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【対談】挑戦するマインドで世界に羽ばたく

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競泳選手として世界の大舞台で活躍し、数々の記録を打ち立てた寺川綾氏。現在はスポーツキャスターとして第二の人生を歩んでいる寺川氏と日立ソリューションズの山本二雄社長が「挑戦することの意義」について語り合った。

※本記事は2023年6月に掲載されたものです。
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    寺川 綾

    スポーツキャスター

    1984年大阪生まれ。2002年パンパシフィック水泳の200m背泳ぎで銀メダルを獲得。ロンドン五輪では100m背泳ぎとリレーで銅メダルを獲得した。13年の引退後はスポーツキャスターなど多方面で活躍中。

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    山本 二雄

    日立ソリューションズ
    代表取締役 取締役社長

    1959年長崎県南島原市生まれ。78年に日立製作所入社。金融システム事業部長、執行役常務金融ビジネスユニットCEOなどを経て、2021年4月に日立ソリューションズの代表取締役 取締役社長に就任。

スポーツキャスターとして大舞台を経験して

山本:以前の「プロワイズ」のインタビュー*で、東京2020大会までにスポーツキャスターとして成長することが目標とおっしゃっていました。大舞台を経験されて、確かな手ごたえを得ることはできましたか。

* プロワイズ21号、50号にインタビュー記事を掲載

寺川:ご存知のように、東京2020は新型コロナウイルス感染症の影響でこれまでとはかなり違う大会になりました。選手への事前取材にも規制がありましたし、試合後のインタビュー時間も限られていました。その点ではとても難しかったですね。いかに短い時間に本人の言葉で話してもらうか。そんなことを常に考えながら取り組んだ大会でした。でもその分、キャスターとして大きく前に進めたという実感があります。

山本:選手としての経験が、キャスターのお仕事にも存分に活かされたのではないですか。

寺川:経験がむしろ自分の中でのブレーキになってしまったところもありました。選手の皆さんは人生をかけて大会に参加しています。そのことを私自身がよく知っているので、結果が思うように出なかった選手にインタビューする時は、相手を傷つけないように、言葉を一つひとつ選びながら話を聞くことに努めました。ディレクターからは「もっとずばずば聞かなくちゃだめだよ」とよく怒られましたね(笑)。

山本:ご自身の経験があったからこそ、相手を思いやることができたということなのでしょうね。寺川さんの時代と比べて、最近の選手の皆さんのメンタルや競技に向かい合う姿勢はどう変化していると感じられていますか。

寺川:「結果を出してたくさんの人を勇気づけたい」「みんなに笑顔になってほしい」「感謝の気持ちを持って試合に臨みたい」──。そんなコメントがとても多かったですよね。そこに変化が一番表れていると思います。自分のためだけじゃなくて、みんなのために頑張りたいという意識を強く持っている選手が増えていると感じます。

山本:寺川さんの選手時代、ご自身の挑戦の原動力となっていたものは何だったのでしょうか。

寺川:結果がすべてでしたね。競泳は順位と記録が試合後にすぐに分かる競技です。その結果を見て、何をすべきかを決め、迷わずに次に進む。その繰り返しでした。

山本:一流のアスリートの皆さんは、自分の中に挑戦するマインドを自然と育んでいるということなのだと思います。企業の場合は、挑戦する文化や仕組みをつくる工夫をしなければなりません。幸い日立ソリューションズは、四半世紀くらい前に当時の社長が挑戦する姿勢を大変に重んじて、それ以前には手がけていなかった新しい事業領域に果敢にチャレンジしました。その頃に試行錯誤して挑戦の気風を身につけた社員が現在は40代、50代となって、マネジメントクラスとして会社をけん引してくれています。私が日立ソリューションズの社長になったのは2年前でしたが、就任した時に「この会社には挑戦のカルチャーがしっかりと根づいている」と強く感じました。

寺川:その文化は若手の皆さんにも引き継がれているのでしょうか。

山本:ええ。シリコンバレーに社員を派遣して、現地で起業してもらう取り組みを昨年から始めたのですが、若い人が積極的に手を挙げてきます。挑戦するマインドを持った社員が多くいる会社だと思います。

