
気候変動を緩和するためには、温暖化を自分ごとととらえ、環境に対する意識をしっかりもちながら行動変容していくことが求められています。その一方で、具体的にどのような行動をとればいいのかわからないという方も多いのではないでしょうか。第3回では、環境教育に長く取り組んできた根本美緒さんに、環境にやさしい暮らしのヒントを伺います。

根本 美緒
フリーキャスター/気象予報士
ねもと・みお
東京都出身。慶應義塾大学経済学部卒業後2001年にアナウンサーとして東北放送(TBC)に入社。気象予報士の資格を取得し、2005年からはフリーアナウンサーとしてさまざまなメディアで活動する傍ら、2020年に上智大学大学院地球環境学研究科地球環境学専攻修士課程を修了し、現在TOKYO MX「堀潤Live Junction」コメンテーターのほか、東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学博士課程にて研究中。2026年6月には著書「少年野球が私たち親子を育ててくれた〜家族が「ワンチーム」になれた理由〜」(竹書房)を発刊。
―社会全体としてSDGsへの意識は高まっているように思いますが、一方で具体的にどんな行動をとればいいのかわからないという声も聞きます。根本さんが日常で取り入れている「サステナブル」な習慣はありますか。
「サステナブル」は「持続可能な」という意味ですよね。持続可能な環境を守るための行動であれば、その行動も持続可能でなれば意味がありません。何かを「我慢」するという考え方では、なかなか長続きしません。むしろCO₂を減らしながら「快適な暮らしをする」ことに意識を向けるべきだと思います。
たとえば、牛は消化の過程でCO₂以上に温室効果の高いメタンを大量に排出することがわかっています。そのため「畜産業は環境負荷が大きいから私は肉を食べません」という対策をとる人もいます。でも私はお肉が好きです。環境のためだからといって、好きなお肉を断つことは考えていません。その代わり、お肉を買うときに量り売りをしているお肉屋さんを利用するようにしています。量り売りだとプラスチック容器を使わない。プラスチックはCO₂を排出する石油製品であり、プラスチックごみは環境汚染の原因としても知られていますよね。肉を食べることを我慢するのでなく、買い方を考えることでも環境に貢献できます。買い物は毎日のことなのでなおさらです。
―なるほど、環境のためには「我慢しなければいけない」と考えがちですが、必ずしもそうではないのですね。
たとえば、我が家では暑い日にはかき氷をつくります。体が冷えることはもちろん、かき氷をつくるのは子どもたちにとっては楽しいし夏の思い出にもなりますよね。時には近所の子を集めて、ちょっとイベントっぽくみんなでかき氷をつくることもあります。体が冷えて楽しくて、しかも安上がりで、「いいとこどり」の暑さ対策になります。楽しみながら環境に貢献できれば、それはサステナブルな習慣になりますよね。
―「環境に良い」と「快適さ」を両立させる考え方は大事ですね。根本さんにとっての「快適さ」とは何ですか。
ごく当たり前に「人間らしい生活をする」ことだと思っています。そのためには「サステナブルなまちづくり」も大事です。たとえば、交差点で炎天下の信号待ちを強いられることは快適ではないですし、熱中症などのリスクもあります。それを改善していくことがサステナブルなまちづくりであり、快適で安全な生活につながっていきます。
私自身、千代田区が夏の熱中症対策の一環として実施している、信号待ちをする歩行者のために交差点周辺や駅前に日よけ用の大型パラソルやシェードを設置する実証実験に関わっているのですが、現在御茶ノ水駅のお茶の水橋口前にシェードが設置されていて、信号待ちの人たちに利用されています。こうした設備は「日を遮る」ことで健康を守ることはもちろん、ペロブスカイト(次世代太陽電池)が貼ってあれば発電や送電もできる、あるいは防犯カメラを設置すれば治安向上にも貢献できるなど、さらなる有効な利活用の可能性もあると思っています。私が思う「快適」とはそういう部分です。

