
AIに限らず、新しい技術を広く活用していくために欠かせないのが安全対策です。見方を変えれば、セキュリティの議論の盛り上がりは本格的な実装フェーズに入った証しとも言えます。今号では、NVIDIA社主催の年次カンファレンス「NVIDIA GTC 2026」と、世界最大級のサイバーセキュリティカンファレンス「RSA Conference 2026」という2つのイベントから、AIの最新動向をお届けします。

川守田 慶
Alliance Manager,
Business Development and
Alliance Group
Hitachi Solutions America, Ltd.
2009年に現日立ソリューションズに入社後、20年まで統合システム運用管理「JP1」の開発・保守に従事。21年まで自社商材のプロモーション活動を経験した後、24年3月までブロックチェーンの自社サービス事業の立ち上げにおいてプロジェクトマネージャーとして開発に従事。2024 年4月からHitachi Solutions Americaに出向。DevSecOps、Data Management、AIにフォーカスし、トレンド調査やスタートアップ発掘を担当。

岡田 貴司
Business Development Manager
Business Development and Alliance Group
Hitachi Solutions America, Ltd.
2012年に日立ソリューションズ入社後、関西事業所にて主にインフラ周りのMicrosoft製品の提案・導入業務に従事。2024年10月からHitachi Solutions Americaにて、新規商材発掘・トレンド調査業務を担当。
生成AIやフィジカルAI、自動運転、ロボティクス、AIファクトリーなど最新技術が一堂に会する世界最大級のAIイベント「NVIDIA GTC 2026」。GTCは「GPU Technology Conference」の略。GPU開発基盤「CUDA」が20周年を迎えた今回は米国カリフォルニア州サンノゼの会場とオンラインのハイブリッドで開催され、190カ国以上から開発者、研究者、ビジネスリーダーなど3万人(※1)を超える参加者が集まりました。
キーノートで登壇したJensen Huang CEOによれば、AIの計算需要は過去2年で約100万倍に急増。データセンターはトークンを生成する「トークンファクトリー」に役割が変わるという新たな視点を示すとともに、今後も需要は伸び続け、2027年までに1兆ドルを超えるインフラ投資が見込まれると語りました。
イベント全体の注目点としては、「フィジカルAIスタックの具体化 -- Three Computersとモジュール群」「AIファクトリーの産業化」「フィジカルAIの安全認証基盤」の3点があげられます。
1点目の「Three Computers」とは、NVIDIA社が考えるロボティクスに必要な3つの要素「訓練、合成データ生成&シミュレーション、ロボット搭載」のこと。2番目の合成データ生成とシミュレーションはフィジカルAIの重要な基盤であり、自動運転、産業ロボット、キャラクターロボットなどで活用事例が紹介されました。キーノートではシーメンス社など主要パートナーとのエコシステム連携が示され、自動車・製造業を中心に幅広い業界での適用が進んでいることが示されました。
2点目の「AIファクトリー」について、NVIDIA社は次世代基盤「Vera Rubin」に加え、AIファクトリー向けのデジタルツイン基盤「NVIDIA DSX」を示しました。AIファクトリーを単なる設備ではなく、設計段階から電力・冷却・ネットワークまで統合最適化し、稼働後もトークンスループット(単位時間あたりのトークン生成量)を継続的に最大化する運用対象として位置づけています。それに伴い、昨年のGTCで発表した安全プラットフォーム「Halos」の取り組みを拡充。中立的な検査・評価と、フィジカルAIの安全基盤を整備しようと取り組んでいます。
会場内の展示物では世界初をうたうヒューマノイド型の手術支援ロボットが目を引きました。リアルタイムトラッキングやAI処理により、外科医による高精度の手術を補助するというコンセプトです。また、産業ロボットの安全をロボット本体のセンサーだけに頼るのではなく、作業空間に設置した外部センサーでも監視するという展示も興味深かったです。
全体を通して印象に残っているのは、キーノートでHuang CEOが「推論インフレクション(推論の変曲点)」という言葉を繰り返し使い、AIを開発する段階から、AIを大量に動かして経済価値を生み出す段階に移行したと強調していた点でした。
サンフランシスコでは、「NVIDIA GTC 2026」の翌週に「RSA Conference 2026」が開催されました。1991年から続くこのイベントに、今年は4万3500人(※2)以上が参加しました。テーマは「Power of Community.」。企業単独では安全を実現できないので、コミュニティの力で課題を乗り越えていこうという意味合いです。
注目のキーワードはやはりAIです。セキュリティ分野では2つのアプローチがあり、1つは「Security for AI」。企業で導入が進む、自社のAIやAIエージェントをどう守るのかという視点。もう1つが「AI for Security」。AIやAIエージェントを活用して自社の環境を守るというもの。
まず、Security for AIについては、データセキュリティやSaaSセキュリティのようなこれまで別のセキュリティ領域をカバーしていたスタートアップたちがSecurity for AIの機能を実装するようになりました。つまり、企業からすると、どのソリューションを選択すべきなのかの判断がさらに難しくなっています。Security for AIの機能を持つスタートアップが日本市場に熱い視線を注いでいる中で、本当に自社に必要なソリューションを見極める力が企業に求められています。
次に、AI for Securityについては、ペネトレーションテストやセキュリティ・オペレーションの効率化・自動化といった観点でのAIの活用が目立ちました。昨年と比較すると、より自律的に動作するアプローチに向かっており、今後はAIに何をどこまで実行させるのかの設計が人間には求められるようになっています。
「NVIDIA GTC 2026」ではAIを活用する攻めの話題が中心でしたが、AIの適用範囲を広げるほどセキュリティが重要になってきます。AIの普及により攻撃者側のスピードも規模も拡大すると言われている中、カンファレンス後にアンソロピック社が発表した「Claude Mythos」が過去十数年も発見されなかった脆弱性を短期間で見つけた事実は、そのリスクがすでに現実のものになっていることを示しています。今、セキュリティ対策は"重要"から"必須(緊急)"というフェーズに移りました。攻撃を受ける前に備える、プロアクティブなセキュリティを構築しなければ、企業として生き残れないほどの危機感が求められる時代になったと言えそうです。