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心地よい社会を次世代につなぐ、それがサステナビリティ

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「サステナビリティ」「持続可能性」というキーワードが頻繁に使われるようになったのは、1992年の地球サミットが大きなきっかけといわれている。ある世代にとっては突然登場した言葉だが、Z世代にとっては馴染みの深い言葉だ。そのZ世代にとっての常識、価値観について、ミドリムシを主に活用しバイオ燃料の研究などを行っているバイオテクノロジー企業であるユーグレナでCFO(Chief Future Officer:最高未来責任者)を務めた小澤杏子さんが語った。

小澤 杏子(おざわ・きょうこ)
小澤 杏子(おざわ・きょうこ)
株式会社ユーグレナ 初代CFO(Chief Future Officer:最高未来責任者)
株式会社丸井グループアドバイザー
おざわ・きょうこ/2002年生まれ。帰国子女。バスケットボール部で活動し、ジュニア農芸化学会で銀賞などを受賞。体育祭実行委員会委員長も務め、ボランティア活動なども実施。19年10月にユーグレナ初代CFO(最高未来責任者)に就任。21年4月に早稲田大学社会科学部入学。日本原子力学会誌ATOMOΣ(アトモス)で時論、コラムを寄稿。21年11月に丸井グループのアドバイザーに就任。

世の中の常識は変わり続ける

私は今大学2年生です。高校2年の時、ユーグレナのCFO(Chief Future Officer:最高未来責任者)に任命され、1年間様々な活動に参加する機会をもらいました。その後も学業の傍ら、サステナビリティや環境、ジェンダーといったキーワードを軸にメディアで発信し、企業のアドバイザリーのような活動を続けています。

サステナビリティというと「環境」の印象が強いと思いますが、私自身はこの言葉をもっと広い意味でとらえています。個人が自分らしく生きていけること、企業が次の世代に渡せるような形でビジネスを行うこと。また、エネルギーなどの限りある資源を、自分たちだけで使い切ることのないよう努力や工夫をすること。人びとの働き方や雇用の在り方なども、サステナビリティの重要な側面です。まとめていえば、この社会をできればより心地よい姿にして次世代、次々世代に引き継ぎたい。それが私の考えるサステナビリティです。

世の中の常識は変わり続けています。大量生産・大量消費の時代に育った上の世代にとっては、私たちの常識が理解できないこともあるでしょう。しかし、現在「次世代」と呼ばれている私たちも、10年、20年後には若者たちから「古いね」といわれるようになるかもしれません。

世代間だけでなく、個人間で常識が異なることもあります。それを比べて「どちらが正しい」、「どちらが間違っている」という議論を始めると袋小路に入ってしまう気がします。その種の議論をよくSNSで見かけますが、いたずらに対立を煽って、「正しい答え」を追求しすぎるのはいかがなものかと思います。私は自分の考えを誰かに押し付けようとは思いませんし、そうした態度からは常に距離を取りたいと思っています。一歩引いたところから、自分自身を含めて俯瞰的に見る視点を大事にしたいというのが私のスタンスです。

正しいか間違っているかではなく、お互いの常識が違っていることを認識した上で、「どうすれば歩み寄れるか」、「どうすればもっと適切な解に近づけるか」を考えた方が楽しいし、建設的な議論になるでしょう。環境問題などに熱心に取り組む若者の中には、今の社会の構造や仕組みをつくった大人達に対して攻撃的な言動を見せる人もいますが、それでは意味のある成果につなげるのは難しいのではないでしょうか。そうした言動を目にして、逆に、「自分目線でしか考えていないのではないか」と思うこともあります。もちろん、間違っていることや違和感は正していくべきです。しかし、それを正すプロセスは必ずしも「間違っている人たちに全責任を負わせる」ことではないと考えています。私は同じ若者として、企業に入っていた身として、両者の意見に共感できるからこそ、ミスコミュニケーションを少しでも解消していきたい。双方のギャップを埋めることが、サステナブルな社会を実現させるためには必要不可欠だと感じています。

SDGsには17のゴールがあります。「貧困」「飢餓」「健康と福祉」「教育」などすべが重要なテーマだと思いますが、私が注力したいと思っているのは12番目の「つくる責任 つかう責任」です。同世代を見渡すと、他のテーマに比べて、取り組んでいる人は少ないのではないかと感じています。ユーグレナ社での一年が、私の注力したいテーマが定まったきっかけでした。ものづくりの現場や企業活動の中で何かを変えることの難しさを知り、それでも地球環境や社会のためにサステナブルな方向に向かおうと汗を流す人たちの姿を見たこと。社会の複雑さの一部を体験できた気がします。

ジェンダーとダイバーシティ、もったいない

もう1つ、17のゴールの5番目「ジェンダー平等」も、私にとって大事なテーマです。「自分が女性だから」という意識が全面にあるわけではないですが、それでも日本の男女の差は嫌になる程目の当たりにしていますし、違和感を抱き続けています。ジェンダーギャップの壁を前にして苦労している女性たちを見て、現状を一緒に変えていきたいと常々思っています。

ジェンダーについて、少し話を続けようと思います。ときどき、著名人のジェンダーに関わる発言が批判を受け、炎上することがあります。その多くは批判されて当然だと思いますし、公的な場での発言に対して許しがたいと感じることも多くあります。ただ、そこには歴史的な背景があることを忘れてはいけないとも思います。先ほどの「常識は変わる」という話です。

何十年か前の常識を抱えたまま、今もその常識が正しいと思っている人は少なくないでしょう。人間が自分の考え方を変えるのは、それほどたやすいことではありません。だからといって、考え方をアップデートする必要がないといっているわけではありません。

