日本ではSX銘柄が選出され、企業を評価する基準としてサステナビリティという観点が重視されつつあります。そこで今回は企業分析や新しい形の投資についてご紹介。林さんの伝説の「0秒解答」のエピソードもあります!
林 輝幸
クイズ制作集団「Q星群」代表
富山県出身。2016年、東京大学に現役合格。クイズ研究会(TQC)に所属し、競技クイズを始める。クイズ番組『東大王』(TBS系)に東大王チームとして出演。東京大学文学部卒業後は、クイズプレーヤーとして『Qさま!!』(テレビ朝日系)などクイズ番組を中心にテレビ出演。また、クイズ制作集団「Q星群」を立ち上げ、クイズを軸とした事業やイベントなどを行っている。
今回は、サステナブルな観点を意識した企業分析や、僕が考える「投資は推し活論」などについてご紹介していきます。
その前にまずは、前回のクイズの答えを発表します。
答えは④32位です。このランキングは、スイスの国際経営開発研究所(IMD)が発表しており、デジタル技術をビジネス、政府、社会における変革の重要な推進力として活用する能力と態勢を、国・地域ごとに測定、比較するものです。
日本の順位を見て、皆さんは高いと思いますか?低いと思いますか?経済状況や文化の成熟度から鑑みると、思ったよりは高くないと僕は感じてしまいました。実際、計測を開始した2017年以来最低の順位だそうです。IMDによる評価は次のようなものです。「技術的枠組みや科学的集積における優位性を、ビジネスの俊敏性、規制の枠組み、人材が阻害する構造が変わらないまま低落が続いています。ただ、ビジネスの俊敏性、IT統合などに下げ止まり傾向がみられるなど、今後に期待できる部分も垣間見えます」。ちなみに、1位は米国で、2位がオランダ、3位がシンガポールという結果になっています。(※1)
このように、企業や国・地域はさまざまな要素において指標や数値などで分析されており、その結果が投資やビジネス、娯楽など多くの意思決定に影響しています。僕も今回のようなインタビューやタイアップ広告、クイズ作成などの依頼を企業から受ける際は、「どのような事業か」「どれくらいの歴史があるのか」「どこに拠点があるのか」などをひととおり調べます。そしてその企業に自分はどのような付加価値を提供できるだろうかと考え、企画を練ったりクイズをつくったりしています。
つまり、個人においても企業間取引においても、意思決定において分析というものは重要なのです。
ここで、分析にまつわるクイズです。
答えは③さくです。「析」という漢字には、分けて明らかにするという意味があります。単体でも「分析」のような意味を持つのですね。ちなみに、「析」は漢字検定準2級相当だそうです。
近年、企業を分析する観点として「サステナビリティ」が注目されています。第4回まで記事を読んでくださっている方はその理由をすでに想像できるかと思いますが、企業自身が存続していくためには、長期的に発展し、あらゆるリソースが循環していく事業を行う必要性があります。そのため、環境・社会・経済の持続可能性に配慮し、企業の持続可能性と同期化させる必要があるのです。つまり、サステナビリティに配慮した事業は企業自体の持続的な成長にもつながるため、評価基準として重要なのです。
企業がサステナビリティに関する情報を開示する際の項目として、「GRIスタンダード」というものが有名です。これは、オランダのアムステルダムにある独立した非営利団体GRI(Global Reporting Initiative)が作成しているもの。世界の多くの企業がGRIの作成した開示項目に従って情報開示を行っています。項目がたくさんあるためすべてをご紹介することはできませんが、「こんなことまで開示するの!?」と驚くような項目を見つけたのでいくつか紹介していきます。(※2)
まず一点目は、開示事項302-1 "組織内のエネルギー消費量"のなかにある、「組織内における再生可能でないエネルギー源に由来する総燃料消費量(ジュールまたはその倍数単位(メガ、ギガなど)による)。使用した燃料の種類も記載する。」という項目です。この後の項目として再生可能エネルギーに由来する総燃料消費量の開示もあるのですが、使用したエネルギー量だけでなく内訳まで記載する必要があることに驚きました。これまでは、「電気をこまめに消す」「エアコンの温度を上げる」など「節電」を心がけようという風潮でしたが、それに加えて現代では、使用する電力も発電時における環境への影響が少ないものを使用すべきという風になってきているんですね。
続いて二点目は、開示項目303-5 "水消費"の「報告組織は、次の情報を報告しなければならない。a.すべての地域での総水消費量(単位:千k L)」です。どちらかというとオフィスではなく、工場や製造拠点などにおける消費量の話ではありますが、数値として計りづらそうな水の消費量をしっかりと記録して報告しなければいけないことに驚きました。たしかに、水の消費が過剰な産業は、河川や地下水の減少を引き起こし、地域の水資源に負荷をかけます。これが続くと、飲用水の不足、漁業や農業に対する影響、最悪の場合は生態系の破壊が生じる可能性があります。また、GRIには排水に関する項目もあります。排水は適切な処理が行われない場合、化学物質や有害物質が河川や湖に流れ込み、汚染を引き起こします。それにより、地域の水質や水生生物に悪影響を与えることもあります。環境保護の観点で水に関する意識は非常に重要なため、このような項目が設けられているのですね。(※3)
最後は、開示項目401-3 "育児休暇"の「d.育児休暇から復職した後、12ヶ月経過時点で在籍している従業員の総数(男女別)」です。この「12ヶ月経過時点」というのが面白いですよね。育児休暇の取得を推奨するだけでなく、復帰後の環境もしっかりと整え企業への定着率を高める必要があるという視点での項目だと考えられます。
このほかにも開示項目は多くあり、企業は項目に従って統合報告書やCSRレポートの情報と紐付け、情報公開をしています。ちなみに、GRIスタンダードのすべての項目が掲載されている資料をダウンロードしたのですが、なんとPDFで800ページ以上ありました。企業分析における重要なこととはいえ、情報をまとめるだけでもすごく大変そう。公開している企業は、サステナブルに本気で取り組んでいるのだなと感じとることができますね。
