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パリ協定と環境正義を「生活者の視点」で読み解く

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相次ぐ異常気象の原因ともなっている気候変動をはじめ、森林減少や海洋汚染、生物多様性の喪失など、自然環境のバランスが崩れることは私たちの未来に深刻な影響をもたらすとされています。第2回では、環境問題に関する研究や発信にも取り組んでいる根本美緒さんに、環境問題の現状や、生活者ができるアクションなどについてお話を伺います。

※本記事は2026年10月に掲載されたものです。
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    根本 美緒

    フリーキャスター/気象予報士

    東京都出身。慶應義塾大学経済学部卒業後2001年にアナウンサーとして東北放送(TBC)に入社。気象予報士の資格を取得し、2005年からはフリーアナウンサーとしてさまざまなメディアで活動する傍ら、2020年に上智大学大学院地球環境学研究科地球環境学専攻修士課程を修了し、現在TOKYO MX「堀潤Live Junction」コメンテーターのほか、東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学博士課程にて研究中。2026年6月には著書「少年野球が私たち親子を育ててくれた〜家族が「ワンチーム」になれた理由〜」(竹書房)を発刊。

京都議定書やパリ協定などの国際的枠組みはなぜ必要?

―根本さんは学生時代に環境についての研究をされていたそうですね。

慶應義塾大学経済学部時代に環境経済の研究に携わりました。コンビニエンスストアなどを対象としたペットボトルリサイクルのためのデポジット制度(容器を返却するといくらかのお金が戻る)の研究だったのですが、研究を進めていくうちに、人は「いくらだったら回収に協力する」というものではなく、意識があれば0円であっても持ってくる人は持ってくるのではと考えるようになりました。むしろ重要なのは人の意識を変えることだと思い、最終的には環境教育の論文を書いて卒業しました。
その後TBC(東北放送)にアナウンサーとして入社し、2004年にフリーになって仙台から東京に戻りお天気キャスターとして活動するようになりました。その頃に環境省の「3R推進マイスター」などを務めさせていただき、出前授業をするなど環境教育に関する活動をしていました。出産後改めて勉強しようということで上智大学大学院の修士課程で地球環境学科に入りました。修了後には東京大学大学院博士課程で環境システム学の研究をして、現在博士論文に取り組んでいます。

―1990年代頃から地球温暖化への危機感が高まり、その対策として「京都議定書」や「パリ協定」といった国際的な枠組みが採択されました。その内容や背景について教えてください。

簡単にいえば、温暖化そのものが地球全体の問題なので、みんなで解決する必要があったということです。こうした中、1997年に京都で開催されたCOP3(気候変動枠組条約第3回締約国会議)で京都議定書が採択されました。温室効果ガスの削減義務を初めて法的に拘束力のある形で定めたもので、日本は2008年から2012年の5年間に6%削減する目標を掲げてそれをクリアしました。ただ、地球温暖化を主に引き起こしてきたのは主に先進国であるとして京都議定書では開発途上国は除外されていたこともあり、その後も温室効果ガスは増え続けました。そこで2015年にパリで開催されたCOP21(気候変動枠組条約第21回締約国会議)で、今度は気候変動枠組条約に加盟するすべての国が参加する枠組みとしてパリ協定が採択されたという流れです。世界中で取り組むことや、削減目標を5年ごとに評価・見直しをするなど意義のある内容だったのですが、経済にブレーキをかけているのではないかというジレンマや、罰則がないことによる形骸化などの課題も抱えています。

―日本では2050年にカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量から植林や新技術による吸収量を差し引いて合計を実質ゼロにする:ネットゼロ)という目標がありますが、こうした数値にはどのように評価していますか。

当然ですが、目標があるのは重要なことです。CO₂起因で温暖化が進んでいることはさまざまな研究から明らかなので、それを食い止めようという意思を全員が持つべきだと私は思います。日本では2050年にネットゼロを達成するために「2030年度に温室効果ガスを2013年度比で46%削減する」という中間目標を定めて、2024年度の段階で28.7%まで来ています。もうひと頑張りが必要です。

