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レジ袋有料化や紙ストローの導入。これって一体何のため?|林 輝幸

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「そもそもサステナビリティって何?」「なぜ必要なの?」「日本ってどんな状況なの?」。クイズ王 林さんが気になる環境問題や、東大を受験した当時の話を交えながら、そんな疑問に答えていきます。

※本記事は2024年7月に掲載されたものです。
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    林 輝幸

    富山県出身。2016年、東京大学に現役合格。クイズ研究会(TQC)に所属し、競技クイズを始める。クイズ番組『東大王』(TBS系)に東大王チームとして出演。東京大学文学部卒業後は、クイズプレーヤーとして『Qさま!!』(テレビ朝日系)などクイズ番組を中心にテレビ出演。また、クイズ制作集団「Q星群」を立ち上げ、クイズを軸とした事業やイベントなどを行っている。

地球の環境や社会って、結構まずい状況。

環境問題や経済格差、多様性に関しては、テレビ番組や学校の授業などで僕が小学生の頃から話題に上がっていましたが、最近感じるのは、問題解決のための活動のスピード感が速くなってきているということです。例えば、ここ最近で一気にストローがプラスチックから紙になったり、レジ袋が有料になったり、「働き方改革」が行われたりなど、「当たり前」がすごい速さで変わってきていますよね。僕がいま気になっているのは、「代替食品」です。昔からあるものだと「カニカマ」や「マーガリン」が代表例で、最近では大豆で再現された肉や、こんにゃくで再現された魚なども登場しています。既存の食品を代替する目的はさまざまで、家畜の生産工程で排出される温室効果ガスの抑制や、原材料が属する生態系の保護、アレルギーがある方の選択肢を増やすことなどが挙げられます。日本は年々人口が減少していますが、世界的には増加中。人口が増える中で限りある資源を活用しつつ、環境にも配慮する取り組みとして、非常に注目しています。

さて、環境問題や経済格差、多様性への取り組みが活発になっているという話をしましたが、そのスピード感の理由として「問題の深刻さが明らかになってきている」という背景があります。環境を例に出すと、国土交通省の発表では、2003年~2012年の世界の平均地上気温は1850年~1900年と比べ0.78℃上昇しており、21世紀末時点での平均気温は今よりも0.3~4.8℃上昇すると考えられています※1。地球温暖化から起因する問題の一つに、海面の上昇があります。雪山や北極・南極の氷が溶け、海の水量が増加して陸まで侵食し、国土が沈んでしまう恐れのある国や地域もあるのです。南太平洋の島国であるツバルは「世界で最初に海に沈む国」とも言われており、平均の標高が1.5mを下回る都市もあるくらいなんです※2。

また、教育、労働環境などの不平等も大きなリスクです。格差が深刻化することで、社会が不安定な状態に。これにより、犯罪率の上昇や社会的な分断、差別などが起きる可能性が高まります。実際に米国では貧困格差が顕著で、その現実から逃れるための薬物やアルコールの中毒者も増加傾向にあります。このようなさまざまなリスクを避け、環境・社会・経済を持続させて、より良い状態にしていくために、各種取り組みが重要なのです。この「環境・社会・経済を持続させて、より良い状態にしていく」という考え方を「サステナビリティ(持続可能性)」と言います。サステナビリティは、地球の限られた資源を効率的に利用しながら、環境保全と社会的公正を両立させることを重視しており、今や世界共通の重要事項となっています。

さて、そんな「サステナビリティ」について、ここで早速クイズです。

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答えは「③Economy(経済)」です。この重要な3つの「E」について、それぞれ解説していきます。1つ目の「E」は環境(Environment)です。地球では、気温の上昇や森林破壊などさまざまな環境問題が生じています。僕たちが生きる地球を後世に長く引き継ぐためには、それらの問題を解決することが必要不可欠。そのため、環境の保護は非常に重要です。2つ目は、Equity(公平性)です。貧困や格差、人種や性別による差別が大きくなると、個人の活躍の機会が失われ経済成長が停滞し、持続可能性が損なわれます。サステナビリティの実現には、公平で多様性のある社会づくりが欠かせません。3つ目は、Economy(経済)です。経済の持続可能性は、人々の生活の持続可能性に大きく関わります。これまで多くの企業は短期的な利益追求を重視してきましたが、企業が極端な成長をめざすと、劣悪な労働環境や賃金の低下を招き、社員の生活に影響が出ることも。現代では、企業経営と働きやすさ、さらには地球環境とも両立し、長期的な視野で成長をめざすことが求められています。3つも横文字が並び、ややこしくはありますが、「Environment」「Equity」「Economy」と唱えて覚えてみてください。

