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2024.09.24

座談会【大林組×日立ソリューションズ】
スマートビルのサービスプロバイダー、オプライゾン誕生
トップバッターとして、オープンイノベーションでめざす業界標準

406回表示しました

シリコンバレー。未知なる可能性が交差するこの地で、建設業の新たな価値創出の糸口を、スマートビルに見いだした大林組さま。日立ソリューションズとの協創で挑んだのは、ITとビルマネージメントとの融合でした。ネットワーク、アプリケーション、ESG。スマートビルに求められるサービスを実装したオープンなプラットフォームの誕生です。高い利便性と持続性を両立させた取り組みは、建設業界を横断しながら、急成長するスマートビル市場をけん引しようとしています。

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    佐藤 寛人

    株式会社オプライゾン 
    代表取締役 兼CEO

    大林組IT戦略企画室にて勤務後、米国MBA留学を経て北米拠点に赴任。2017年、シリコンバレーの最新デジタル技術を建設業に取り込むための拠点、Obayashi SVVL(※1)を開設。新発想によるスマートビル、建設テック関連の事業開発に先鞭をつける。
    ※1 Obayashi SVVL :Silicon Valley Ventures & Laboratory

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    山本 晃

    株式会社大林組 
    エンジニアリング本部 情報エンジニアリング部
    情報技術科 副課長

    入社以来、建物のLAN設備やネットワークインフラなど通信環境の整備に従事。ビルの快適性を追求したICT導入の研究などに携わる。大林組のシリコンバレーオフィスと東京を結ぶキーマンの一人としてオプライゾン設立に貢献。

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    ギュルテキン バハディア

    株式会社オプライゾン 
    取締役 兼COO

    日本で地球環境科学博士号を取得後、日立ソリューションズに入社。主に位置情報・地理情報技術における都市空間事業に従事。シリコンバレーの先端技術を取り入れた建設テック、スマートビルソリューション開発を指揮してきた。

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    大島 藤吾

    株式会社日立ソリューションズ 
    スマート社会ソリューション本部 アーバンソリューション部
    主任技師

    入社後、製品開発や保守業務などを経て、建設テックやスマートビルをはじめとする都市空間DXを推進する現在の部署に異動。ICTやIoT技術を活用したスマートビル事業を担当。オプライゾンのカウンター的な役割を担っている。

シリコンバレーの風土が生んだ
異色のコラボで商機をつかむ

大林組さまが、シリコンバレーに建設テックの新拠点を開設された経緯をお聞かせください。

佐藤:私が、シリコンバレーにある大林組の北米拠点に赴任したのは2011年のことです。スタートアップやベンチャーキャピタルが嬉々として活動している光景は刺激なものでした。しかし、建設という切り口でビジネスを開拓している人は、米国企業を含めて見あたりませんでした。建設業だけが置いていかれるような、危機感を覚えたものです。
次第に、最先端のIT技術を、建設業に取り込むための拠点があってもいいのではないか、そう思うようになりました。建設テックをリードしていく力が、大林組にはあると考えたからです。その主な理由は3つあります。1つ目は、米国のゼネコンにはない技術研究所を持っていること。2つ目は、試作が可能な建設現場を持つ子会社がシリコンバレーにあったこと。3つ目は、北米事業の拠点がシリコンバレーにあることです。

その構想が実を結んだのは2017年。現地法人Obayashi SVVLをシリコンバレーに設立することができました。

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山本:私はこの頃、日本で同様の焦燥感を抱えながら開発にあたっていました。まだ、スマートビルという名前すらなかった頃のことです。建物の快適性をICT設備で向上できないか。現在のスマートビルの原型になるようなものを研究していました。
私たちは、ITやソフトウェアの専門家ではないため、システムの構築や運用に問題が発生するといった失敗を重ねていました。
もともと私たちには、竣工した建物をお客さまへお引き渡しするまでを一つの区切りとする考えがあります。ソフトウェアに対する運用保守やメンテナンスを行うという発想がなかったのです。

佐藤:日本とは毎日のように連携をとっていました。自分も似たような状況に身を置いていましたので、悩みや課題はとてもよく理解でき、対応の必要性を痛感していました。

数多いIT会社の中から、日立ソリューションズをパートナーに選んだ理由を教えてください。

佐藤:シリコンバレーは狭い世界です。どんな人がどこにいるか、すぐにわかるようになります。日立ソリューションズについては、シリコンバレーで上手く活動できているなと思っていました。プレゼンも見事だし、目立つ存在でした。
そこで思い切って、スマートビルに関する協力の話をもちかけてみたのです。ボトムアップのアイデア段階だったにもかかわらず、即座に快諾してくれました。その後の対応も、打てば響くような迅速で的確なものでした。

