
日立ソリューションズでは、生成AI活用のアイデアコンテストを通じて、社員による業務改善の取り組みを推進しています。上期・下期あわせて1,800件を超えるアイデアが集まり、生成AIを業務でほぼ毎日利用する社員の割合も35%から90%へ上昇しました。生成AI活用の定着に向けた取り組みや、その背景について紹介します。

川尻 剛
株式会社日立ソリューションズ
業務革新統括本部
AIトランスフォーメーション推進本部
AIエージェント推進室
部長代理

酉和 泰俊
株式会社日立ソリューションズ
業務革新統括本部
AIトランスフォーメーション推進本部
AX戦略部
部長代理
―日立ソリューションズ社内での生成AIやAIエージェント活用が、着実に進展しているようですね。
酉和:生成AIによるビジネスインパクトは大きく、この潮流を避けて通ることはできません。私たちは数年前からすべての社員が日常的に生成AIを使いこなす状態をめざし、全社的な取り組みを展開しています。代表的な施策が「生成AI活用のアイデアコンテスト」です。
―コンテストを実施した背景と、その内容をうかがいます。
酉和:1つのきっかけは、社員へのアンケート調査です。2024年11月時点で、生成AIを業務でほぼ毎日使う社員は35%で、「どう使えばいいか分からない」といった声も少なくありませんでした。そこで、「利用率100%をめざす」との方針のもと、生成AI 活用のアイデアコンテストをスタートさせました。業務で生成AIを活用するアイデアを募集し、予選・本選を経て受賞者が決まります。25年度の上期・下期に1回ずつ実施しました。
―応募状況や審査プロセスについて教えてください。
酉和:アイデア募集に先立ち、まずCopilot活用セミナーを実施しました。入門編とAIエージェント編、2種類のセミナーに数百人が参加。あわせて、社員がその動画を視聴できるようにしました。企画段階では数百件の応募を想定していましたが、実際には社員の3人に1人が参加し、上期には1094件ものアイデアが寄せられました。さらに下期には、より実践的で具体性の高い715件の精鋭アイデアが集まりました。全社的にコンテストを盛り上げようという機運が生まれ、部門間で競い合う雰囲気もありました。それが多くの応募につながったと思います。上期・下期とも、予選を通過したのは約20チームで、各チームのメンバーは実践セミナーを受講し、ブラッシュアップしたアイデアをもとに作成したレポートで、プレゼン内容を審査する本選に臨みました。その結果、社長特別賞以下の各賞が決まりました。
―上期の社長特別賞を受賞したのが、川尻さんたちのチームですね。
川尻:当時、私は米国拠点に出向中で、生成AIによる業務効率化などに取り組んでいました。社長特別賞に選ばれたのは、そんな中で生まれたアイデアの1つです。テーマは輸出管理業務へのAIエージェント適用。営業担当者が顧客との取引を申請すると、輸出管理担当者は関連情報を集めてスクリーニングを行います。米国の取引禁止リストに該当しないか、その会社は本当に実在するのかといったことをチェックします。米国だけでなく、世界中をカバーしており、年間約2000件の申請を確認しなければなりません。人手頼みの業務には時間がかかり、見落としなどのリスクもあります。この業務をAIエージェントに移行しました。
―AIエージェントが担う業務の流れについてお聞かせください。
川尻:担当者が企業情報を入力してレビューボタンを押すと、AIエージェントは「正確な法人名を確認→事業内容を確認→既存契約との照合→制裁リストとの照合→レポート出力」までを行います。AIエージェントが社内とインターネット上の情報を収集・分析して出力したレポートを確認した上で、担当者は取引可能かどうかを判断します。
―AIエージェント導入の効果をうかがいます。
川尻:従来は1件当たり20分ほどかかった処理時間は約5分に短縮されました。同時に、見落としがなくなり業務の精度が向上。担当者はリスク判断などのより重要な業務に集中できるようになりました。当社は以前から「安全保障貿易管理ソリューション」を提供しており、多くの導入実績があります。今回開発したAIエージェント機能は、この既存ソリューションのオプションとして26年4月に販売開始されました。
酉和:当社は「カスタマーゼロ」を掲げています。できる限り、まず社内業務に導入して効果を確認し、必要な改善を施した上でお客様に提供したいと考えています。川尻さんたちの開発したAIエージェントは、カスタマーゼロを象徴する事例です。
川尻:自分たちの業務で困りごとがあれば、まずプロトタイプをつくってみる。効果が確認され、市場性があると判断すれば既存ソリューションに実装する、あるいは新たなソリューションとして提供する。そんな事例が増えつつあるように思います。
―24年11月から1年半ほど経過しますが、日立ソリューションズにおける生成AI活用はどの程度進みましたか。
酉和:最初は心理面でのハードルがありましたが、徐々に乗り越えつつあると手ごたえを感じています。生成AIを業務でほぼ毎日使う社員の割合は35%から90%に上昇しました。生成AI活用のアイデアコンテストは大きなきっかけですが、他にも様々な施策を組み合わせて生成AI活用を推進しました。例えば、セミナーの開催、業務への生成AI実装をサポートする窓口の設置、ユースケース情報の共有に加え、生成AIに関するガイド・ツール・活用事例などを集約したポータルサイトの展開や、有用な業務AIエージェントの提供などを進めています。また、生成AIを身近に感じてもらうため、「"ググる"から"コパる"へ」を合言葉にCopilotの活用を呼びかけ、様々なお役立ち情報を発信しました。社長をはじめ幹部が、率先して生成AIを使う姿勢を見せてくれたことも効果的だったと思います。
―最後に、生成AIを業務でもっと活用したいと思っている方々にメッセージをお願いします。
酉和:仕事の中で煩わしいと思っていることは、多いのではないでしょうか。その種の業務の中でも、最初は身近なところで試してみてはどうでしょうか。きっと効果を実感できると思います。
川尻:まずは、AIに何ができるか、何ができないかを理解することが重要です。その上で、小さなプロジェクトから始めてみる。もしサポートが必要なら、私たちがお手伝いします。