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2021.10.11

対談【シンフィールド×日立ソリューションズ】
マンガを使った新たな価値創出への挑戦

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マンガマーケティング事業を行うシンフィールド社と、日立ソリューションズが協創して開発した「マンガフィールド」。このサービスは、マンガづくりのスキルや広告に関するノウハウがなくても、気軽にマンガ広告をつくれるのが特徴だ。本プロジェクトのキーマンたちに集まってもらい、開発の経緯やプロジェクト推進の原動力となった想い、さらには今後のビジョンなどを語ってもらった。

  • 谷口 晋也 / Taniguchi Shinya

    シンフィールド 代表取締役

    マンガを制作して集客支援を行うマンガマーケティング事業を展開。約1500名のマンガ家と770名以上のマンガインフルエンサーによるネットワークを駆使し、3500件以上のプロモーションを手掛けるなど大手企業をはじめ多くの実績がある。
    ※2021年8月現在

  • 市村 賢一 / Ichimura Kenichi

    日立ソリューションズ サスティナブルシティビジネス事業部 企画部 事業創生グループ グループマネージャ

    入社後は通信機器やスマートフォン、カーナビなどの組み込み開発に従事し、サービス事業の推進にも携わる。現在は新規事業の立ち上げや拡大を支援する部署のリーダーとして、さまざまな事業を牽引。本プロジェクトの発案者でありPMも担当。

  • 堀井 克敏 / Horii Katsutoshi

    日立ソリューションズ 業務統括本部 技術革新本部 デザイン技術部 主任技師

    製造業向けソフトウェア開発や、組み込み開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーの経験多数。現在は社内でリーン開発を推進するポジションでメンバーの指導・育成に携わる。本プロジェクトにおいては、開発プロセスの取りまとめを担当。

  • 西 泰彦 / Nishi Yasuhiko

    日立ソリューションズ デジタルソリューション戦略推進本部 デジタルソリューション推進センタ 主任

    新規事業の検討を支援する部署にて、プロジェクトの立ち上げからサービスやビジネスとして具体化するまで幅広くサポート。本プロジェクトにおいては、サービスコンセプトの整理や初期GUIの検討といった支援を担当。

「マンガプロジェクト」発足の経緯と背景

ーこのプロジェクトはどのような経緯でスタートしたのでしょうか。

市村:きっかけは社内のアイデアソンまでさかのぼります。私がマンガを活用するビジネスアイデアを出し、社内でなかなか好評だったんですよね。社外の方にもアドバイスをもらおうとヒアリングをしていたところ、シンフィールドさんと出会いました。当時からシンフィールドさんはマンガを使ったマーケティングを強みとしていらっしゃいましたが、どのようなきっかけで興味を持たれたんですか。

谷口:前職でWebの広告代理店に勤めており、バナー広告を多数取り扱っていました。マンガを使ったバナーのクリック率はとても高かったんですよ。そこで「マンガを娯楽としてではなく、Web広告のクリエイティブとして使うと、おもしろいことになるんじゃないか」と思ったのがきっかけですね。

西:なるほど、そういう経緯があったんですね。私がデジタルソリューション推進センタとして本プロジェクトに合流した頃のサービス内容は「AIとマンガを組み合わせ、テキストからマンガを自動生成する」というものでした。サービスアイデアをビジネスとして成立させるため、弊社のDXラボを活用し、サービスの「ターゲットと課題」「提供価値」を具体化したうえで、ユースケースの整理を進めました。その後、サービスのモックアップを作り、多くの方にヒアリングして価値の検証を重ねました。何度もピボット(方針転換)を繰り返しながら、ビジネスとしてのブラッシュアップを図っていきましたね。現在のサービスモデルに至るまで、さまざまな紆余曲折を経て生みだされたプロジェクトになります。

