
2026.04.08
AIの進化によって、企業活動や社会のあり方は大きく変わりつつある。そうした時代において、企業はどのように新しい価値を創出していくべきなのか。
2026年3月11日、日立ソリューションズはイベント「DESIGN SX FUTURE 2026 - AIと協創で実現する未来社会」を開催した。本イベントでは、AIの進化によって変化する社会やビジネスの可能性をテーマに議論が行われた。
イベントタイトルにもあるSustainability Transformation(SX)は、持続可能な社会の実現に向けた変革を意味する概念だ。AIなどのテクノロジーを活用し、新しい価値を生み出していく取り組みとして注目されている。
基調講演には元陸上競技選手であり、現在はスポーツとビジネスの両分野で活動する為末大氏が登壇。その後のパネルディスカッションでは、AI時代の社会をどのように創り出していくのかについて、登壇者たちによる活発な議論が交わされた。
<パネリスト>

為末 大 氏
株式会社Deportare Partners
代表取締役

北林 拓丈
株式会社日立ソリューションズ
業務革新統括本部
AIトランスフォーメーション推進本部
AX戦略部
チーフAIビジネスストラテジスト
AIアンバサダー

青山 桃子
株式会社日立ソリューションズ
セキュリティソリューション事業部
セキュリティサイバーレジリエンス本部
マネージドセキュリティサービス部
チーフセキュリティアナリスト
<モデレーター>

西村 真里子 氏
株式会社HEART CATCH
代表取締役
AIの急速な進化は、企業のビジネスや社会のあり方に大きな変化をもたらしている。データ活用や業務の自動化が進み、AIはさまざまな領域で意思決定を支える存在となりつつある一方で、テクノロジーの進化によって「人間はどのような価値を発揮していくのか」という問いも改めて注目されている。
企業にとっても、AIの活用は単なる効率化にとどまらない。デジタル技術を通じて新しい価値を創出し、社会課題の解決と事業の成長を両立させていく取り組みが求められている。こうした文脈の中で注目されているのが、持続可能な社会の実現に向けた変革を意味するSX(Sustainability Transformation)という考え方だ。AIなどのテクノロジーを活用しながら社会価値とビジネス価値を同時に高めていく取り組みとして、多くの企業が関心を寄せている。
こうした背景のもと、日立ソリューションズは「DESIGN SX FUTURE 2026 ― AIと協創で実現する未来社会」を開催した。
基調講演には、元陸上競技選手であり現在はスポーツとビジネスの両分野で活動する為末大氏が登壇。さらに後半のパネルディスカッションでは、モデレーターに世界最大級のAIコミュニティ「The AI Collective」の日本共同代表も務める西村真里子氏を迎え、AI時代における価値創出や協創の可能性について、基調講演に引き続き為末大氏、日立ソリューションズの北林、青山による活発な議論が交わされた。

基調講演に登壇した為末氏は、AI技術の進化によって社会の意思決定のあり方が変化しつつあると指摘する。AIは膨大なデータを分析し、将来の予測や判断の材料を提示することができる。しかし、現実の社会やビジネスの現場では、必ずしも予測通りに物事が進むわけではない。
為末氏は、自身の陸上競技の経験を例に挙げながら、不確実な状況の中での判断について語った。
「レースでは、事前にすべてを決めて走ることはできません。状況はつねに変化するので、その場で判断しながら走る必要があります」
レース中には相手選手の動きやコンディション、天候など、さまざまな要素が影響する。そうした環境の中で結果を出すためには、あらかじめ立てた戦略だけに頼るのではなく、状況を見ながら判断を更新し続けることが重要だという。
この考え方は、AI時代のビジネスにも通じる。AIがデータ分析や予測を担う一方で、最終的な意思決定には人間の経験や直感が求められる場面も多い。為末氏は、こうした姿勢を「走りながら考える」と表現し、変化の中で試行錯誤しながら前に進むことの重要性を強調した。
講演ではさらに、AI時代において人間が価値を発揮するための視点として、三つのポイントが示された。それが「物語」「遊び」「共にする」である。
一つ目は「物語」だ。人は物語を通して世界を理解し、未来の方向性を描くことができる。データは事実を示すことはできるが、その意味や価値を社会の中で共有するには物語が必要になる。企業がビジョンを提示するときにも、人々が共感できるストーリーが重要な役割を果たす。
二つ目は「遊び」である。新しい価値は、必ずしも計画通りに生まれるものではない。試行錯誤や余白、いわば「遊び」のある環境があるからこそ、新しい発想が生まれる可能性が広がる。効率化が進む時代だからこそ、創造性を生み出す余白の重要性が高まっているという。三つ目は「共にする」という視点だ。AI時代においては、個人や企業が単独で価値を生み出すことは難しくなる。多様な人々が関わり合いながらともに考え、ともに挑戦していくことが重要になると為末氏は語った。
スポーツの世界でも、選手一人の力だけで成果が生まれるわけではない。コーチやチーム、ファンなど多くの人の支えがあって競技が成り立っている。ビジネスの世界でも同様に、多様な人々が関わり合うことで新しい可能性が生まれるのではないかと述べ、講演を締めくくった。

