
近年、夏の猛暑や極端な大雨が増えるなど、「異常気象なのでは?」と感じる機会が増えていませんか? 第1回では、気象予報士として長年天気予報に関わってきた根本美緒さんに、異常気象やその原因といわれる気候変動の現実についてお話を伺います。

根本 美緒
フリーキャスター/気象予報士
ねもと・みお
東京都出身。慶應義塾大学経済学部卒業後2001年にアナウンサーとして東北放送(TBC)に入社。気象予報士の資格を取得し、2005年からはフリーアナウンサーとしてさまざまなメディアで活動する傍ら、2020年に上智大学大学院地球環境学研究科地球環境学専攻修士課程を修了し、現在TOKYO MX「堀潤Live Junction」コメンテーターのほか、東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学博士課程にて研究中。2026年6月には著書「少年野球が私たち親子を育ててくれた〜家族が「ワンチーム」になれた理由〜」(竹書房)を発刊。
―根本さんは気象予報士として長く活躍されていますが、気象予報士になろうと思ったきっかけはどのようなことだったのですか。
2001年にTBC(東北放送)に入社して、環境問題を自分のテーマとしていきたいと話したところ「じゃ、天気予報はできる?」という話になりました。TBCは気象予報士も在籍していて、局としての独自予報も出していましたが、私は大学時代の研究対象がごみ問題だったため、そこから天気の勉強をするために予報士を取ろうと決めました。
―異常気象が日常化している今の状況をどのように感じていますか。
気象予報士として20年以上天気予報に関わってきましたが、外で中継する機会も多いので「気候が昔と変わったな」ということは肌で感じています。
―具体的にはどのようなことですか。
私自身、講演などの際に「前線と台風のセットは危ない」ということをずっと言い続けてきました。気象庁では2013年から従来の警報の発表基準をはるかに超える現象に対して特別警報を発表するようになりましたが、西日本で大きな被害を記録した「平成30年7月豪雨」(※1)も含めて、大雨特別警報が発表されるケースはほとんどが「前線+台風」の組み合わせでした。それが最近は台風がなくても、前線だけで災害発生レベルの雨が降るようになっています。前線に送り込まれる水蒸気量や暑い風が台風と同じような刺激をもたらしているためです。とりわけここ数年は海水温が高くなっており、これが各地に異常気象をもたらしていると考えています。
海水温の高さは地中海などでも現れているように世界的な現象で、世界各地で雨量が多くなったり洪水が発生したりということが増えています。アフリカのガーナでは洪水が長期間続き、それで学校に通えなくなってしまう子どもたちがたくさんいます。

