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対談【気象予報士 根本美緒さん × 株式会社日立ソリューションズ】

防災や環境問題を「自分ごと化」するために必要な工夫とは

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近年は、気候変動の影響が私たちの暮らしにも大きな影響を与えるようになっています。気候そのものが変化している以上、私たちの判断基準や行動もアップデートする必要があります。環境問題・防災などについて、自分ごととしてとらえ、行動変容を促すヒントについて、環境問題に関する研究や発信にも取り組んでいる根本美緒さんにお話を伺いました。

※本記事は2026年10月に掲載されたものです。
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    根本 美緒

    フリーキャスター/気象予報士

    ねもと・みお
    東京都出身。慶應義塾大学経済学部卒業後2001年にアナウンサーとして東北放送(TBC)に入社。気象予報士の資格を取得し、2005年からはフリーアナウンサーとしてさまざまなメディアで活動する傍ら、2020年に上智大学大学院地球環境学研究科地球環境学専攻修士課程を修了し、現在TOKYO MX「堀潤Live Junction」コメンテーターのほか、東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学博士課程にて研究中。2026年6月には著書「少年野球が私たち親子を育ててくれた~家族が「ワンチーム」になれた理由~」(竹書房)を発刊。

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    中和 仁志

    株式会社日立ソリューションズ 
    スマート社会ソリューション本部 スマートメンテナンスソリューション部
    ユニットリーダ

    なかわ・ひとし
    入社以来、地理情報システムのパッケージ開発に約10年間従事。グローバルビジネス本部、インドビジネスセンターへの出向を経て、現在はプリセールスエンジニアとして、防災システムなど地図商材の拡販推進などに従事。

防災情報を伝える難しさとは?

根本:気象予報士として防災に長く関わってきましたが、課題として感じているのが災害を自分ごととしてとらえてもらうことの難しさです。多くの人にとって、ニュースなどから入ってくる災害に関する情報が、自分の頭の中にあるイメージとかい離していることで自分ごとになりにくい面があります。私自身はテレビで情報を伝える際に、少しでも自分ごと化してもらえるよう、なるべく具体的な場所や身近な例を交えて注意事項を話すことを心がけています。防災の一番のポイントは、情報を正しく認識して、正しく怖がることです。それを促すことが伝える側の役割だと思っています。中和さんは地理情報システム(Geographic Information System:以下、GIS)に携わっていらっしゃいますが、そのあたりはどのように感じていますか。

中和:私たちはGISを使ってさまざまな情報を地図上で可視化しているのですが、本当に重要なことは、その情報を「自分は何をすべきか」という行動に変えることだと考えています。たとえば「東京都品川区で洪水警戒レベル3が発令されました」と言われても、自分の業務にどう影響があるのかを判断することは簡単ではないと感じています。そこでGISが「あなたの担当する設備はここにあり、現在はこのようなリスクがあります」と具体的に示すことができれば、防災情報を自分ごと化につなげられるはずなので、それを実現することが課題だと考えています。

根本:GISを使って自分ごとに落とし込んでいくにはどのような方法があるのですか。

中和:設備やリスクを地図上に表示するのはGISの基本ですが、それだけでは十分ではありません。複数の情報源からデータを集めてサマリーのような形で全体像を示すことや、自分がアクションすべき情報だけをダッシュボード表示する工夫も必要かと思います。つまり「あなたの業務においては、こういったリスクがあり」といった情報を地図と併せて示してあげると、より自分ごととしての理解が進むのではないかと考えています。

根本:私は現在樹木の効果でどれくらい熱中症を削減できるかを研究していて、GISを活用しています。天候や天空率(空がどれくらい見えるか)、暑さ指数などを使ったシミュレーションを行い、東京都内で熱中症リスクが高い場所を地図化して、緑被率と重ねることで樹木がどれくらい暑さ指数を削減できたかを定量化しています。結果としては熱中症リスクが高いのは東京の中心部で、西側では樹木による緩和効果が確認できています。この結果を一人ひとりのどういう行動につなげていくのかというのがこれからの課題です。

中和:熱中症リスクが高い場所が自分の通勤路や通学路と重なっているとなれば、具体的な行動につなげられそうですね。

根本:そこで課題になるのがデータの解像度です。現状は公開されているさまざまなデータとの関係で、1kmメッシュ(1辺が1kmの格子単位)の情報しか出せません。この解像度だと範囲が広すぎてなかなか自分ごと化が難しいのも事実です。かといって無理に解像度を上げると正確性が担保できません。

中和:解像度を上げるのは自分ごと化には有効でも、防災分野では情報を受け止める側が「安全な方に誤解する」(浸水想定エリアをわずかに外れているだけで安全と思い込むなど)というリスクが指摘されていますよね。その意味では、最初に市区町村単位など広い範囲でリスクの存在を示し、その後、行動判断に必要な範囲まで情報を具体化するなど、正確性と分かりやすさを両立させるアプローチが必要かもしれません。

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水害のリスクは伝わりにくい?

