
2026.10.23
日立ソリューションズが運営するコミュニティ「ハロみん」は、2026年9月1日にオンラインイベント『北米最大級のAIカンファレンスから読み解くAIエージェント最前線2026 ~攻めと守りの両立~』を開催しました。
AI活用は多くの企業でPoCや個人利用の段階を超え、自律的に判断・実行する「AIエージェント」を業務プロセスへ本格的に組み込む段階へと移りつつあります。しかしその一方で、AI活用の拡大に伴い、セキュリティ、ガバナンス、運用管理、コスト管理といった課題も顕在化し、「攻めの活用」と「守りの統制」の両立が企業にとって重要なテーマとなっています。そんな中、2026年8月にアメリカ・ラスベガスで開催された世界最大級のAIカンファレンス「Ai4 2026」では、AIエージェントの進化や実践事例に加え、企業が直面する課題への対応も大きなテーマとして議論されました。当社からは、シリコンバレーに駐在する社員も参加しています。
本イベントでは、登壇した社員が見聞した注目のキーノートや、過去3年間に変遷したトレンド、2026年の注目領域、AIエージェントの実運用に向けて何が期待されているのかなど、AI専門家の視点で考察しました。また、Ai4 2026の個別セッションの内容を参照しながらAIを前提に工程そのものと人の役割を組み直す議論について、日本企業の意思決定と定着という側面で分析しました。さらに、参加者からの疑問や意見に登壇者が回答するリアルタイムQ&Aセッションも実施するなど、盛りだくさんのイベントとなりました。
以下にその内容をダイジェストでお伝えします。AIに興味のある方、AIを事業活動や企業活動に活用していきたい方などは必見です。ぜひご覧ください。
<登壇者>

北林 拓丈
株式会社日立ソリューションズ
業務革新統括本部 AIトランスフォーメーション推進本部 チーフAIエバンジェリスト
兼AIエージェント推進室 チーフAIビジネスストラテジスト
日立AIアンバサダー
新卒で現日立ソリューションズに入社し、JavaエンジニアとしてECサイトの開発・運用に従事後、米国での研修を経て、主に大手通信事業者のシステム再構築プロジェクトにコンサルタント、ITアーキテクト、プロジェクトマネージャーとして参加。2020年から2023年までシリコンバレーに駐在し、スタートアップとのパートナーシップや日系企業間連携による新規事業の立ち上げと拡大に従事。その間生成AIにも関心を持つ。2024年4月から新設されたAIトランスフォーメーション推進本部と兼務になり生成AIエバンジェリストとして活動。2026年から同本部専任となりAIエージェント推進室にてAX戦略策定の全体統括の傍らAIエバンジェリストとして継続活動中。

川守田 慶
Alliance Manager, Business Development and Alliance Group
Hitachi Solutions America, Ltd.
2009年に現日立ソリューションズに入社後、2020年まで統合システム運用管理「JP1」の開発・保守に従事。2021年まで自社商材のプロモーション活動を経験した後、2024年3月までブロックチェーンの自社サービス事業の立ち上げにおいてプロジェクトマネージャーとして開発に従事。2024年4月からHitachi Solutions Americaに出向。DevSecOps、Data Management、AIにフォーカスし、トレンド調査やスタートアップ発掘を担当。
前半のセッション1では、川守田がAi4 2026を視察した内容を基に、注目のキーノートや過去3年間に変遷したトレンド、2026年の注目領域などについて報告しました。

