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ユーグレナCFOとしての1年間

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高校2年生の秋、小澤杏子さんはユーグレナのCFO(Chief Future Officer:最高未来責任者)に任命された。任期は1年間。同世代のサミットメンバー8人とサステナビリティについて議論を重ね、ユーグレナへの提言も行った。それが実を結んだのが、同社のペットボトル商品全廃である。企業活動の中に身を置くことで、小澤さんは多くの気づきを得ることができたという。

小澤 杏子(おざわ・きょうこ)
小澤 杏子(おざわ・きょうこ)
株式会社ユーグレナ 初代CFO(Chief Future Officer:最高未来責任者)
株式会社丸井グループアドバイザー
おざわ・きょうこ/2002年生まれ。帰国子女。バスケットボール部で活動し、ジュニア農芸化学会で銀賞などを受賞。体育祭実行委員会委員長も務め、ボランティア活動なども実施。19年10月にユーグレナ初代CFO(最高未来責任者)に就任。21年4月に早稲田大学社会科学部入学。日本原子力学会誌ATOMOΣ(アトモス)で時論、コラムを寄稿。21年11月に丸井グループのアドバイザーに就任。

ユーグレナの本気を感じて応募を決めた

2019年10月から翌20年9月までの1年間、私はユーグレナのCFO(Chief Future Officer:最高未来責任者)を務めました。応募した直接のきっかけは、ユーグレナが新聞に掲載した全面広告です。「CFO募集 ただし、18歳以下」との見出しの下に、こんな文章が続いていました。

<地球のこれからについて子どもたちと語り合う中で、現在の経営陣だけでは「不十分」と気付かされました。未来のことを決めるときに、未来を生きる当事者たちがその議論に参加していないのはおかしい、と>

企業が様々なメディアで「若い人たちの声を聞かせてください」といったメッセージを発信することはよくありますが、この全面広告には本気度を感じました。同時に、もともとユーグレナ社は認知していたのですが、更にどのような会社だろうと調べてみました。広告そのものの費用はもちろんですが、このような取り組みに向けて時間をかけて検討もしたはずです。それだけのコストをかけて、CFOを募集している。そこに興味を持ちました。

CFOに応募する前の高校生活について、少し説明させてください。高校生1~2年にかけて、理系の研究活動に取り組みました。私がテーマに選んだのはアントシアニンという色素と腸内細菌。現在は、一般には文系に分類される学部で学んでいますが、私は文系・理系問わず幅広い対象に関心を持つタイプです。高校のころ、優秀な研究チームの仲間達とこのトピックに出合い、多くの時間を捧げました。

私たちの世代の中では少数派ですが、私は意識して新聞を読むようにしています。ネットのニュースやSNSだけに接していれば、それはそれで心地よいかもしれません。その一方で、アルゴリズムが選んだオススメ情報に囲まれてしまうのではないかという気持ち悪さがあります。私はそんな日常を過ごす中で感じたモヤモヤとか、気づきなどを書き留める習慣があります。ノートを書きながら自分なりに考えたことは、CFO選考過程でも役立ったのではないかと感じます。

高校生のCFOとして株主総会に登壇

ユーグレナのCFOに就任した時、私は高校2年生でした。一緒に活動する同世代の仲間もいました。8人のサミットメンバーです。最年少メンバーは私よりも6歳年下。それぞれが個性的で、楽しい議論ができましたし、毎回何かしら刺激され学びを得ることができました。

私自身はどちらかというと幅広い分野に関心を持つ方ですが、そんな私とは対照的に、海洋生物を取り巻く環境を集中的に勉強しているメンバーもいました。「自分の好きな海洋生物を守りたい」という熱意が伝わってきて、「こういう取り組み方もあるのだな」と感心していました。それまで、私は「このままではいけない」「自分たちの世代が何かしなければいけない」という義務感のようなものから環境問題に関わろうとしていたようです。

海洋生物への愛を語るメンバー、私が気づかなかった視点で環境問題を語るメンバー。それぞれが独自のバックグラウンドを持ち、サステナビリティの追求という大きな目的は同じでも、その実現に向けたアプローチや考え方は異なります。CFOとしてその意見をまとめるのは大変でしたが勉強にもなりました。私自身の、サステナビリティへのスタンスも変わったような気がします。危機意識は今も持ち続けていますが、義務感というか肩の力を少し抜いて「みんなでやっていこう」という気持ちが強くなったようです。

最終目的はサステナビリティの追求
小澤氏がユーグレナで一緒に活動したメンバーは、最終目的である「サステナビリティの追求」は同じだが、各自が独自のバックグラウンドを持っているため思いやアプローチはそれぞれ違う
小澤氏がユーグレナで一緒に活動したメンバーは、
最終目的である「サステナビリティの追求」は同じだが、
各自が独自のバックグラウンドを持っているため思いやアプローチはそれぞれ違う

CFOとしての活動を通じて、今の社会を支えている大人たちの中にも、サステナビリティを真剣に考えている人たちが多くいると知ったことも大事な気づきでした。「そういう大人もいるはず」と漠然と考えてはいましたが、環境対策などに熱心に取り組む大人たちの姿を身近で見たことで自分の考え方も変わりました。日本社会や日本企業の現状を嘆いたり、絶望したりするのではなく、前向きに何かを変えようとしている人たちのいる場所に出向いて、自分も一緒になって活動をしたほうがいい。今はそのスタンスで仕事を選んでいます。