SDGs達成と東大合格。どちらも目標設定が大切。

サステナビリティの具体的な目標としてSDGs(Sustainable Development Goals)があります。SNSやテレビでこの言葉を見たことがある人も多いのではないでしょうか。2015年の国連総会において全会一致で採択された「我々の世界を変革する持続可能な開発のための2030アジェンダ」という文書の一部で、2030年までに持続可能でよりよい世界をめざす国際目標です。17のゴール・169のターゲットから構成され、「経済」「社会」「環境」にバランスよく取り組み、地球上の誰一人取り残さないことを誓っています。

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SDGsは厳密にターゲットを分け、そこに対する目標を決めていますが、このように目標が言語化されていることは目的達成において非常に重要ですよね。いくら「環境を守ろう!」「平等をめざそう!」と声を上げても、現在どんな問題があるのか、解決のために何をすればいいのか、どのくらい取り組めばいいのかが分かりません。しっかりと言語化して、全員が同じ目線・基準で取り組むことが必要不可欠です。

僕も個人的に、目標設定をかなり重要視しています。2016年に東京大学に現役合格することができたのですが、高校一年生の時点で「東大入学」を大きな目標として定め、合格に至るための道筋を逆算して中期的目標を立てました。「この時期までに、この教科をこれくらい解けるようにする必要がある」「じゃあ、一月ごとにこれくらいの問題集を解こう」「1日これくらいページを進めよう」と初期の段階で細かく目標とフローを定めることで、自分がやるべきことが明確になったのです。テーマや規模は異なりますが、本質的な目標設定の大切さはSDGsに関しても同じだと考えています。

そんなSDGsの目標の中で僕が注目しているのは、「目標5:ジェンダー平等を実現しよう」です。少し前に、僕が代表を務めるクイズ制作団体・Q星群を法人化しました。社員にはもちろん女性もおり、法人化のタイミングで、性別に関係なく平等に働ける企業スタイルについて考えるようになりました。経営者としてまだ第一歩を踏み出したばかりなので、具体的な取り組みについてはこれから思案していきますが、誰もが安心して働ける環境をいち早く構築していきたいと考えています。また、「目標6:安全な水とトイレを世界中に」も意識しています。自宅用に2Lペットボトルの水を定期的に箱買いしているのですが、これ以外には絶対に追加で水を買わないようにしています。日本は水のインフラに恵まれた環境ですが、世界の40%以上の人は水に関する何らかの問題を抱えていると言われています※3。飲み水が十分に得られない人や、トイレの回数が制限されている人。自分の「無駄」が世界の誰かを圧迫してしまうかもしれないという自覚を持って、生活しています。

ではここからは、国連が設立した機関・Sustainable Development Solutions Networtkが発表したSustainable Development Report 2023を元に、各国のSDGs達成度を見ていきましょう。まずは日本。2021年は、国別達成度ランキング18位、2022年は19位、2023年は21位と下がってしまっています。とはいえ、すべての目標を達成した場合を100として算出するSDG Index Scoreでは、79.8%を記録。2030年に向けて着実に前進しています。各項目で見ると、「目標1:貧困をなくそう」はすでに達成基準を上回っています。また、2023年は少し評価が下がってしまいましたが「目標4:質の高い教育をみんなに」も、2022年までは基準に到達していました。日本の識字率はほぼ100%と言われているので、この結果には頷けますね。一方で、「目標13:気候変動に具体的な対策を」「目標14:海の豊かさを守ろう」「目標15:陸の豊かさも守ろう」など環境に関する基準は、停滞している現状があります。ここがSDGsの難しさ。一般的に産業の発展と環境の保全は、トレードオフだと言われています。例えば、観光業を営む企業がリゾート地にホテルを建てた場合、安全のために防波堤を設けると思います。そうすると、観光客が増えて経済的には発展しますが、防波堤の影響で海の状態が変化して生態系が脅かされたり、ポイ捨てが増えて自然が汚染されたりしてしまう可能性も高まります。いかに、新たなイノベーションを起こし、トレードオフを回避していくかが、SDGs達成の鍵だと言えますね。

いま、「フランスSDGs革命」が勃発中。

次は世界の現状を見ていきましょう。SDGs達成度1位はフィンランドで、2位スウェーデン、3位デンマークと北欧諸国が上位につけています。さて、そんなフィンランドに関するクイズです。

