる基礎力を磨くことが大事だと語りました。AIは、使って当たり前になる一方で、「AIに頼り切るのではなく、最終判断を担う力を若いうちから鍛えることが大切」と強調しました。
Guganは、AIだけに特化するのではなく、IT全体の中でAIを活用し、幅広い領域の仕事に取り組むほうがいいと話しました。また、AIの回答をそのまま受け入れるのではなく、「なぜそうなるのか」と問い直す視点を持つことが重要といいます。
Guganは、文章作成やコーディングなどにおいて「アイデアを与えてAIに書かせ、自分の個性を加える」というフローに変わったと語りました。
江角は、AIが普及したことで「一人ひとりが自分の業務にAIをどう活かすかを考える時代になった」と話しました。また、AIを「忖度しない相談相手」として活用できるようになったことも大きな変化だと述べました。
北林は、技術トレンドや自社の取り組みが急速に変化するため、提案資料や社内文書を毎月のようにアップデートする必要が出てきたと振り返りました。さらに、自身の働き方も「まずAIに考えさせ、自分で判断・磨く」というプロセスが日常化していると語りました。
セッションの最後に、パネリストからAIの世界で挑戦する人々へ向けて、それぞれの思いを語りました。
北林は、AIの仕事を「泳ぎながら進むような日々」と表現。技術もビジネスも日々更新される中で、大変さと面白さが共存する領域だと話しました。成果を出す難しさを認めつつも、「興味のある人は、ぜひこの変化の中に飛び込んでほしい」と呼びかけました。
江角は、まだ手探りの部分も多いとしながらも、「変化の激しい過渡期に携われること自体が貴重な経験」と語り、AIとともに自分自身も成長できることを強調しました。
Guganは、「AIの世界は難しさ以上に学びが多く、やりがいがある」と述べ、「迷ったらまず一歩踏み出してみてほしい」と背中を押しました。
牧野は、「AIの世界を"さまよいながら楽しむ"姿勢こそ、時代を切り拓く鍵」と締めくくり、前向きなエネルギーに満ちた言葉でセッションを結びました。

本レポートが、皆さまのAIキャリアを考えるヒントや、組織での新たな挑戦を生み出すきっかけとなれば幸いです。
日立ソリューションズでは、協創で未来をつくっていくオープンなコミュニティ「ハロみん」を、2024年4月より運営しています。「ワクワクする未来へ 一歩踏み出す、協創の出発点」を掲げ、「繋がる」「探索する」「深める」「創る」をコンセプトにイベントや参加者同士の交流などの活動を行っています。モビリティ・セキュリティ・建設テック・先進技術などを幅広いテーマを取り上げております。その一環で、今回のようなイベントもオウンドメディア「未来へのアクション」でご紹介していますので、皆さんのご参加もお待ちしています。今後のイベント予定はこちらをご参照ください。
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