
人的資本経営に注力する日立ソリューションズにおける重要なテーマの1つがウェルビーイング。その第一人者である武蔵野大学ウェルビーイング学部 学部長の前野隆司教授を招き、「ミニ講義」と若手・中堅社員との座談会が行われた。

前野 隆司
武蔵野大学ウェルビーイング学部 学部長
ウェルビーイングの第一人者として、個人と組織の幸福度向上に関する研究、教育を推進。企業や自治体との連携も積極的に行い、社会実装にも取り組んでいる。

繁田 浩
株式会社日立ソリューションズ
営業統括本部
デジタルマーケティング営業本部
グローバルビジネス推進営業部
部長

平岡 彩
株式会社日立ソリューションズ
人事総務本部 労政部
労政グループ
主任

石坂 瑞樹
株式会社日立ソリューションズ
スマートライフソリューション事業部
スマートワークソリューション本部
HRソリューション部
第1グループ

亀田 裕太
株式会社日立ソリューションズ
産業イノベーション事業部
グローバルアプリケーション本部
第3部
第1グループ

ウェルビーイングとは身体的、精神的、社会的に「良好な状態(Well-being)」であることを意味します。言い換えれば、健康と幸せ、福祉がそろっていること。この言葉が広まったきっかけは、1946年に世界保健機関が公表した健康の定義です。健康は単に病気でない状態ではなく、身体・精神・社会という3つの側面で良好な状態を意味する考え方は、今では広く受け入れられていると思います。
近年、多くの企業がウェルビーイングへの関心を高めています。働き方改革や健康経営、人的資本経営といったキーワードは、すべてウェルビーイングと密接に関係しています。例えば、幸福度の高い社員の生産性は、そうでない社員に比べて約3割高いとの研究結果もあります。多くの社員の幸福度が底上げされれば、企業全体の生産性が向上し、やがて業績にも反映されるでしょう。ウェルビーイングは企業業績向上に直結するといっても過言ではありません。
では、どのようにウェルビーイングを実現、または向上させることができるでしょうか。私が重視するウェルビーイングの4因子は、それを考えるためのヒントになると思います。
まず、「やってみよう因子」です。やる気があり、主体的に行動する人に備わっている因子です。職場に楽しい雰囲気があり、社員がそれぞれ責任ある仕事を任されている企業では、この因子が増殖しやすい。逆に、やらされ感を抱えて仕事をしている社員が多い職場では、やってみよう因子は減退します。
次に、「ありがとう因子」。日常的に感謝をする人は幸せになりやすい。その人は、良好な人間関係に囲まれているはずです。また、職場に自分の居場所があるとも感じていることでしょう。

「なんとかなる因子」も大切です。心配しすぎることがなく、いい意味で楽観的。前向きにチャレンジする人、チャレンジを楽しむ人は幸せです。企業でいえば、チャレンジの結果としての失敗を許容する組織文化が重要。既存事業においては失敗が許されない部分も多々ありますが、新規事業や未知の領域に足を踏み入れる時には、組織として失敗を推奨するくらいの姿勢がほしいものです。
そして、「ありのまま因子」です。自分らしい仕事をしている時、個性を発揮している時、その人は幸せを感じているはずです。他人と自分を比べすぎないことにも注意したいものです。
それぞれの個人は生活と仕事の中で、以上4つの因子を強化することでウェルビーイングに近づくことができるでしょう。また、企業は各因子の増進につながる施策を考える必要があります。それが業績向上につながる道筋であることを示せば、社内の理解も得やすくなります。
例えば、4因子が不足している場合を考えてみましょう。上司に言われたことだけを日々こなすだけ、やらされ感で仕事をする。チャレンジをすることも、個性を発揮することもできない。人とのつながりは希薄で、感謝されることはなく、感謝することもない。実際には存在しないであろう、極端な人物像です。もしそうした人物がいたとすれば、その仕事はあっという間にAIに代替されるはずです。
逆に、AIに代替されないのは、ウェルビーイングな毎日を送るビジネスパーソンでしょう。自分らしく前向きにチャレンジし、失敗しても信頼する周囲の仲間がカバーしてくれる。私自身も、そんな人間になりたいと思っています。

