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人間の能力を拡張して創造性や生産性を高め、成果を上げることこそが生成AIの本質|國本 知里

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ChatGPTの登場でブームが巻き起こった生成AI。企業での導入も進んでいるが、現場での活用率は10~30%程度にとどまるという。「生成AIは人間の能力を拡張するもの」だと語るCynthialy代表取締役の國本知里さんに、生成AIの利活用に成功している企業の特徴や生成AIを使いこなすためのヒントについて聞く。

※本記事は2024年11月に掲載されたものです。
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    國本 知里

    Cynthialy株式会社 代表取締役

    くにもと・ちさと
    早稲田大学大学院卒業。外資ITのSAPジャパンを経て、AIスタートアップ・Cinnamon AIにて大企業向け新規事業などに従事。AIスタートアップ複数社のマーケティングや広報などを立ち上げた後、2022年10月から現職。情報経営イノベーション専門職大学客員教授。一般社団法人生成AI活用普及協会協議員。

新規開発で勝負するよりも技術の利活用が得意な日本だからできることを

─國本さんの会社では生成AIに特化した人財育成、導入支援を通したAIによる事業変革「AIX」を推進しておられます。生成AIに注目された理由を教えてください。

第3次AIブームが盛り上がりを見せていた頃、スタートアップで大企業向けのAI新規事業などに携わっていました。当時は音声認識や画像認識などがベースでしたが、それだけでも十分にインパクトがあって、AIを活用することで人々の働き方が変わるだろうと思っていました。

その後、2022年11月にOpenAIが生成AI「ChatGPT」を発表。それまでのAIと違って、誰でも無料で、特別な勉強をしなくても自然言語で入力するだけでクオリティーの高い文書が生成される技術が登場したことで、いよいよ急激な社会の変化が起こると思いました。現在は第4次AIブームに位置付けられ、ChatGPTや生成AIの文字を見ない日はないくらいの勢いで広がりを見せています。

─日本は諸外国に比べてAIでは出遅れているとの指摘がありますね。

この分野は技術的な変化が激しく、ChatGPTは公開から1週間単位で技術がアップデートされていますし、他にもGoogleが手がける「Gemini」、米国スタートアップ企業Anthropicの「Claude」なども注目を集めています。日本がそれらに追い付き追い越すのはかなり厳しいと思いますが、生成AIの利活用はこれからです。日本はもともと技術の利活用が得意ですから、当社ではその部分を支援していきたいと考えています。

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─日本企業ではどのように生成AIを導入し、活用していくべきでしょうか。

今指摘されている課題は、自社専用の生成AIを整備し、安全に使用できる環境を用意したにもかかわらず、十分に使われていないという点です。導入企業のほとんどで活用率は10~30%程度とされ、いかにして定着させるかが重要なテーマになっています。

─利活用が進んでいる企業には共通項や傾向はありますか。

いくつかのポイントがあります。第一に経営者のトップダウンで進んでいる点。人間は基本的に物事を変えたくない生き物ですから、「使っても良い」「推奨する」程度の呼びかけでは利活用が進みません。これはDXでも同様でした。

うまくいっている企業では「○年後に活用率90%」「〇年までに生産性を2割改善」といった明確な目標を掲げ、AIの普及推進専門の組織を作って支援をしています。専門組織の規模感は、社員1万~3万人の企業だと100~200人くらい、社員1000人の企業だと5~10人くらいのケースが多いです。

何をどう指示するかAIを使いこなすコツはプロンプトにあり

─AI普及推進の専門組織はどういった活動をするのでしょうか。

社員にAIを自分事化してもらうこと、これが2つ目のポイントです。まずはAIとは何か、何ができるのか、どう使えば良いのかといった基本的なリテラシーとスキル向上のための情報を伝えます。例えば、生成AIは文書の要約が得意ですが、ただ文書を読み込ませても期待するような要約文になりませんから、専門部隊はAIを使うコツを教えてスキルを身につけてもらい、その上で各自の業務に落とし込むように支援します。

─落とし込むにはどうすればよいのでしょうか。

まずは業務の棚卸をしてください。1日単位でも月単位でも良いので、どの業務にどのくらいの時間をかけているのかを洗い出します。営業担当者の場合、本来はお客様との時間が最も重要であるはずですが、社内の事務手続きや書類仕事に要する時間が意外に多いもの。生成AIでは業務の負担が大きいところや、時間がかかっているところを改善できる可能性があるので、そこをターゲットに効率化を検討します。

