
2026.09.03
株式会社日立ソリューションズ(以下、日立ソリューションズ)が運営するコミュニティ「ハロみん」は、2026年7月8日に『GLOBAL TREND NOW vol.11 最先端テクノロジーが切り拓く「サステナビリティ×ビジネス」の未来~』を開催しました。
本イベントでは、世界中のイノベーションが集結する、欧州最大級のテックカンファレンス「Viva Technology」(以下、VivaTech)の2026年の最新動向をレポート。登壇者は、2017年より通算5回のVivaTech参加実績を持つ日立ソリューションズの市川博一です。
AI、ロボティクス、量子コンピューティング、ディフェンステックなど最先端技術が一堂に会するVivaTech 2026には、世界各国のスタートアップに加え、大企業や政府関係者も多数参加。テクノロジーを国家戦略として位置付ける欧州ならではの色彩も強く感じられました。
本稿では市川による現地レポートをもとに、VivaTech 2026で見えた変化と、日本企業が今後考えるべきポイントを紹介します。講演後に会場で行われたラウンドテーブルにおいても、欧州の事例をモデルに、日本企業がAI導入の段階からAI活用の段階へどう移行していくかについて活発な議論がなされました。
<登壇者>

市川 博一
株式会社日立ソリューションズ
事業戦略本部 本部長
入社後、製造業向けSI、大手商社・サービス企業向け企画業務を担当。2010年からアメリカ・シリコンバレーへ赴任し、新規商材発掘業務を担当。2017年に帰国し、アメリカでの活動支援や、スタートアップ創出制度の設計・運用を担当。現在でも年に10回ほど渡米し、現地でのトレンドをウォッチしている。
ここ数年のAIブームでは「生成AIをどう活用するか」が中心的なテーマでした。しかしVivaTech 2026において、その議論はすでに一段階進んでいます。もはやAIの導入自体は前提条件であり、「AIを前提に企業や社会をどう設計するか」が主要テーマとなったといいます。
AIエージェントによる自律的な業務遂行、社会インフラへのAI実装、国家レベルでのAI戦略など、展示や講演の多くが「AIネイティブ社会」を前提として構成されていました。
欧州では、AIは個別業務を効率化するツールという位置付けを超え、社会そのものを支える基盤へと変化していることが強く印象に残ったと市川は語ります。
米国で開催される同様のイベントでは、生産性向上やコスト削減といったテーマが目立つ一方、VivaTechでは「AIを経営そのものへ組み込む」という視点が際立ったと市川は指摘します。
サプライチェーン、品質管理、データセンター運用、設備保守など、企業活動全体をAIが支えることを前提とした展示が数多く見られました。
AIは一部門だけが利用するものではなく、企業全体の意思決定や競争力を左右する経営基盤へと変わりつつあることが、会場全体から伝わってきたと市川は述べました。
さらに印象的だったのは、地理的な要因も含めた欧州独自の価値観です。環境問題やESGへの関心は引き続き高いものの、今年はそこに安全保障やデータ主権、国家戦略といったテーマが加わっているといいます。
ウクライナ情勢やエネルギー問題などを背景に、「自国で技術を持つこと」「自国でデータを管理すること」が重要なテーマとなっており、テクノロジーと国家政策が密接に結び付いている様子が随所で見られたと市川は振り返りました。

今年最も存在感を示した技術の一つであるAIエージェント。単に質問へ回答する生成AIではなく、自ら判断し、ワークフローを実行する自律型AIへの関心が急速に高まっているといいます。
例えば「金額が30%ディスカウントされたら、自動承認して次のワークフローへ回す」といったような業務の判断・実行をAIが担う世界が現実になりつつあると市川は指摘します。
VivaTech 2026でも、最終判断は人間が行うものの、日常業務の多くはAIへ委ねられることを前提とした展示が目立ったといいます。
フランスの通信大手Orangeでは、自社が出資するスタートアップを集め、自律運用技術を数多く紹介していました。
ネットワーク障害の検知から復旧までをAIが自動実施するデモでは、人が介在しないインフラ運用が現実的なものとなっていることが示されたと市川は語ります。
