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支え合いや助け合いが持続可能な社会をつくる

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シェアリングエコノミーを通じて新しい社会の在り方を提唱している石山アンジュ氏と社会・公共システム事業に長く携わり現在はデジタルトランスフォーメーション事業を統括している日立ソリューションズ取締役・専務執行役員の平野仁一がこれからの時代の生き方、働き方、人々のつながり方、そしてITの役割について語り合った。

※本記事は2022年11月に掲載されたものです

石山 アンジュ(いしやま・あんじゅ)
石山 アンジュ(いしやま・あんじゅ)
神奈川県横浜市出身。国際基督教大学卒業後、リクルート、クラウドワークスを経て、2016年に一般社団法人シェアリングエコノミー協会を立ち上げる。18年には一般社団法人Public Meets Innovationを創設。著書に『シェアライフ──新しい社会の新しい生き方』がある。
平野 仁一(ひらの・じんいち)
平野 仁一(ひらの・じんいち)
日立ソリューションズ取締役・専務執行役員として国内事業全般を管掌。1961年大分県出身。84年、日立ソフトウェアエンジニアリング(当時)に入社。社会システム事業部、通信メディアサービス事業部などを経て、17年に執行役員、19年に常務執行役員に就任。22年より現職。

コロナ禍の中で定着した
新しいワークスタイル

石山 アンジュ氏

平野新型コロナウイルス感染症のパンデミック以降、人々の働き方や生き方が柔軟で多様になったように感じます。石山さんも、東京と大分の二拠点で生活されているそうですね。

石山二拠点生活はコロナ禍前に始めたのですが、以前は大分に帰れるのは月に3日か4日程度でした。コロナ禍に入ってテレワークをするようになってからは、月に10日くらいは大分で生活できるようになりました。おっしゃるように、働き方の柔軟性がこの2年半ほどの間にかなり進んだと思います。

平野IT業界はテレワークやサテライトオフィスの導入が比較的早く、私たちもコロナ禍以前からテレワークに力を入れていました。コロナ禍以降にテレワークをさらに進めた結果、現在では、在宅勤務率が高い月で90%程度となっています。

石山それはすごいですね。大企業ではなかなか達成できない数字だと思います。セキュリティの問題などはありませんでしたか。

平野当初は、セキュリティ面の問題で出勤せざるを得ないケースもありましたが、お客様との調整や環境面の整備などにより在宅率を上げることができました。以前は介護や子育てなどでフルタイム勤務が難しかった人が、T&Lを有効活用することでフルタイム勤務ができるようになったりもしています。コミュニケーション上の課題が指摘されているものの新しい働き方はほぼ定着したとみていいと思いますね。新しいワークスタイルやライフスタイルを、石山さんはシェアリングエコノミーの考え方を通して提唱されています。シェアリングに関心を持ったきっかけは何だったのですか。

石山父が世界中を旅している自由人で、家にはいつもいろいろな国籍の人たちが住んでいました。今で言うシェアハウスですよね。そういう環境で育ったことが大きかったと思います。もう一つ、大学生の時に東日本大震災を経験したことも、新しい生き方を模索するきっかけになりました。卒業後は会社で働きながら、個人が助け合うことで組織に依存せずに働いたり生活したりすることはできないだろうかと真剣に考えるようになりました。そんな問題意識が積み重なって、シェアリングエコノミー協会を立ち上げました。2016年でしたね。

日本文化の価値を現代に活かしていく

平野 仁一

平野その頃は、今ほどシェアリングという考え方は広まっていなかったと思います。苦労したことも多かったのではないですか。

石山ウーバー・テクノロジーズが海外で注目されていたので、シェアリングとはライドシェアのことだけだと考えている方も少なくありませんでした。でも、私にとってのシェアリングは、日本に昔からあるお裾分けや支え合いの文化と同じなんです。共助の精神と言ってもいいと思います。そのことを丁寧に説明することで、徐々に共感してくださる方が増えていきました。

平野石山さんがよくおっしゃっている「お互いさまの文化」ですね。新しいモデルを一からつくるわけではなく、日本の伝統文化の価値を現代に活かしていくということなのでしょうね。

石山おっしゃる通りです。そこで重要になるのがITの力です。デジタルによって人と人をつなげ、相互理解を促進し、合意を形成して、共助を実現することが必要だと私は考えています。

