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サステナビリティを企業の成長、経済成長につなげる

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サステナビリティを経営に埋め込もうとする日本企業は増えている。その一方で、「SDGsウォッシュ」といった言葉も生まれている。本気で取り組む企業、そうでない企業の違いとは?また、「働きがいも 経済成長も」というSDGsゴールをめぐって、その重要性について考えてみたい。

小澤 杏子(おざわ・きょうこ)
小澤 杏子(おざわ・きょうこ)
株式会社ユーグレナ 初代CFO(Chief Future Officer:最高未来責任者)
株式会社丸井グループアドバイザー
おざわ・きょうこ/2002年生まれ。帰国子女。バスケットボール部で活動し、ジュニア農芸化学会で銀賞などを受賞。体育祭実行委員会委員長も務め、ボランティア活動なども実施。19年10月にユーグレナ初代CFO(最高未来責任者)に就任。21年4月に早稲田大学社会科学部入学。日本原子力学会誌ATOMOΣ(アトモス)で時論、コラムを寄稿。21年11月に丸井グループのアドバイザーに就任。

企業活動を背中で見せることが説得力を生む

前回、ユーグレナのCFOとして経験したことについて話しました。ユーグレナはサステナビリティに本気で取り組んでいると思いますし、そういう企業がこれからもっと増えることを願っています。

一方で、サステナビリティやSDGsというキーワードを掲げつつ、あまり熱意を感じられない企業もあります。その企業が本気でやっているのか、それともうわべだけなのか――。多くの消費者はその違いを言語化できないにしても、敏感に感じ取っているような気がします。

私自身、両者を厳密に区別しているわけではありません。その間にはグラデーションがありますし、企業ごとに優先順位の違いもあります。それぞれの企業が優先して実行している施策に対して、私の価値観で「そっちではなく、こっちのほうが大事」と言いたくはありません。私が言いたいのは、響きの良い言葉よりも行動で示してほしいということです。

メディアの広告などには、読者や視聴者に対して「こうしてはどうでしょうか」と呼びかけるメッセージがよく出てきます。このような啓発・啓蒙活動はどんな時代も重要な役割を担っています。企業の呼びかけをきっかけとして、今までの行動を見つめ直した人も少なくないでしょう。しかし、一方で「それを言う自分たちの会社はどうなんですか」と問いかけたくなる企業も一定数いるのが現状です。個人的には「自分ができていないことは他人に指図すべきでない」という理念があります。もちろん役割分担が必要な場合も多くありますが、企業には、社会に対しても自分たち自身に対しても、同じレベルで活動を磨き続けていてほしい。「私たちはこうしています」という事実があって、その後に続く「みなさんも、こうしてはどうでしょうか」という呼びかけに説得力が生まれると思うのです。

言葉よりも行動。企業がその背中を見せることが重要です。それは一見小さな行動であったとしても、踏襲してきた仕組みを変えるのには大きな労力を要します。その壁を乗り越えて、共に行動を変えていく。そのメッセージを伝えていくことで、より本質的なメッセージを消費者に伝えられるのではないでしょうか。

近年、「グリーンウォッシュ」や「SDGsウォッシュ」という言葉をよく耳にするようになりました。実際には環境負荷が減っていないにもかかわらず、「エコ」とか「リサイクル」などのきれいな言葉を並べて、「SDGsに取り組んでいます」とアピールすることを指しています。そうした広告に惑わされる可能性は私にもありますが、長期的にはこの戦略は成功しないだろうと考えています。インターネットで瞬時に批判が集中しやすい今日だからこそ、サステナビリティに真摯に向き合い、意識した活動をするのは企業の未来のために必要なことだと私は考えています。

SDGs戦略とワークショップのデザイン

環境問題などに熱心に取り組んでいる人々の中には、企業が経営戦略としてサステナビリティに取り組むことに違和感を持つ人もいるそうです。サステナビリティを掲げながら儲けようとしていることが、許せないと思っている人もいるかもしれません。言いたいことは十二分にも分かりますが、利益を度外視した取り組みはやがて息切れすることは避けられず、それこそサステナブルではありません。

企業が地球環境の改善やよりよい社会づくりに資する商品開発などを行い、その商品が評価されて、結果として売上や利益が向上する。その企業は一層の成果を求めて、サステナビリティに向けた投資を拡大するでしょう。理想論かもしれません。実際の企業ビジネスはそれぞれもっと複雑だろうと想像しますが、それは望ましいサイクルですし、多くの企業がそのような経営戦略を実行することで少しでも次の世代に希望を残せます。

サステナビリティにおける企業活動の理想的なサイクル
企業がサステナビリティを意識した商品開発を行い、消費者がその商品を購入する。その利益でサステナビリティに向けた投資(商品開発)をさらに拡大する。この流れがサステナビリティにおける企業活動の理想的なサイクルだ
企業がサステナビリティを意識した商品開発を行い、消費者がその商品を購入する。
その利益でサステナビリティに向けた投資(商品開発)をさらに拡大する。
この流れがサステナビリティにおける企業活動の理想的なサイクルだ

私が思いだすのは、中学・高校時代によく参加した企業・団体が主催するワークショップです。テーマは様々ですが、SDGsなど社会問題を扱うワークショップによく足を運びました。ワークショップに戦略という言葉はなじまないので、デザインと言い換えましょう。

よく練られデザインされたワークショップと、そうでないワークショップの違いは大きかったです。実際、多くのワークショップに参加してみて、新鮮な気づきを得てワクワクした経験もありますし、退屈な数時間を過ごしたこともあります。主催者のデザインがよく考えられたものであれば、参加した中高生は知識欲を満たした上で深い議論に導かれます。