重要なのはAIそのものではなく、AIを組み込んだ"運用能力"が競争力になるという考え方です。AIモデルの性能競争よりも、それをどう経営へ組み込むかが企業価値を左右するという姿勢が印象的だったと述べました。
AIの普及に伴い、データセンターの電力消費も急増しています。
欧州ではエネルギー安全保障も重要課題となっており、自国データセンターを効率的に運営するためにもAIエージェントが活用されていました。
AIによってインフラそのものを最適化するという発想は、今後さらに広がっていくと市川は予測しています。
ラグジュアリーブランドを展開するLVMHのブースも象徴的でした。
バッグにLEDセンサーを組み込み、ロゴカラーを変化させるデモンストレーションや、シャンパン用ブドウの品質判定など、職人の知見をAIへ学習させる取り組みが紹介されました。
特徴的だったのは、「Powered by Many Startups」という考え方です。スタートアップ技術を積極的に取り込み、それ自体をブランド価値として自社競争力へ転換するエコシステムづくりが、こうした欧州企業の新たな強みとなっていると市川は分析しています。
ロボティクス分野では、欧州企業の現実的な戦略が明らかになったといいます。
人型ロボットなどのハードウェアは中国製を採用し、自社はAIやソフトウェアに集中するという分業を欧州における大半の企業が選択したようだと市川は語りました。
ハード開発競争ではなく、価値を生むソフトウェアへ投資を集中するという姿勢が明確に感じられたといいます。
特に存在感を放っていたのが中国のヒューマノイド・四足歩行ロボットメーカー、Unitree Roboticsです。
欧州で導入されるロボットの大半が中国製となっていますが、Unitree Roboticsはソフトウェアをオープン化することでさらに世界中の開発者を取り込むことに成功していると述べました。
欧州企業は「Unitree Robotics Built-in」として、そのプラットフォーム上に独自AIやアプリケーションを実装することで競争力を生み出そうとしているといいます。
もちろん、ドイツ企業など一部ではハードとソフトウェアの一体開発も続いています。
しかし全体を見ると「中国のハードを活用し、ソフトウェアで価値を生む」という考え方が主流となっており、競争軸が製造からAI・サービスへ移行しているようだと市川は振り返りました。

今年大きく存在感を増したのがディフェンステックです。
なかでもキーワードとなったのは「デュアルユース」。平時には産業用途、有事には防衛用途へ切り替えられる技術が数多く展示されていたといいます。
ドローンやサイバーセキュリティ、衛星など、社会インフラと防衛技術の境界が急速に薄れてきているのが特徴的だったと市川は振り返りました。
展示されていたあるドローンは、送電線点検やインフラ保守などで通常利用しながら、有事にはソフトウェアを切り替えることで防衛用途へ転用できる設計となっていました。
技術そのものを用途別に分けるのではなく、一つの基盤で両立させるという考え方が広がっているといいます。
これまで支援対象としての立ち位置にあったウクライナが、今年は「イノベーションリーダー」として紹介されていたことも印象的だったと市川は語りました。
多数のドローンを同時制御する高度なソフトウェア技術などが高く評価され、防衛技術が民間技術を牽引する存在となっていると指摘しました。
安全保障がイノベーションを加速する現実を象徴する展示だったと言います。
欧州において、安全保障は政府だけの課題にとどまりません。サイバーセキュリティや通信、AI基盤など、企業活動そのものが国家戦略と密接に結び付いていると市川は分析します。
テクノロジー企業も安全保障を前提とした事業戦略を求められる時代になりつつあると市川は語りました。
他にも、通常はBI分析に利用するソフトウェアを、精緻な分析ができるプラットフォームとして有事に切り替えて使用するといった事例も紹介されていたといいます。
VivaTechならではのテーマとして特徴的なのが「アフリカテック」です。
開催地がフランスということもあり、毎年アフリカのスタートアップやテクノロジーが大きく取り上げられていると市川は述べました。
世界のテックイベントでも、ここまで大きくアフリカを扱うケースは珍しいと指摘しました。
欧州でアフリカが注目される背景として、2050年には世界人口の4人に1人がアフリカに居住すると予測されることがあるといいます。
