皆さんは「協創」という考え方を知っていますか?これは、企業や人が協力して新しい価値を生み出していく手法のこと。今回は、社会の事例や林さんの経験を交えて、協創について解説していきます。
林 輝幸
富山県出身。2016年、東京大学に現役合格。クイズ研究会(TQC)に所属し、競技クイズを始める。クイズ番組『東大王』(TBS系)に東大王チームとして出演。東京大学文学部卒業後は、クイズプレーヤーとして『Qさま!!』(テレビ朝日系)などクイズ番組を中心にテレビ出演。また、クイズ制作集団「Q星群」を立ち上げ、クイズを軸とした事業やイベントなどを行っている。
今回は、協創(共創)について解説していきます。その前にまずは、前回のクイズの答えを発表します。
答えは③コンチェルトです。
協奏曲とは、ピアノやヴァイオリンなどの独奏楽器とオーケストラが、文字どおり協力して演奏する曲を表します。ちなみに、この「コンチェルト」という言葉は、現代で使われている「コンサート」という言葉の語源だとも言われています。
さて、そんな協奏、もとい協創とはそもそも何なのでしょうか?日立ソリューションズではこのように定義しています。「日立ソリューションズとユーザー企業の双方の知見やノウハウを持ち寄り、新しい価値をつくり出すこと」。つまり、自社とお客さまが力を合わせて新しい価値を生み出すことですね。また、一般的には、企業とお客さまだけでなく、企業同士、個人と企業、個人同士が目的を共有しながらコラボレーションをして、新しい価値を生み出していくことも協創と表現されます。
この協創ですが、第一回と第二回でご紹介したSX(Sustainability Transformation)の実現のために、あらゆる企業や個人にとって欠かせません。なぜなら、サステナビリティに関わる問題は、環境保護、社会的公平性、経済的成長など、多岐にわたる課題が絡み合っており、一つの企業や個人だけで解決するのは困難だから。協創によって異なる視点やリソースが集まり、より包括的で効果的な解決策が生まれます。
また、異なる業界・分野の知識と技術を組み合わせることで、新たなイノベーションが生まれやすくなることもメリット。これまでにない発想やテクノロジーを用いて、新たなアプローチで課題解決につなげることができます。さらに、プロジェクトの規模が拡大することもポイントですね。企業同士が協力することで、個別では実現しにくい大規模なプロジェクトやインフラ投資が可能となります。
個人的に、協創は無限の可能性を秘めていると思っています。なぜなら世の中には多種多様な業態・業種があり、星の数ほどの企業が存在しているから。そしてそのすべての企業に社員が存在しており、十人十色の想いを抱いています。そんな企業たちが、無限に近い選択肢のなかから力を合わせる企業を選べるということは、イノベーションの可能性が無限に存在しているということだと思うのです。世界中のさまざまな課題に対して、さまざまな企業が協創し、これまでにない解決策を生み出していく。これは、ものすごく素晴らしいことですよね。
さて、ここで箸休めのクイズです。
答えは②竹です。これまで全く意識の外にあった竹という素材に目をつけたことで、一気に性能が発達しました。人や企業とのコラボレーションではないですが、異国の新たな素材との組み合わせにより生まれたイノベーションという観点では、これも協創に近いですよね。
これまで協創の概念について話してきましたが、社会ではどのような協創が起きているのでしょうか?これから、日立ソリューションズの事例をご紹介しながら、僕が感じたことを話していきます。
一つ目の事例は日立ソリューションズ×医療法人です。この医療法人は、東海地方を中心に産婦人科クリニックを展開し、関東・関西の協力医療機関も含めると計20の産婦人科グループを運営しています。
この医療法人では、新型コロナウイルス感染が拡大する中、妊婦さんが健診のために通院に来ていましたが、母親教室など、助産師と接点を持つ各種教室はすべて休止となりました。また、妊婦さんは通院途中や来院によって新型コロナウイルスに感染するかもしれないと警戒し、外出をためらうようになりました。その結果、妊婦さんと助産師や看護師の接点が減り、お悩み相談の機会が減ってしまったのです。それを解決し安心してマタニティライフを過ごしていただくために、患者さんが、ビデオ通話などオンラインで気軽に相談ができるサービス(以下、オンライン相談)を開始。ここから、来院者だけでなく一般企業の女性向けオンライン相談サービスの提供にも派生していったそうです。