少し専門的な話が続いたので、僕の「分析」にまつわるエピソードをご紹介します。あるクイズ番組に出た際「建設予定の建造物の名称をお答え下さい」というテーマで出題されることになりました。本来ならその後に、建造物のヒントが含まれた問題文が読まれるのですが、僕はそのテーマだけで解答ボタンを押し、正解することができました。番組の実況では「ジャスコスペシャル」と名付けていただいたシーンですね。実はこれ、「分析」で正解に辿り着いたんです。収録前の勉強段階で、「この番組は時事問題が好き」「『新種』や『新しく発見された』など、新しい情報のクイズが毎回出ている」「その観点で、テレビで放送しやすい映像ってなんだろうか?」「タワーなら見応えがあるんじゃないか」と分析をして、インプットをしておきました。それが、本来のクイズであれば必要となるヒントがない状態での正解につながったんです。
もう一つ、僕は最近、麻雀最高位戦日本プロ麻雀協会のプロテストに合格することができました。その麻雀の勉強でも「分析」は欠かせません。先人たちが残した戦術書は数多ありますが、実際その戦術がどういう場面で最も役立つのか、どういう場面では損をするのか、そこを統計上の数値として理解しておくことで、場面ごとに最善の手を打つことができます。最近ではAIによる分析が主流になってきており、僕もAIを用いてひたすらデータをインプットしています。
そのようなわけで、データ分析は個人にも企業にも重要ですね。ちなみに、麻雀のコミュニティに入ったことにより友達がすごく増えました。また、大好きなお酒や映画など、僕には趣味が共通する友達が多いです。趣味が同じだということは、自分と価値観が似ているからきっと仲良くなれるぞ、と共通点を無意識に「分析」して仲良くなっているかもしれないと、ふとこの話をしていて感じました。
答えは①野球です。セイバーメトリクスとは、野球についての客観的・統計的な研究のことで、これまでの経験値ではなく、過去の統計から場面ごとに有効な作戦やプレイを導き出す手法です。また、選手を評価する基準もセイバーメトリクスで算出されることがあります。日本でも一部のチームがこれに力を入れていますし、海外では成績不振で予算も少ないチームがセイバーメトリクス重視のチームに再建し、優勝を果たしたという事例があります。ちなみに、このエピソードは有名俳優が主演でハリウッド映画化もしているんです。IT技術が発達したことで、データ分析はあらゆる業界で当たり前になってきていますね。
さて、ここからは目線を日本に絞っていきましょう。日本では、2024年に「SX銘柄」が選出されました。これは、経済産業省と株式会社東京証券取引所による取り組みで、SX(Sustainability Transformation)を通じて持続的に成長原資を生み出す力を高め、企業価値向上を実現する先進的企業群を、東証上場企業を対象に選定・表彰しています。初回は「SX銘柄2024」として15社を選定しました。日立ソリューションズの親会社である日立製作所も選出されています。これまでは、事業の収益性や将来性が大きな基準となっていた投資ですが、SX銘柄のように地球への影響や企業としての持続可能性も基準となってきているのですね。(※4)
僕は、投資というものは企業への「推し活」という見方もできると考えています。推し活とは、タレントやアイドル、YouTuberなどを「推し」と呼び、イベントに参加したりグッズを買ったり、配信上での投げ銭(YouTubeでいうスーパーチャット)を行う活動のことです。投資に置き換えると、「この企業はどんな事業をしているんだろう」「どんなブランドなんだろう」「どんな人がこの事業で喜ぶんだろう」と情報を集めて徐々に共感していき、応援をする気持ちで株式を購入するという感じ。その共感のなかに「SX」という視点が加わり、さらに推しポイントが増えたなと感じます。もちろん投資はリターンのことも考えて行う行為であることは重々承知ですが、その視点に加えて、「環境への取り組みに共感」「SXを応援したい」というように、共感ベースでの投資も今後増えていくのではないかと考えています。
さて、今回は企業の分析や開示項目、「投資は"推し活"論」について話していきました。これまでの5回で「サステナブルの基礎」「SXとは何か」「企業の協創」「バックキャスティング手法」「データ分析と新しい投資の形」についてご紹介してきましたが、みなさんのお役に立てましたでしょうか?半年間にわたる連載も、次回でいよいよ最終回です。第6回はZ世代ならではの強みや、その強みを活かしたサステナビリティ活動、はじめの一歩の踏み出し方をご紹介します。これまでの記事を読んでくださり「サステナビリティ活動への第一歩を踏み出したい!」と考えている方にとってきっとタメになる記事だと思うので、ぜひ最終回もチェックしてみてください。
それでは、最後はそんなZ世代に関するクイズでお別れしたいと思います。答えは次回の記事で発表します。お楽しみに!
【引用元】
※1 2023年世界デジタル競争力ランキング|IMD
https://www.imd.org/news/world_digital_competitiveness_ranking_202311/
※2 日本語版GRIスタンダード|GRI
https://www.globalreporting.org/how-to-use-the-gri-standards/gri-standards-japanese-translations/
※3 日本が世界の水環境に及ぼす影響を明らかにする「ウォーターフットプリント」|WWFジャパン
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/4586.html
※4 「SX銘柄2024」を選定しました|経済産業省
https://www.meti.go.jp/press/2024/04/20240423001/20240423001.html