ギュルテキン:大林組さまのアイデアは、私たちにとっても魅力的なものでした。
私たちは、2007年にシリコンバレーにリエゾンオフィスを構えて以来、優れた製品を見つけだし、日本で販売するといったビジネスを手がけてきました。現在まで60社以上の会社と契約を行い、ビジネスを拡大してきたという実績があります。さらに、建設テックに関しては、ソフトウェアや関連する知識、ノウハウを豊富に持っていました。
大林組さまが必要としていたITに関する経験やノウハウ先端技術を日本へ届けたいという想いは、私たちと手を組めば可能になります。先進的な海外商材だけでなく、自社で製品やサービスを開発できるノウハウも持っている会社は、シリコンバレーでもそう多くは存在しません。
しかし、これがもし日本だったら、競合他社への配慮などもあり、これほどスムーズに話は進展しなかったと思います。自由な発想が生まれ、楽しくジョイントできたのも、シリコンバレーにおけるオープンなネットワークの風土が縁を取り持ってくれたおかげと言えるかもしれませんね。

佐藤:日立ソリューションズは、データベースやネットワークのようなITインフラに関するノウハウ、セキュリティ関連の豊富な商材、サービス運用に関する経験など、大林組には足りない部分を持っていました。逆に私たちには、日立ソリューションズが持っていないターゲット市場へのアプローチがあります。お互いの不足を補いあえる最良のパートナーシップを構築できたと思っています。

共にめざすは業界標準
オープンへ、発想の転換を加速した
ジョイントベンチャーという究極の選択

ビルマネージメントに着目した理由を教えてください。

佐藤:当時はまだ、スマートビルという定義もあいまいで、マーケットが確立されていませんでした。インテリジェントビル、IT対応などと銘打ち、華々しく売りだしても、数年後には輝きを失ってしまうといった例が多くありました。
スマートビルがスマートであり続けるためには、引き渡した後も、ビルオーナーに寄り添い続けるITに特化した新しいタイプのビルマネージメントが必要だと考えました。
今までのビルマネージマント会社がカバーできるのは、建築と設備、空調、電気まで。ITやソフトウェアのエンジニアはいませんでした。ネットワークやソフトウェア、来館者管理や会議室予約といったシステムは入居後に独自に行わなければなりません。
誰も手をつけていない領域です。ここにマーケットはある。商機はある。その想いは確信へと変わっていきました。スマートビルをマネージメントする。新しいビジネスの発想はこうして生まれました。

ギュルテキン:日立ソリューションズには、経営ビジョンの根幹になっている3つのキーワードがあります。SX、協創、挑戦です。
私たちは、大林組さまとの協創を通じて、スマートビルの新しい事業を、建設業界全体に横断的に広げていきたいと考えました。この成果を2社だけにとどめるような閉鎖的な考えではなく、オープンな発想を持ったフロントランナーとして業界全体を盛り上げていきたい。オープンイノベーションで勝負したい。そう決意したのです。

佐藤:私たちが今、取り組んでいるのは協創です。その目的は、差別化技術の追求でも、開発でもありません。オープンイノベーションにおいてスタートアップと協創していくためには、マインドを変えて臨む必要がありました。業界No.1をめざすのではなく、建設業界そのものを変えていくというビジョンで、スタートアップの人たちは取り組んでいます。私たちもそういう気概でのぞまなければいけないと思いました。大林組だけで売るものをつくるのでは、日立ソリューションズにとっては「組む」意味がなくなってしまう。私たちの協創がめざすものは、あくまでも業界標準です。
実現するための究極の選択、それがジョイントベンチャーというスタイルでした。
私たちはスマートビルが完成したその先も、たとえ他社がつくったビルであっても、誰にでもサービスを提供していきます。それを可能にするのはオープンな戦略、それがオプライゾンなのです。

オプライゾンが提供するサービスはどのようなものですか。

佐藤:オプライゾンでは、安全で使いやすいネットワーク、最新のビルアプリケーション、エネルギー使用量やCo2排出量の収集とレポート機能を提供するマネージドESGサービス、この3つを提供できるところが強みであり、特徴です。バンドルされたサービスの中から必要なものを選んでもらう仕組みです。
オフィスの移転に伴う面倒な業務からテナントを解放し、ビルオーナーに代わってエネルギーデータの可視化などを実現します。

大島:私は、オプライゾンの設立が決まった直後から、準備作業に携わってきました。スマートビルの市場は今まで、日立ソリューションズが十分に把握・理解できていない部分がある市場でした。オプライゾンとして業界標準をめざしていくというビジョンは素晴らしいと思いました。業界全体への横展開の道が一気に開かれたのです。構想が壮大すぎて、自分の立ち位置さえよくわからないほどでしたが、これから一体、何がはじまるのか。今までの仕事とは根本的に違う、予感と期待で毎日ワクワクしていました。

山本:オプライゾンは、今まで私たちがカバーできなかった引き渡し後の運用まで行います。お客さまへの提案の際、オプライゾンのことを説明すると、感動され強く興味を示してくださる方が多くいらっしゃいます。大林グループ全体のアピールにもつながっていると感じています。