ところが、サービスを進めていく上で課題もありました。「従業員に使ってもらうために、どのように啓発していけばいいのか」「女性に特化したサービスに加えて、全従業員に対してのサービスも導入したい」という企業の悩みと、「サービスを受けた場合、相談した内容が人事部門など社内へ伝わるのではないか」という利用者からの不安の声があったのです。
そこでタッグを組むことになったのが、日立ソリューションズです。日立ソリューションズが1,500社以上に提供する人事総合ソリューション(※1)の中に、医療法人のオンライン相談を組み込むことで、全社員向けサービスの中の女性向け相談として幅広く使ってもらえて、利用の安心感も高まるのではないかと考えたのです。
これは、日立ソリューションズにとっても、医療の専門家とタッグを組むことで、サービスの質を向上させられるという相乗効果がありました。
元々は地域密着型で、クリニックの近くに住む患者さん一人ひとりをサポートすることから始まったサービス。ところが、協創によりターゲットは全国まで広がりました。これまで抱えていた悩みを誰にも相談できなかった方、悩みの解決法がわからなかった方に対して新たな接点をつくり出したこの事例は、まさに協創で新たな価値を生み出していると言えますよね。
女性特有の悩みは多岐に渡り、まだまだベストな解決策が見つからないものもあります。この取り組みは、ITを用いたこれまでにない手法で、課題解決に近づいた事例ですね。古くから、ジェンダーに加えて人種や国籍差別に対して声を上げる取り組みや平等のための施策は行われており、SDGsの発表以降は特に活発化しています。中には、賛否両論の取り組みもありますが、僕はチャレンジを通して、賛否を生み出していくことも重要だと考えています。もちろん誰かを傷つけるような施策は絶対に許されませんが、そうでない場合、「否」が多ければ変えていくヒントになるし、「賛」が多ければ新たな価値が受け入れられ始めている証になる。今回の医療法人のプロジェクトはもちろん「否」があるようなものではないですが、このようなチャレンジを通してもっと社会がいい方向に動いていくといいなと考えています。
もう一つご紹介したいのが、日立ソリューションズ×自治体の事例です。この自治体は関東の中でも非常に人気が高く、「住みたい街」として常に上位にランクインするような都市です。そんな自治体が「ITの力で、3年後、もっと世界中の人々の賑わう都市にする」となるために、日立ソリューションズとタッグを組みワークショップを行いました。
ワークショップには市民や日立ソリューションズ社員など総勢20名が参加。リアルとバーチャルをつなぐことで「この都市をもっと魅力的にするにはどうすればいいのか」、あるいは「住む人、働く人、観光などで訪れる人の不便を解消し、ニーズを満たすためには、どんなソリューションが求められるのか」などを、真剣かつ楽しく議論しました。ここで出たアイデアは、実現に向けて日立ソリューションズと共同で検証が行われているようです。
このプロジェクトについて知った時、僕は地元の富山県のことを思い出しました。
富山県には、人口の流出や移動手段が限られていることなど、さまざまな課題があります。
そんな状況下で、このプロジェクトのように、これまで取り入れていなかったITを取り入れたり、県民と県外の方がつながって想像もしていなかったアイデアを生み出していけば、課題解決の新たな糸口が見つかるのではないでしょうか?
例えば、富山県が誇る自然とITを掛け合わせてみたり、寿司とITの異色のコラボをしてみたりなど可能性はさまざま。もちろん、富山県の行政関係者の方々が一生懸命さまざまな取り組みに励んでいるのは知っていますが、より多くのアイデアを集める手段としてアリだと考えています。
ご紹介した二つのプロジェクトのように、協創は新しい価値を生み出し社会を豊かにする力を持っています。読んでくれている皆さんも、少しずつ協創の可能性がわかってきたのではないでしょうか?
