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「AIの進化」と「人の幸せ」を両立させるために私たちがやるべきこと

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人とAIの協働の在り方をめぐる試行錯誤が続いている。一人ひとりがより良く働き、より幸せに生きるためのAI活用とはどのようなものか。国立情報学研究所・社会共有知研究センター長の新井紀子氏と、日立ソリューションズの執行役員・スマートライフソリューション事業部長の大池徹が語り合った。

※本記事は2026年7月に掲載されたものです。
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    新井 紀子

    国立情報学研究所・社会共有知研究センター長

    あらい・のりこ
    東京都出身。一橋大学法学部およびイリノイ大学数学科卒業、イリノイ大学5年一貫制大学院を経て、東京工業大学(現:東京科学大学)より博士(理学)を取得。専門は数理論理学。近著に『シン読解力』『夏蜜柑とソクラテス』などがある。

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    大池 徹

    株式会社日立ソリューションズ
    執行役員・スマートライフソリューション事業部長

    おおいけ・とおる
    1995年に日立ソリューションズ に入社。2023年執行役員に就任。25年よりスマートライフソリューション事業部長を務める。

AIと一緒に働く形をどうつくっていくか

大池:日立ソリューションズはこれまでもAIの活用に取り組んできましたが、今年度からは、いよいよ全社的にAIの本格活用が始まりました。新井さんがAIの可能性を模索する「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトを始められたのは2011年でしたね。

新井:私たちがプロジェクトで使っていたのは生成AI以前のAIでしたが、生成AIが登場して「ロボットは東大に入れる」ということがはっきりしました。仕事の現場では、これまで人が手作業でやっていたことの多くがAIで代替できるようになってきていますし、研究の領域でも、生成AIの普及以降は論文の数が目に見えて増えています。AIがいろいろな分野で生産性を上げているのは間違いありません。

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大池:私は5年ほど前までシンガポールに駐在していて、アジアの若い皆さんと一緒に仕事をしました。その中で言語の壁を感じる場面が多かったのですが、AIの進化でそのような壁も徐々になくなりつつあります。今後は日本国内でも、いろいろな国の人たちと意思疎通がしやすくなって、より働きやすい環境が生まれるはずです。それが労働力不足の解決に結びつくことを期待しています。

新井:それはまさにAIの大きな効用の一つですよね。プログラミングなどの分野でも、汎用性のあるプログラミング言語を用いる領域の仕事の多くがAIに置き換わることで、プログラマー人財不足もかなり解消すると思います。

大池:一方で、AIを活用する際に考えなければならないことはまだたくさんあると感じています。私たちのチームでは、資料作成にAIを使うことを推奨しています。しかしイメージに近いものをAIにつくらせようとすると、プロンプトを工夫しながら何度もAIに指示を出す必要があります。それが果たして効率化に結びついているのか。また、そうして出てきたアウトプットは人間がつくるものよりいいものなのか。そんな疑問があります。

新井:よく分かります。AIを使っているだけで満足してしまい、それが本当に生産性向上に寄与しているのかどうかが実は分からない。そんな問題に多くの企業が直面していると思います。必要なのは、AI活用の成果を冷静に検証する仕組みです。資料作成というタスクであれば、AIを使うことによってどのくらい時間が短縮できたか、そこで生まれたアウトプットの質はどうか、本当に分かりやすい資料がつくれているのかどうか──。そういったことを一つひとつ話し合いながら検証していくことが必須の取り組みになるのではないでしょうか。

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AI時代に求められる発想の転換

大池:日々進化するAIをキャッチアップしながら、うまく使いこなして生産性を上げるのはなかなか個人の裁量でできることではありません。現場ごとにガイドラインのようなものを示していく必要があると思います。一方で、AIやその働きを支えているLLM(大規模言語モデル)などの基本的な仕組みの理解を促すことも大切だと私は感じています。

新井:とても大切なことですよね。AIの技術は、確率と統計によって成立しています。ということは、原理的に「外れ値」が必ず生じるということです。外れ値は、最低でも0.5%程度、通常は5%くらいの割合で発生します。つまり、AIのアウトプットの精度は95%くらいと考えておくべきということです。そのようなAIの基本的な仕組みはぜひ理解しておいていただきたいですね。