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今回のジョイントで得た最大の収穫は何ですか。

ギュルテキン:業界の枠を超えてたくさんの方と話ができたことは大きな収穫になりました。
たとえば、例を一つあげると、ITプロジェクトにおける工程の順番と、大林組さまが使っているビル全体の設計工程とを比べると、同じ言葉を使っているはずなのに、微妙に意味が違っていることがありました。業界ごとに固有の感覚があることを知り驚きました。これは実際に、一緒に作業して見なければ気づかなかったことです。そのわずかな"ずれ"を解消していくために努力したことも、双方にとって大きな財産になったと思っています。

佐藤:今のような話は、単なる受発注の関係ではあり得なかったことですよね。こうした"ずれ"をコミットメントできる関係性を持てたことが最大の収穫と言えるのかもしれません。

ギュルテキン:契約形態によっては、最適なタイミングでITを導入できないこともあります。通常、ビル設備の中で、ITは最後に手をつけられるものだったからです。こうした商習慣に起因するギャップを感じた場面はいくつかありました。しかし、これを一緒に乗り越えていくことが前提のパートナーシップが構築できていたことに感謝しています。

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オプライゾンを通じて社会にどのように貢献していきたいと思われますか。

佐藤:オプライゾンが提供するマネージドサービスには運用の無駄を省き、スペックどおりのパフォーマンスを発揮していくため、サブスクリプション型の提供を行っています。
ITに特化したビルマネージメント会社を、業界が受け入れてくれるのか、不安を持っていましたが評判は上々です。業界標準をつくることで、建設業界のSXに貢献したいと思っています。

大島:持続可能性という視点では、安心・安全性が一つのポイントになると思っています。セキュリティは、日立ソリューションズの強みでもあり、コンサルから導入、運用までトータルに提供している実績があります。
また今後は、日立ソリューションズが持つ先進技術を活用し、デジタルツイン(※2)技術によるサイバーフィジカルシステム(※3)構築、AIを活用した電力使用量削減や設備管理効率化、サーキュラーエコノミー(※4)関連ソリューション提案といった新たな価値創出に取り組み、多様なニーズにお応えしていきたいと思っています。

※2 デジタルツイン:現実の世界から収集した、さまざまなデータをコンピュータ上に再現する技術。環境最適化への応用に期待がかかる。
※3 CPS: Cyber-Physical-System 現実空間の情報をコンピュータによるデジタル空間で分析し現実空間の最適化をめざす技術。
※4 サーキュラーエコノミー:環境・社会の両面から持続可能な循環型経済の実現に向けた取り組み。
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山本:運用に光をあてたことで、建物そのものを長く使っていただくことが前提になりました。どういうコンセプトを基に建設するのか。この段階を重視する傾向が社会的に強くなっていると感じています。
基本設計前のITの設計思想作成の段階から ら日立ソリューションズの協力をもらえることで、5年後、10年後の運用保守を前提とした設計が可能になりました。

スマートビルで働く人の笑顔を
社会と結び、未来へとつなげていきたい

スマートビルは、今後どのように進化していくと思われますか。

ギュルテキン:モビリティとコネクティビティ、都市・街づくりはこの2つのキーワードを軸に進展を続けていくともいわれています。ITの搭載がさらに進めば、ビル自体がコンピュータのようになっていくかもしれませんね。センサーがあり、OSやアプリケーションがあり、ビルが自分で動きだしたり・・・。ビル・車・流通はコネクティビティが鍵を握るようになりました。それぞれの領域でつながっているものが、さらに枠を超えて互いにつながりあう街モノとモノが会話できるような未来も夢ではないと思っています。

佐藤:日立ソリューションズとのジョイントを通じて感じることは、文化の違いを含め、一緒にいて居心地がいいということです。ダイバーシティの本質は相手を認めること。日本は、同じ環境の人とだけ話す傾向がありますよね。イノベーションが生まれにくい原因になっていると思います。常識にこだわらないことも、時には必要なのではないでしょうか。
私たちの業界の常識を超えたジョイントベンチャーが成功事例となって、後に続く企業が増えていくことを祈っています。

山本:国によるスマートビルの定義づけはやっとはじまったばかりですが、それを中心としたスマートシティ構想が一緒に議論されていますね。最近では、都市型OSが日本の新しい街の姿として注目を集めるようになりました。街区は、どのようにスマート化するかなど、まだまだ模索している段階のようです。
その中で、オプライゾンは業界のトップバッターとして、スマートビルへの具体的な取り組みをはじめています。オープンイノベーションによって、今後、どのような化学反応が起きてくるのか。ここからさらに新しいイノベーションが生まれることを期待しています。

大島:ビルは人が働く場所です。ITにより、ここで働くことが楽しい、便利で快適だと感じてもらえるようなスマートビルの実現をめざしていきたいと思っています。そのためにオプライゾンとともに果たせる役割は限りなく大きいと思っています。

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