2024.03.11
企業では持続可能な経営に向けて、ウェルビーイングや人的資本経営、持続可能な働き方への関心が高まっており、その一つとして女性の活躍推進が注目されています。働く女性が増える一方、女性特有の体の不調やライフステージの変化にともなう悩みを周囲に相談できず、適切な対処が遅れてしまい、仕事に悪影響を及ぼしたり、症状を悪化させてしまう結果となり、働き続けることが難しくなるケースも少なくありません。
医療法人葵鐘会(以下、葵鐘会)は、愛知県と岐阜県を中心に産婦人科クリニックを展開し、千葉県成田市や神奈川県秦野市、大阪府堺市などで、協力医療機関も含めて計20院を産婦人科グループ「ベルネット」として運営している医療法人です。
日立ソリューションズは、葵鐘会との協創により、女性特有の健康について、看護師や助産師へ相談ができるサービスを開始しました。女性従業員が心身ともに健やかに、いきいきと働き続けられるウェルビーイングを支援していきます。
永友 一成
葵鐘会
理事
2009年、医療法人葵鐘会に入職。CFO、COO、CMO、CAO、海外事業責任者を歴任。2014年、カンヌ国際広告祭にて、妊娠記録本「マザーブック」がグランプリ受賞。現在は、新規事業開発担当として、フェムテック関連事業、メディア事業、メディカルコスメ事業に注力している。
中上 富雄
葵鐘会
CMO
マーケティング本部 本部長
2013年、医療法人葵鐘会に入職。全国に展開するクリニックの信頼と評価向上に注力。第1回フェムテック等サポートサービス実証事業参画。母子を対象としたサービスやプロダクトを提供する企業と産婦人科を繋ぐ取り組みを推進。
小倉 文寿
株式会社日立ソリューションズ
スマートワークソリューション本部
HRソリューション開発部
部長
認定フェムテックシニアエキスパート
ワークスタイル変革の新事業開発担当としてRPAや仮想オフィス事業を立ち上げる。現在は人事系のソリューション開発の取りまとめを担当し、女性活躍支援をはじめEX向上を支援するソリューション開発に従事している。
新谷 友梨
株式会社日立ソリューションズ
スマートワークソリューション本部
HRソリューション開発部
2017年、株式会社日立ソリューションズに入社。人事総合ソリューション「リシテア」の製品開発やHRテック領域の新事業企画に4年従事。2022年度は米国拠点でHR/フェムテック/Future of Work/サステナビリティなど幅広い領域のスタートアップ発掘・アライアンス推進を担当。現在はリシテア/女性活躍支援サービスの製品担当として、プリセールス・事業開発に従事。
永友:ウェルビーイングに注目が集まり、人的資本経営のKPIとして女性活躍が採用されるなど、世の中の情勢は確実に変わってきていると思います。我々産婦人科としても、助産師による相談事業も行い、企業から福利厚生として低用量ピルの処方を依頼されることも多くなってきました。メディアで経営者が女性活躍支援について語っているのを見ることが多くなっているので、徐々に変わってきていることを感じています。とは言っても、まだまだ長年の日本の歴史が残してしまったアンコンシャスバイアス(無意識の偏ったモノの見方)などの女性の活躍を妨げるものが構造的に残っているのも現実だと思います。また、日本のジェンダーギャップ指数が先進国の中で最低となっているという調査結果もあります。一般的な解決策にはなりますが、クォーター制などを活用し、一定の割合で女性の管理職や経営層を増やすなど、少し強引かもしれませんが、このような取り組みをやらなければ変わっていかないと感じています。
新谷:人事部門の方とお話しさせていただくと、長年のキャリアのあり方や組織風土がある中で、従業員全体と管理層全体の両方に啓発していかないとなかなか意識が変わらないと感じます。一方で、健康経営の中でも女性特有の課題に取り組み、フォーカスしている企業もあります。女性特有の健康領域を企業がケアするという考え方が今までは、あまりなかったと思います。しかし、実際に当社の中で、葵鐘会さまが提供しているオンライン相談サービスのトライアルを行い、利用者へアンケートを取ってみたところ、「業務効率向上につながる」の回答者が81%、また「常時サービスを使えたほうが良い」の回答者が93%という結果が得られました。このように、企業が女性特有の健康領域のケアを行うことに対し、従業員のエンゲージメントが大幅にアップするということが分かりました。女性が、自分自身の健康や体に向き合うことができるため、非常に意味がある事業領域となっていることを感じます。
