日立ソリューションズはEX向上のため、ボトムアップカルチャーの醸成やチャレンジしやすい諸制度の整備、コミュニケーション施策を推進しています。
森 亮輔
株式会社日立ソリューションズ
人事総務本部 労政部 労政グループ
主任
加藤 里菜
株式会社日立ソリューションズ
人事総務本部 労政部 労政グループ
――EX(※1)向上に向けた取り組みを進める背景や狙いを教えてください。
森:持続可能な社会の実現が求められている中、企業の方向性として「企業理念や存在意義に立ち戻りつつ、サステナブルな経営の実現による企業価値の向上」や「優秀な人財の確保・育成とイノベーションを生み出す環境の整備」が必要と考えています。50年先も人財も企業も引きつける社会の価値を協創するサステナビリティ経営の実現に向けて、さらなるビジネスマインド、組織文化の変革を人財戦略で推進することが必要です。その中で、EX向上のため、ボトムアップカルチャーの醸成や社員がチャレンジしやすい諸制度の整備とそれらを後押しするコミュニケーション施策を推進しています。
加藤:当社では、会社がお茶とお菓子を用意して気軽な雑談を促すという取り組みを行っております。きっかけは、2018年頃、日立グループ共通サーベイ(様々な観点で従業員の意識調査を行い、日立グループ全体および各部門の強み弱みを把握することを目的に実施するもの)で、主任のエンゲージメントが全社平均と比較して低いことが課題となっていたことです。課題解決のため「前向きに仕事に向き合うためには何が必要か」「楽しい職場づくりには何を改善すべきか」といった話し合いを気軽にできる場を設けました。その後、業務以外のコミュニケーションも重要との認識が高まり、全社員向けの施策に発展しました。この施策を始めて1年半ほどたった頃、世の中をパンデミックが覆い、リモートワーク中心の働き方に移行せざるを得ませんでした。お茶とお菓子を提供できなくなった代わりに、オンラインでのコミュニケーションに対して、商品と交換可能なポイントを付与するよう施策を見直しました。
森:リモートワークに移行したことで、コミュニケーションの重要性はより強く認識されるようになりました。それがオンラインでの工夫につながりましたし、次の施策の検討も本格化しました。
――次の施策は褒め合う文化の醸成に向けた取り組みですね。
加藤:21年5月に始まった施策です。「Aさんの発表、素晴らしかったです」「Bさんの作った資料がすごく役立ちました」といった感謝や称賛の言葉とともに、ポイントを送り合うシステムを導入しました。全従業員に毎月一定のポイントが付与され、これを相手に送ります。このやり取りは社内で公開され、当事者以外も見ることができます。これらの社内コミュニケーションの可視化を通じて、相互理解の促進にもつながると考えています。
――その次は、ランチコミュニケーションを後押しする施策です。
加藤:23年1月、ランチミーティング時の昼食代を会社負担とする制度を開始しました。協力会社を含めて全従業員に月2回までとしています。コロナ禍も落ち着きを見せ始め、出社が増え始めた時期です。ただ、リモートワーク率は高く、マネージャー層からは「部下に出社を求める理由を見つけにくい」との声が寄せられていました。そこで、対面コミュニケーションのきっかけ作りとしてこの取り組みを始めました。非常に好評で、毎月1400人程度の利用があります。
――最後に、社長のタウンホールミーティングについてうかがいます。
加藤:先ほどの3つの施策は従業員同士のコミュニケーション促進が目的ですが、タウンホールミーティングは経営幹部と従業員とのコミュニケーションに焦点を当てた施策です。社長から社員に会社方針を説明するために期ごとに開催される方針説明会は 、従来だと双方向でやり取りする時間は限られていたので、22年3月からのタウンホールミーティングは双方向性を高める形でオンラインでスタートしました。
森:当社の経営戦略や背景などを直接語りかけたい、従業員の生の声を聞きたいという社長自身の思いから始まった施策です。幹部からの一方的な説明だけでなく、従業員も自由闊達に話せる双方向のやり取りを重視しました。
加藤:当日の進行は、従業員がチャット機能を使って質問や意見など投げかけ、社長に同席する数名の従業員がファシリテータとして進行を行います。そのファシリテータも社内から募集をしており、120人を超える多数の応募が寄せられています。また、チャット機能も社長自ら「NG なしで何でも聞いてください」と案内しており、1回当たり200件以上の質問・意見があります。22年度は13回実施、約8割の従業員がリアルタイムで参加しました。当日参加できなかった従業員には、アーカイブ動画を配信し後日視聴できるようにしています。
――以上の施策がもたらした効果と今後の展望をお聞きします。
加藤:4つのコミュニケーション施策は、EX向上をめざす取り組みの一部ですが、EX向上施策は全体として効果を上げています。毎年実施している日立グループ共通サーベイだと、エンゲージメントに関する肯定的回答率は上昇傾向にあります。コミュニケーション施策の貢献度は計測できませんが、これに寄与していることは確かです。
森:自律的な個人が主体的にチャレンジする、そんな組織文化の醸成がEX向上の目的です。例えば、称賛し感謝し合う職場づくり。日々のチャレンジを互いに称え合うことで、試行錯誤を推奨し促進する文化が育つでしょう。イノベーションを加速するには、こうした文化のさらなる強化が必要です。その際、各自がバラバラに動いたのでは大きな成果にはつながりません。ビジョンや戦略の共有が重要です。その意味で、タウンホールミーティングのような施策も欠かせないと思います。