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日本が掲げる2050年カーボンニュートラル(ネットゼロ)に向けての進捗。
2024年度の段階では2013年度比で28.7%減と、中間目標である「2030年度に46%減」までもうひと頑張りが必要
出典:環境省「2050年ネット・ゼロに向けた進捗」

―こうした国際的枠組みや日本が掲げた目標が生み出した効果は感じていますか。

もちろん効果は感じています。特に人の意識が変わったことは大きいと思います。昔は子どもたちに環境の話を教えに行ってもほとんど興味をしめさなかったのですが、今は大人にも子どもにもSDGsや3Rなどの言葉が確実に浸透していて、特に若い層は自分の行動で環境を守らなければならないと考えている人が多いように感じます。だからこそ私たち大人が若い人たちの行動にストップをかけてはいけないと強く思います。

―大人の方が「昔はこうだったから」など意識のアップデートができていないケースが多いかもしれません。

難しいのは、脱炭素が経済のブレーキになると考えてしまうケースがまだ多いことです。脱炭素が逆に経済に好循環をもたらせる、イノベーションを起こせるような方向にシフトすることが理想です。そういう意味では、グリーンテックのような資源や環境に配慮したテクノロジーやサービス、あるいは環境ビジネスのような分野が発展していくことが大事になると思います。あとはCSR(企業の社会的責任)の部分ですが、コスト的な問題もあってまだ大企業に限られがちなのが課題です。中小企業にも広がっていくためにも、大手企業が何らかのサポートする形が必要だと思います。

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気候変動の影響に直面する人たちをどう守る?

―気候変動は社会的・経済的に厳しい立場に置かれた人々ほど影響を受けやすいという状況があると聞きます。これについてはどのように感じていますか。

一番影響を受けていると思うのは子どもたちです。ユニセフによれば、世界で4億3600万人の子どもが、気候変動が原因で水不足の危機に直面しているといわれています。多くの子どもたちが水にありつけない状態なのです。これはもう気候変動によって子どもたちの生きる権利が阻害されているということです。
もっとも顕著なのが、アフリカ大陸の真ん中に位置する中央アフリカ共和国というところで、南部に位置する首都のバンギで大洪水が続いている一方、国の北部は干ばつが深刻で、いずれも農作物が育てられない状況です。そんな中、北部の人たちが干ばつから逃れるために南部に移動してきており、食料や水の取り合いが発生しています。子どもたちは水が得られず、飢餓にも苦しんでおり、行き場をなくした若者たちは武装勢力や犯罪集団に参加するという負のスパイラルに陥っています。
アジアでもバングラディシュが頻繁に水害に見舞われています。国土の大半が低地ということもあり、多くの土地が浸水してしまい、農地はもちろん、発電所や学校などの重要なインフラも水没しており、子どもたちが学校に通えないという事態が起きています。
あまり報道されないので知られていませんが、このようなことが、現実に気候変動が原因となって起こっているのです。そしてその気候変動には温室効果ガスを排出している私たちも深く関わっています。そういう認識や危機感が足りていないのが現状です。

―近年、人種や国籍、所得などにかかわらず、すべての人々が公平に安全で健康的な環境で暮らすことを求める「環境正義」という言葉が注目を集めていますが、中央アフリカ共和国やバングラディシュの子どもたちのお話を伺ってその必要性を強く感じました。この概念をどのように生活者に伝えるべきだと考えますか。

一時期南太平洋の国ツバルが海面上昇で沈んでしまうということがテレビなどで紹介されていました。しかし残念ながら時間とともに関心が薄くなってしまっています。そうでなく、実際にツバルの人たちがこのことでどれだけ苦労をしているのか、子どもたちの権利が阻害されているのではないかといったところこそ理解しなければならないはずです。
今はインターネットでさまざまな情報が入る時代なので、本来はこうした現状をもっと見て欲しいと思います。私がコメンテーターとして関わっているTOKYO MXテレビの番組ではスーダンの状況などは紹介したことがあるですが、中央アフリカ共和国の場合は外務省が全土に退避勧告を出している危険レベルで、なかなか現地に入れないため、報道もままならないという状況があります。とはいうものの、環境正義の普及には本来はテレビ含め報道がもう少し何とかしなければいけないと思います。

―厳しい立場の人々を守れる社会であって欲しいですね。

国内の話でも、たとえば熱中症は3歳以下の子どもや65歳以上の高齢者がかかりやすいというデータが出ています。子どもたちや高齢者は災害時にも支援が必要なケースが多いことからもわかるように、気候変動の影響を受けやすい層であり、周囲の人たちが守らなければならないと思います。

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私たち生活者にできることは?