根本:さまざまな防災情報の中でも、河川がもたらすリスクは生活者の皆さんに伝わりにくいと感じています。気象庁では浸水や土砂災害などさまざまな危険度分布を「キキクル」というウェブサイトで公開していて、その中の「洪水キキクル」では氾濫の恐れがある河川が氾濫危険度に応じて着色されるのですが、多くの人たちにとって、河川が線状に着色されただけでは自分たちがいる場所のリスクを認識することは簡単ではありません。どこのエリアの人がどのように警戒すべきかを具体化できればいいのですが。

中和:私たちはハザードマップとの重ね合わせを使っています。たとえば多摩川に河川氾濫警報が発表されたとすると、多摩川は奥多摩から河口まで長い距離を流れているので、受け取る側は、自分に影響があるのか判断できません。そのためハザードマップで示されている洪水時の浸水深と重ね合わせて、特にリスクが高い設備に対して発報するというような対応をしています。

根本:中和さんのお仕事は設備管理などが多いとのことでしたが、最近は防災関係も多いのですか。

中和:これまでは、電力会社や通信会社などのインフラ管理、公共分野などで、多数の設備を管理するGISに携わってきました。現在は、そのノウハウを不動産管理や製造業などの防災にも広げています。インフラ管理と防災は大量のデータを扱うこと、ミッションクリティカル(ダウンすることが許されない)システムであることなど、共通項が多いと感じています。

根本:地震については各企業さまざまな対策をされていると思いますが、台風や線状降水帯などのリスクについても関心は高いのですか。

中和:正直に言うと、地震とは温度差を感じることもあります。BCP(緊急事態時の事業継続計画)の策定なども地震を前提としているケースがほとんどです。ただ、不動産管理業などは2019年の東日本台風による浸水でタワーマンションが停電する被害があったこともあり、気象リスクに対する認識は高まってきているように思います。

根本:川の近くの物件などでは浸水被害も多くなっていますよね。都内の中小河川も大雨が降るとギリギリのところまで水位が上がるケースは増えているように感じます。河川設備や遊水施設などの改善は進んでいますが、それを上回るような雨も増えているので、河川の周辺に住む皆さんの危機管理も重要になってきていると思います。

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AIの活用で利用者に合わせた情報が出せる?

根本:私は千代田区と連携して交差点に日除けを設置しようという活動をしています。交差点によっては歩行者が炎天下で2分近く待つケースもあり、特に子どもや高齢者にとっては過酷です。一番いいのは樹木があって自然に日陰ができることなのですが、それが無理なのであればせめて日除けを設置できないかということで活動しています。こうした取り組みを進めるにあたり、どこの交差点がどれくらい暑いのかという情報が欲しいのですが、そうしたデータは公開されていません。研究者レベルでは独自にシミュレーションしていたりするのですが、そうした情報が地図化されて、街のどこが暑い、危険度が高いということが分かるようになればありがたいです。現在東京都などでは一時的に涼める「クールスポット」として、公共施設や商業施設などを認定して開放しているのですが、その情報も含めてデータ化して公開されると皆さん重宝すると思います。施設管理の分野ではIoTセンサー(インターネットにつながったセンサー)などでリアルタイムのデータを取れたりしますか。

中和:温度の例ではないですが、不動産管理の分野ではマンションの地下駐車場に水位センサーを設置して、閾値(しきいち)を超えた際に居住者に対してアラートを出して車の移動を促すような使い方をしているケースがあります。ただ、水位が上がってから車を移動するのも大変なので、センサーの情報に加えて予報値などを使うことで、たとえば3時間後の状況などを予測するところまでできればいいと思っています。その意味では、今後はAIの活用がカギになると考えています。従来のシミュレーションは高度なスキルを持った専門家がお金と時間をかけて行うものでした。そこから出てくる専門的な情報を受け取って行動に移すのはハードルが高いのかなと思っています。これに対して、大量のIoTセンサーの情報をAIが分析した結果を、情報を必要としている相手に合わせて翻訳して伝えることができるようになれば、より具体的な行動に移しやすくなるのではないかと考えています。

根本:利用者個々の属性に合わせた情報にアレンジされれば、行動に移すにあたって「背中を押す」ことができると思います。私の娘もそうですが、若い世代は気軽にAIに相談を投げかけて、その結果で背中を押されることは結構多いようです。

気候変動をどう自分ごと化する?

