2023.09.15
横浜市の任意団体である横浜未来機構では、横浜市を活気ある魅力的な街にするために、人財の異分野交流を促進し、先端技術や知見により、地域や社会の課題解決に向けたトライアルを進めている。今回は、横浜未来機構の大橋氏(※)と福井氏、株式会社日立ソリューションズ(以下、日立ソリューションズ)の佐藤氏、新川氏、西氏による対談を実施。企業や大学、行政が垣根を越えて、さまざまなイノベーションを起こすためのコミュニティやワークショップなどのイベントを開催するなど、協創の場におけるデジタル技術の活用について語った。
大橋 直之 / Naoyuki Ohashi
横浜未来機構事務局
事務局次長
民間企業勤務を経て、1993年、横浜市入庁。以来、経済、福祉、医療分野で従事。
特に経済局では、企業誘致(企業立地促進条例)の担当として、横浜市内への本社・研究開発拠点、スタートアップ等の立地促進に関わったほか、イノベーション領域では、「イノベーション都市・横浜宣言」の担当として「ベンチャー企業成長支援拠点YOXO BOX」を開設。2020年4月から一般社団法人 横浜みなとみらい21内で事務局として「横浜未来機構」の立ち上げを担う。
※肩書は取材時(2023年3月)のものです。
福井 直樹 / Naoki Fukui
横浜未来機構
事務局 シニア・マネージャー
株式会社リクルートにて主に教育領域の新規事業開発、マーケティングを経験後、ベンチャー企業数社で事業開発責任者を歴任。横浜未来機構では、「人材育成」「人材交流」「事業化支援」の3軸で横浜市にイノベーションのエコシステムを形成する活動を行っている。
佐藤 千文 / Chifumi Sato
日立ソリューションズ
ITプラットフォーム事業部 プラットフォームソリューション本部 主任技師
事業戦略立案やプロモーション企画ほか、お客様のDXを加速するための組織づくりに従事。ダイバーシティ実践が新たな発想を引き出す大きな源泉と捉え、多様な価値観を活かす組織づくりに力を入れている。現在は、人財の多様性やエンゲージメントなど、一人ひとりが持つ大きな価値と、企業の財務価値の関係性のモデル化などをテーマに、社会課題解決に向けて活動中。
新川 晃司 / Koji Arakawa
日立ソリューションズ
ITプラットフォーム事業部 プラットフォームソリューション本部
ITエンジニアリング部 技師
入社後、約10年間、アプリケーションサーバ等のミドルウェア製品の開発に従事。
現在、自動車業界向けのソリューションを担当しており、自動運転をはじめとする運転支援システムのクラウド基盤の開発を推進中。
西 泰彦 / Yasuhiko Nishi
日立ソリューションズ
事業戦略本部 DX協創戦略部
主任
日立ソリューションズDXラボ運営メンバー。WebサービスのGUI開発、協創事業の企画に従事し、2019年より現職。DXラボの運営を通じて、「オンライン/リアルを横断したハイブリッドなDX推進のあり方」や「オープンコミュニティでの課題解決方法」をテーマに活動中。
佐藤:大橋さんとは、イノベーションを起こしたいという想いのあるビジネスパーソンの集まりで出会いました。それから何度かお話させていただく中で、異業種交流や社会人としての学びの場が東京に集中しており、横浜に住んでいる人たちがそのような機会に恵まれていないことに対して、お互いに共感しました。「横浜に住み続け、横浜で仕事をし続けられて、成長できる街へ」という共通の想いでつながり、交流が始まったのがきっかけです。
大橋:近年、横浜市では若い世代の人口が減少し、いわゆる少子高齢化の傾向が続いています。この流れの中で、未来に向けていかに発展させていくかという課題を抱えています。また一方で、みなとみらい地区など、新しい街を舞台にしてイノベーションを起こすことで、横浜市を活気ある、ワクワクできる街に変えていきたいと考えていました。
イノベーションを起こすためには仲間が必要です。どのように集めていこうかと考えていたときに、佐藤さんのことを思い出し、「ぜひ、横浜未来機構の仲間になってください。」と声をかけました。