Ai4に3年連続で参加した川守田はシリコンバレーからライブ講演
Ai4は、特定ベンダーの製品体系に属さないAIカンファレンスで、セッション、パネルディスカッション、展示、ネットワーキングなどで構成。導入企業・技術企業・研究者などが産業横断でAIの成果や課題、運用実態を多面的に議論する点が特徴です。今年は1万2,000名以上が参加し、世界主要AIカンファレンスの中でも最大級のイベントに拡大しています。川守田は、「今年はエージェントの本番運用に関する議論が目立っていたほか、成果のみならず、導入における課題や運用する上で必要となる判断まで具体的に語られていたのが印象的でした」と述べました。
次に注目のキーノートを紹介しました。「The Architects of Intelligence: A Historic Convergence」というセッションでは、AI分野を代表するGeoffrey Hinton氏、Fei-Fei Li氏、Andrew Ng氏らが登壇し、AIと社会のこれからを議論しました。AIリスクの評価や規制の設計などに意見の相違はあったものの、3名とも一律の開発停止・減速には否定的な考えを示していました。
川守田は、「Ai4に私は2024年から今年まで3回連続で参加してきましたが、その評価軸は"AIは使えるか"から"AIを安全・安定・採算的に回せるか"へ移ってきたように感じました。今年はモデルの選定と同じ土台で、文脈・統制・費用・人の役割を設計する年になっていました」と述べました。特に2025年の「組み立てて広げる」から、2026年は「エージェントに何をどこまで任せ、どう監督し、採算を管理するか」という議論が目立っていたといいます。
そこで、AIエージェントの本番運用を支える4つのトレンドについて言及しました。トレンドの1つ目は、コンテキストエンジニアリングです。去年までは企業文脈(コンテキスト)を整理してAIに与えることが必須スキルでしたが、今年はコンテキストの構築から継続更新までを行う必要が生まれ、エージェントの精度を左右する企業固有の知識・ルール・判断履歴を、どう取り込み、更新し、監査するかが論点となりました。また、手作業だけでなく既存成果物や実際の業務を基に自動で文脈を生成・更新する方法も提示されました。
2つ目は、ガバナンスです。統制・コスト・信頼を一元管理し、権限、ポリシー、監視、利用量・予算、証跡を共通の制御面で一体管理する考え方が示されました。それにより、安全性・信頼性の確保は説明原則にとどまらず、身元確認や、許容できない動作を実行前に止めたり、実行後に追跡したりする運用機能へ具体化されるといいます。また、推論コストは文脈と経路の設計で低減させ、採算は業務成果と費用を対応させて測るという提案も行われました。
3つ目は、スケーラブルAgenticアーキテクチャーです。これまではマルチエージェントを前提としたGraphRAG(知識グラフと検索拡張生成の組み合わせ)とMCP(Model Context Protocol)による連携設計が焦点でしたが、今後は画面からエージェントが情報・ツールを使う仕組みへと移行します。MCPなどでモデルとツールを接続しやすくなり、設計対象は人向け画面(ユーザエクスペリエンス)から、エージェントが情報・ツールを利用する仕組み(エージェントエクスペリエンス)へと広がります。情報構造、利用条件、認証・権限、実行制御、判断履歴、監査に加え、人が担う承認・例外処理まで含めて設計する必要があります。
4つ目は、Human in the Loopです。これは人が監督することで信頼を担保する考え方ですが、AIを既存工程のどこに追加するのかといった議論から、AIを前提に工程そのものと人の役割を組み直す議論へと広がっています。人が承認・判断・例外処理を担うワークフローを定め、AIによる判断や実行が現場で受け入れられ、使われ続ける状態までを一体で設計します。
また、今後の注目領域として川守田が挙げたのは、世界をシミュレーションし、ロボットなどの行動を予測する世界モデルが新たなAI領域として存在感を示していることです。実世界の映像をデータとして取り込むことで、環境の状態と行動によって起きる変化をデータから学習します。それを実機で動かす前にシミュレーションすれば予測・評価できるため、ロボットなどの実システムへの適用が可能になります。しかし、製造・物流などの企業環境で先に活用が検討される一方で、家庭用ヒューマノイドにはまだ少し時間がかかるなど、世界モデルの活用は用途によって実用化の時間軸に差があると指摘しました。
ここまで、4つのトレンドと注目領域を示した川守田でしたが、それぞれに適用範囲を広げる「攻め」の設計と、実行を確認して止める「守り」の設計を同時に進めることがAIエージェントをスケールアップする上で重要だといいます。片側だけ進めると精度が落ちるか、使われないまま止まってしまう可能性があるということです。
最後に川守田は、「AIの本番運用では、モデルだけでなく文脈・統制・費用・利用の仕組み・人の役割までを一体で設計し、継続的に更新する必要があるという点が、Ai4 2026で見えたトレンドでした」と述べ、講演のまとめとしました。
後半のセッション2では、北林が「グローバルトレンドから読み解く、日本企業のAI活用シナリオ ~攻めと守りをどう両立させ、次に何を見据えるか~」というテーマで講演しました。ここでは、川守田が4つ目のトレンドとして紹介した、AIを前提に工程そのものと人の役割を組み直す議論について、日本企業の意思決定と定着という側面で分析し、Ai4 2026の個別セッションを引用しながら掘り下げました。

