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2024.10.02

【イベントレポート】
ふるさと納税件数が4年で約36倍に、
スポーツを通じたふるさと創生のポテンシャル

青山学院大学 陸上競技部 原監督が挑む、地域活性化と次世代の育成
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青山学院大学 地球社会共生学部 教授/青山学院大学 陸上競技部 監督 原 晋氏

SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)は、持続可能な社会の実現に必要な変革だ。その変革の大きな鍵の一つが協創。2024年8月29日に開催されたオンラインセミナー「SXのもとに集おう~協創とテクノロジーで次世代へ繋ぐサステナブルな社会~」(主催:JBpress/Japan Innovation Review、協力:株式会社日立ソリューションズ)でも、協創に関する話題が様々に展開されたが、特に注目されたのが一般社団法人アスリートキャリアセンターの活動だ。

青山学院大学 地球社会共生学部 教授で、同学 陸上競技部監督の原 晋氏が代表を務めるアスリートキャリアセンターでは、地方自治体などへスポーツを通じたふるさと創生を呼びかけており、すでに熊本県水上村や山口県萩市で成果を上げている。その取り組みには、地方や企業の未来へのヒントが溢れている。

関係人口の増加や経済効果の創出など、地方活性化に貢献するスポーツビジネス

人口減少と東京への一極集中が、地方で若者を激減させている。こうした状況で、地方が各地域の特長を活かし、自律的で持続的な社会を創生することを政府は"地方創生"と位置づけている。「地方創生のためには、仕事が人を呼び、人が仕事を呼ぶという循環をつくり、その循環をまちが支えるという関係が必要です。アスリートキャリアセンターでは、スポーツ振興を通してこの実現に向けて活動しています」と原氏は説明する。

すでに成果が見られている自治体の一つが熊本県水上村だ。水上村は、熊本県南部の奥球磨エリアと呼ばれる地域にある。1955年には7,000人を超えていた人口は、現在約2,000人。2060年には人口は1,000人を切り939人にまで落ち込むという推計もあった。しかし、様々な取り組みが功を奏し、その数字は1,000を超え、1,087人にまで回復している。

水上村では人口減の抑制のため、定住人口だけでなく、関係人口や交流人口の増加も目指している。関係人口とは地域や地域の人々と多様に関わる人口、交流人口とは観光などで現地を訪れる人口のことだ。

これらの人口を増やすため、水上村では、アスリートキャリアセンターやプーマジャパンと包括連携協定を結び、原氏へ地方創生推進アドバイザーへの就任を要請し、駅伝強化合宿の誘致やスポーツイベントの開催も行っている。

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水上村とプーマジャパンが包括連携協定を結ぶなど、官民連携で地方創生に取り組む

駅伝強化合宿誘致に向けては、高地トレーニング施設・水上スカイヴィレッジを整備した。1周300メートルの全天候型トラックと、その外周に2キロのクロスカントリーコースを備えたこの施設では、標高1,000メートルという準高地を活かした練習が可能だ。利用者数はコロナ禍で一時期落ち込んだものの、2023年度には宿泊数が過去最高を更新し、経済効果は4,000万円台に近づいている。

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「豊かな自然、良質の温泉、真夏でも爽やかな気候が揃っています。雷や豪雨もほとんど経験せず、有意義なトレーニングができるはずです。宿泊施設もアスリート向けの食事を提供するため、多くの高校生や大学生、社会人のチームが合宿を行っています」(原氏)

また水上村には、住民の体力向上や地域のコミュニティ形成などにも利用可能な、歩行浴用温水プールなどを備えた水上サクラヴィレッジも整備されている。

スポーツイベントとしては、奥球磨ロードレース、奥球磨駅伝競走大会、MIZUKAMI MOUNTAIN PARTY、球磨川復興トレイルランが行われており、全国から参加者が足を運んでいる。そうした交流人口を受け入れる宿泊施設の中には、原氏の教え子で箱根駅伝の優勝メンバーが支配人として働くところもある。

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「奥球磨駅伝競走大会」の様子

「非常に水上村を気に入っていて『一生住んでもいい』という声もあります。本当に彼が住み続けるのであれば、定住人口の拡大にも寄与することになると期待しています」

水上村のふるさと納税件数が約4年間で約36倍に増加

こうしたスポーツへの投資は、水上村へ直接は足を運ばない層にもファンを拡大し、税収を高める効果もあると原氏は言う。

「2024年シーズン、青山学院大学の駅伝のユニフォームには、水上村のロゴが入ります。それをきっかけに水上村を知りファンになった方が、水上村へふるさと納税をするケースが増えることが期待されます。水上村では、2019年度には個人からのふるさと納税件数が約2,000件でした。それを2024年度には3,000件に増やすという目標を立てていたのですが、実際には、返礼品の拡充で2023年度に7万件を超えています。視聴率が30%にも達する箱根駅伝でロゴが全国に発信されれば、この数はさらに増えると期待しています」

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水上村のふるさと納税件数は2019年から2023年で35.5倍に増えている。

もうひとつ、原氏は山口県萩市での事例を紹介する。山口県北部、秋吉台国定公園などの自然に恵まれた萩市では、中学校の部活動の地域移行に向けて新たに立ち上がった絆スポーツクラブ萩、青山学院大学陸上競技部、アスリートキャリアセンターの連携協定のもと、スポーツ指導者の育成と地域スポーツ活動の推進が行われている。

指導者の育成にあたっては、"青学メソッド"を取り入れた指導者向け研修プログラムを導入。オンラインを含み計3回の研修に述べ58名が参加した。また、2023年12月に開催された「維新の里 萩城下町マラソン2023」と、2024年開催の「第73回萩市駅伝競走大会」に、箱根駅伝出場選手を含む青山学院大学陸上競技部選手が出場し、メディアからも注目された。さらには、連携協定の一員である絆スポーツクラブ萩の立ち上げもサポートしており、これら一連の活動によって萩市は、スポーツ庁による「スポまち!長官表彰2023」を受賞した。

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「一般社団法人絆スポーツクラブ萩」https://www.hagikizuna.com/

原氏は「日本は首都圏だけが輝けばいいというものではありません。日本全体が輝くためにふるさと創生は不可欠であり、そのふるさと創生にとって、スポーツはなくてはならない存在です。いま、地方は人材を募集しています。そこでの様々な形での支援は、多くのビジネスに寄与するものだと信じています。私自身も、ぜひ多くの方々と輝く未来の実現に向けてチャレンジを続けていきたいと考えています」と呼びかける。

地方の衰退という社会課題の解決に向けては様々なアプローチがある。スポーツによる関係人口増加を切り口としたものはそのうちの一つ。ほかにも、それぞれの得意分野を生かしたやり方がある。各地域・各分野がそれぞれの特徴を活かした取り組みを進めることが、自律的で持続可能な社会の実現への一歩になるのではないか。

※本記事はJBpress/Japan Innovation Reviewからの転載です。

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