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日本を強くするためにオープンイノベーションを推進させる「場」を提供|中村 亜由子

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企業と企業が出合う「場」を提供し、意図的にイノベーションを生み出すオープンイノベーションのプラットフォーム事業を展開するeiicon代表取締役の中村亜由子氏。ローンチから約8年、数々の新規事業の創出に立ち会ってきた中で気づいたイノベーションのポイントや企業のあり方などを聞いた。

※本記事は2024年9月に掲載されたものです。
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    中村 亜由子

    株式会社eiicon 代表取締役社長

    なかむら・あゆこ
    2008年株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)入社。15年にグループ内新規事業として「eiicon」事業を起案創業。23年4月にMBOし、株式会社eiiconの代表取締役社長に就任。同年12月には株式会社XSproutをSpiralグループと設立し、取締役に就任。年間60本以上のイベントで講演やモデレートを務め、多くのアクセラレータープログラムのメンター・審査員も務める。
    eiiconホームページ https://corp.eiicon.net/

新たな事業を生み出す企業同士の出合いの「場」

─御社の事業のコアであるオープンイノベーションとは何でしょうか。

簡潔に言うと、意図的に社外のプレイヤーと手を携えて、新たな事業を起こす手段のことです。どちらかに対して一方的に受発注するのとは異なり、互いに補完し合って事業を立ち上げるので、1社が単独で行うよりも効率的に、インパクトを大きく、かつリスクを低くできるというメリットがあります。
もともとは2003年にハーバードビジネススクールの教授が提唱した方法論で、日本に入ってきたのは2008年前後といわれています。2010年には内閣府の資料にもオープンイノベーションという言葉が登場するなど国としても推進してきましたが、なかなか普及してこなかったという背景があります。

─eiicon(エイコン)では、オープンイノベーションに関するどんな事業を展開しているのでしょうか。

オープンイノベーションに特化したマッチングサービスを展開する、国内最大級のSaaS(※)型プラットフォーム「AUBA(アウバ)」を運営しています。「AUBA」は、共創(協創)相手を探して、出合い、事業を進めることを目的としています。
基本的には登録無料のサービスで、次々と投げかけられる質問に回答していくと、最終的にその企業の情報が掲載された共創パートナーの募集ページができあがるようになっています。そこから事業化マイルストーンの設定、企業とのマッチング、事業化に向けた進捗管理まで行える仕組みで、NDA(秘密保持契約)の締結、実証実験の計画、業務委託契約、特許の整理など、具体的なアドバイスも送られてきます。

※ Software as a Serviceの略称。インターネット上で使えるインストール不要のソフトウェア、もしくはその提供形態
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─その他にはどのような事業を展開していますか。

オープンイノベーションのための戦略策定、体制構築、共創パートナーの探索、共創候補とのインキュベーション、事業化までをフルカスタマイズで支援するエンタープライズ事業も展開しています。
こちらでは、AUBAで培ったデータやノウハウをもとに、新規事業創出に必要な要素を可視化して分析する「イノベーション・バイタル」という独自のサービスも提供しています。

─どのような経緯で、オープンイノベーションをコアとした事業を起こすことになったのですか。

経営者の知人が事業を拡張するための新たな提携先を探していたのですが、金融機関や知人を経由して紹介してもらうというアナログな手法しかなくて困っていました。知人と同じように共創・協業するパートナーを探している企業はたくさんあるはずなのに、その存在や意思すら知ることができなかったのです。
しかし、これからの日本を強くするためにも、企業同士が出合いオープンイノベーションが推進できる「場」が必要だと考えて、当時所属していたパーソルの社内起業制度に応募しました。そして、2018年にローンチしたのが現在のAUBAであるオープンイノベーションプラットフォームです。

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登録0社の悔しさを経て3万社を超える企業が活用

―オープンイノベーションを取り巻く環境は変化してきていますか。

ローンチした当時とは全く状況が異なり、最近は追い風が吹いていると感じます。
ローンチして間もない頃、あるビジネス展示会に出展したのですが、2日間で登録が0社という悔しい思いをしました。登録は無料ですし、製造業のサプライヤー企業がたくさんある地域でのイベントだったので、自分たちの技術を活かした新規事業を立ち上げる手段として、オープンイノベーションに興味を持ってくれるにちがいないと考えていました。しかし、当時そのような課題意識を持っている企業はいなかったようで、本当にショックを受けたことをよく覚えています。