大池:日本には「常に100%をめざす」という文化があります。95%の精度のサービスをお客様に提供することはできないとつい考えてしまいます。

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新井:ですから、発想の転換が必要なのです。AIを使ったサービスやソリューションをお客様に提供する場合は、まず「95%の精度でもお役に立てる領域はありますか?」と質問することから始めるべきです。そういう領域におけるAI活用を支援しながら、それ以外の部分では従来のDX(デジタルトランスフォーメーション)によって生産性向上を実現していく。そんな考え方がこれからは求められるのだと思います。

大池:先ほどプログラマー人財のお話が出ました。AI時代には、アプリケーションをつくるプロセスや、人の役割が変わります。AIによる自動処理のプロセスに人間の判断を加えて精度や安全性を保つ「ヒューマンインザループ」の考え方も非常に重要です。それらを踏まえてプログラマー人財育成の在り方についても、ぜひご意見をお聞かせください。

新井:AIがつくったアウトプットのチェックは、今後も人がやるべき仕事として確実に残っていくはずです。ですから、人財育成には2つの考え方があると思います。最初から「コードを書く人財」と「チェックをする人財」を分けて育成するというのが一つ。もう一つは、コードが書ける基礎的なスキルを全員に身につけてもらった上で、個々の特性を見て、「チェックのプロ」を抜擢していくという考え方です。問題は、人が「AIが書いたプログラムを単にチェックする」というタスクによって働くモチベーションを保てるかどうかということです。

大池:人間がAIの下請けのようになってしまうのが懸念ですね。

新井:そうです。プログラミングの分野に限らず、「AIと一緒に働く」というスタイルが普通になった時に、「では、どのような働き方が一番いいのか」ということは、あらゆる会社や組織や現場で考えなければならないことなのだと思います。

今を生きる人たちを不幸せにしないために

大池:AI時代に働く人たちに必要なスキルとして「シン読解力」という考え方を提唱されています。そのスキルを測定・診断するRST(リーディングスキルテスト)も開発されました。これを活用する企業が増えているそうですね。

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新井:多くの企業にお使いいただいています。例えば、新入社員にRSTを受けてもらって採用の精度を検証するケースや、定期的にRSTを実施して社員のスキル向上を継続的にウォッチしていくといったケースがあります。私が読解力に着目するようになったのは、「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトの過程で、試験の設問文を正確に読めない中高生がとても多いことが分かったのがきっかけでした。つまり読解力がないということですが、この場合の読解力は「小説を読んで作者の真意を汲み取る」といった読解力とは異なります。もっと基本的な、助詞や接続詞などによって示されている意味を正確に読み取る力です。一般的に考えられている読解力とは異なるそのような力のことを、私たちは「シン読解力」と呼んでいます。

大池:AIに取り組む中で、そのようなベーシックなスキルが大事であることが明らかになったということですね。

新井:シン読解力はAI活用と密接に関連しています。その力がないと、的確なプロンプトを書くことができませんし、AIのアウトプットを正確に読み取ることやファクトチェックもできません。まさにAIをより良く活用するために必要なスキルと言ってもいいと思います。

大池:なるほど。では最後に今後注力していきたいことをお聞かせください。

新井:今構想しているのが「最後の一年奨学金」です。日本では、経済的な理由で大学を退学してしまう人が少なくありません。その中でも1番多いのが4年次の退学です。大学を卒業できないということは、貴重な人財が社会に出る道が閉ざされてしまうということです。その問題を解決するアイデアが、大学4年次の学費を援助する「最後の一年奨学金」というわけです。

大池:AIやRSTとは全く別の取り組みということですね。

新井:実はそうではないんです。私が「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトを始めたのは、AIにできることとできないことを明らかにして、AI時代が来ても仕事を失ったり、低賃金で働いたりしなければならなくなる人を一人でも少なくしたいという思いがあったからです。RST開発のモチベーションになっているのも、そのような思いです。シン読解力を身につけることによって、人は学び続けることができるし、自律的に働き続けることができる。そしてそれによって幸せに生きていくことができる。そう私は思っています。「最後の一年奨学金」もその流れの中にあります。この時代に生きている人たちが不幸せにならないような取り組みという点で、すべては共通していると私は考えています。

大池:日立ソリューションズの役割の一つは、お客様がAIを上手に活用する支援をすることで、日本を元気にしていくことです。日本をもっともっと良くしていきたい。お話を伺って、その思いをいっそう強くしました。今日はありがとうございました。

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情報誌「プロワイズ」について

本記事は情報誌「プロワイズ」で掲載した記事の転載です。
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