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自由な発想を受け入れ挑戦を後押ししたい

寺川:若い頃に海外を直接経験することはとても大事だと思います。海外のことを人から聞くのと、自分の身をもって体験するのでは、得られるものが大きく違います。

山本:現役時代に海外の選手と交流して、マインドセットの違いなどを感じられたことはありましたか。

寺川:海外の選手には、いい意味でドライな人が多いですよね。細かいことをあまり気にしないというか。自分の考えがしっかりしているから、神経質にならずに済んでいるのだと思います。私自身は海外に出るまで、コーチをはじめとするスタッフの皆さんにレールを敷いていただいて、そのレールから外れないようにすることをいつも考えていました。もちろんそれによって成長できた部分もたくさんあったのですが、初めてアメリカのクラブチームに入った時は戸惑うことばかりでした。近くの会場で試合がある時は自分で車を運転して行かなければならないし、遠征に行く時は自分で飛行機のチケットを取らなければなりません。チームからの細かなインフォメーションはないので、一つひとつ自分で判断しなければならないことがたくさんありました。監督やコーチからの指示で動いたり、試合会場までいつも送迎してもらったりしていた日本での環境とは比べものにならないくらい大変でしたね。

山本:そういう経験を海外の子どもたちは幼い頃からしているわけですよね。だから、みんなメンタルがすごく強いのだと思います。

寺川:そのメンタルの強さが、とっさの時の判断力となるのでしょうね。試合中にプランが崩れてしまった時でも、即座に自分の力で立て直すことができる。海外の選手にはそんな強さを感じます。

山本:日本の会社では長らく、上司に言われたことをしっかりやることが正しいとされてきて、ゴールも明確に定義されていました。しかし、もはやそういう時代ではありません。会社を取り巻く環境は大きく変わっていて、正解は一つだけではない。一人ひとりが試行錯誤しながら、最適解をそのつど見つけていかなければならない──。そういう時代になっています。そのような時代に求められるのは、自由な発想でどんどんチャレンジできる環境をつくること、そして失敗を許容する文化を醸成することです。挑戦することには常に失敗のリスクがともなうからです。社長の一番の役割は、そういう環境や文化をつくって、若い人たちが未来に明るく向かっていく後押しをすることだと私は考えています。

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ボトムアップの文化が求められる時代に

山本:現在、サステナビリティが社会全体の課題となっています。スポーツ界ではサステナビリティにどのように取り組まれていますか。

寺川:意識は高まってきていますが、具体的な取り組みはこれからだと思います。いろいろな方々と意見を交換しながら、スポーツ界だからこそできる取り組みの方法を模索している時期ですね。

山本:ビジネスの世界では、社会と企業活動の持続可能性を重視した戦略であるSX(サステナビリティトランスフォーメーション)に取り組む企業が増えています。私たちも2年ほど前に社内にSXのプロジェクトを立ち上げました。サステナビリティを考える際に非常に重要なのは、一人ひとりが持続可能な社会をつくるために何ができるかを考えることです。SXのプロジェクトの一つの役割は、それを考える場を社員に提供することだと私は考えています。そこからいろいろなアイデアが生まれ、それが新しい事業につながっていく。そんな道筋をつくることが必要です。これまでも例えば、介護の課題を解決するためのプラットフォームをつくろうというアイデアが社員から出されて、具体化に向けた検討が進んでいます。

寺川:一人ひとりが自分ができることを考えるのは、とても大事なことだと思います。私もよく二人の子どもを海につれていった時に、浜辺のごみを拾う活動に一緒に参加して、子どもたちにごみを拾うことの意味を話したりしています。一人ひとりの心がけで変えられることはたくさんあるはずだし、それが世の中に広がっていけば、とても大きな力になると思います。

山本:おっしゃる通りですね。もちろん企業としても、事業活動の中で排出されるCO2を減らしたり、社会のマテリアリティ(重要課題)を解決したりすることをめざしていかなければなりません。寺川さんはこれから何をめざして活動していかれるのでしょうか。

寺川:スポーツ界には何らかの形でずっと携わっていきたいですね。それからもう一つ、長期的に自分の力で前に進める人になっていきたいと思っています。今まではいろいろな人に支えていただきながら、私ができること、やるべきことを教えていただく場面が多かったと感じています。これから先、自分から何かを発信し、自分のエネルギーで何かを生み出していく。そんな活動に取り組んでみたいと思っています。

山本:能動的に生きていきたいということですね。とても素晴らしい目標だと思います。社長としての私の目標も、社員たちが能動的に考えて活動できる環境をつくることです。会社組織ですから、トップダウンで動くことが求められる場面ももちろんあります。しかし、これからはボトムアップの文化がより大切になるはずです。若い人たちが意見をどんどん出して、自らの力で社会に価値を提供し、幸せに働けるようになれば、今以上にお客様を幸せにすることができるに違いありません。社員が活き活きと働ける会社であってこそ、世の中に貢献できる。そう私は信じています。

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