2020.12.23
2020年2月。日立ソリューションズはデータサイエンス分野の人財育成および産学連携促進を目的として、早稲田大学との学術交流協定を締結した。デジタルトランスフォーメーション(DX)が広く社会でも求められるようになった今、DXを推進するための人財育成は急務となっている。
今回は、早稲田大学データ科学センターの小林教授と須子准教授、データ科学センターの講座「情報セキュリティの現場論」で昨年から講師を務める日立ソリューションズの米光氏と扇氏で、DXを担う次世代の人財について語り合った。
小林 学 / Kobayashi Manabu
早稲田大学データ科学センター 教授
電子商取引(eコマース)におけるユーザーや商品の属性を集合として捉え、統計情報や数理モデルを適用しながらユーザーの購買行動を分析して適用する研究などに従事。
須子 統太 / Suko Tota
早稲田大学社会科学総合学術院准教授・データ科学センター教務主任
機械学習やAIなどのデータサイエンス手法の理論研究を専門とし、実際のビジネスデータに対するデータサイエンスの応用研究にも従事。
米光 一也 / Yonemitsu Kazuya
セキュリティソリューション本部
セキュリティプロフェッショナルセンタ チーフセキュリティアナリスト
日立グループをサイバー攻撃から守る「ホワイトハッカーチーム」のマネージャー兼プレイヤーとして、インシデント対応業務からセキュリティ関連事業の技術的支援、社外のセキュリティ啓蒙活動など幅広く活動。
扇 健一 / Ogi Kenichi
セキュリティソリューション本部
セキュリティマーケティング推進部 部長(セキュリティエバンジェリスト)
セキュリティ全般の拡販業務・ソリューション提案・コンサルティングなどを担当。ゼロトラストやクラウド、テレワーク、IoTといった今の世の中に必要な分野におけるセキュリティの考え方を発信していく役割も担う。
ー近年、DXに関してIT業界や学術領域においてどのような変化が見られますか。
扇:ビッグデータの分析・オンラインへの移行・デジタル化による働き方改革など、ITを活用したDXはあらゆる業種、業界で進んでいます。新常態(ニューノーマル)において、DXは加速していくと思いますし、DXに寄与する人財はますます必要となってくるでしょう。
米光:世の中に新しいイノベーティブなサービスやプロダクトが生まれても、セキュリティの問題が見つかって、リリース直後にサービスが終了してしまうケースもあります。つまり、セキュリティはあらゆるDXの土台のひとつなんですよね。
小林:学術領域においても、DXとしてデータサイエンスが活用されるようになってきました。コンピュータやICTの発展でデータが取得しやすくなったことに加え、統計学や機械学習などの分析手法も進んでおり、多くの分野に広がっているように感じます。
須子:従来はあまりデータと縁のなかった人文学の分野でもそうですね。あらゆる領域でデータを元に論証し、理論としての整合性を主張していく傾向にあるので、私たちの分野でもデータ解析技術のニーズが高まっているといえるでしょう。
DXを推進していくために必要なことは何だと考えられますか。
須子:技術や知識の習得は大前提として、目的意識を明確化することかなと思っています。何のためにデジタル化を行うのか。デジタル化したデータをどのような目的で利用するのか。さらに、そのためにはどのようにデータを活用すれば良いかなどを学ぶ必要があります。
小林:個人のレベルは須子さんが言われた通りで、組織としてのシステムも関連しているのではないでしょうか。いわゆるウォーターフォール型からアジャイル型へと開発スタイルが変わっていき、より柔軟かつスピーディに検証していく方法論が主流となってきていますよね。DXも同じように、組織も評価と反映をすばやく繰り返していけるようなシステムや体質に変化していく必要があると感じています。
米光:たしかにそうだと思います。また、DXに関する技術や知識の習得は必須で、それと同等に「社会実装」という面も重要かなと。たとえば、自動運転の技術を開発しても、それを公道で走れるようにするためには法律をはじめ関係各所の調整など必要になりますよね。技術を人や社会に適用していくためのアプローチも欠かせません。
扇:そういった意味でも、個人が目的意識を明確に持ち、組織として柔軟に対応できるような体制づくりが必要になってくると思います。技術だけではなく、関わる人々がDXの実現のため、前向きにチャレンジするマインドも大切ですね。