平野それはまさしく、私たちのようなIT企業が頑張らなければならないところです。これまでも私たちは、お客様との協創により新しいビジネスモデルとITを掛け合わせて新しい価値の創出を実現してきました。これも企業間でのシェアリングと言えそうですね。そして、それをさらに推し進めていかなければならないと強く感じています。

石山デジタルには無限の可能性がある一方で、デジタルリテラシーには世代間の格差があります。便利なプラットフォームやサービスはたくさんありますが、数が多すぎてどう使い分ければいいか、何を選べばいいか分からないという年配の方はとても多いと思います。社会全体でデジタルを活用する一方で、デジタルを使いこなせない人を決して置いてきぼりにしない仕組みをつくっていかなければならないと思います。

シェアリングが実現する経営の柔軟化

石山 アンジュ氏 平野 仁一

平野私たちはサステナビリティを意識した経営を推進しています。石山さんは、シェアリングとサステナビリティの関係をどう捉えていらっしゃいますか。

石山サステナビリティは、地球環境、企業活動、個人の生き方や働き方など、様々な領域に関わります。シェアリングは、そのそれぞれの領域で持続可能性を実現するための有効な考え方だと思います。例えば副業や兼業は、自分が持っているスキルを一つの会社だけではなく、複数の会社に提供することです。それは会社からすれば、多様な人材のスキルをシェアするということですよね。それによって、個人は複数の収入の手段を得て生活を安定させることができるし、企業は人材不足などの課題を解決することができます。

平野なるほど。企業活動や個人の仕事のサステナビリティがシェアリングによって実現するということですね。仕事場をシェアすることで、これまでは出会えなかったような人たちとの出会いが生まれ、それが新しい事業の創出につながる。そんな可能性もありますよね。

石山ええ。最近では、ビジネスに使う機材や機器をシェアする動きも進んでいます。企業活動に必要なものだけど、使用頻度が高くなく、コストも高い。そういう機材を他社とシェアできれば、固定支出を下げられ、柔軟な経営も可能になります。もの、場所、人材を共有し、変化に柔軟に対応していくこと。それがシェアリングの一つの意義だと思います。

シェアリングの本質は
「複数の選択肢を持つこと」

石山 アンジュ氏 平野 仁一

平野私の座右の銘は「大胆細心」です。商船高専時代に代々受け継がれてきた海の男の心意気みたいなものですかね。荒海を無事に渡るには、大胆なだけではなく細やかな心が必要であるという意味の言葉です。石山さんの座右の銘もお聞かせいただけますか。

石山人類の良心を諦めない──。それが私の座右の銘です。人は誰でも生まれながらにして良心を持っていると私は信じています。でも、生育環境や家庭の事情などで良心がゆがめられてしまうこともあって、それが人と人との分断や対立につながってしまう。そんなふうに考えています。

平野残念ながら、現在はそのような分断や対立が世界中で進んでいますね。

石山人々の良心と信頼の上に成り立つ世界とは逆の方向に向かっていますよね。それに私はとても心を痛めています。経済や社会の状況が悪化していくと、みんな自分を守るのが精いっぱいで、他人を信用することのハードルもどんどん上がっていきます。そんな大変な時代だからこそ、お互いに支え合って助け合う共助の精神がいっそう大切になっているのだと思います。みんな自分一人で生きているように思ってしまうけれど、誰もが本当は人と人とのつながりの中で生きている。そのことを忘れないようにしたいですよね。

平野石山さんはシェアハウスで「拡大家族」をつくることに取り組んでいらっしゃいますが、例えば仕事のプロジェクトメンバーは、まさに家族のようなものです。もちろん私自身にも家族がいるし、最近孫も生まれました。そういった身近な人たちに対する愛情や信頼をベースに、世の中に関心を持って貢献する道筋を探っていくことが大事だと私は思っています。最後にこれからのビジョンをお聞かせください。

石山シェアリングの本質は「複数の選択肢を持つこと」だと私は考えています。今の仕事や住居や家族を失ってしまったらどうしよう。そんな不安な気持ちを抱えながら生きるのはとても大変なことです。でも、他人といろいろなものをシェアしながら、いくつかの選択肢を常に持つことができれば、安心して生きていくことができますよね。変化の激しい時代に、心の安心と安全を得る方法がシェアリングである。そのことをこれからもたくさんの人にお伝えしていきたいですね。

石山 アンジュ氏 平野 仁一
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