―私たちはこうした状況に対して「異常気象」という言葉を使いますが、そこには気候変動の影響があるでしょうか。
こうした極端な現象は異常気象といえます。気象庁の定義では、「ある場所(地域)・ある時期(週、月、季節)において30年に1回以下で発生する現象」を異常気象としていますが、近年はこうした現象が毎年のように起きており、もはや気候変動と言っていいと思います。
最近は1時間に50ミリを超えるような大雨の回数が増えているほか、毎年のように熱波にも見舞われます。上空を流れる偏西風の蛇行が続くことで、1カ所に高気圧が停滞する「ブロッキング」という現象が発生し、同じ気象条件が長期間続くことから、熱波や寒波が居座ることになります。これが異常気象の原因となっています。ただし、現在の研究の主流では偏西風の蛇行と地球温暖化との間に直接の因果は認められていないので、そこは注意が必要です。
―近年の猛暑は温暖化の影響以外に、都市化によるヒートアイランド現象(ビルやアスファルトで覆われた都市の気温が周囲よりも高くなる現象)も関係しているのでしょうか。
猛暑に加えて、都市部はコンクリートに覆われているので、暑さがたまってしまって冷えにくいということは確かにあります。ヒートアイランドの影響で夜の温度が下がらず、暑さが翌日に持ち越されてしまうことでどんどん温度が上がっていくことになります。加えて、ビルや車などからのさまざまな排熱があるので、都市部はどうしても暑くなってしまいます。
都市で暮らすうえで私たちにできることとしては、排熱やCO2を減らすなど、ヒートアイランドを緩和することももちろんですが、この環境にどう適応していくのかも重要だと思います。
―適応という観点では、暮らし方にもアップデートが必要だと思うのですが、ニュースなどでもお年寄りがエアコンを使わず熱中症になってしまうようなことが毎年起きています。
高齢になるとどうしても暑さを感じにくくなります。私の父もそうですが、部屋の中で30℃を越えていても暑いと思わない。それで気づいたら熱中症になっているというケースが多いです。天気予報などで「今日はエアコンをつけてください」と言われたら、自分では暑いと思っていなくてもつけるというくらいのことが必要です。タイマーを使ってでもいいのでエアコンをつけて寝ることもお薦めします。あとは水分補給をしっかりすることも重要です。寝る前にコップ1杯の水を必ず飲んだり、喉の渇きを感じなくても定期的に水分をとったりすることを習慣づけてもらいたいです。
―天気図などから「こういう時は注意した方がいい」ということはありますか。
皆さんが一般的に目にする地上の天気図のほかに高層の天気図というのがあります。そちらを見ると、近年は以前に比べて太平洋高気圧が強く、偏西風が蛇行する状況が頻発するようになっています。
またチベット高気圧という背の高い高気圧があり、それが太平洋高気圧の上から覆いかぶさる形で蓋をすることがあります。たとえるなら布団を2枚掛けているような状態で、どうしても暑くなります。この「ダブル高気圧」は以前であれば5年に1度程度だったのですが、最近はその状況が毎年のように発生しています。
ダブル高気圧の際は、地上の天気図上にも鯨の尾びれのような「鯨の尾型」の等圧線が現れます。これが出ると暑さが持続するサインになります。また高気圧は時計回りに風が吹きますが、その風が山を越えて日本海側に入ると、フェーン現象(※2)が発生して急激に気温が上がります。フェーン現象が起きるのは日本海側とは限らず、たとえば東京であれば西側に山があるので、西寄りの風の時にフェーン現象が起きて気温が上がることがあります。岐阜や群馬などで猛暑日が多いのもフェーン現象によるもので、「鯨の尾型」高気圧が現れた際にはどの向きで風が吹くかも注意してもらいたいです。

「ダブル高気圧」を象徴する天気図の「鯨の尾型」の等圧線
出典:福岡管区気象台ホームページ

山を越えた風が気温の上昇をもたらすフェーン現象の仕組み
出典:気象庁ホームページ
―近年は毎年のように豪雨による大きな災害が発生しています。線状降水帯のような言葉もよく出てくるようになりました。注意すべき点などはありますか。
線状降水帯そのものは新しくできたものでなく、以前からありました。ただその言葉を予報などで使うようになったのは大きな変化です。以前から梅雨の末期に大雨が降ることはよくありましたが、現在は梅雨の初めから末期のような降り方をするので、常に注意が必要な状況になっています。特に九州は顕著です。暖かく湿った風が太平洋高気圧のヘリを回って入ってきて前線を刺激するのですが、九州はその通り道になりやすいのです。さらに以前に比べて海水温が高いことで豪雨になりやすくなっています。また九州も四国も山の南側斜面は、暖かく湿った風が山に当たるので大雨になりやすい傾向があります。
もうひとつ注意して欲しいのが、梅雨前線の位置です。前線は暖かい空気と冷たい空気の境なので、前線の北側は涼しく、逆に前線の南側に入った時は、暑いうえに湿った空気が入ることで雨も強くなります。
―梅雨前線の位置はわかりやすい基準かもしれませんね。
雨だけでなく、冬の日本海側の雪も増えています。これも海水温が高いことが原因です。海水温が高いと雲ができやすいので、北西の季節風が吹いたときに発達した雪雲が山にあたって日本海側に大雪を降らせる頻度が高くなっています。
最近は天気予報でも「JPCZ」(※3)という用語を使うようになってきました。この言葉が出てきたら、日本海側に災害級の大雪をもたらすサインだと思ってください。

