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廃材で楽しむものづくり 社会はきっと良くなる|小島 幸代

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お酒を飲みながら、廃材を使った雑貨作りを楽しめる、アップサイクルバー『リンネバー』を立ち上げたのが、小島幸代さんだ。小島さんは、長く企業の人材育成に関わってきた人事のプロ。「アップサイクルな物作りは、新たな価値観の獲得につながる。ビジネスパーソンこそ体験して欲しい」と話す。どういうことか。

※本記事は2023年10月に掲載されたものです。
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    小島 幸代

    RINNE代表

    美大卒業後、ITベンチャー企業、人材紹介企業を経て2012年に起業。広告制作会社等の採用コンサルティング、人材育成、組織構築を支援。18年に米ポートランドを視察。ものづくりを楽しむ文化、それを支えるアップサイクルの仕組みに感銘を受け、RINNE PROJECTを立ち上げる。20年2月、東京・御徒町に「Rinne.bar」開業。

1人でも、仲間とでも廃材を使ったものづくりを楽しめる店

―「リンネバー」とは、どういうお店なのでしょうか。

お酒を飲みながら、いわゆる廃材を使って小物づくりを楽しめるバーです。飲み物や食べ物のほかに「ものづくりメニュー」を用意していて、お客様は「ビールとコインケースづくり」などと注文します。スタッフがそのマニュアルをお渡しするので、お客様はそれを見て必要な素材を棚から選び、お酒を飲みながらつくっていくという流れです。
友人と連れ立っていらっしゃる方が多いですが、1人で黙々と作業する方もいます。あるいは、居合わせたお客様同士で相談し合ったり、常連さんが教えたりすることも。「その色、すてきですね」「上手ですね」といった会話も自然に生まれ、毎日、優しい空間がつくられています。

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一緒に楽しむドリンクを注文すれば、あとは小物づくりのスタートだ。

―素材はどのように集めていらっしゃるのですか。

多くは個人や企業から寄付していただいた、いわゆる廃材です。福祉作業所で障がい者の方々が漉いた再生紙もあります。

―なぜバーという形式に?

アップサイクル(※)なものづくりを経験してほしいからです。それも、普段はものづくりと無縁な大人に。バーだとお酒のせいにできますよね。「お酒を飲みに行ったらつくらされちゃって」「お酒が入っているから、失敗したんだよね」と。

※本来廃棄予定だったものに新たな価値を与えて、新しい製品としてよみがえらせること。
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―そもそも、大人がアップサイクルなものづくりを経験することは、なぜ大切なのでしょうか。リンネバーを立ち上げた経緯と狙いから教えてください。

もともと私は、クリエーティブに特化した人事の仕事を16年間していました。広告代理店や制作会社の人材育成、採用推進、組織構築の支援などです。そんな仕事をする中で、年々、企業などで企画立案する部門と、実際の製造現場との隔たりが大きくなっていると感じました。企画側の人は方法論を説いたら、あとは外注して終わってしまう。それでは良いものはできません。あらゆる立場の人が会話し、一緒に手を動かしてクリエーティブなことができる環境づくりができないものかと、ずっと考えていました。
それに加えて、当時私は社会課題の解決というもう1つのテーマも持っていました。
起業家の育成に携わる中で、著名なエンジェル投資家(※)から、「社会を良くしようと思ったら、アンラーニング(学習棄却)をしていかなくてはいけない」という言葉を聞きました。新しい価値観や発想を生み出すには、今まで学んだ知識を疑ってみる必要がある、と。確かにそうだと思いました。
そこで、制作を発注する側とされる側の溝を何とかしたいというテーマと、アンラーニングをすることで社会課題を解決するというテーマが交わるような、創造的な環境をつくりたいと思ったのです。
そんな折、クリエーターの友人たちが、相次いでアメリカのポートランドに旅行や移住をしたんです。興味を持ち、何かしらヒントを得られるのではないかと思って、2018年に2週間ほど滞在しました。

※ 創業して間もない企業に出資する投資家のこと。
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廃材を使ったものづくりが新しい視点をもたらす

―ポートランドはどんな印象を受けましたか。

私には衝撃的でした。まず「Do it yourself(DIY)」つまり「自分でつくってみよう」の文化が溢れていました。ドアノブが壊れても修理業者に頼まず、ドアノブを買って来て自分で補修するんです。それに、個人経営の店が多く、どの店の経営者も明るくて愛が溢れていました。自分がつくったものを販売するから、「買ってくれてありがとう」という感謝の気持ちが湧いて人に優しいのでしょう。ものづくりを軸に、街中に心地よい雰囲気が溢れていました。
ものづくりを支える環境も整っていました。新しい材料を売る店もありますが、私が驚いたのは、小学校教師の発案でスタートしたクリエーティブ・リユース・センターです。