早稲田大学データ科学センターとは、どのような組織でしょうか。
須子:データ科学センターは、新たな知の創造とグローバルな社会問題の解決を担う人財の育成をめざすとともに、大学全体の研究力の向上を目的として設立されました。全学的なデータ科学教育プログラムの提供をはじめ、あらゆる専門分野の研究・教育をデータ科学で「底上げ」する活動をしています。
小林:本センターでは、学生一人ひとりの専門領域にデータサイエンスを結びつけることができる人財の育成をめざしていて、データサイエンスの「目的」を明確にし、そのための「プロセス」を「論理的に」明示することの重要性を伝えることも大切にしていますね。
須子:そういった意味で我々は、あえて答えを簡単に教えることはしていません。DXにおいては、正解のない問いに対して試行錯誤を繰り返していく必要があるので、自ら学び続ける力も身に付けてもらえたらなと。
小林:その姿勢はビジネスにおいても通用するものだと思っています。ビジネスにおける「目的」をチームや部署で共有し、その中で自身が「何をすべきか」を考えて、「実行できる」、そんな人財を育てていきたいですね。
ー日立ソリューションズのスペシャリストとは、どのような人財でしょうか。
米光:当社が定義するスペシャリストの一つであるホワイトハッカーは「攻撃者に対抗できる技術力を持ち、それを企業を守る活動に具体化できる人」です。特にDX推進に必要な人財は、セキュリティに関する基礎的な知見のほか、DXを実装しようとする業務分野の知識も必要となってきます。そういった意味で、2つの分野にまたがる技術や知識を持つということも、スペシャリストの要素といえるかもしれませんね。
扇:そうですね。別の視点で言うと「セキュリティの知識を社会やビジネスにどう活用できるのか、どのような効果をもたらすのかを、業界を越えて推進していける人財」だと思います。DXを起こしたい専門分野のこともそうですし、社会インフラや産業、事業の仕組みまでカバーしていることが望ましいですね。そうでなければ、事業主と同じ目線に立つことはできない。最終的な使い道を想像して、ソリューションを提案し、実際に構築していく。そういった全体のイメージを持てる人がスペシャリストじゃないかなと思います。
ーDXの推進において活躍する人財とは
米光:DXは言ってみれば「誰もがやった方が良いと思っているけれどできていない状態にあり、そのボトルネックを取り除くための挑戦」とも考えられるわけです。決して簡単ではないし、場合によっては苦労する役回りかもしれない。しかし、その中でも自分なりに目的意識ややりがいを見つけて、楽しめる人は活躍できると思います。
須子:そうですね。純粋なモチベーションは強い推進力となるでしょう。自分が「社会における、どのような問題を解決したいのか」という問題意識を持てば、おのずと社会に対する本質的な価値を提供できるようになるのではないでしょうか。
扇:さまざまなことに問題意識を持つような人が増えてくれば、社会全体として物事を良い方向に変えていこうとする機運が高まっていきますよね。早稲田大学さんがデータ科学センターを通じてDXに貢献する人財を輩出されるとともに、私たちも現場でそのような人財を育成していく使命を抱いています。
ー未来のビジョンについて教えてください。
扇:DXもそうですが、そのためにセキュリティが「当たり前」になってほしいということですね。サービスや事業を考えるにあたって、セキュリティが一つの柱となれば、DXの推進にも良い影響を与えると考えています。
米光:私は抽象的かもしれませんが、若い人たちが未来に希望を持てる社会というか、DXを通じて社会に影響を与えられて、日本の将来にワクワクしてもらえるような、そういった人を早稲田大学さんとも連携して増やしていきたいと思っています。
須子:私たちとしても、学内でのデータサイエンスに関する授業や認定制度を導入するなど実践的な取り組みを進めているので、日立ソリューションズとのつながりも活かしながら、DXの実現に貢献できる人財を社会に送り出していければと思っています。
小林:我々が取り組んでいるデータサイエンス含め、その目的は人の安心・安全であったり、意思決定のサポートだったり、社会に役立てるための手法なんですね。そこには一人ひとりにとって快適な社会であり、経済発展と社会的課題の解決を両立する「Society 5.0」にも多くの共通があります。セキュリティという社会のインフラとして必須のものとも連携していき、DXに関する人財を多く育成していき、その実現に貢献できたらと願っています。