―異常気象が大型災害につながっている現状について、私たちが心掛けることはありますか。
重要なのは「正しく怖がり」「正しく行動する」ことです。情報を入手し、それを基に共助も含め、自分たちで自分たちの身を守るための行動をとること。気象庁が特別警報を発表するようになったのも、自分で自分の身を守るための判断を促すためです。難しいことかもしれませんが、どこかで自分で判断をしなければなりません。さまざまな防災情報を入手するのもその判断のためと考えてください。
これまで大雨等による浸水からの避難の際に、外が危険な状態であれば家の2階へ避難するように呼び掛けてきたのですが、一方で家ごと流されるようなケースも出ていて、その場合どうすれば助かったのか悩むことがあります。特に山間の家だと鉄砲水や土砂災害の可能性もあります。さまざまなケースを想定して一人ひとりが最善の判断をしなければなりません。
私たち報道はどうしても事後の災害状況を伝えることが多いのですが、もっと事前に何とかならなかったのかと必ず考えてしまいます。「危険な場所を避けるように」と言われても、代々暮らしてきた場所から引っ越すことも簡単ではありません。結局は自らの住む場所のリスクを知り、最善の判断で避難行動をとるしかないのだと思います。
―避難の判断のために薦められることはありますか。
我が家ではファミリーハザードマップのようなものを作って、「こうなった場合はここにいよう」ということを家族であらかじめ決めています。たとえば、マンションには複数階に出入口があるのですが、指定避難所に行こうとすれば1階から出る必要があります。しかし1階は浸水の可能性もあるということで、〇階の出入り口で落ち合う、といった具合に決まり事を作っているのです。あらかじめ決めておくことは重要だと思います。
もう一つは情報の入手です。若い人はスマートフォンでウェブやSNSから情報を取ることに慣れていますが、それが難しい高齢者の方は自治体の情報しかないケースもあります。その場合自治体からの情報をどのように入手するのかを事前に把握しておくことが必要です。
―根本さんは熱中症の研究をされていますが、生活者として知っておくべき熱中症のリスクや対策はありますか。
熱中症は本来100%防ぐことができる病気のはずです。でもそう言いながら私も熱中症になることがあります。防ぐための基本は睡眠をよくとること、3食きちんと食べること、そして生活リズムを整えることです。そして水分や塩分を取ること、体を冷やすことが大事です。
日本の夏はこれから先ずっと暑いと思った方がいいでしょう。そんな夏を過ごす工夫として、汗をかきやすい体質にしておくなど、体が暑さに慣れ、熱中症になりにくい状態にしておくなどの「暑熱順化」が重要です。春のうちから汗をかいて、夏の暑さへの準備をしておくことです。冬場にインフルエンザに気をつけるのと同じように、夏は熱中症にならないように気を配ること。一人ひとりの意識の変革が必要になります。
―生活リズムを整えることや暑熱順化を行うことは異常気象を自分ごと化していくことにもつながりますね。
コロナ禍の時に、3密の回避やリモートワークなどに代表される「新しい生活様式」というキーワードが出てきましたが、みんなきちんとできましたよね。感染したら死んでしまうかもしれないという怖さもありましたが、あれは多くの人がコロナ禍を自分ごと化したからこそできたことだと思うのです。それと同じように異常気象という現状を自分ごと化することで、災害時に自分の命を守るための判断や、猛暑の際に熱中症にならないための工夫や体調管理をしていくことができるはずです。ただし、子どもたちや高齢者の方は、自分では難しい。大人、あるいは家族がしっかり監督してサポートすることも重要だと思います。
―貴重なお話をありがとうございました。