西:私は関西出身ですが、社会人になってから横浜に住み始めました。横浜には、歴史を含め財産や観光スポットがあり、全国から多くの観光客が集まるなど、「多様な人々が行きかう、活気ある街」というイメージを持っていました。実際に住んでみて、そのような一面もあったのですが、「のどかで住みやすい街、人々が暮らしやすい街である」という面にも気付きました。どちらの面も活かすことで、多様な人たちの交流を促し、より魅力ある街にできるのではないか、と感じていました。横浜未来機構さまから「イノベーションを起こしたい」とお声掛けをいただいたとき、日立ソリューションズのデジタル技術でぜひ貢献したいと考えました。
福井:イノベーションを通じて横浜市を活気ある街にするためには、「多様な人たちの交流」が最も重要であると考えていました。東京の渋谷などで行われた、産学公民連携のオープンイノベーションに参加してみたところ、公務員や会社員、学生や個人事業主など、さまざまな属性の人たちが集まり、コミュニティが形成されていました。横浜にも、そのような集まりの場を作りたいと思いました。
また、イノベーションを起こすためには、多くのアイデアが生み出されることが必要です。そのために、企業だけではなく、「人」(個人)も参加して交流し、「ボトムアップで多くのアイデアが、どんどん沸いてくる」場を作りたいと考えました。さらに、アイデアを生み出して形にしていくための手段としてデジタル技術の活用を考え、事業のアイデア創出などをサポートするサービスで実績ある日立ソリューションズに、当機構のコミュニティでも活用できないかと相談しました。
新川:日立ソリューションズでは、仮想空間を使い、お客さまのアイデア創出から、ビジネスモデル構築までをサポートするサービス「DXラボ」を提供しています。
横浜未来機構さまが運営するコミュニティの会員の皆さんはとても活動的でいろんなワークショップに参加している方ばかりなので、私たちにとっても非常に良い機会をいただいたと思いました。
また、福井様が言われるように、多くの人たちのマインドや活動を、私たちのDXラボをはじめ、デジタル技術でつなげていけることは、とてもワクワクしました。私自身、横浜市の出身なのですが、自分では気付いていない地域のさまざまな課題も多くあるでしょうし、横浜市を活気ある良い街にしていきたいという想いがありましたので、横浜未来機構さまの活動に共感しました。
大橋:イノベーションの源泉は、「人」です。自分で新しいことをやってみたい人に向けてもっと敷居を下げたい。コミュニティについても、朝の勉強会など、ふらっと入れて、小さな気づきや発見に繋がるような場所を作っていきたいと思っていました。「街のイノベーター」はたくさんいると思っています。たとえば、医療や福祉、物流、教育などの専門の人たちが集まると、企業だけではなかなか見えてこない、地域の課題などが浮かび上がってくることがあります。
日立ソリューションズが持つデジタル技術を活かしながら、さまざまな「街のイノベーター」と企業が協創して、横浜ならではのイノベーションが生まれてくる。そのような姿を思い描いていました。
西:日立ソリューションズでは近年、お客さまのサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)に向けた取り組みを行っていますが、社会課題には多くの要素が作用し、複雑に絡み合っているため、整理する難しさを痛感していました。
たとえば、当社には500人規模の社内コミュニティがあり、社会課題を整理して言語化するために、コミュニティメンバーに定期的にヒアリングなどを実施しています。しかし、メンバーが「ITを強みとしている会社員」であるため、どうしても意見に偏りが出てしまいます。もっと多面的に課題を捉えて解決策につなげたいのですが、どのようにして行えば良いかを模索しながら悩んでいました。
ちょうどその頃に、横浜未来機構さまからお声掛けいただきました。産官学民を横断して、社会人の方や、個人事業主、学生の方など、多様な人たちが集まっているコミュニティそのものが、社会課題解決のための強みになります。さまざまな属性の人たちの意見を聞きながら、課題の解決策を導き出していく活動において、当社のデジタル技術で貢献できることは非常に嬉しく思います。