―現場の社員の1人として、どんな時に働きがいを感じますか。
石坂:私が最も働きがいを感じるのは感謝の言葉をもらった時です。加えて、成果が上がった時、実力がついたと実感した時でしょうか。私は入社以来、「リシテア」という人事総合ソリューションに関わってきました。勤怠管理などの基本機能の他、働きがいを高めるための様々な工夫も組み込まれています。例えば、人財マッチング。自ら希望する職場で仕事ができれば、働きがいも高まると思います。

前野:「ありがとう因子」が大きいようですね。成長の実感は「やってみよう因子」に関係します。働きがいを促進するソリューションに関わる業務は、「世の中のウェルビーイング向上に役立っている」という感覚を持ちやすくさせるのでしょう。
―日立ソリューションズはボトムアップカルチャーを大事にしていると聞いています。その文化はどの程度浸透していますか。
亀田:2025年度は2度、「生成AI活用のアイデアコンテスト(※1)」が実施されました。AI活用のアイデアを社内で募集し、誰でも参加できるイベントです。これは一例ですが、ボトムアップカルチャーは多くの施策に反映されていると思います。
平岡:私は人事部門で、ボトムアップカルチャーの醸成やコミュニケーション施策などを担当しています。その施策の一例が、22年にスタートしたタウンホールミーティングです。経営幹部がオンラインで社員との双方向の対話を行います。ファシリテーターは「手挙げ制」で募集しますが、多い時は100人以上の希望者から手が挙がりました。ボトムアップカルチャーは、着実に浸透していると感じます。
前野:トップダウンが必要な場面もありますが、それだけでは現場に「やらされ感」が広がります。「やってみよう因子」を増進させる上でも、ボトムアップカルチャーは重要です。ファシリテーターに多くの手が挙がるのも素晴らしい。この方向を推し進めてもらいたいですね。

石坂:未経験の仕事に向き合う時など、上司からはよく「挑戦してみよう」「失敗してもいいから」と声をかけてもらいます。自分に任される「余白」のような部分もあって、悩むこともありますが、それが成長につながるのだと思います。周囲の先輩方からも、挑戦を後押ししてくれる雰囲気を感じます。
亀田:チャレンジは職場でよく聞く言葉で、会社にはそれを促進する仕組みがあると感じます。チャレンジへの一歩を踏み出せるかどうかを左右するのは、心理的な安全性だと思います。例えば、仕事上の間違いを周囲が指摘する時。同じ内容の指摘であっても、その時の態度や言い方次第で、本人の受け止め方は全く違うことがあります。相手を嫌な気持ちにさせない指摘の仕方は、意外と難しい。私自身も、そういうコミュニケーションのスキルを磨きたいと思っています。

前野:上司や先輩が挑戦を後押しする職場には、働きがいを高める文化があると思います。また、亀田さんの話にあった心理的安全性は重要です。失敗しても守られる、失敗そのものをとがめられないような雰囲気づくりを工夫する必要があります。
―繁田さんは部長としてチームをまとめる立場です。自部門の成果向上をめざす一方で、メンバーのウェルビーイングにも目配りする必要がありますね。
繁田:前野先生から、幸福度の高さと生産性が密接に関係するとのお話がありました。私自身もそれを実感しています。個人の幸福とチームの成果は、同じ方向にあります。私はこの3年間、毎年異動を経験しました。マネジメントに成功したと思えた時もあれば、失敗した時もあります。マネージャーとしては部下に「明るい未来を見せる必要がある」と思っているのですが、失敗したケースではその気持ちが空回りしたようです。着任当初のコミュニケーションが不十分だったのかもしれません。その反省を踏まえて、最近は一定の成果を出せていると自分では思っています。