中上:コロナ禍でも、妊婦さんは健診のために通院されましたが、母親教室など、助産師と接点を持つ各種教室はすべて休止となりました。また、妊婦さんは通院途中や来院によってコロナに感染するかもしれないと警戒し、外出をためらうようになりました。その結果、妊婦さんと助産師や看護師の接点が減り、相談の機会が減ってしまいました。それを解決し、安心してマタニティライフを過ごしていただくために、患者さんが、ビデオ通話などオンラインで気軽に相談ができるサービス(以下、オンライン相談)を始めたのがきっかけです。最初はベルネットの患者さんに向けたサービスだったのですが、1年くらいノウハウを蓄積したときに、経済産業省が主催する「フェムテック等サポートサービス実証事業」の募集が始まり、我々の患者さんだけでなく、働く女性を支援できないかと応募して採択され、中部国際空港(セントレア)旅客サービスさまで勤務される女性従業員に「オンライン相談」を提供しました。
中上:実証実験を行ってみて感じた課題は、利用機会を喪失させない手段が必要というものでした。実際に従業員の方たちに使ってもらうために、どのように啓発していくのかも課題ですし、自社でサービスを受けた場合、相談した内容が、人事部門など社内へ伝わるのではないかという、不安を感じる声もありました。
小倉:以前から、我々日立ソリューションズがフェムテック健康領域で事業を行えないかと考えていましたが、医療色が強い分野なので、SIerである我々が単独で行えるものではないと感じていました。そのように考えていたときに、「フェムテック等サポートサービス実証事業」の中間報告会に参加させてもらう機会があり、葵鐘会さまの発表を見て、医療法人と組めば、新たな価値を生み出し、ソリューションが提供できて、協創が行えるのではないかと考えて、お声がけさせてもらいました。中間報告会で発表していた中にはITベンダーもいたのですが、ITの会社同士が組むのは医療法人に比べて信頼性も低くなりますし、お互いの役割が被ってしまうところもあるので、医療を専門とした法人と組むほうがより大きな効果を生むだろうと考えました。
中上:企業の人事部門においては、女性に特化したサービスを導入するのではなく、全従業員に対してのサービスを導入したいと考えてることがわかりました。また、導入後の利用率を上げたいという課題も持っていました。そのような課題に対して、どう解決を図るかを悩んでいたとき、日立ソリューションズにお声がけいただき、多くの企業が利用されている人事総合ソリューション「リシテア」の中の1つのサービスとして我々のサービスが使えれば、幅広く使ってもらえるのではないかと考えたことが協創のきっかけです。
新谷:葵鐘会さまは、「オンライン相談」において、専門性を活かしてお客さまの健康相談に対応していただいているので、実際に利用しているお客さまの満足度も非常に高いと感じています。このようなメリットを、企業の人事部門を通して、成功事例として紹介していきたいと思います。日立ソリューションズでは、1994年より、企業の人事部門へ「リシテア」を提供してきました。就業管理システムからスタートし、人事管理や従業員エンゲージメントなど、現在は人事総合ソリューションとして、累計1,500社以上(利用者数200万人以上)で利用されています。今後、「リシテア」のサービスとして、「オンライン相談」を活用した「リシテア/女性活躍支援サービス」を提供することにより、更に利用者が広がっていくことを期待しています。
中上:我々のサービスは、元々は地域密着型で、クリニックの近くにお住まいの患者さん一人ひとりをサポートすることから始まったサービスでしたが、日立ソリューションズと協創することによって、より大きな視野でサービスの提供を考えることができるようになりました。「リシテア/女性活躍支援サービス」として、企業へも「オンライン相談」を提供することで、より大きな効果が生まれていると思います。
永友:我々は医療的な観点から女性の健康課題に向き合っていますが、リシテアは人事総合ソリューションとして、健康問題だけではなく、働く人たちの課題を総合的に見ることができますので、その中で、我々のサービスも含めたソリューションを提供しているところに、安心感があります。まだ実装はしていませんが、リシテアのチャット機能を使って、従業員がより気軽に利用できるチャット相談も今後は検討していきたいですね。健康課題は、たとえば上司や同僚との関係性など複合的な要因もかかわってくる可能性があり、我々が女性から健康相談を受けただけでは見えないところも多くあります。そのような健康問題につながる要因をリシテア全体のデータを活用することで、健康問題の解決につなげていくなど、さまざまな角度から利用者をフォローしていただくことも今後期待できますね。