人口構成も世界で最も若く、平均年齢は約20歳です。
さらに、既存の社会インフラを経由せず、新しい技術を一気に社会へ普及させる「Leapfrog Innovation」の実現可能性も期待されていると述べました。
従来は、先進国が技術を提供してアフリカの社会課題を解決するという構図が中心でした。しかし現在は状況が変わりつつあるといいます。
ベンチャーキャピタルなどから現地スタートアップへ資金が流れ、アフリカ企業自身が世界市場への進出をめざす動きが活発になっていると語りました。
会場では、砂漠の緑化技術やゲノム解析など、高度なディープテックを活用したスタートアップも紹介されていたといいます。
アフリカは社会課題を抱える地域であると同時に、新たなイノベーションの発信地として存在感を高めつつあると、市川は語りました。

AIと並んで存在感を示していたのが、トークンやステーブルコインです。
暗号資産というイメージを持たれがちですが、VivaTechでは投資対象ではなく、新しい金融インフラとして活用する視点が数多く語られていたと市川は振り返りました。
例えば、複雑な国際送金やサプライチェーン上の決済をトークン化し、AIエージェントと組み合わせることで、自律的に取引や決済を実行する仕組みが検討されているといいます。
さらに、トークンは通貨だけではなく、債権や不動産、知的財産などさまざまな資産をデジタル化する基盤としても期待されていると述べました。
AIが判断し、トークンが価値を移転する──そうした新しい経済基盤が、欧州では現実的なテーマとして議論され始めていたといいます。
VivaTech 2026全体を通じて最も頻繁に聞かれた言葉の一つが「ソブリンAI」です。
データを誰が管理するのか、自国でどこまでAI基盤を保有するのかといった視点が、欧州では重要なテーマとなっていると市川は指摘しました。
その中心的存在がフランス発のMistral AIです。
日本での知名度は高くありませんが、欧州ではOpenAIやアンソロピックに並ぶLLMの一つに数えられます。
米国企業に依存しないLLMとして注目を集め、データセンター、クラウド、AI基盤まで欧州企業によるエコシステム構築が進められているといいます。
欧州は米国技術を否定しているわけではないと市川は述べています。
しかし、有事にも対応できるよう自国で技術を保有し、データを管理できる体制を構築しようとしているといいます。
AIは国家競争力そのものとして、技術のみならず主権の問題として捉えられていることが明らかになったと語りました。
VivaTechでは毎年、ESGやサステナビリティ関連の展示が大きな割合を占めています。
今年も重要テーマであることに変わりはありませんでしたが、その内容には明らかな変化が見られたといいます。
独立したテーマとしてではなく、AIや安全保障の文脈の中で語られる経営テーマへと進化したと市川は分析しています。
これまではScope3やCO2排出量の可視化、情報開示への対応など、「見える化」を目的とした展示が中心でした。
しかし今年はその先の段階として、サプライチェーン全体をどう最適化し、経営判断へどう生かすかという視点へ移っていると、市川は分析します。
環境データをもとに経営シミュレーションを行うソリューションなども紹介されており、サステナビリティは単なるコンプライアンス対応ではなく、経営そのものに組み込まれるテーマへと進化していることが印象的だったと語りました。
また、かつては収益化が難しいと言われていたサステナビリティ関連スタートアップ。
VivaTechでも数年前までは何度も議論に挙がった課題ですが、AIエージェントとの組み合わせによって事業として成立し始めていることが伺える展示も多くあったといいます。

VivaTechは、製品を展示するだけのイベントではありません。
脳波でロボットを操作するブレイン・マシン・インターフェースや、新しい物流・モビリティのコンセプトなど、将来の社会実装を見据えた展示も数多く紹介されていたと市川は述べました。
欧州がどのような未来社会を目指しているのかを示し、そのビジョンを世界へ発信する場としてVivaTechを位置付けている点も、このイベントならではの特徴と言えると市川は指摘しました。
国内の展示会では見られないVivaTechの大きな特徴として、展示会場と併設する大規模なミーティングスペースの存在が挙げられます。