ー本プロジェクトの参画時に、どのような想いを抱いていましたか。

谷口:始めは驚きましたが、市村さんとお話していく中で「テクノロジーを使ってマンガを作れるツール」と聞いてワクワクしたことを覚えています。ただ、世の中に必要とされるプロダクトを生みだせるのではないかという期待を感じていた一方で、弊社の競合となる懸念があったことも事実です。そこは実際、悩みましたね。しかし、改めて考えていくと、このサービスを提供する企業と弊社のターゲットは違うので、カニバリゼーションは発生しないだろうという結論に至りました。また、仮にターゲットが同じになってしまったとしても、市場を拡大してプレーヤーを増やすこと自体に価値があるのではないかとも思っていましたね。弊社は経営理念に「Disruption(既成概念を壊す)」を掲げているので、自分たちが作り出したマーケットを自ら壊すこともおもしろいなと。もちろん、無計画に楽観視していたわけではありません。日立ソリューションズさんが競合になったとしても、結果的に市場を活性化させてマンガを使ったマーケティングを盛り上げていき、弊社のビジョンである「当たり前を創り出す」を目指して前向きに取り組めたように思います。

「マンガフィールド」について

ー「マンガフィールド」とは、どのようなサービスでしょうか。

市村:端的に申し上げると、「誰でも簡単にマンガ広告を作成できるサービス」です。素材の準備が不要で、伝えたい内容やターゲット、商材に合わせて自分でマンガを作れる環境一式を提供しています。

西:特徴的なのは、広告のターゲットや商材のポジションを選択していただくだけで、コマやストーリーがレコメンドとしてピックアップされていくことですね。画力を必要としないことはもちろん、マンガのシナリオづくりに慣れていない人でも、簡単にマンガ広告がつくれるように設計されています。

谷口:さらに付け加えると、ダイレクトマーケティングの知見を元に、いわゆるPASONAの法則(※1)やQUESTの法則(※2)などに当てはめて構築されているのもポイントです。ダイレクトマーケティングや心理学も含め、弊社が蓄積してきたマンガLP(※3)のノウハウを活用しています。ただマンガをパターン化したものを提供するのではなく、広告としてきちんと機能することにも価値を置いて開発していきました。

  • 1 神田昌典氏が提唱した消費者の購買行動を促すメッセージの法則性を表したもの。Problem(問題)、Agitation(扇動)、Solution(解決策)、Narrow down(絞込)、Action(行動)の頭文字から取られており、メッセージを伝える順序を示している。

  • 2 マイケル・フォーティン氏が考案したコピーライティングの法則。Qualify(絞り込み)、Understand(共感、理解)、Educate(教育)、Stimulate(刺激)、Transition(変化)の頭文字から取られており、課題や欲求がはっきりしている顧客に対して、商品を宣伝するメッセージの法則性を表したもの。

  • 3 検索結果や広告などを経由して訪問者が最初にアクセスするマンガを使用したWebページのこと。

ープロジェクト推進にあたって苦労したことや、課題となったことは何でしょうか。

堀井:本プロジェクトは、シンフィールドのクリエイターの方でもイメージし辛いサービス画面の文字列配置やフォント、実データを利用した細々とした操作感が重要となる開発だったため、フィードバックを受けるのが非常に難しい案件でもありました。それだけに、リサーチを行いながら小さく素早く実際に動作するサービスを開発して、フィードバックを得るというサイクルを何度も回していけるよう開発と運用を一緒に進めるDevOps、弊社のデジタルソリューション創出プラットフォームといったすぐに利用可能なアプリケーションの実行・運用環境、そしてそれらを使いこなすリーン開発チームといったリソースを最大限に活用しました。こうして、スピーディかつ効率的な開発を実現し、多くのフィードバックを得ることができました。シンフィールドさんには、サービスの企画段階に引き続き、開発の初期段階より関っていただき、積極的にご意見を伺えたのも良かったですね。新しいサービスを創り出そうとしている中では誰にも正解がわからないので、一緒に試行錯誤することで、改善すべき点をすぐ修正し、サービスをブラッシュアップすることができました。それこそ「協創」の新しい形だと感じました。

西:技術的なハードルの高さと同じく、「お金を払ってでもサービスを使いたいと思っていただけるか」というビジネス観点でのハードルもありました。そんな中、シンフィールドさんはじめ、実際のサービス利用者にもなり得るテストクライアントの方など社外からのアドバイスは本当にありがたかったですね。広告制作会社や出版社の方など、20名以上の方から各業界の視点でご意見をいただけて、サービスの質向上を図れたことは、とても大きかったと思います。