基調講演に続いて行われたパネルディスカッションでは、AI時代の社会や企業の役割について議論が行われた。モデレーターを務めたのは、世界最大級のAIコミュニティ「The AI Collective」の日本共同代表も務める西村真里子氏である。パネリストとして、基調講演に登壇した為末大氏に加え、日立ソリューションズから北林拓丈と青山桃子が参加した。
西村氏はまず、為末氏の講演内容に触れながら議論をスタートさせた。
北林は、AI時代におけるAIと人との関わり方に強く共感したと語る。特に「物語」を人間が昇華し、「遊び」でイノベーションを生み出していくことがAI時代にAIと関わる人間の独自性として非常に重要であるという。
青山もまた、セキュリティの現場では同様の状況があると説明する。サイバー攻撃の手法は日々変化しており、完全に予測することは難しい。そのため実際の事例を分析しながら防御の方法をアップデートしていくことが重要になる。AI時代のセキュリティも、変化に対応し続ける姿勢が求められる分野だと言える。
最初のテーマとして取り上げられたのは、AIとセキュリティの最新動向である。

北林は、ChatGPTの普及から3年、現在ではチャットを送れば返してくれるという段階を超え、AIは単なる「道具」ではなく、隣で働く「同僚」として活躍しているという最先端のAIトレンドが海外にはあると語る。
その一方で、日本に目を向けると、業務効率化のためにAIをどう活用するかという視点がまだ強い。裏返せば、リスクを洗い出し排除をした上でルールに則った運用をしたいという日本企業としての姿勢が安全で高品質な価値を創造するとも付け加えた。

一方で、AIの普及は新たなリスクも生み出す。青山は、AIの発展によってサイバー攻撃も高度化していると指摘する。当初はディープフェイク画像を作成したり、より巧妙なフィッシングメールを作成したりすることにAIが使用されていたが、現在ではAI自身が自発的にサイバー攻撃を行うケースも増えているという。AIを使ったサイバー攻撃に対して、守る側もAIを使ってどのような防御をしていくのかということが喫緊の課題だ。
ここで西村氏は「AIを教育する側が人間である上で、そこに人間性がどのくらい反映されるのか」と疑問を投げかける。
北林は、人間性はAIに反映され、AIが同調化してくる以上、AIを人間の対極の存在として定義するのではなくAIは人間として「ともに生きる」相手として捉えることが非常に重要であると語る。

続いてのテーマは、社会課題に対するAIとセキュリティの役割だ。
現在の社会には、少子高齢化や労働力不足などさまざまな課題が存在している。こうした課題に対して、AIが自動化に使われていく中で最後の意思決定は人間が行っていく必要があると青山は語る。

例えばセキュリティの分野でAIを使用する場合、大量の攻撃の痕跡を監視・分析して対応する必要があるが、決定を伴わない部分はAIに支援してもらい、その結果どのような対策を打つかは人間が意思決定をしていくことが重要である。
また北林は、AIは人間らしく生きるためのブースターという位置づけであるべきだと語る。
AIが「量」を肩代わりして「質」の高い英知を学びサポートをしてくれることで、人間が「遊び」というAIには担えない分野に時間を費やし、人としての可能性や未来をよりよいものにできる。
為末氏はこの話を受けて、人間らしさの領域が非常に大事であると感じたとコメントする。
三つ目のテーマは、協創とサステナビリティである。
西村氏は、これからの社会は単一の企業だけで課題を解決することが難しくなると述べる。

為末氏もこの考え方に共感を示す。スポーツの世界でも、選手だけでなく、フィジカルトレーナー、栄養士、メンタルトレーナーやコーチなど各専門家が自分の専門領域を見ることでコラボレーションが起きる大きなポイントだ。専門になればなるほど視野が狭くなるが、他の専門家とビジョンを共有しコミュニケーションを取りながら一つのゴールをめざすことが重要だと経験から語る。

北林も、持続性という観点で企業間連携が非常に重要であり、AI時代における企業間連携では役割分担とそれぞれの専門性がポイントになってくると話す。
企業間連携を行う上でインターネットを経由することが不可欠だが、安心・安全の部分をセキュリティで支えていきたいと青山は語った。

ディスカッションの最後には、AI時代の未来について改めて意見が交わされた。
青山は、セキュリティはAIの進化によって便利になっていく生活・社会を支えるインフラのような存在であり、人々が意識せずとも安心して暮らしていけるような社会基盤を作っていきたいという。
北林は、社会全体の英知を結集しAIとともによりよい社会を作っていく結果、それぞれが自分らしさを発揮できる社会に繋がっていくと語る。

為末氏は最後に、ワクワクする社会を実現するためにAIを愛されるキャラクターに模して関わっていくことを日本型としていくのはどうかと投げかける。
AIと人間がともに価値を生み出していく社会。その実現には、技術だけでなく人の想像力や協力が欠かせない。登壇者たちは、そうした取り組みの先にこそ「ワクワクする社会」が生まれるのではないかと語り、ディスカッションは締めくくられた。