さて、これまでは日立ソリューションズの事例を紹介してきましたが、学生や若手社会人の皆さんにとっては、企業の協創というものは、少し自分とは遠いところにあるかもしれません。そこで、僕自身の協創経験もご紹介していきます。
まずは僕が代表を務めるクイズ制作団体・Q星群にまつわるクイズから始めましょう。
答えは③答えが写真の中にある です。写真展の主役は当然写真。そのため、クイズを来場者増のためのフックとしながら、より写真に注目してもらえる仕掛けはないかと考えました。そこで、クイズの答えが写真の中にあるという設計にして、よりじっくりと写真を見ながら答えを考えてもらえる仕組みをつくったのです。写真も見られてクイズへの興味も促進できる。写真展×クイズの協創で、多くの来場者を獲得しながら、写真とクイズの魅力をさらに知ってもらえる機会を創出できました。
そんなQ星群自体も、僕一人ではなく協創によって設立・運営されています。富山県に住んでいた僕はクイズ好きの高校生でしたが、当時の北陸にはクイズ研究会を持つ高校が少なく、クイズに取り組もうにも環境がない、という悩みを抱えていました。上京して東京大学に入学した後も、いつか僕のように環境が原因でクイズに触れられない人の受け皿になるような活動がしたい、という野望を抱いていたのです。そんな折に、仲間たちと「クイズがもっと身近になるようなイベントをやりたいよね」という話になり、団体を設立することを決めました。活動内容は、地方でのクイズイベントの開催や企業との協創、またSNSで毎日1問クイズを発信し、多くの人のクイズへの入り口をつくっています。
毎日のクイズも、個人の能力を掛け合わせながら作成されています。メンバーがさまざまなジャンルのことを勉強し、それをみんなでシェア。そこでの気づきをもとに、各々がクイズを制作します。僕は、最近では制作ではなく、チェックに回ることも多いです。「こっちの切り口のほうがいいんじゃない?」「この表現のほうが刺さるんじゃない?」と、自分のクイズ制作の経験を活かして、みんなのクイズをより良いものにするアドバイスを行っています。
また今振り返れば、僕が出演していた「東大王」や「QuizKnock」も協創でつくられていましたね。僕自身は「これが得意ですよ!」「こんなキャラクターですよ!」とアピールするタイプではなかったのですが、番組ディレクターやチームのリーダーが僕の特徴を掴んでくれて、最大限輝くような進行をしてくださいました。また僕自身も「このメンバーはこういう傾向があるから、今この話題を投げかけてみよう」と考えながら発言をしていました。お互いの魅力を活かし合ってつくられていたコンテンツですね。
今回の記事テーマについて考えていたときに気づいたのですが、クイズほど協創につなげやすいものはないと考えています。なぜならクイズとは分野ではなく、手法だから。あらゆるジャンルの物事や人、商品・サービスとのコラボレーションが可能です。記事の作成が、これまでの自分の活動の多くは協創だったという気づきのきっかけになり、今後はより協創を意識していこうという決心を抱く機会にもなりましたね。
さて、これまでご紹介してきたSX実現や協創においては、「どのような社会をつくりたいのか」という目標設定が欠かせません。現状を分析して目標を立てる場合もありますが、実現したい未来から逆算して目標を立てるバックキャスティングという手法も存在します。
理想の未来を具体的に設定することで、企業や組織が一貫したビジョンを持つことができ、そこから逆算して計画を立てるため、目標が明確になります。また、現状に縛られず、長期的な視点で計画を立てられるため、将来的な課題に対応しやすくなります。
日立ソリューションズでも、このバックキャスティングという手法を使って2050年の理想の姿を描き、新たな企業理念やパーパスを制定しました。
というわけで次回は、バックキャスティング手法の詳細やメリット、僕が考える理想の未来についてご紹介します。バックキャスティングは、社会や企業の大きな課題だけでなく、個人の目標に対しても使える手法です。皆さんの日常生活にもきっと役に立つ内容だと思うので、次回もぜひご覧ください。
それでは、最後はそんなバックキャスティングに関するクイズでお別れしたいと思います。答えは次回の記事で発表します。お楽しみに!