ユーグレナでは様々なイベントに参加する機会をもらいました。特に緊張したのが株主総会のトークセッションに登壇したことです。高校生が東証一部上場企業の株主総会で、自分の考えを話さなければいけない。たぶん前例のないことだと思いますし、不安と重圧に押しつぶされそうな気分でした。会場の株主とのQ&Aも予定されていたので、「何を聞かれるのだろう」と心配で、経済用語をにわか勉強したりして当日に臨みました。

株主総会というと、ピリピリした会場の空気、緊張した面持ちで議事進行する経営者というイメージがあります。もっぱら問題のあった企業の株主総会だけがニュースとして流れるので、私にもそんな先入観があったようです。実際のところ、私が参加したユーグレナの株主総会はそういうイメージとはほど遠いものでした。

事前に感じていた不安が大きかったせいもあってか、株主総会に集まった投資家のみなさんの温かさが印象に残っています。ユーグレナのサステナビリティへの取り組みを、本気でサポートしている。そんな投資家の思いが伝わってきました。当然、シビアな目で業績を見ている方もいるでしょうが、私が感じたのはチャレンジしている会社を応援しようという雰囲気でした。

ペットボトル商品の全廃を提言、実行につなげた

CFOとしてのミッションは大きく2つでした。会社のフィロソフィーを一緒に考えること、会社と一緒に達成したいことをサミットメンバーと話し合って提言することです。今、ユーグレナのホームページを見ると、フィロソフィーとして「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」とあります。具体的な言葉について議論したわけではありませんが、私たちの世代の意見は確実にここに反映されていると私は考えています。

サミットメンバーとの議論を経て事業活動への提言も行いました。その提言が採用され、実現した多くのもののうちの代表例がペットボトル商品の全廃です。既存の飲料用ペットボトル商品を全廃する、一部商品についているプラスチックストローの有無を消費者が選択可能にするという施策です(2020年6月発表)。このような施策により、ユーグレナの商品に使用される石油由来プラスチック量は2021年中に半減するとのことでした。「消費者が意識せずとも環境配慮をした行動を取れる社会を実現させたい」という思いから、生産ラインを変えてほしいという大きな提言につながりました。

この提言をまとめる際には、サミットメンバーと何度も話し合いを重ねました。コロナ禍の中でしたが、多いときには週に3回くらいZoomミーティングをしています。ユーグレナがすべきことは何か、実効性のある取り組みとはどのようなものか――。様々な観点で議論を深めることができました。

まず、私とサミットメンバーの計9人がそれぞれのやりたいこと、自分のアイデアを持ち寄りました。それらすべてを実行できればいいのですが、現実には優先順位を決める必要があります。では、何を優先すべきか。私が重視した基準は「企業にしかできないこと」です。例えば、消費者の意識を高める啓発活動は、行政機関やNPOでもできるかもしれません。実際、その種のキャンペーンや広告などを目にすることもあります。あるいは、私たち9人が中心になって、SNSで環境問題を訴えるキャンペーンを展開するというアイデアもあるでしょう。ただ、せっかく企業内で提言できるのだから、その機会を生かそうと考えました。

ユーグレナは一部メーカーという側面も持っています。メーカーは消費者に選択肢を提供する存在であり、だからこそできることがあります。特に、商品そのものをサステナブルにできるのが大きいのではないでしょうか。環境配慮型の商品が増えれば、環境意識の高い消費者はもちろん、そうでない消費者も結果としてサステナブルな購買行動に誘導することができます。

現実を動かすことの難しさを知った

私たちの提言を受け止めて、それを実行に移したのはユーグレナの方々です。商品の生産ラインは、数日で変更できるようなものではありません。取引先などとの細かな調整も必要です。その様子を間近で見たわけではありませんが、多くの困難を乗り越えたこと、多くの苦労を伴ったであろうことは容易に想像できました。生産ラインを構築し動かすことがいかに大変かを知らなかったころは、「決まったことだから、すぐにできるのだろう」などと思っていましたが、そんな甘い考えは吹き飛んでしまいました。

生産ラインだけでなく、今の仕組みがそのようにできていることには理由があります。その仕組みを維持することに使命感を感じている人もいれば、その仕組みによって助けられている人もいるはずです。そうした様々な仕組みが、企業や行政機関で動いています。サステナビリティや人権、ダイバーシティといった目標を掲げて改革を叫ぶことは重要ですが、目標の達成に向けて何かを変えることがいかに難しいか。そんなことも考えました。

それでもペットボトル商品の全廃が実施できたのは、ユーグレナのみなさんの本気、熱意の賜物です。私たちの提言を受けてから、会社として全廃を宣言し、生産ラインの見直しを実行するまで非常に短い期間のうちに物事が進みました。最初は「もっと早くできないのか」と思っていた私たちも、その大変さを知るにつれて、「すごく早い」と感じるようになっていました。

このようなサステナビリティ活動の中に、その一部として参加し、いくつもの得難い経験をすることができました。私にとってはとても誇らしい経験であり、おそらくは将来の生き方にも影響を与えるでしょう。ユーグレナでの様々な活動を通じて出会った方々に対しては、改めて感謝の気持ちを伝えたいと思います。

次回は、ユーグレナでの活動を振り返りつつ、私自身の学んだこと変化したことなどについて考えてみたいと思います。

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