―パリ協定のような国際的な枠組みは、私たち生活者の暮らしにどのような形で反映されてくるのでしょう。

パリ協定では世界の平均気温の上昇を産業革命以前から1.5℃までに抑えようという約束をしたのですが、その値を既に超えているという現実があります。目標を達成できなかったのは残念なことではありますが、数値目標を立てたことで、私たちは「1.5℃をあっさり超えてしまう」という現実を目の当たりにしました。そのインパクトは間違いなく一人ひとりの危機感につながるはずで、そこは目標を立てた成果であると考えることもできます。この数字を見て、「こんなに暑くなっているのか」「自分はどういう行動をとればいいのか」と考えるきっかけにはなっていると思います。あとはそれをいかに行動に結びつけていくかです。

―実際にはその危機感を日常生活の行動変容に落としこまなければいけないのですね。そのための橋渡しのようなものは何かありますか。

CO₂を減らすということに特化して考えると、「物の選び方」という観点では人の意識は以前と変わったと思います。たとえば車であればガソリン車を新車で買う人は減りましたよね。ほとんどの人が電気自動車とは言わないまでも、ハイブリッド車を買っていると思います。でも買う人たちが皆「CO₂排出を抑えるため」だけで選んでいるわけではないですよね。たぶん主たる購入動機は燃費の良さで、それに加えてCO₂も抑えられれば一石二鳥だよね、くらいの考え方なのではないでしょうか。実は環境問題への行動変容を促すには、この「一石二鳥」の考え方が凄く大事だと思っています。
自転車なども同じですよね。自転車はCO₂を排出しないので車よりも環境にやさしい乗り物ですが、それを理由に自転車に乗る人はたぶんあまりいません。「便利だから」「健康にいいから」「痩せるかもしれない」みたいな購入動機が多いと思います。脱炭素に関連する商品はそういう「一石二鳥」をPRするのが一番効果的なのではないでしょうか。

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国内のハイブリッド車保有台数。10年間で3倍近くまで伸びている
出典:一般財団法人自動車検査登録情報協会「ハイブリッド車・電気自動車の保有台数推移」

―そのほかに生活者にできる行動が何かありましたらお願いします。

京都議定書やパリ協定などの国際的な枠組みは国際会議で決まるわけですが、国内においても、環境に関わる政策を決定するのは国です。また地域に目を向けると、都道府県や市町村が独自に条例などのルールをつくる場合もあります。そう言うと「政治家や役所の偉い人たちが決めること」と思われるかもしれませんが、私たちもたとえば選挙などを通じて意思表示をすることで、それを政策に反映してもらうことができるはずです。どの党であれ、あるいはどの候補者であれ、選挙公約の中に必ず環境に関する項目があるはずです。だれに投票するのか、それぞれが掲げる環境政策を見て決めるということも一つの方法ではないでしょうか。そこで選ばれた人たちが政策を決め、その延長線上に国際会議がある。そういう意識を持つことも重要ではないかと思います。

―やはり生活者一人ひとりの意識の変革がとても大事ですね。

環境に対する意識を持ち、行動変容を促していくことが大事ですが、そのためには政策はもちろんですが、テクノロジーの進化、イノベーションも必要です。たとえば電気自動車がもっと普及すればCO₂排出は今以上に抑えることができますが、現状充電のためのインフラが十分に整備されていないという問題もあります。これに対してコンビニの駐車場で充電ができるような工夫はできないのか、など技術的・制度的に改善できることはあるのではないかと思います。同じように期待の大きい水素・燃料電池技術についても、燃料である水素の製造コストや高密度な貯蔵・輸送といったインフラ上の課題が存在します。こうした技術的な課題をひとつずつクリアしていくことも必要だと思います。

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