そこでは、CEOや経営層が商談やPoC、投資交渉を行うなど、直接的な議論や契約の場としてVivaTechは利用されているといいます。
展示会は製品を紹介する場というより、新たなビジネスを生み出す場として設計されていると述べました。
市川は、出展料が高額に設定されていることも、漠然とした来場数ではなく、投資家やパートナーの発掘といったより具体的なKPI設定の要因となっているのではと語りました。
VivaTech最終日には「パブリックデー」が設けられ、フランス国内の小・中学生が会場に招待されます。
例えばAIを活用した香水づくりや健康診断などのデモがあり、これはAIが得意とする「パーソナライズされたリコメンデーション」をわかりやすく体験できる機会となっていたといいます。
未来のテクノロジーを社会全体で体験し、人材育成へつなげる取り組みもVivaTechならではの特徴と言えると市川は語りました。
セッションの最後には、市川は「AIを導入するかどうか」の議論はすでに終わりつつあると語りました。
これから重要になるのは、AIエージェントを一人の社員として位置付け、組織や業務を前提から設計し直すこととなり、欧州では、管理職の部下が人間だけではなくAIエージェントになることを前提としたサービス設計や組織設計が語られていたといいます。
VivaTech 2026が示した最大のメッセージは、「AIを使う時代は終わり、AIを経営へ組み込む時代が始まった」ということ。
カンファレンス全体を通じて示されたのは、「AI前提社会」への移行は一時的なトレンドではなく、不可逆的な変化であるということです。ソブリンAIや国家戦略も含め、企業・産業・社会をAI前提で再設計する時代が本格的に始まっていることを、欧州は強く発信していたと市川は振り返りました。
また欧州では、企業だけではなく政府や自治体、大学、スタートアップが一体となり、国家戦略としてAIやディープテックを推進していた点も印象的だったと市川は振り返ります。
日本企業にとっても重要なのは、AIツールの導入競争ではありません。
AIを前提とした経営モデルをどう設計するのか、社会インフラや公共領域へどう実装していくのか、さらには国家戦略や産業政策とどのように連携していくのかが、今後の競争力を左右するテーマになると、市川は総括しました。
VivaTech 2026は、欧州が描く「AI前提社会」の未来像を示すイベントだったと市川は語りました。そして、その潮流は決して欧州だけの話ではないと指摘しました。
AIを企業の中で「使う」段階から、経営や社会そのものへ「組み込む」段階へ――。日本企業にとっても、AI前提社会への転換を考える重要な示唆を与えるイベントとなったといいます。
セッション終了後には、「米中依存が高まる中、日本企業はどの領域を自前で持ち、どの領域を外部連携(オープンイノベーション)すべきか?」というテーマでラウンドテーブルが開催されました。
VivaTechで示されたハードとソフトの分業戦略やソブリンAIの潮流をモデルに、参加者同士が自社の事業戦略やAI活用のフェーズ移行について熱心に議論を深めました。
その後のネットワーキングでも、業界や立場の垣根を越えた参加者同士が、ラウンドテーブルでの議論を起点に具体的な課題感や協創の可能性について語り合う姿が見られました。
本レポートが、VivaTech 2026を通じて浮かび上がった「AI前提社会」への転換と欧州の戦略的論点を整理し、皆さまが「AI前提」で自社の成長戦略や事業設計を考える際の一助となれば幸いです。

日立ソリューションズでは、協創で未来をつくっていくオープンなコミュニティ「ハロみん」を、2024年4月より運営しています。「ワクワクする未来へ 一歩踏み出す、協創の出発点」を掲げ、「繋がる」「探索する」「深める」「創る」をコンセプトにイベントや参加者同士の交流などの活動を行っています。モビリティ・セキュリティ・まちづくりDX・先進技術などの幅広いテーマを取り上げております。その一環で、今回のようなイベントもオウンドメディア「未来へのアクション」でご紹介していますので、皆さんのご参加もお待ちしています。今後のイベント予定はこちらをご参照ください。
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