
手軽にたんぱく質を摂取できる「豆腐バー」を開発し、豆腐業界に革新をもたらしたアサヒコ代表取締役の池田未央氏。地球温暖化やたんぱく質クライシスなどの社会課題の解決をするなど、豆腐を通じて描く豊かな未来像について、池田氏に聞いた。

池田 未央
株式会社アサヒコ
代表取締役
いけだ・みお
愛知県生まれ。東京農業大学を卒業後、三星食品(現モンデリーズ・ジャパン)に入社。ヒット商品「キシリクリスタル」などを開発。キャドバリー・ジャパン、日本クラフトフーズに転籍し、流通菓子でもヒット商品を生み出す。洋菓子会社で駅ナカ人気スイーツをプロデュースするなど、洋菓子でも商品企画に携わる。2018年にアサヒコに入社。2020年に「豆腐バー」を販売。2023年5月同社代表取締役に就任。
―これまでの菓子業界から、他業種の豆腐メーカーに転身することになったきっかけをお聞かせください。
新卒で入社してから40代目前まで、スーパーマーケットやコンビニで販売するキャンディ、土産用の菓子、百貨店の菓子と様々なチャネルに関わってきて、一通りやりきった気持ちだったことが1つ。加えて、年齢的にも毎日の菓子の試食が、体に重く感じるようになってきていたところでした。その時に「お豆腐屋さんで人を探している」と声をかけてもらい、お豆腐なら毎日食べても大丈夫そうだと転職を決めました。

―池田さんから見た豆腐業界の第一印象はどうでしたか。
菓子業界は、味のバリエーションが豊富でパッケージも色彩豊かです。当たり前なのですが、豆腐製品は中身はすべて白。パッケージも白で文字は墨文字がほとんどということにまず驚きました。製法や大豆が違っても絹か木綿か以外に何が違うのか分からないのに、どうやって差別化しようかと不安になりました。
そこに新たな価値を生み出すきっかけをつくることが、マーケティング部長として私に与えられたミッションです。入社してすぐに豆腐の市場データを徹底的に分析するところから始め、そこからひたすらデータと格闘し続けました。
―「豆腐バー」はどのような経緯でつくられることになったのでしょうか。
入社して3カ月経った頃に視察で訪れた米国で、「TOFU」として多くの人に食べられているのを見たことが「豆腐バー」開発のきっかけになっています。米国で売られている豆腐は水分が少なく少し硬めで、肉や魚に代わる第3のたんぱく源として、健康志向の人ばかりでなく、動物愛護や環境問題を意識した人たちから評価されていました。
マンハッタンにある「食のセレクトショップ」のショーケースに並んでいたのは、ダイスカットの豆腐を軽く素揚げして、メープルソースを絡めたもの。量り売りを買ってすぐに食べたところ、食べやすく、すごく美味しかった。素朴な田舎娘が、都会に出て洗練したレディになったような、そんな豆腐の変身ぶりで衝撃を受けました。
―豆腐をバー状にするアイデアはどう生まれたのでしょうか。
私たちは伝統食として豆腐のことをとても大切に思っています。しかし、その価値のままで工夫してこなかったという反省があり、差別化を図る一歩として、まずは硬い豆腐をつくろうと考えました。豆腐を硬くするための試行錯誤をするのと並行して売り方を考えていた時に、コンビニエンスストアで見たサラダチキンバーからヒントを得ました。
そこから1年間くらいかけてアイデアを形にして、セブン-イレブンのバイヤーさんに試作品を見てもらいました。そのバイヤーさんはバー状の豆腐を「すごく面白い」と言ってくれたのですが、「サラダチキンのように食べ応えのある弾力」「たんぱく質を10グラム以上」「味付けはしっかり」「でも仕事をしながら食べるので手やPCが汚れないように液だれはしない」という4つの宿題が出されました。その4つをクリアするため、社員みんなでさらに試行錯誤を重ねて、2020年冬から「豆腐バー」を発売することになったのです。

―今後、豆腐バーをどのように展開していきたいと考えていますか。
世界では、今後の急激な需要拡大に対してたんぱく質供給量が不足する「たんぱく質クライシス」が重大な社会課題だとされています。この課題に対して、植物性たんぱく質供給源としての豆腐は大いに貢献できるはずです。たんぱく質の中でも温室効果ガス排出量がかなり低いというメリットもあり(下図)、環境負荷の面からも豆腐の可能性を感じています。
―今後の展開として、どのようなことを考えていますか。
現在の豆腐バーはチルド製品なので冷蔵庫保存が必要ですが、常温保存が可能な豆腐バーを開発中です。常温であれば賞味期限が1年ほどに延びますし、運動時やキャンプなど屋外に持ち出して気軽に食べられます。オフィスのデスクに常備しておいて、小腹がすいた時にパクッと食べるのもいいですね。地震などの災害の多い日本では、災害保存食としても活躍します。
また、豆腐バーは箸が必要ないので、味付け次第であらゆる国の人に親しまれるはずです。海を越えて、たんぱく質クライシスを解決するソリューションの1つとして発展できると考えています。
最近では、化学メーカーとともに、豆腐をつくる過程ででる"おから"を有効活用するための研究を始めました。おからは栄養豊富で、サステナビリティの上でも重要な材料ですし、豆腐バーの機能性を高めることにつながると思います。

1本で10g以上の植物性たんぱく質を摂取できる豆腐バー。
「旨み昆布」「日高昆布と大豆」など様々な味がある。
他にも、「ガトーショコラ」や「抹茶テリーヌ」など動物性原料を使用していないおやつバーの展開もある
―日本の食に対して、どのような未来像を描いていますか。
日本には、1つのものを大切にして、循環させながら長く、素材を余すことなく使い切る「もったいない文化」が根づいています。それが当たり前になりすぎて最近はその精神が薄れてきていますが、世界の人たちが「豆腐はクール」「サステナビリティ」といって日本の食文化の素晴らしさを再認識させてくれました。
特に、豆腐、みそ、しょうゆ、納豆などの大豆製品や発酵食品は、日本人の長寿を支えています。このような素晴らしい大豆製品を後世につなげていけるように、食べ方や価値を革新していくことが豆腐屋としての私たちには課せられています。
めざすのは世界征服、その先には宇宙も見据えています。そのためにもまずは日本の伝統食である大豆食文化という軸足をつくること。そこから一歩一歩進んで行けば、いずれ宇宙に届くと思っています。

―新しいことにチャレンジする時、またそれをやり続ける時、大切にしていることを教えてください。
自分が本当に良いと思うことを実現するなら、その良さを周囲の人に理解してもらえるようデータを用意して、密にコミュニケーションを取ります。周囲を巻き込んで、対話しながらアイデアをブラッシュアップして、より良いものにしていきます。
その上で、諦めないこと。言い出しっぺは諦めてはいけないし、投げ出してもいけません。チャレンジをしているとくじけてしまうこともあります。そんな状態を最近は「豆腐メンタル」といいますが、私は「豆腐バーメンタル」なので、弾力があって簡単には崩れません。仕事をしていれば、面倒くさいことや嫌なことはたくさんあります。そんな毎日すら、豆腐バーメンタルで楽しんでしまおうと思っています。

アサヒコ代表取締役の池田氏は、「豆腐バー」を開発する以前にも、菓子業界で多数のヒット商品を生み出してきたヒットメーカー。「自分がほしいものを作る」というファーストユーザー目線を持ちながら、綿密なデータ分析を行い「豆腐バー」を成功に導きました。その歩みは今後も変わることはありませんが、世界、さらに宇宙をめざして一歩一歩進んでいきます。