例えば、議事録の作成や営業用資料のカスタマイズといった業務は生成AIの得意分野で、AIを使うことで時間短縮だけでなく、アポ率の向上に寄与する可能性もあります。まずは日常業務に落とし込み、生成AIを使うと便利だと実感してもらえれば、使用率は上がっていきます。

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─AIを使わない理由に「間違った答えが出てくる」などの声が上がるのは適切に指示できていないからでしょうか。

そうですね。生成AIは自然言語で操作できるので検索エンジンのように使いたくなるかもしれませんが、中身は全く別モノです。生成AIでは、あたかも正解かのように間違ったアウトプットを出すハルシネーションという現象が起こり得ます。アウトプットが適切かどうか、何を信じて何を信じないのか、真偽をどう確認するのか、AIを使う人間のリテラシーが重要です。

─「生成AIで要約を試みたが、思ったような仕上がりにならない」といった声も耳にします。使いこなすためのヒントを教えてください。

生成AIに指示を出すことをプロンプトエンジニアリングと言い、それ次第でアウトプットが大きく変わります。当社では、プロンプトをより高度化させる「5Sプロンプトの法則」を提唱しています(図参照)。

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─これは人間の部下に指示する時と同じですね。

その通りです。人間の場合は空気を読むなど、コミュニケーション量が少ない指示でも通じますが、生成AIにはそこが難しい。プロンプトエンジニアリングは自分の指示の出し方を振り返る機会になるかもしれませんね。

人間がすべきこととAIに任せるべきことその見極めが重要

─これから導入する企業はどういった点に注意すればよいでしょうか。

一般的な生成AIはインターネット上の情報を学習しているのに対して、企業の生成AIは社内の情報やデータの学習が基本ですから、情報の一元化やデジタル化、構造化、すなわちDXが必要です。

良質な情報ほどデジタル化されていない企業は多く、製造業ではベテラン社員の退職で暗黙知が受け継がれないことが問題になっています。解決法の一例として、AIに質問をさせて、ベテラン社員に音声を残してもらい、データベース化するといった方法が考えられます。生成AIは革新的でも、実務は地道で泥臭いもの。経営者としては早く結果を求めたくなるでしょうが、そう簡単ではないことは知っておいてほしいです。

─御社では人財に着目した導入支援を行っていますね。

はい、企業におけるAIの課題は人財の問題だと言っても過言ではないと考えています。当社が提供する人財育成や研修の内容は様々で、役員の意識改革から始めるケースもあれば、全社員対象のeラーニングやハンズオンによる導入支援もあります。生成AIになじみが薄い場合はいきなり仕事の課題で勉強するのではなく、趣味の分野から始めるとよいでしょう。お料理ならば「おいしいもの」よりは「低糖質」「鶏肉」など具体的に指示する方が良いレシピを作れます。その体験が仕事でAIを使う際にも活きてくると思います。

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─改めて、企業がAIを導入する意義についてのお考えをお聞かせください。

この1年で感じるようになったのが「AI格差」です。私自身、今まで部下に依頼していた記事作成やデータ解析、レポート作成などにAIを活用しているのですが、AIだと8時間の作業が5分や10分で終わることもあります。そうなると1日の過ごし方が変わり、1年後には生産性に差が出ます。このことは個人だけでなく、企業にも言えること。今後、AIはさらに進化していきますから、AI格差はますます広がっていくでしょう。

─一時期、AIに仕事を奪われるという議論が話題になりました。今後AIが進化しても、人間にしかできないことは残されるでしょうか。

私は、生成AIは人間の能力を拡張するものだと考えています。例えば、顧客から「こんなウェブサイトを作りたい」と言われた時、生成AIを使いこなせれば専門知識がなくてもコードを書いてデザインもできます。客先にそれを持って行けばイメージのすり合わせから修正までできますから、各段に仕事が速くなります。ただし、生成AIにできるのはそこまで。最終的には各分野のプロフェッショナルが創造性や専門性を発揮して、より良いものに仕上げていく必要があります。これは人間だからできることで、専門家はより専門性を高める方向でスキルを磨くことになるのだと思います。

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取材後記

ChatGPTの登場で一気に花開いた生成AI。いろいろな可能性を秘めているものの、本格的な利活用はまだまだこれから。導入や浸透を図る上でのポイントや、プロンプトエンジニアリングのコツなど、企業へのAI導入支援の実績豊富な國本さんならではのアドバイスはとても勉強になりました。特にプロンプトの「5S」は早速試してみたいと思います。

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