「いいワークショップ」の評価基準はイベントのデザインだけではありません。毎年開催されるワークショップが、時代の変化とともに改善されているかどうか。単発で終わるワークショップも少なくないので、継続性も重要な観点だと思います。私はときどき、中高生のころに参加したワークショップが今どうなっているのだろうと調べることがあります。自分が何年か前に経験した内容と大差のないものもあれば、大きく変わったものもあります。そこに主催側スタッフの工夫の跡が見えると「あの時参加しておいてよかった」と思えます。そして、当時自分が参加したものを、他の人にも勧めるきっかけになります。

それぞれのワークショップがどれだけの成果を上げたのか、それを定量的に評価するのは難しいでしょう。しかし、細部までデザインの行き届いたワークショップは、参加者を成長させるとともに、主催企業のファンを増やし、その企業の長期的な利益につながるはずです。単純な比較をするつもりはありませんが、企業のSDGs戦略もそのようなものであってほしいと思います。

SDGsの目標「働きがいも 経済成長も」

企業だけでなく、日本の経済にとっても成長は重要です。私が高校生のころですが、日本財団が2019年に実施した若者の意識調査(対象:インド・インドネシア・韓国・ベトナム・中国・イギリス・アメリカ・ドイツ・日本の9カ国、17歳~19歳男女)が話題になったことがあります。その中に、「自分の国の将来について」という質問項目があります。日本は最も悲観的で「良くなる」との回答は9.6%、「悪くなる」は37.9%でした。最上位の中国では、「良くなる」が96.2%です。

このレポートはショックでした。私は日本が大好きですし、日本人としての誇りを持って生きてきましたが、そうではない人も多いのかもしれないと思いました。日本の将来について希望を持てない若者がこれほどの比率でいるとすれば、それは大問題です。

若者が将来に希望が持てない社会では、企業の投資が大きく伸びることもないでしょう。私は、新しいものを生み出す力のある研究開発投資は絶対軽視してはいけないと思っています。過去数十年の推移を見ると、勢いのある国々が研究開発投資を急速に拡大しているのに対して、日本のトレンドは微増程度です。このままでは、日本の存在感は低下するばかりです。世界に対する貢献度も下がってしまい、国力も低下し、希望も薄くなる。悪循環を続けてしまうのではないかと危惧しています。

一方の個人に目を向けると、自分の仕事に誇りを持って働いている人はどの程度いるのかと気になります。数年前から働き方改革への取り組みが進んでいますが、「ブラック企業」が多いという実態があるから、このテーマが浮上したと言うこともできる。自分の仕事に誇りを持てず、生活のためだけに働いている人が多いようなら、大人の姿を見ている若者が将来に対して悲観的になるのもやむを得ないでしょう。もちろん、生活のためだけに働いていることを誇っている人もいます。仕事に対して多かれ少なかれ何らかの自信や誇りを見出すことはこれからの成長を大きく左右すると考えています。

SDGsの17ゴールの8番目に、「働きがいも 経済成長も」という目標があります。本連載の第1回で「つくる責任 つかう責任」と「ジェンダー平等」について触れましたが、働きがいと経済成長も私にとっては大事なテーマです。

私は誇りを持って仕事をしたいし、これからも自信を持って生きていきたい。そのためにも、働きがいはとても重要な要素です。また、経済成長は人々の生活を支える基盤がより強化されるということ。「失われたウン十年」といわれる時代に希望を見失った人も、経済が成長すれば前途に光を見出せるかもしれません。少なくとも、その可能性は高まるでしょう。サステナビリティ戦略で成果を上げる企業が増えれば、結果として日本経済も成長するはずです。

私たちの世代はこれまで、イヤというほど「日本衰退論」を目にしてきました。人口動態などのデータを見ると、そこには一概に否定できない根拠もあります。しかし、だからといって、そのような未来をそのまま受け入れようとは思いません。衰退シナリオをひっくり返して成長軌道に乗せるのは簡単ではないかもしれませんが、それは不可能なことではありません。

新しいアイデアを形にする研究者を大切に

日本の潜在力を刺激し、その魅力を引き出し、明るい未来に一歩でも近づく努力が重要です。そのためには個々人が誇りや希望を持ち、働きがいのある仕事をする必要があると思います。「働きがいも 経済成長も」という目標は、日本のような社会にこそ求められているのかもしれません。

先に研究開発投資の伸び悩みに触れましたが、これは日本社会にとって本当に切実な課題だと思います。「ポストドクター(ポスドク)の生活が厳しい」といったニュースはよく見ますし、身近な人からその種の話を聞くこともあります。研究職に対する社会的な評価も、必ずしも高いとはいえないでしょう。私と同世代の中にも「だったら、研究職は諦めよう」と考えている学生が少なからずいます。やはりこれでは負のループの進行を止められません。

様々な分野のリーダーからは「イノベーションが重要」という話をよく聞きますが、その一方で、新しいアイデアを形にする人、イノベーションのタネを生み出す人たちを大切にしない社会はどこかおかしい。研究者がやりがいのあるテーマに打ち込めるような環境をつくる上で、企業にできることは大きいと思います。例えば、ユーグレナは研究開発型の企業で、そこでは多くの研究者や技術者が新しいアイデアを試しています。私自身はそのイノベーションの現場に立ち会ったわけではありませんが、その様子を垣間見て楽しそうな雰囲気を感じ取ることはできました。

研究開発に注力している日本企業は多くありますが、その研究開発の現場が一層やりがいに満ちたものになれば、未来はよりよくなるはずです。若者への意識調査の結果も、少しは前向きな方向に変化するかもしれません。

研究開発やイノベーションの続きというわけではありませんが、次回はSNSやテクノロジーについて日ごろ感じていることなどを話したいと思います。

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