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正解は「①拾うとお金をもらえる」です。フィンランドでは、飲料用の空き缶や空ペットボトルをスーパーマーケットなどに設置された専用回収機に投入すると、1本につき10〜30セント(1セント=約1.6円*)の金券が発行されます。金券はそのまま店で使うこともでき、レジで現金に換金もできます。このシステムを、Pantti(パンッティ)といいます。このPanttiのお陰でポイ捨てが減りますし、ポイ捨てされたとしても誰かが拾って回収機に投入してくれます。
*2024年5月現在

フィンランドでは他にも、小学校から大学までの学費が無料、18歳未満の医療費も無料、国内で消費しているエネルギーの40%が再生可能エネルギー※4、ジェンダー平等に関する法律があるなど、SDGs達成のためのさまざまな制度や仕組みが充実しています。

また、2017年に10位だったフランスが、2023年には6位まで順位を伸ばしており、世界から注目されています。実はフランスでは、2015年に、2020年以降の温室効果ガス削減に関する世界的な取り決めである「パリ協定」が結ばれたのです。自国で結ばれた協定の達成に向けて、大きな変化が巻き起こっているようですね。フランスの取り組みには、「ペットショップでの犬や猫の販売禁止」や「ファストフード店での使い捨て容器の提供禁止」など、かなり大胆なものが多いです。国家として現状を一気に変えることができる背景には、お国柄が出ているのではないかと僕は思っています。と言うのも、フランスといえばフランス革命。このフランス革命の前後では、政治も法律も経済も何もかも変わりました。「改革」をルーツに持つフランスだからこそ、思い切った「SDGs革命」が受け入れられるのかもしれません。

「徳を積む」くらいの感覚で始めてみる。

SDGsの推進には、一人ひとりの当事者意識が欠かせないと考えています。正直僕も最近までは、「環境問題が深刻なのはわかっているけど、自分の生活にはあまり関係ないかも」と、どこか対岸の火事のように感じていました。僕の場合はSDGsやサステナビリティに関するお仕事をするようになって関心は高まりましたが、なかなか当事者だと感じられない人が多いのが現状ですよね。関心を持ってもらう一つのアイデアとして、行動に対して「徳を積んだ」と感じられるような購買の設計があってもいいと思うんです。商品を売る際に、「森林をこれくらい守れます」「恵まれない方にこれだけ貢献できます」と具体的な影響を提示することで、買う側も「どれくらい徳が積めるのか」が感じやすくなります。それをきっかけに環境問題に興味を持ってもらえたら、さらなる「徳積み消費」や直接的な環境活動への参加につながると思います。地域の活性化や雇用などを含む、人・社会・地域・環境に配慮した消費行動である「エシカル消費」という考え方がこれに近いですね。

さて、これまで国や個人を主語に話を展開してきましたが、SDGsの達成には企業の取り組みも必要不可欠です。その認識は年々高まっており、株式上場の条件にSDGsと関連した開示項目が設定されたり、財務状況に加えてSDGsへの貢献で評価する投資のスタイルが登場したりするなど、企業経営においても重要事項になっています。また近年では、環境に悪影響のある原材料を使用した製品の不買運動が起きたり、いわゆるブラック企業の実態がSNSで暴露されて批判されたりするなど、企業の環境や人権への意識に対する社会からの目も厳しいものに。SDGsが17の目標として言語化されたことで、一人ひとりの判断基準が明確になっているのかもしれません。

ということで次回は、企業におけるサステナビリティを切り口にSX(Sustainability Transformation)について解説します。SXとは、「企業のサステナビリティ」(企業の稼ぐ力の持続性)と「社会のサステナビリティ」(将来的な社会の姿や持続可能性)を同期化させる経営や対話、エンゲージメントを行っていくことが重要であるとし、こうした経営の在り方や対話の在り方のことです。社会人の方は自社を評価する新たな視点が生まれたり、学生の方は就職する企業を選ぶ基準になったりなど、きっと役に立つ内容だと思うので、次回もぜひご覧ください。それでは、最後にSXに関するクイズでお別れしたいと思います。答えは次回の記事で発表します。お楽しみに!

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【引用元】
※1 気候変動の影響について|国土交通省https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/shaseishin/kasenbunkakai/shouiinkai/kikouhendou_suigai/1/pdf/09_kikouhendounoeikyou.pdf

※2 海面上昇の影響について|全国地球温暖化防止活動推進センター
https://www.jccca.org/faq/15931

※3 歴史的な国連水会議、世界的な水危機と水の確保に対処する分岐点となり、閉幕|国際連合広報センター
https://www.unic.or.jp/news_press/info/47943/

※4 7.フィンランド|農林水産省
https://www.rinya.maff.go.jp/j/sin_riyou/ondanka/attach/pdf/ondanka_zigyo-28.pdf

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