多くの人たちとの対話を通じて、できるだけ時代の常識を理解してもらいたいと思います。それでもなお、分かり合えない人はいます。自分の常識が通じないと感じる相手はいるものです。それを嘆くのではなく、その前提から出発すべきではないかと思うのです。

日本でいう小学3年から5年までの期間、私は米国の東海岸で過ごしました。クラスで唯一のアジア人でした。クラスメートの肌の色や髪の色は様々。ダイバーシティを声高に叫ばなくても、もともと多様な環境がそこにはあります。子供たちにとっては、多様であることが当たり前だったのです。このように、米国人は「違い」を前提とした上で、「では、それをどのように改善すればいいのか」という発想を持ちやすいのかもしれません。

米国に住んでいた頃、日本人の美点に気づかされたこともあります。小学校でのランチ時間、生徒たちはカフェテリアのテーブルに座って食事をします。食べ終わると、多くのクラスメートが惜しげもなく食べ物を、しかもかなりの量を捨てていました。この光景には驚きました。それまで通っていた日本の小学校では、食べ切るのが当然で、残すのは許されないという雰囲気さえ感じていたからです。

日本語の「もったいない」に相当する表現は、海外ではあまりないといわれます。少なくとも、英語にはないと思います。食べ物などのモノに対する考え方の違いからなのか、その理由はよく分かりません。

一方で、米国ではフードロスの問題がしばしばメディアで取り上げられ、学校などでも話題になります。自分たちに欠けているものがあると分かっているから、議論の俎上に載せられるのかもしれません。そのあたりは、盛んにダイバーシティやジェンダーギャップがアジェンダとして取り上げられる日本の状況と似ているようにも思います。

日々の消費行動は投票と同じ

私が初めてSDGsを知ったのは中学1年生の時です。同世代の中では早いほうだと思います。専門家の講演と授業を合わせたような場を学校がつくってくれました。今では小学生のうちからSDGsを学んでいるので、サステナビリティについて敏感な世代の層はこれからますます厚くなります。上の世代との間に、意識のギャップが生まれるのは当然のことかもしれません。

私の周囲を見ても、サステナビリティに関する意識はかなり高いと思います。マイボトルやエコバッグを抵抗なく常用している人も多い。ただし、消費に関して「意識している」と「行動している」は別です。

「過剰包装は問題だよね」というと、ほとんどの人が「そうだね」と答えるでしょう。しかし、その人が過剰包装の商品を避けるかというと、必ずしもそうではありません。価格というハードルもあります。環境配慮型やフェアトレードの商品は何割か高かったりします。私自身はできるだけエシカル消費を心掛けていますが、それが同世代の中で多数派を占めているようには見えません。

経済的に余裕がない学生は、安さ優先にならざるをえません。その意味では、私は私立大学に通っていますし、「恵まれた環境にいるからできる」という言い方もできるかもしれません。また、同じ大学に通う友人、知人たちは、全国の若者の平均値とはかなり離れている可能性もあります。見えないバブルの中にいるのかもしれないと、自分でも考えることがあります。そんな感覚は忘れずに持ち続けたいと思っています。

その上でいえば、企業がサステナブルな方向にさらに進むためには、企業側からの改革は前提として、やはり消費者の行動も重要です。消費行動は投票行為と同等です。スーパーやコンビニの棚から商品を選ぶ瞬間、私たちはその商品、その企業に1票を投じています。選挙の時もそうですが、「自分の1票で世の中は変わらない」と思っている人もいるでしょう。しかし、消費者が企業の行動をよりポジティブに変えたいのであれば、日々の1票ほど有効な手段はありません。

消費者の行動改革でサステナブルな社会に
消費者が情報をインプットしてエシカル消費を意識して、商品を選択(投票)する。購入先を含めて、企業の環境意識が高まるなど、波及効果が生まれる。その結果、サステナブルな社会に近づいていく
消費者が情報をインプットしてエシカル消費を意識して、商品を選択(投票)する。
購入先を含めて、企業の環境意識が高まるなど、波及効果が生まれる。
その結果、サステナブルな社会に近づいていく

モノの所有に執着しない若者たち

消費者の1票は少しずつではありますが、企業の行動や商品の形を変えつつあります。例えば、ラベルのないペットボトル、ベジタリアン向けの食品を店頭で見かけるようになりました。それは商品を提供するメーカーの意識の変化、消費者の行動の変化がともに作用した結果でしょう。

こうした変化自体は前向きなことですが、やはりそのスピードの遅さには不満を感じてしまいます。二重三重に包装された商品、シングルユースのプラスチックの多さなどを見ると、道のりの遠さを思わずにはいられません。ですが、もちろん、諦めるわけにはいきません。今の学生が就職する数年後の変化はわずかかもしれませんが、小学生が社会人になるころには過剰包装の商品は店頭から姿を消しているかもしれません。

同世代の消費行動を見ると、環境負荷の少ない生活が身についていると感じることがあります。環境意識とは別次元の現象かもしれませんが、私を含めて、モノを所有することにあまり価値や執着を感じなくなっているようです。

その背景にあるのは、1つにはシェアリングエコノミーの利便性向上でしょう。例えば、数人の仲間で小旅行をする時、気軽に「カーシェア(レンタカー)」を利用することができる。1日、2日限りの単発の保険もあります。また、私はときどき、自転車のシェアリングサービスを利用しています。手軽で安価。とても重宝しています。

ただ、多様なシェアリングサービスに簡単にアクセスできるのは、私が都会に住んでいるからです。こうした動きを全国に広げるためには、多くの人たちがもっと知恵を出し合う必要がありますし、何らかのブレークスルーが求められる分野もあるでしょう。短期的な解決策はないように見えます。それは、私たちの世代にとっての課題でもあります。

次回はユーグレナのCFOとしての1年間の経験、その経験を通じて学んだことなどをお話ししたいと思います。

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