前野:自分の失敗を率直に語れる。カッコいいですね。失敗談は人を仲良くさせるという研究があります。失敗経験を含めて正直に語る、そこには「ありのまま因子」が表出しています。失敗したとしても、その反省を次に活かしている点にも感銘を受けました。
―繁田さんは海外赴任の経験をお持ちです。マネージャーとして苦労したのではないですか。
繁田:赴任先は中国で、30人ほどのローカルスタッフがいました。着任当初は、全体的な傾向として「チームよりも自分」という意識が勝っているように見えました。しかし、一緒にランチを食べたりする中で、仲間意識の強さを感じる機会が多々ありました。チームの雰囲気が良くなれば、自分の成績も上がりやすいという発想かもしれません。国や地域が変わっても、チームづくりの共通点は多いのではないかとも思いました。
―多様性のマネジメントという観点では何に気をつけましたか。
繁田:価値観のレベルで多様性がありすぎると、チームとして同じ方向に進めなくなります。一方で、経験や専門性といったレベルでの多様性はとても重要です。ミーティングで誰かが異論を示したことで、面白いアイデアに発展する場面には何度も遭遇しました。
前野:同感です。多様性とウェルビーイングの議論において、時に、あたかも無条件で多様性を礼賛するかのような意見に接することがあります。本当にそうでしょうか。例えば、やる気が出ない、職場で孤独を感じるといった状態を多様性の一部として受け入れれば、不幸せでもいいじゃないかということになりかねません。結果として不幸せな人をゼロにすることはできないかもしれませんが、組織が構成員の不幸を最初から容認することはできないと思います。
―次に、制度設計や仕組みづくりについてお聞きします。ウェルビーイングをいかに制度に組み込むか、人事部門の平岡さんはどのように考えていますか。
平岡:全社員一律ではなく、個々人が選択できる環境を用意するというのが大きな方向性です。例えば、個人の状況に合わせて、リモートと職場を選べるハイブリッドワーク。働く時間についても、職場で相談の上、柔軟に調整可能です。キャリアパスについても複線型モデルを提示していますし、教育の観点でも多様なコンテンツの中から関心のあるものを選べるようにしています。

前野:先ほど、多様性のネガティブな側面について話しましたが、平岡さんの紹介した仕組みはポジティブな多様性を促進するものですね。働き方やキャリアを自ら選択した場合、本人のやる気や成長意欲も高まるのではないでしょうか。
―エンゲージメント向上に向けた取り組みについても教えてください。
平岡:毎年、日立グループと当社独自で、2種類の調査を実施しています。その中でエンゲージメントについても把握しており、状況に応じた施策を展開しています。ここ数年、日立グループの中で、当社のエンゲージメントスコアはトップクラスとなっています。
―課題を感じる部分はありますか。
平岡:職場でのコミュニケーションに課題があると感じており、孤独や孤立を感じる社員を減らしたり、言いたいことを言える雰囲気づくりが重要だと考えています。人事部門としては、職場でのコミュニケーションがより活性化し、コミュニケーションの質を改善する施策を推進しています。具体的には、相手の目線に立ち、相手を配慮した上で自分の意見を伝えるアサーティブ・コミュニケーションの定着に向けた活動を行っています。
前野:アサーティブ・コミュニケーションは大事なスキルです。相手を嫌な気持ちにさせずに、大事なことをきちんと伝える。そのスキルを底上げすれば、職場の雰囲気は相当良くなると思います。
―ウェルビーイングとサステナビリティの関係については、どのようにお考えですか。
平岡:当社は人的資本経営に注力しています。ビジネスモデル上の特性からも、人財の成長なくして企業としての成長はありません。人的資本経営の推進や事業の持続的な成長をめざす上でも、ウェルビーイングは不可欠な要素だと考えています。
前野:ウェルビーイングとサステナビリティは密接に関係しています。サステナブルな企業の社員は安心して働くことができます。美しい自然環境を見れば、人は幸せを感じ、この自然を守りたいとも思うはずです。ウェルビーイングを一層高めて、よりサステナブルな企業へと進化してほしいと思います。

―最後に、日立ソリューションズの参加者から今後に向けた意気込みなどをうかがいます。
亀田:当社の強みの1つは品質だと思います。働きやすさやチームワークの良さは、品質向上にもつながるはず。そんな気持ちで、目の前の小さなことから取り組んでいきたいと思います。
平岡:各社員が存分に能力を発揮すれば、最終的にはお客様や社会に提供する価値が高まります。そんな組織づくりをめざして、様々な仕組みづくりを工夫していきたいと思っています。
繁田:この会社は居心地のよい会社だと思います。これをさらに進めて、チャレンジする時に一層の居心地よさを感じられるような職場にしたい。まずは、自分たちのチームでできることからスタートしたいですね。
石坂:リシテアのユーザー様から、時々「御社ではどうやって働きやすい環境づくりを進めているのか」と聞かれることがあります。私たちが半歩先を歩むことで、お客様への提案の質も良くなると思うので、有効な提案をするためにも、私たち自身の働き方を改善していきたいと考えています。
前野:今日は、楽しそうな職場の雰囲気を垣間見た気がします。素晴らしいと感じた施策も少なくありません。ぜひ、今後はエンゲージメントのみならず、あらゆるウェルビーイングの側面で日立グループの枠組みを超えて、日本一、世界一をめざしてください。