2026年に暑熱対策の実証実験として御茶ノ水駅のお茶の水橋口前に特設された日除け(2026年7月撮影)
―都内などでは炎天下の交差点で本当に多くの人が信号待ちをしていますから、こうした仕組みがさまざまな場所で実現すれば重要なインフラになりますね。
「快適」という観点では、街中の緑の存在も重要だと思っています。樹木があれば木陰ができますよね。交差点の信号待ちも、木陰があれば直射日光から逃れられます。江戸時代には町の人々がそれぞれに軒下に植木を配置するなどしていて、打ち水をすれば涼しくなりました。今は街がコンクリートとアスファルトで覆われていて、庭がある家も少なくなっているのでなかなか難しいですが、緑があることは快適なまちづくりには大事です。
たとえば、現在ある緑道を維持・管理していくことも重要なのではないでしょうか。現状自治体が主体となって緑を増やすのはもう難しいところまで来ています。私個人としては、各所で行われている再開発の際に緑を増やすことをセットで実施することで、街の快適性を維持してもらうことに期待しています。緑を増やし維持することが、街のエリアマネジメントとして必要なことなのではないかと思います。

―根本さんは環境教育に長く関わってこられましたが、生活者の意識変化を感じる場面はありますか。
大きな出来事があるとその都度意識が変わるということは感じます。2011年の東日本大震災や2020年からのコロナ禍などはその代表例です。特に震災での福島第一原子力発電所の事故やそれに伴う計画停電の実施は、多くの人たちにエネルギーについて深く考えるきっかけになったといえます。
―やはり意識変化にはきっかけが重要ということですね。
ごみの分別やレジ袋からマイバッグへのシフトなど、ルールができて徐々に意識が変わるケースもありますね。いずれも最初は不便に感じたはずですが、慣れることでいつの間にか習慣になっていったという流れはあるので、必要なことはルール化していくのも一つの方法かもしれません。
また遊び心も大事だと思います。行動経済学の事例としてよく紹介される話なのですが、ヨーロッパでたばこのポイ捨て防止の啓発施策として、2つの透明な吸い殻入れにライバルである2人のサッカー選手(リオネル・メッシ選手とクリスティアーノ・ロナウド選手)の名前や顔写真をそれぞれに貼って、「どちらが世界で最高の選手?」と書いて吸い殻で投票させるという仕掛けを実施しました。どれくらい吸い殻が溜まっているのかは外から見えるようになっており、人々がお気に入り選手に加勢するため、進んで吸い殻入れに投票するようになったそうです。罰則や報酬があるわけでもないのに、行動変容が促され、結果としてポイ捨てが激減しました。こういうアプローチも参考になるかと思います。特に子どもたちには頭ごなしに「やりなさい」というよりも、面白がらせるアプローチの方が効果的かもしれません。
―企業の意識などはいかがですか。
私は社外取締役や社外監査役という形でいくつかの企業に関わっているのですが、今は多くの会社がサステナブルな働き方や、サステナブルな事業の進め方を考えるようになってきていて、全体に企業の中での環境意識は高まっていると感じています。中小企業などはなかなか手が回わらない部分もあるでしょうが、それでも以前に比べれば環境を意識する空気感は醸成されているように思います。特に近年はESG投資(企業の「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」への取り組みを指標とした投資)が主流になってきているので、企業も世の中からの「見え方」や「見られ方」を意識しなければならない時代になっています。
―根本さんは取材や講演などで全国各地を訪れる機会が多いと思いますが、地域による意識の違いなどを感じることはありますか。
緑が多いという意味では仙台が圧倒的で、意識の高さを感じます。仙台以外でも地方都市は比較的緑は豊かなので、やはり問題は東京・大阪・名古屋・福岡などの大都市圏です。