根本:近年は気候変動の影響が私たちの暮らしにも大きな影響を与えるようになっています。夏は気温が35℃以上になる日が増えて、2007年には「猛暑日」という言葉ができました。さらにその後40℃を超える日も多くなったことから、2026年に新たに「酷暑日」が設けられましたよね。2026年夏はヨーロッパも猛暑に見舞われていて、フランスでは44℃という気温を記録して、多くの死者も出ています。フランスは2003年にも熱波で多くの死者が出ていて、その要因の一つが、エアコンがない家が多いことです。気候変動で酷暑や豪雨の増加などが問題になる中で、確かにCO₂の排出を抑えて気候変動を緩和することも大切なのですが、一方で現在の気候を受け入れて、適応するように意識を変えることも重要です。

中和:気候そのものが変化している以上、私たちの判断基準や行動もアップデートする必要がありますね。

根本:地域にもよるのですが、熱中症は概ね気温が28℃くらいを超えると指数関数的に増えるので、猛暑日や酷暑日の増加に合わせて発症も増えていくことになります。そこを認識したうえで対策をしなければ体に危険が及びます。我が家は子どもたちが少年野球をしているのですが、昼間の時間帯に試合を組んでいいのか、朝や夕方にした方がいいのか、大人が判断して行動の変化を促していくことが必要です。
豪雨についても、1時間に50mm以上の雨がどんどん増えていて、内水氾濫などの災害も起きやすくなっています。こうした状況を把握したうえで行動を変えていくことが必要です。たとえば避難のタイミングを間違えると、危険な状況で外に出ることになりかねません。早い段階で周囲の人が高齢者に対して「今避難しましょう」と声掛けをすることで行動を変えていくことも重要です。そうした意識変革が今は求められていると思います。

中和:意識変革という意味では気候変動、環境問題、防災と共通点が多いですね。それをどう伝え、自分ごと化させていくのかは課題ですね。

根本:子どもや高齢者に分かりやすいようにすることが大事です。防災のシステムやウェブサイトをつくるのであれば、子ども向け、あるいは高齢者向けに振るなど、対象者ごとに特化し、対象年齢や個人の属性に合わせて作りこむなどの工夫も必要だと思います。見やすさ、色のコントラストなどもそうですが、「驚かせすぎずに正しく怖がらせる」ことが大事です。

中和:非常に共感するお話です。私たちが得意とするインフラ管理のシステムは、一つの画面に多くの機能を盛り込みがちですが、災害時には利用者も焦っているため、複雑な操作はできません。誰でも迷わず使えるシンプルさが必要です。
また、災害時だけ使うシステムは、いざというときに使いこなせない可能性があります。平時の業務や暮らしの中で日常的に使い、災害時にもそれを応用してもらうアプローチが必要だと思っています。

根本:ハザードマップなども、避難の段階になって見るのでなく、平時から確認しておくことも大事ですね。いきなり地図を見せられて、自分がどこにいるのかが分からないケースもあるでしょう。日頃から地図を見慣れておくには、常に何かしらの情報をそこから得る仕組みや仕掛けも必要です。

中和:先ほどお話があった熱中症の情報などでもいいと思うのですが、普段から何かしらの形で地図やウェブサイト、アプリを見ておいてもらうような環境が必要で、それが防災や環境問題を自分ごと化することにもつながるのではないかと思います。

根本:システムやアプリのユーザーインターフェースに慣れておくことは大事なので、日常的にアクセスしてもらえるような動機づけが必要ですね。たとえば女性であれば場所による紫外線量の情報であったり、子どもたちが対象であれば「ここでこんな虫を発見した」といった情報であったり、城好きの方であればお城を探す地図アプリであったり、好きなものから入ってもらう。そこを入口にして、防災や環境問題を自分ごと化してもらえれば一番いいですね。
ただし、子どもたちや高齢者に自分ごと化を促すには、周囲のサポートも必要です。親や先生など周りの大人がどう声をかけるのか、また常に身内の人がそばにいられるとは限らないので、町会なども含めた地域のつながりで補っていくことも重要です。家族や地域、そして自治体がそれぞれの役割の中でお互いに守り合えるような仕組みをつくっていくのが理想だと思います。

中和:GISは気候変動や災害に関する専門的な情報を、私たち一人ひとりの暮らしや仕事に結びつける「翻訳者」の役割を果たせると考えています。
たとえば気候変動であれば100年間で平均気温が0.7℃上がったといっても、自分ごととしてとらえられる人はなかなかいない。その場合に、あなたのエアコン代は1年間でいくら上がりますとか、洪水が激甚化すれば20年後にはあなたの家の浸水深が50cm上がるといった情報に翻訳する。そこまで具体化して初めて、人や企業は行動を変えやすくなりますので、行動変容を支えるGISを提供したいと思っています。

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