─その状況がどう変わったのですか。

すでにオープンイノベーションに取り組んでいる企業と連携して実績をつくり、認知を拡大していくことで、ローンチから1年10カ月で単月黒字を達成し、事業として一気に成長することができました。
特に潮目が変わったのは2020年頃でした。コロナ禍で業績が下がる産業が出始めたことが大きかったと思います。直近2年ほどは特に変化が大きく、昨年のGDP低下、カーボンニュートラルの加速、生成AIの登場などにより、一気に危機感があおられたことで、大企業や中堅企業からオープンイノベーションについて話を聞かせてほしいという問い合わせがすごく増えました。
現在は3万2000社を超える企業に活用していただき、2018年のサービスローンチ以来、1700件の新規事業が創出されています。

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―特に印象的な事例を教えてください。

2019年に登録いただいた、宮崎県のカツオ漁業の会社のケースが最も印象的です。その会社では漁に出る際、ベテランの漁労長の長年の勘を頼りに魚群を探していたそうです。しかし、高齢化によって漁労長が船を降りることになり、危機感を抱いたその会社の跡継ぎの方がAUBAに登録されました。
そこから東京・大手町に拠点を持つAIベンチャーとマッチングし、漁労長のノウハウが詰まった航海日誌をAIに読み込ませ、それをもとに魚群の居場所を探す船を開発するプロジェクトが立ち上がりました。さらに、沖合での通信環境整備のため、ネットワーク通信技術を持ったスタートアップとも提携し、複数社の協業によって過去最高益を超える売り上げを達成したそうです。一次産業とAIベンチャーという業種の垣根、また宮崎と東京という地域を超えた共創の好例です。
他にも、三重県の米菓製造の企業がスタートアップと協業で開発したスマート工場のメソッドを地域の中小企業に販売する新規事業が立ち上がったり、また別の事例ではスタートアップが持つ技術と通信大手企業がコラボした技術がNASAでも採用されたりなど、素晴らしい事例がどんどん広がっています。

オープンイノベーションを正しい形で広げたい

―オープンイノベーションに興味がある企業は、どんなことから始めるとよいでしょうか。

自社のイノベーションの状態を言語化することです。オープンイノベーションは他社と出合う手段なので、どんな企業がいるかが気になってしまうと思います。しかし、それよりもまずは自分たちが何のために、何をやるのかを言葉にして、会社としての方針を立てて意思統一することがとても重要になります。それには、ミッション・ビジョン・バリューの策定が必要であり、トップのコミットが絶対に欠かせない要素です。
もう一つ大切なことは、口約束やこれまでの常識で契約を結んではいけないということです。マッチングをしたら、最初に必ずNDAを締結し、その上で実証計画のすり合わせ、業務委託契約書をベースとした実証契約の締結、特許の整備という流れを徹底します。大企業が従来進めてきた契約は基本的に独占契約であり、それではオープンイノベーションにならないので、必ず特許庁のひな型を使うことを推奨しています。

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―今後の目標を教えてください。

まずは、オープンイノベーションという手段があり、中堅企業であれば使えるということを全国に広げたいと思っています。担当者を立てたり、事業の確立までに年単位で時間をかけたりなど、相応のリソースが必要ですが、中堅規模以上であれば絶対にやるべきだと自信を持って言えます。
もう一つの目標は海外展開です。最近シンガポールやインドネシア、フランスなどに行く機会がありましたが、どの国もジャパンクオリティに強い関心を寄せています。海外と日本のコラボは、ジャパンクオリティのプロダクトが世の中を席巻するきっかけになり得ます。そのために、特許や知財などの絶対に必要な部分について整理しているところです。

―この仕事をしていて、良かったと思うのはどんな時ですか。

もともとは私がつくったA4の紙1枚程度のパワーポイント資料から始まった事業でしたが、先ほど紹介した漁業会社とスタートアップの協業のような素晴らしい出合いが、最近頻繁に起きていることに日々新鮮な喜びがあります。
引き合いや相談の増加に伴い当社の売り上げは非常に伸びていて、市場全体としても盛り上がっています。一方で「それはオープンイノベーションと言えるの?」と疑問に思うようなサービスも出てきましたが、私たちがデファクトスタンダードになってしまえば、正しいオープンイノベーションが広がるはずです。そこまで精いっぱいがんばろうと、社内のみんなが張り切っています。

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取材後記

コロナ禍から続く厳しい経済状況の中で、新たな価値を生み出す手段として期待されているのが「オープンイノベーション」です。2015年に共創(協創)のためのプラットフォームを起案した中村亜由子氏は、オープンイノベーションのフロンティアとしてその道を切り拓いてきました。数々の成功事例やオープンイノベーションへの思いを聞き、未来への希望を感じることができました。

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