最近では地域経済にプラスになる形で気候変動対策の取り組みを実施しているケースもあります。たとえば静岡県では、森林資源を活かして林業を活性化しながら、間伐材や端材を木質ペレットやチップに加工して発電や熱利用に回す「木質バイオマス」に力を入れていて、県内各地でエネルギーを地産地消する循環モデルを展開しています。木質バイオマスは福岡県も熱心に取り組んでいます。

仙台市中心部の航空写真。緑のベルトとなっている定禅寺通り(画面中央付近)をはじめ、
多くの樹木が配置されている(地理院地図より)
―逆に意識変革を促すうえで課題に感じていることなどはありますか。
気候変動対策については、2015年に世界市民会議が実施した調査によれば日本の場合は60%もの人が「生活の質を落とすもの」ととらえていて、「生活の質を高める」と考えている人は17%にとどまっている現状があります。世界平均では「質を落とす」が26.75%、「質を高める」が66.24%と真逆になっているので、日本人が気候変動対策を自分たちの生活にとってネガティブなこととして受け止めていることは気になります。サステナブルは文字どおり「持続可能」でなければ意味がないのですが、ネガティブな意識では長続きしません。気候変動対策が実は「生活の質を高める」ことにつながるのだと理解していく必要があると思います。
―日本人の多くは何かを成し遂げるためにはストイックになって何かを我慢しなければいけないと思ってしまっているのかもしれません。
見方を変えることも必要だと思います。たとえば「自然エネルギーを使いましょう」と言われた場合、「でも自然エネルギーは高い」「それなら化石燃料の方が現実的」と一面的に考えがちで、それゆえに化石燃料からの転換がなかなか進まないという現実があります。一方で、「自然エネルギーは高いかもしれないが、大規模な送電網に頼らない『分散型』であるため災害に強い」というとらえ方もできるはずです。日本のように自然災害が多い国では、コストを考えるにもこうした視点が必要だと思います。
コロナ禍の時に、多くの人がリモートワークを経験しましたよね。あの経験は、一人ひとりが従来のワークライフバランスを見直すきっかけにもなりました。しかもリモートワークは通勤をしなくていいので、CO₂も出さないことから気候変動対策にもなっていました。
もちろん、運動不足や引きこもりにならないように外に出た方がいいという意見もあります。どちらが正しいということでなく、適切なバランスの落としどころを考えることが肝要です。これは気候変動対策も同様で、メリットもデメリットもバランスよく考えて、適切な落としどころを見つけることで「生活の質を高める」ことができるのではないでしょうか。一つの事象を多面的に見ていくことが必要なのだと思います。
―環境にやさしい暮らし方を実践するうえで、家庭でもできるような工夫などありますか。
無駄をなくすことはちょっとした工夫でできると思います。たとえば、気に入ったものを長く使うこともその一つです。私は昔就職活動で使ったスーツを今でも着ています。主人も高校時代に買ったカバンを今も背負っています。子どもたちも、姉が着たTシャツを今は弟が着ています。物には思い出も残っているし、愛着もある。何よりも気に入ったものなので、買い替える必要をほとんど感じていません。無駄をなくすのに大事なのはこうした発想の転換なのかもしれません。
遊び方でも、息子は廃材を使って工作をするのが好きなのですが、材料を無駄にしないことはもちろん、アイディアや発想を育てる遊び方ができていて、一石二鳥になっています。暑さ対策でも、自分たちで体を冷やすように、子どもたちはフルーツなど自分のアイディアで色々なものを凍らせて楽しみながら食べて、涼んでいます。子どもたちの発想を活かしてあげることも家庭でできる工夫かと思います。
―未来に向けて、子どもや若い世代に伝えたいことはありますか。
子どもたちに特に伝えたいのが、世界との協調です。気候変動により世界でどのようなことが起きているのか、自分たちと同世代の世界の子たちがどのような困難に直面しているのかを知り、理解し、考える。危機感を持ち、課題解決のために日本と世界との橋渡しを担ってほしいです。現状をあきらめず、行動変容で未来は自分で変えられることを意識して欲しいと思います。
―貴重なお話をありがとうございました。