新谷:たとえば、仕事やプライベートで月経痛の支障が出ていても、我慢し続けている方は多く、また、産婦人科を受診しようというハードルを高く感じている方も多いと思います。今回の取り組みは、病院へ行く前に、まずは「オンライン相談」を受けられるという点で、そのようなハードルを低くできると思いますし、女性の健康を女性だけではなく、男性も含めて理解し、ケアしていくことで、不調を我慢せずに相談したり病院へ行くなど、解決へ一歩踏み出すことができる企業風土を醸成していければと考えています。
中上:ベルネットの患者さん以外に「オンライン相談」を提供する動機の1つは、産婦人科をかかりつけ医にしている若い女性が少なく、具体的な症状が出てから初めて産婦人科に行くという現状があるためです。健康を維持するためには定期的にチェックすることが重要ですが、産婦人科に足を運びにくいのであれば、身近に感じてもらうきっかけとして「オンライン相談」が活用できますし、足を運ばなくても「オンライン相談」でつながり続けることで、病気予防など、働く女性の健康問題解決の一助となると考えました。
新谷:私も「オンライン相談」を利用するようになってから、産婦人科に行くようになり、子宮がん検診なども受けるようになりました。産婦人科の検査は、痛いのかなとか、どういうことをされるのかなとか、不安に思ってしまいがちですが、「オンライン相談」で気軽に相談することで心理的なハードルを下げるのに寄与していると思いました。
永友:早い段階から相談できて、産婦人科の専門家から正しい情報が得られる意義は大きいと思います。助産師の相談サービスはほかにもありますが、我々はしっかりと統一されたプロトコルがあり、どの助産師でも安定した回答ができるので安心してご利用いただけます。インターネットで検索しただけでは、さまざまな情報があふれていて、正しい情報かを判断することは難しいですからね。DEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の重要性が言われるようになってきましたが、お腹が痛くて仕事が辛いと感じている女性の状況を理解できない男性はまだまだいますし、ケアすると「女性ばかり優遇するな」と言ってしまう人もいます。また、そういう方が会社で決定権を持っていたりもします。
新谷:お客さまとの会話の中で、女性だけにケアしていくことが、組織内で理解を得にくいことがあると聞きます。エクイティの言葉の通り、一人ひとりがパフォーマンスを出せるように「公平な土台」を作ることが大切ですので、DEIの啓発についても、今後取り組んでいきたいと思います。
中上:我々の従来の地域密着型の医療サービスが、日立ソリューションズとの協創で全国へ広がるということは大きな意義があると思います。私たちは、統一されたプロトコルで医療サービスを提供していますので、リシテアを導入する企業の従業員一人ひとりと繋がることにより、全国へ高品質な医療サービスを提供することができます。健康相談や診療のほか、出産も含めてサポートするなど、女性の健康を総合的にサポートしていきたいと考えています。
小倉:政府では、骨太方針の中に「フェムテック」という言葉が入るなど、国を挙げて女性活躍社会を作ろうとしています。そこに向けて、今現在、日立ソリューションズは、女性の健康支援から取り組んでいますが、対応領域をどんどん広げて本当に女性の活躍を支援できるサービスに仕上げていきたいと考えています。男性が優遇されてきた歴史がある中で、男性と女性の「違い」を埋めていく活動をしていきたいと考えています。その結果、男女のスタートラインが同じになるという世界を今後も葵鐘会さまと一緒に作っていきたいですね。葵鐘会さまと協創することで、日本の女性を支援する新しいビジネスを創出し、女性が安心して働ける社会を実現したいと思っています。
永友:一般的に、医療分野ではDXが進んでいない一面があります。しかし、「リシテア」のような人事のさまざまなデータを活用することができれば、より健康問題解決につながる高品質なサポートができると期待しています。女性が安心して働くことができる。そのような未来へつながる社会を、日立ソリューションズとともに創っていきたいと思います。