アメリカから帰国後、AIエバンジェリストとして活動する北林
はじめに、北林が示したのは、なぜ多くの日本企業のAIは実証(PoC)で止まり、本番の成果へと進めないのかという課題です。その理由を3つ挙げました。まず、稟議・合議の文化によってデータはあるのに決められないという問題です。次に、PoC疲れです。実証ばかりで本番に至らず成果が積み上がりません。そして、リスク回避が先に立つ守りへの傾斜です。北林は「Ai4 2026において、あるCFOが、問うべきは"AIで何ができるか"でなく"意思決定の遅さをどう解決していくか"という問題意識だと断言していました。AIは単なる道具ではなく『意思決定のOS』なのだとそのCFOはいいます」と述べました。
道具(Tool)として見れば、何が生成できるか、どれだけ時間を節約できるか、出力は印象的かといった考え方になりがちですが、運用者(Operator)の視点で発想すれば、どの意思決定が改善されるのか、どの行動が前倒しになるか、どの財務成果(指標)が変わるのか、結果責任は誰が持つのか、という見方に変わります。組織の課題が"意思決定の遅さをどう解決していくか"であるならば、"ビジネスの動き方をどのように変えるか"になるはずだと北林は話します。「組織にデータは欠けていません。本当に足りないのは、そのデータを成果に変える意思決定の速さなのです」
そこで北林は、意思決定を速めるループ(輪)を提示しました。このループは5つの要素で構成されていますが、大切なのはガバナンスを実現するのが個々の段階ではなく、全体を包む輪であることです。中核にあるのは常に「人間の判断」と「財務的な説明責任」だといいます。AIがすべて処理するのでなく、人が決めるフェーズを速くする仕組みです。

意思決定を速めるループの仕組み
しかし、Ai4 2026で登壇したあるCTOが示したデータによれば、現実にはAIエージェントの89%が実運用に至らず、世界共通で「PoCの壁」が存在するといいます。原因は3つあります。まず、高コストのため予算が数か月で尽きること。次に、ROIが未達になり投資対効果を説明できないこと。そして、ガバナンスに失敗し統制が追いつかず本番への展開を止めてしまうことです。
この「PoCの壁」を越えて本番化する鍵は、Ai4 2026で紹介されたカスタマー向けAIエージェントの構築事例によれば、以下の3つの要素を同時に満たすことにあるといいます。1つ目は「データへの理解」です。推測に頼らずすべてのやり取りを100%処理し、成功パターンを定義します。2つ目は「目的別の構築」です。汎用LLM(大規模言語モデル)に丸投げせず、最も成功した実例から構築し継続改善していきます。3つ目は「統合」です。チャネル・工程・法域(州や国)を跨いでオーケストレーションし、狭い単機能のPoCで終わらせないことが重要だといいます。

AIを拡張する鍵はエージェント・プロンプト・データ基盤を束ねる「統合」にある
Ai4 2026に登壇したある企業のディレクターは、特に本番化でつまずきやすいのは、統合のフェーズだといいます。多くの企業はポイントソリューション(単機能ツール)を乱立させ、点の状態のまま運用しますが、AIを拡張する鍵は個別作業の自動化ではなく、エージェント、プロンプト、データ基盤などを束ねる統合層で拡張することにあると指摘しました。単一業務からスタートし、クロスチーム/クロスファンクションで部門を跨ぎ統合することで、拡張・意思決定・実行が回るということです。
もう1つの本番化を支える設計は、「自社データで差別化」することです。Ai4 2026のあるセッションでは、差別化の源泉は市販ツールでなく「自社データ×カスタムモデル」にあるとしていました。市販のAIエージェントをそのまま導入しても、AIは会社固有の業務を知らないため自社ならではの差別化につながらず、使われなくなることで投資が無駄になってしまいます。そのため、会社の資産である社内文書や専門知を使った独自のオープンモデルを自社データで微調整すれば、唯一の模倣困難な知能になるという主張です。その実践ステップは、①全業務を棚卸しし、各チームから聞き取りを行い、全ワークフローを可視化します。これが最も重要だといいます。次に、②単純・高頻度・時短効果の大きい業務から着手します。そして、③社内文書で微調整し、自社を理解するモデル/エージェントを構築することでカスタムAIを内製します。
そこで北林は、本セッションで最も重要なポイントとして、AI活用を広げる「攻め」と、それを安全・安定・採算で回す「守り」は、どちらか一方でなく同時に設計することだと強調しました。「攻めを広げるほど守りが必要となるため、AIを止めず安全かつ安定的に回し続けるガードレールとして、『ガバナンス』、『セキュリティ&リスク』、『運用・コスト』の3本柱で具体化し、『やめる勇気』も視野に入れながら最初から設計に組み込むことが大事です」と北林は述べました。