谷口:私の方でもテストクライアントやご協力いただくマンガ家さんを探すのには苦労しましたが実際にβ版を利用してもらって、CTR(※4)の上昇やコンテンツ制作の時間を約1/3に短縮できるといった効果を実感してもらいました。またマンガ家さんにも、サービスに対する想いや将来の構想などを何度もお伝えし、私たちのビジョンやミッションに共感してくれた方々にご協力いただけたので、とてもうれしく思っています。

  • 4 Click Through Rateの略語で、広告が表示された回数のうち、どのくらいクリックされたかを示す割合のこと。

マンガ素材のサンプル

将来のビジョン

ー本プロジェクトを通じて、どのような気付きや学びがありましたか。

谷口:他社とともにサービスを開発するということは、1+1が3にも4にもなるんだなと感じました。お互いの強みを持ち寄ることで、自社の限界を突破できるだけでなく、新たな可能性をも見出すことができるんですよね。また、自分たちが今どこのポジションにいて、これからどこを目指すべきか明確になりました。マンガマーケティングを広めていき、それを当たり前にして、プレイヤーを増やしていく。そして市場規模を拡大して業界をもっと盛り上げていきたいという、私たちのビジョンや戦略を改めて再認識できたのも大きな学びとなっています。

市村:日立ソリューションズでは、初期コストをかけず、わずか数カ月で小さなサービスを開発して、サービスを利用する方に触って評価してもらいながらお客様と一緒になって完成度を高めていくというサービス開発方法の取り組みが増えています。「小さくつくって、大きく育てていく」というプロセスが、激しい変化への素早い対応を求められる今のニーズにマッチしているといえるのでしょうね。今回のプロジェクトも、そういった経験を活かし、スピーディかつ効率的な開発を実現した好事例になったと思います。

ー本プロジェクトでの経験を、将来に向けてどのように活かしていきたいですか。

堀井:開発側の視点でも、サービスやプロダクトは「育てていく」という考え方の大切さを実感しました。これまでシステム開発は、受注した時に決まったものを作っていくというスタイルがメインでしたが、現在は日々変化していくニーズに対応していくことが求められています。そのための手法や環境、フレームワークをしっかりと活用し、プロダクトを成長させてくれるパートナーとともに「小さくつくって大きく育てていく」というプロセスを今後も継続していければと思います。

西:価値の方向性を何度も転換したなかで、新事業の検討初期は検討メンバーでさえも「サービス提供価値の認識が曖昧」であることを改めて実感しました。これを解決するために、「小さくつくって、大きく育てていく」ということが重要だと思います。仮のサービス紹介ページや画面モックなどでの価値の確認には大いに効果があります。新しいビジネスモデルやサービスは一見理解しづらいので、「価値を理解しやすい形にして共有し、本質的なフィードバックを得てブラッシュアップする」サイクルを今後も活用していきたいと思います。

谷口:考えているのは、マンガの新たな表現方法や形を作っていくことです。現在はマンガ動画がYouTubeなどで浸透していますし、海外では医療情報をわかりやすく伝える「グラフィック・メディスン」が取り入れられていたりと、マンガにはさまざまな可能性が秘められています。マンガというクリエイティブが持つポテンシャルをテクノロジーを駆使して最大限に引き出して、コンテンツとしての可能性を追求していき、マンガを使った新しい価値の創出と体験を提供していきたいですね。

市村:今回は、自分の手の届く範囲内でやろうと思ったら、間違いなく途中で頓挫していたと思うほど、さまざまな人に協力してもらったプロジェクトです。その結果、今回の事例は日立ソリューションズとしても全社的に良い影響を与えているように感じています。これからも、弊社のDXラボデジタルソリューション創出プラットフォームといった協創の環境を活用し、熱意を持って社内外の人と積極的に関わっていき、オープンイノベーションで社会的に価値あるサービスを形にしていきたいですね。

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