―どういうものでしょうか。

子どもたちが使わなくなった文房具類を先生たちが仕分けし、低価格で売っていたのが、大きな施設になりました。半分残った絵具のボトルや使いかけの紙、文具などがびっしり並んでいて、誰もがほしい物を安く買って、クリエーティブな活動ができるわけです。すごくいい。日本にもこんな場所がほしいと思いました。

―誰もがクリエーティブな活動をすることは、なぜ重要なのでしょうか。得意な人に任せてはダメなのでしょうか。

自分でつくらないと、何も考えずにただ消費する一方の存在になってしまうからです。物の価値も背景も気にせず、ただ買うだけの、"解像度"の低い消費者です。
反対に、少しでも手を動かしたら、それをつくる難しさ、背景にある工夫が分かり、"解像度"が上がる。物を見る目が変わってきます。クリエーターへのリスペクトが生じ、会話も弾むようになるでしょう。うまくつくれたら楽しいし、自己効力感が得られ、もっとつくりたくなる。良いものづくり、良い消費ができるようになると思うのです。

―廃材を使うことのメリットとは? 素材を安く手に入れられるということでしょうか。

それもありますが、私が魅力を感じたのは、廃材を使うことがアンラーニングのきっかけになるからです。
今は多くの人が、「使わないものには"ゴミ"というラベルを貼って捨てる」という思考になっています。これを止めて、素材として生かすことは、これまでの価値観や知識を見直すこと、つまりアンラーニングです。

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―廃材でものづくりをすることが、先述の、2つのテーマの接点になるということですね。

そうです。クリエーティブ・リユース・センターで、みんなが持ち寄った廃材に、みんなで新しい付加価値をつければ、楽しくクリエーティビティを発揮できるし、社会も良くなります。「これはいい!」と思って帰国して、いろいろな人に話したのですが......。

―どのような反応でしたか。

それが、「手軽に文具を使えるから、子どもにはいいね」という話に終始し、あまりワクワクしている様子が見られなかったんです。
その時気づいたのが、現代人、特に私たち都市の住人は、大量生産、大量消費、大量廃棄に慣れきっていて、廃品をものづくりに生かそうというマインドにならない、自分事に感じられないということです。
これは早く何とかしないとダメだと思い、立ち上げたのが「RINNE PROJECT」という、リンネバー開業のプロジェクトです。クリエーティブ・リユース・センターの開設は、日本ではまだ難しいので、まずは廃材でものづくりをするアップサイクルバーをやろうと考えたのです。

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まずは手を動かす 世界観が変わる 世界が良くなる

―改めて、リンネバーのコンセプトを教えてください。

アップサイクルなものづくりに取り組むことで、クリエーティブ・コンフィデンス、つまり自分でもものづくりができるんだという感覚を取り戻せる場所です。

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ものづくりメニューに応じて、廃材が詰まったキットを選ぶ。素材はいずれも元は廃材だ。

―20年2月に開業されました。5~6人の方と共同経営の形を取っていらっしゃいますね。

アンラーニングのビジネスは潮流ができていないので、たくさんの人に手伝ってもらわなくてはいけないと思い、仲間と共同創業しました。実際に、商品の開発から倉庫探し、店舗の壁塗り、テーブルづくりといったことも、全部一緒にやったんですよ。

―来店者の様子は?

ここではクオリティや生産性を求められないので、本当に自由につくりたいものをつくっています。手作業をすると無心になれる、スマートフォンから目を離せる、癒される、とリピーターになる方は多いですね。
自分で手を動かし、他の人の作業を見て、褒め合う中で、クリエーティブ・コンフィデンスを取り戻すだけでなく、多様な価値観や表現の仕方に触れることができます。実体験を通したインプットだから、解像度がどんどん上がる。コロナ禍で営業を縮小していたこともあり、成果を具体的に示すことはできませんが、この経験が組織構築や企業内の製造に役立つと、私は確信しています。

―今後の展望は?

将来的には、やはりクリエーティブ・リユース・センターをつくりたいと思っています。「ゴミだから捨てる」という経路依存性から抜け出し、新しい物を生み出せるんだという感覚を多くの人に持ってほしい。それを共に分かち合えたら、社会はもっと良くなると思うんです。
もし、頭が固くなっているなと感じたら、小物でもいいので、アップサイクルをしてみるといいと思います。世界が少し変わって見えて、面白いですよ。

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店頭では、余り布や段ボールでできたオランウータンの"オラちゃん"が出迎えてくれる。

取材後記

店内を彩る廃材やリメイク品を見ていると、小さな布の切れ端も大切なものに見えてきます。「まだ使えるのにもったいない」。そんなシンプルな気持ちを思い起こさせてくれる不思議な空間でした。6人以上で貸し切り可能、12人まで入れるので、研修に使う企業や団体もあるとか。日頃の仕事から少し離れて、ものづくりで手を動かしながら仲間と話をしていると、新しいアイデアが浮かんできそうです。

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