2024.03.04
日立ソリューションズは、横浜未来機構が開催する「YOXO事業アイデア創出ワークショップ」の一つとして、オンライン上でのワークショップを2023年11月から12月の1カ月をかけて運営しました。「横浜」という地域を想定し、その都市としての強みを引き出しながら、日立ソリューションズの得意領域と親和性のあるアイデアを募り、2025年までの実現可能性を探る試みです。発想を自由に膨らませるためのヒントや評価する上でのポイント、事業化の可能性を分析するための手法などを実践的に学ぶこともできます。インパクトのあるアイデアが無数に飛び交い、それがどのように一つの形に集束していったのか。1カ月にわたるワークショップを追いました。
日立ソリューションズが提供するオンライン協創空間「DXラボ」を活用した、事業アイデア創出のためのワークショップが開かれました。イノベーション創発のために、クラウドの発想支援ツールなどを使い、キックオフからアイデア出し、クロージングのワークショップまで全てをオンラインで実施しています。
横浜では産学公民連携でイノベーション都市の基盤構築に取り組む横浜未来機構が、ワークショップなどさまざまなプロジェクトを展開しています。今回、日立ソリューションズが運営したワークショップもその一環です。ワークショップのテーマは"2027年の未来都市「横浜」を実現する"。およそ3年後に、横浜市をITの力で「世界中の人々の賑わう都市にする」ためのアイデアを創出することが目的です。
ワークショップには日立ソリューションズの社員をはじめ、このテーマに関心をもつビジネスパーソンや学生、約20人が参加しました。リアルとバーチャルをつなぐことで「横浜をもっと魅力的にするにはどうすればいいのか」、あるいは「横浜に住む人、働く人、観光などで訪れる人の不便を解消し、ニーズを満たすためには、どんなソリューションが求められるのか」などを、真剣かつ楽しく議論しました。都市の未来を考えるだけでなく、新ビジネスを立ち上げるためのアイデア創出の手法を学ぶことができるワークショップです。
ワークショップは2023年11月13日のキックオフイベントからスタート。ここでは、横浜市が2021年の人口動態で戦後初のマイナスになったこと、コロナ禍などの状況変化に対応したさまざまな取り組みが必要なことなど、全体の状況認識を踏まえながら、アイデア創出ワークショップの概要やツールの使い方の説明がありました。
初期のアイデア出しに有効な方法として紹介されたのが、クラウドの発想支援ツールの活用です。デザイン思考で設計されたツールを使うことで、自分だけでは思いつかないヒントが見つかるメリットがあります。
約20人の参加者が発想支援ツールを活用しながら生み出したアイデアは、12月中旬までに157件。2022年にも同様のアイデア創出ワークショップを開催しましたが、そのときよりもアイデア総数は増えています。
ワークショップ中間地点の11月20日には、運営メンバーが中心になって「アイデア雑談会」が開かれました。この雑談会は、発想されたアイデアを振り返りながらざっくばらんに会話し、より多くの発想を促すための場です。
この時点までに寄せられたアイデアは例えばこのようなものです。
・横浜を観光する際、メタバース上で事前に、現地での交通手段や移動ルートをシミュレーションできるアプリ。
・VR空間に自分が理想とする港を設計。実際に港が見える場所へ行ってスマホをかざすと、ARの港を重ねて見ることができる。
・VRやAR技術を活用し、タイムスリップ気分を楽しめる窓。例えば、街を行き交う人々が、明治時代の服装に置き換えられる等。
など、横浜の観光資源を生かしながら、随所にITやIoT、AIやARなどの技術を使って、横浜ライフを楽しくかつ便利にするアイデアがありました。単にテクノロジーのすごさを強調するだけでなく、そこにはリアルなイベントやビジネスにつなげる視点が盛り込まれていました。
また、
・活気を取り戻したい商店街と新たに店舗を開きたい人をマッチング。さらに、店舗経営者の育成や投資等の仕組みに繋げる。
・自分の学習履歴、検索履歴、現在地情報から、興味のありそうな勉強会を開催しているカフェを提案してくれるサービス。
など、マッチング技術を通してリアルかつ切実な課題を解決したいというアイデアも数多くありました。コロナ禍が一段落したこともあってか、バーチャルに閉じこもることなく、リアルな生活を充実させたいという志向が強くみられたのが今回の特徴です。
アイデア雑談会は出されたアイデアをブラッシュアップする機会です。複数のアイデアの特徴を抽出して比較する、さらに付加価値を付ける、異なる観点から再検討する、一見カテゴリーの異なるように見えるアイデアを組み合わせて新たなアイデア発想に繋げるなど、小さなアイデアをさらに具体的に膨らませるためのヒントを提供しました。
例えば、前述の、さまざまな情報を元に、興味のある勉強会を開催しているカフェを提案してくれるサービスは働き盛りの社会人だけでなく、学校以外の居場所が欲しい子供たちや、会社以外のコミュニティを探している方にもフィットするサービスかもしれません。一つのサービスで、それぞれの世代やライフスタイルに合わせた複数の提案ができるようになれば、より汎用性・実用性が高まります。「全部紹介したいぐらい色んなアイデアがあってワクワクする」というのが、運営メンバーの偽らざる感想でした。
発想支援ツールを使って生まれたアイデアは参加者同士で互いに評価しあい、ピックアップした5件が、次のステージであるクロージングセッションであらためて検討されることになりました。
