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2024.10.02

【イベントレポート】
世界全体のSDGsの進捗はわずか約17%、
2030年までの残り約5年でSXを加速するには?

SDGsの専門家 蟹江教授と、経済アナリスト 馬渕氏が語るSXに取り組む企業の現在地と未来
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(写真左)慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 教授同大学SFC研究所xSDG・ラボ代表 蟹江 憲史氏
(写真右)日本金融経済研究所 代表理事 経済アナリスト 公共政策修士
イー・ギャランティ社外取締役(プライム上場) 馬渕 磨理子氏

SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)の重要性については論を待たない。では、日本企業のSXの進捗状況はどの程度なのか、どのようなアクションをとるべきなのか。2024年8月29日に開催されたオンラインセミナー「SXのもとに集おう~協創とテクノロジーで次世代へ繋ぐサステナブルな社会~」(主催:JBpress/Japan Innovation Review、協力:株式会社日立ソリューションズ)でも、このテーマに高い関心が寄せられた。

SDGsへの取り組みはリスク回避ではなくチャンス

国連で『持続可能な開発のための2030アジェンダ』が採択され、SDGsの17の目標が盛り込まれたのは2015年だ。この目標の達成には"2030年までに"という期限が設定されている。それまで残り約5年。慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科教授で同大学SFC研究所xSDG・ラボ代表の蟹江憲史氏は「SDGsに関して今年国連が発行した報告書によると、達成度は17%程度とされています。戦争やコロナ禍もあって、取り組みは非常に遅れているのです」と警鐘を鳴らす。その遅れは、日常生活に色濃く反映されることになるだろう。

「特に気候変動のインパクトは、年々、顕著になっていくはずです。そうした現場を踏まえると、国家や企業の果たすべき役割はより一層大きくなります」(蟹江氏)

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慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 教授 同大学SFC研究所xSDG・ラボ代表 蟹江 憲史 氏

しかし、日本金融経済研究所代表理事で、経済アナリスト・公共政策修士の馬渕磨理子氏は、「まだ、本業はそこにはないと考えているような印象を受けます。また、SDGsへの取り組みは外部からの圧力と受け止めている企業も少なくありません」と、企業ではSDGs達成の主役であるという自覚が欠落しているという傾向を指摘する。

蟹江氏も「企業はSDGsに、リスクにどのように対応するかといった視点ばかりを向けがちですが、この移行はチャンスと捉えるべきで、SDGsはビジネスチャンスのリストとして眺め直してみるべきでしょう」と言う。

また馬渕氏は、SXにおいては、取り組みそのものだけではなく、SXについての対話も重要だと強調する。経済産業省が2022年8月に取りまとめたサステナブルな企業価値創造のための長期経営・長期投資に資する対話研究会(SX研究会)の報告書、いわゆるSX版伊藤レポートでも、1ページ目で「『SX』は企業による努力のみでは達成されない。『SX』の実現のためには、企業、投資家、取引先など、インベストメントチェーンに関わる様々なプレイヤーが、持続可能な社会の構築に対する要請を踏まえ、長期の時間軸における企業経営の在り方について建設的・実質的な対話を行い、それを磨き上げていくことが必要となる」と言及されている。

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日本金融経済研究所 代表理事/経済アナリスト/公共政策修士/イー・ギャランティ社外取締役(プライム上場)馬渕 磨理子 氏

その統合報告書には"未来"が感じられるか

これを踏まえ「ただSXに取り組むだけでなく、消費者や取引先、投資家などステークホルダーに対してしっかりと対話を試みる必要があるのです。ところが、そうした対話そのものを、炎上の可能性のあるリスクだと捉え、実践しない企業もあります。しかし、日常的な対話は実際にはリスクを軽減させます。オープンな対話によってファンをつくることができていれば、不祥事が発生したときにも味方をしてもらえるケースがあるからです。そう考えると、現在の開示の主流であるサステナビリティ報告書や統合報告書も、その企業の目指す未来がよく伝わる、読んでいて楽しいものへと変えていくべきではないでしょうか」と馬渕氏は提言する。

統合報告書については、蟹江氏も学生の視点から注意を促している。

「統合報告書にはSXについて素晴らしいことが書いてあっても、いざそうした企業の入社面接に出かけると、面接官がその理念をまったく理解しておらず、学生の方がよほど理解しているというケースも耳にします」

そうしたギャップを防ぐには、SDGsへの取り組み、SXの実態を社内全体に浸透させることが必要だ。浸透に欠かせないのはまず、経営層の意思決定だと馬渕氏は断言する。

「失われた30年という言い方がよくされます。この30年で失われたものは、経済成長であるとか賃金であるとか、様々な指摘がされていますが、私は、経営者の意思決定が失われた30年であったと考えます。その背景には、成長の鈍化による自信の喪失、外部からのアドバイスの過度な尊重があるのだと思うのですが、もっと自発的に『こうしたい』『これをやってみたい』という思いを明確にするのが経営者の仕事であり、現場には、その達成のための細かな仕事を落としていくことが、最善の成長戦略です」

蟹江氏が代表理事を務める一般社団法人日本サステナブルビジネス機構では2024年6月から、その意思決定にも活用できるサステナブルビジネス認証制度を開始している。認証を受けることで現在の課題が可視化され、次のステップが明確になるのだ。そうしたSXのステップの先に、サステナビリティへの取り組みと事業の両輪化が見えてくる。

「まだまだ、SXは社会性ばかりが前面に押し出されており、利益との共存が難しいという見方もされます。しかし、給料を上げて人に投資しなければ企業は成長せず利益も伸ばせないのと同じ文脈で、SDGsに取り組まなければ企業は成長しない時代にすでになっています」と馬渕氏は言う。

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こうした現状を踏まえ、2030年までの残り約5年でSXを加速するために企業は何をするべきか。馬渕氏は「人を大事にすること」、蟹江氏は「世代を超えて対話をすること」を挙げる。

さらに蟹江氏は、SXの実践は、あらゆるトランスフォーメーションの手本になるという。
「SDGsの目標一つ一つを見てみると、当たり前のことばかりです。ただ、視線を一歩先に向けて、既存のビジネスを組み合わせたり、新しいテクノロジーを活用したりすることで、新たな地平が見えてきます。これは、ビジネスでのトランスフォーメーションでも必要な考え方です」

SXを成し遂げるまでの道のりは容易いものではない。しかし、その経験から得られるものは大きい。

※本記事はJBpress/Japan Innovation Reviewからの転載です。

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