福井:2022年、横浜市との共同事業で、イノベーティブな事業化の支援の一環として、ワークショップを開催しました。横浜未来機構がめざしたのは、アイデアのある人を増やすことです。会員企業を中心に、アイデア創出のノウハウやメソッドを持った方々がファシリテーションしてくださいました。そのひとつが、日立ソリューションズのDXラボを活用したアイデア出しでした。特徴あるバリエーションで7つのワークショップを開催したのですが、延べ70人の方に参加いただき、現在でも、参加者たちは独自に活動しているようです。
西: DXラボを活用したワークショップでは、約1ヶ月の期間を通じて、オンラインでのアイデア発想を実施しました。最初と最後の2回のみ、オンラインで対話する場を設けました。それ以外の期間は、参加者がオンラインツール上で自主的に活動するスタイルをとり、期間中、DXラボの運営メンバーから「現在出ているアイデア」や「アイデアを出すヒント」といった案内を流して、参加者のモチベーションを維持するよう工夫した結果、111個のアイデアが生まれました。
アイデア発想のプロセスでは、ヒントとなるキーワードを大量に用意し、その組み合わせから発想を膨らませていく手法を取りました。今回のワークショップで特徴的だったことは、ひとつのテーマの解決策を考えるにあたり、会社員以外にも学生や個人事業主など、多様な人たちが集まったという点です。その中で生まれた多様なアイデアに触れることで、私たち自身の知見も広がりましたし、横浜市の課題解決に向けたヒントも多く得られたと感じています。
福井:アイデア発想においては、「アイデアの発散過程でいかにリミッターを外すか」、また「それを収束過程でいかに自分ごとにするか」の二つがキーだと考えています。リミッターを外すのは、理不尽な設定の方がよく、リアル開催の場合はそれが長時間の缶詰だったりするのですが、今回はDXラボなどのデジタル技術を使うことで、キーワードがシャッフルされて、それについて考えざるを得なくなるという状況を設けました。これにより、参加者のリミッターが外れて、より多くのアイデアが生まれたと思います。
デジタル技術活用の良い点として、参加者にとって、一定期間触れてみることで余裕が出るというか、発想する側もアイデアを思いついた瞬間に入力すればいいという安心感がすごくありましたね。時間にも、場所にも縛られないすばらしい体験となりました。
新川:横浜未来機構さまの活動を通じて、横浜市の魅力を、どんどんアピールしていきたいですね。ワークショップのアイデア発想であぶり出された課題や魅力など、長年住んできた街にも気付かなかった「知らない横浜」があることが分かりました。このような点にも着目しながら、デジタル技術を活用して、横浜の魅力を発信し、活気に溢れた街づくりへ貢献していきたいです。
西:ワークショップなどで参加者からの話を聞けば聞くほど、横浜市はさまざまな面を持つ、魅力ある街だという印象が強まります。ベイエリアもあれば、果樹園も広がっている。今後はそんな横浜の多様なスタイルや人々をうまくつなげていきたいです。DXラボは現在、オンラインでの活動を強みとしていますが、今後はリアルな活動にも対応した、ハイブリッドな協創の空間にもしていきたいと考えています。横浜未来機構さまでは、リアルな場での活動も多いですから、オンラインのみならず、リアルの場も横断してご支援できれば、より視野が広がるのではと感じています。こういった活動を通じて多様な人々がつながり、横浜にとっても、私たちにとっても、よりよい解決策を見つけるための土壌づくりに挑戦していきたいですね。
福井:会社の環境の中だけで、新規事業を新しく考えるアプローチには限界があるのかもしれません。私自身は、アイデアが降ってくるのは、土曜日の午前中が多いですね。仕事から離れて世の中を見ると、良いアイデアが浮かんでくる気がします。これにデジタル技術を使うことで、オンとオフの両方の場面で浮かんできたアイデアを融合させる仕掛けができるといいですね。横浜市にはいろいろなジャンル、分野、バックボーンを持つクリエイティブな人たちが多くいると思います。そういう人たちがコミュニティに参加することで、横浜市を活気に溢れ魅力ある、持続可能な街にしていきたいと願っています。
日立ソリューションズ DXラボ
https://future.hitachi-solutions.co.jp/digital/collaboration/