12月11日のクロージングではそれらのアイデアをさらに分析し、深掘りするための議論が展開されました。参加者が2つのチームに分かれ、ランキングで上位になったものと事務局がピックアップしたアイデアそれぞれ各5件ずつを担当。2027年までの技術的・事業的な「実現可能性」と「嬉しさ」の2軸で評価し、さらに深掘りするためのアイデアを1件ずつ選出します。
ちなみに「嬉しさ」とは、「そのアイデアによる問題解決の影響範囲が広い」ことと「解決されたときの価値の大きさ」を掛け合わせた評価軸です。たくさんのユーザーにフィットするだけでなく、たとえ少数のユーザーでも、他ではできない価値を提供できれば、「嬉しさ」は大きくなります。
クロージングは複数人でコラボできる「Miro」(https://www.hitachi-solutions.co.jp/miro/)のオンラインホワイトボード上で進められました。まずは5個のアイデアのフリップをボードの象限上に配置します。メンバーがそれぞれについてコメントしながら、軸上のより適切な位置にフリップを移動します。
例えば、「自動運転送迎サービス」と「自動運転車を自習室として提供するサービス」は、「レベル4の自動運転技術が確立されることが前提だから、実現はまだ先」と見て、実現軸上の左(2027年までの実現は難しい)に置くという具合です。
ランキング上位のアイデアを検討したチームは、身だしなみにこだわる人が美容室で接客を受けているとき、髪形や服装を合わせたトータルコーディネートを提案してもらえる「ファッションコーディネートサービス」を深掘り候補に選びました。すでにアバターを使った同様のサービスはありますが、そこにリアルな鏡像上でのコーディネートという技術的付加価値、さらにファッションの街・横浜という特性を付け加えることで、実現すれば、より広い層に支持されるという期待がありました。
事務局がピックアップしたアイデアの中から、ほかのチームが選んだのは、横浜を舞台に、地図情報を活用したゲーム。ゲーミフィケーションで横浜の知られざる魅力を幅広い層に発信できるだけでなく、横浜に本拠を置いている大手ゲーム会社もあるため、協創等の面においても、実現性は高いのではないかと判断されました。
クロージングセッションの後半は、いよいよ最終選考に残った2つのアイデアを深掘りし、より事業可能性を高めるための肉付けをする作業です。Miroのオンライン画面上に表示されたのは、左に「提供価値」、右に「顧客セグメント」と書かれた図。顧客セグメントの下には、利用者の立場に立って「嬉しいこと」や「いやなこと」、また提供価値の下には「嬉しいことを増やすための要因」「いやなことを減らすための要因」などを書き込む欄があります。
これは自社の製品やサービスと顧客のニーズとの間のずれを解消するためなどに使われる「バリュー・プロポジション・キャンバス=VPC」というフレームワークの画面です。例えば、「ARを活用したファッションコーディネートサービス」を利用すると、どんなことが嬉しいのか、どんなことがいやなのか、各自がそれぞれのエリアに付箋を貼っていきます。
同様に、嬉しいことをもっと増やすためには、サービスにどんな付加価値を加えればよいのか、いやなことを減らすためには、どんな施策が必要かなどを検討していきます。
最初は口数が少なかったメンバーも、1つ面白いアイデアが登場すると、それにつられるようにして、どんどん発想が膨らんでいく様子が見てとれました。
最初は「身だしなみにこだわりたい人」とやや漠然としていた顧客像も、議論を重ねるうちに、「気分や地域に応じて、接客を受けることなく、ラクにコーディネートを決め、現地で服を購入したい人」というようにより具体化されます。
このARファッションコーディネートサービスでは、自分の髪形や体型だけでなく「横浜の観光スポットに似合うコーディネート」というようなリクエストに答えることができれば、ユーザー満足度は向上し、かつ観光振興にもつながるはず。もし購入可能な服に古着も含めれば、ファッションのリユースという観点でSDGsの実現に寄与することにもなります。オンライン協創空間で、小さなアイデアがさまざまな方向に連鎖し、社会課題解決にさえつながる可能性が発見されました。
同様に、横浜を舞台にしたゲームを深掘りしたチームでも、最初は「横浜出身者」という抽象度の高かった顧客セグメントが、議論を通して「家族・友人づれや学生」「観光客を誘致したい行政や民間施設、商店街」と、より解像度を高めることができました。
もともとの発想者は、市内の特定の区の魅力発信につなげられればと思いついたゲームでしたが、みんなでアイデアを検討する過程で、ゲーム自体の可能性が広がりました。一つの区だけでなく横浜各地の魅力を伝えることができるし、さらにこのゲームの雛形は全国の都市にも横展開できるのではと考えるようになったのです。
ワークショップ全体を通して、参加者からは、「オンライン発想支援ツールは、様々な視点でアイデアを考えられる、斬新で面白い機能だと感じた」「グループで練ったアイデアもすごく面白くて、楽しかった」「オンライン上でいつでもアイデアをたくさん出せるように工夫されている」などの感想が寄せられています。
未来都市「横浜」を実現するために、今回創出され、ブラッシュアップされた3件の事業創出アイデアは、2024年2月3日~4日の「YOXOフェスティバル」でも公開されました。来場者(実際の利用が想定されるユーザー)から、どんな感想があったのか、後日公開予定の「YOXOフェスティバル」のレポートでご紹介したいと思います。