AI活用を広げる「攻め」とそれを支える「守り」は同時に設計する
続いて、AIを人と組織に根づかせる方法について、Ai4 2026で発表された複数のセッションを紹介しました。それによると、AIの成果を決めるのは、技術そのものではなく「組織の適応」であるといいます。その効果を測る5つの要素として、①ガバナンス:枠組みを最初に定め、②組織の準備:受け入れ体制と意思決定を整え、③ユーザー受容:現場が納得して使いこなし、④技術性能:精度・速度が業務水準を満たした上で、⑤組織インパクト:事業成果として現れることを示します。この順に積み上がって初めて、AIは成果になるといいます。③のユーザー受容がボトルネックになるケースもありますが、AIは現場に強制するのではなく、露出(なぜ必要かを示し、まず触れてもらい)→信頼(小さな成功で信頼を積み)→実験(自分のデータで精度を確かめ)→統合(日常業務に組み込んで定着させる)という4つの段階を経て、自然に根づかせることが必要だと北林は提案しました。
Ai4 2026では、AIの導入はもはや済んだ話題であり、議論は「成果」(ROI)をどう証明するかに移っていました。北林は、「私たちはつい、AIの利用率や節約した時間、生成の量などの"偽の速度"に安心してしまいがちですが、本来測るべきは、どの意思決定が前倒しになったか、収益品質・マージン・運転資本・リスク、P/L(損益)・TCO(総コスト)にどう指標として表れるか、そして"何をやめられたか"にあります。特に、最後の何をやめられたかで成果を証明することが、私のセッションで最も問いたいポイントでした」と述べました。やめる業務が1つもないなら、それはOSではなく、新たな業務が追加され、仕事が増えただけ。日本のように業務プロセスを足し算しがちな組織文化への処方箋として、北林は「成功時に廃止する業務を"先に"定義すると、効果が明確になり、現場も本気になります」と述べました。
次に何を見据えるかについて、北林は、「まずは"攻めと守りの両立"で意思決定と定着を固めることが重要です。世界モデルと物理世界のAIは時間軸を分けて注視し、来るべき波に備えましょう」と呼びかけ、自身のセッションのまとめとしました。
その後、Q&Aセッションも行われました。まず、「人の適応モデルにおいて、現場の心理的ハードルを下げ、信頼を獲得するために効果的な施策は何でしょうか。評価指標やインセンティブ設計などで工夫できそうな点があれば教えてください」という質問に対し、北林は「当社の取り組み例ですが、AI活用のアイデアコンテストをチーム単位で開催したり、活用を推奨する標語を作ったりしました。また、検索エンジンの利用よりもAI活用を奨励するほか、定期的にハンズオンセミナーを開催し、身近なユースケースでAIの効果を実感してもらう取り組みも行っています」と回答しました。
また、「業務エージェントの本番運用を推進しつつ、フィジカルAIの波に乗り遅れないために日本企業が今から用意しておくべき現場データとは何でしょうか」という問いに対し、北林は「人が整備・統制する定義・標準・ポリシーを明示するとともに、過去の業務成果物から文脈を抽出・構造化して、文書では捉えにくい例外も実際の業務・操作を観測しながら文脈に反映しておくことも必要です」と述べました。
さらに、「現場の業務ルールや知識が常に変化する中で、文脈を形骸化させないための具体策について、海外の先行事例があれば教えてください」という質問には、川守田が応じ、「業務を追跡し、古いデータを振り分ける作業を支援するツールをスタートアップが開発しています。日々の操作をリアルタイムに監視して文脈を作り、その文脈をデータ基盤に自動的に収集・整理して、精度や鮮度を保持するためのメンテナンスを自動実行するものです」と紹介しました。
加えて、北林の講演の終盤で提議した「うまくいったら、何をやめるのか?」について、「それはどのような粒度で考えるべきか、どのような事例があるのでしょうか」という疑問に対し、北林は「既存の業務にAIを適用しても効果が限定的な場合、人が行っていた業務をすべてAIに任せるAIドリブンの考え方で実行し、限界まで検証しないと効果は確認できません。当社も試行錯誤しながら事例を積み上げているところです」と述べました。
こうしてQ&Aセッションでは活発に意見が交わされ、劇的に進化するAIに対し参加者から想定以上の高い関心が寄せられる中、すべてのプログラムは盛況のうちに終了しました。
日立ソリューションズでは、協創で未来をつくっていくオープンなコミュニティ「ハロみん」を、2024年4月より運営しています。「ワクワクする未来へ 一歩踏み出す、協創の出発点」を掲げ、「繋がる」「探索する」「深める」「創る」をコンセプトにイベントや参加者同士の交流等の活動を行っています。モビリティ・セキュリティ・まちづくりDX・先進技術など、幅広いテーマを取り上げております。その一環で、今回のようなイベントもオウンドメディア「未来へのアクション」でご紹介していますので、皆さんのご参加もお待ちしています。今後のイベント予定はこちらをご参照ください。
https://future.hitachi-solutions.co.jp/community/
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https://www.hitachi-solutions.co.jp/cgi-bin/premium/chatroom_entry/