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米国の返品事情とその物流システム

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前回は「米国の消費行動におけるサステナビリティへの取り組み」として調達・製造から購買、包装、配送までについてお伝えしました。今回は商品を受け取った後の行動について焦点を当ててみます。

※本記事は2023年1月に掲載されたものです。

北林拓丈(きたばやし・ひろたけ)
北林拓丈
(きたばやし・ひろたけ)
2000年に日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社(現・株式会社日立ソリューションズ)にSE職で入社。JavaエンジニアとしてECサイト開発・運用に3年間携わり、その後米国ITベンダーの製品開発研究所にて1年3カ月の海外業務研修。日本帰国後は主に大手通信事業者向けの業務・システム再構築プロジェクトにコンサルタント、ITアーキテクト、プロジェクトマネージャーとしてそれぞれ従事。2016年からワークスタイル変革ソリューションの事業企画・開発に従事し、2020年1月からシリコンバレーに駐在。スタートアップとのパートナーシップや日系企業間連携による新規事業立ち上げ、事業拡大に従事。

筆者が米国で生活している中で驚いたのは、返品が日常的に行われていることでした。日本でも近年は、アマゾン(Amazon)をはじめとしたECが普及してきた影響で、返品という行為が増えてきていると思いますが、店舗では「不良品以外の(いわゆるお客様都合による)返品・交換はお断りします」として、受け付けていない場合が多いと思います。

一方、米国では、店舗のみならずECでもほぼ無条件で送料・手数料がかからずほとんどが返品可能です。返品可能期間や商品の状態など、ルールは店舗によって異なりますが、使用済みであっても食品でも、大抵の商品は返品可能になっています。私自身その事実を知った時は衝撃的でした。しかし不良品でもないものを返品することに、まだ抵抗を感じるのは日本人だからでしょうか。

大抵のサービスに料金やチップが発生する米国において、この返品制度という文化は、なぜかお客様向けに大盤振る舞いするサービスに見えます。

実際にどれぐらいの返品があるのかというと、全米小売業界のレポートによれば、2021年の返品総額は7610 億ドル以上であり、これは米国の総小売売上高4兆 5830 億ドルの16.6% を占めます。この総返品率16.6%は2020年の10.6%から6%上昇しています。またECの返品率は平均20.8%であり、近年ほとんど変わっていません。一方、日本では、同様のデータはありませんが、株式会社エルテックスの通信販売調査レポートによると、ECでの返品率は5から10%がボリュームゾーンということで倍以上の開きがあります。

返品にあたって、送料ならびに商品の原価は販売する小売事業者のコストとして負担することになり、これだけの規模、そして返品率は小売店の経営を圧迫しています。また、送料が掛かるということはそれだけ物流を利用しているということであり、返品された商品の多くは破棄される可能性が高いことからサステナビリティの観点から見ても好ましいものではありません。返品に関連する様々な取り組みやスタートアップのサービスが登場しているので、それらを返品のフローに沿って紹介していきます。

返品とその後の流れ

図の1の返品決定ですが、EC向けの返品マネジメントプラットフォームを提供するループリターンズ(Loop Returns)では、消費者がアプリケーション上でオンライン商品の返品を希望すると、返品理由を尋ねられ、その理由に応じてサイズや色違いの製品や他の製品への交換を選ぶことができ、さらにボーナスクレジットも付加されるというサービスが提供されます。消費者に交換という選択肢を提供することで、小売事業者側の負担を軽減するとともに、製品購入後も顧客体験を向上させ、満足度を高めることも期待されます。

図の2の返品受付以降のプロセスにおいて、消費者が自身で梱包して物流事業者に持ち込むのは面倒ですし、小売事業者も個別に届く荷物を開封して仕分けるのは手間が掛かります。ここに着目した取り組みとして2つの例を紹介します。

第一に、アパレルなどの小売店を展開するコールズ(Kohl's)とアマゾンのパートナーシップです。消費者がアマゾンのサイト上で返品手続きを行い、コールズへの持ち込みオプションを選択すると、QRコードがメールで送られてきます。そのQRコードと一緒に、返品したい商品をコールズの店舗に持ち込むだけで、コールズが梱包・発送を無料で代行してくれます。それだけでなく、コールズの買い物クーポンも入手でき、その場で店内の買い物に使用することもできます。この取り組みにより、コールズは2020年に、約200万人の新規顧客を獲得できたとのことです。

第二には、EC事業者に代わり、返品受付を代行するスタートアップ(2021年にPayPalが買収)であるハッピーリターンズ(Happy Returns)です。消費者がEC事業者のサイトで簡単な返品手続きを行った後、ハッピーリターンズが運営するリターンバーと呼ばれる返却ブースに出向き商品を返品すると、梱包が不要でその場で返金されます。このリターンバーはアウトレットやショッピングモール、都市部のショップにあり、消費者にとっては別の買い物ついでに返品ができること、ブースを用意するショッピングモールなどの事業者は、購買確率の高い消費者の来店増が期待できることと、それぞれにメリットがあります。

リターンバーに集められた返品物は、再利用可能なトートバッグにまとめて出荷され、リターンハブ(Return Hub)と呼ばれる倉庫に輸送されます。そこで開封・仕分けされた後、再販・寄付・リサイクル先に輸送されます。これによって物流コストが抑えられ、段ボールの廃棄物とCO2排出量の削減も可能にします。

2020年10月より、ハッピーリターンズは物流業者フェデックス(FedEx)と提携しました。これにより、リターンバーを設置するコストをかけずに、全米に2000以上あるフェデックスの店舗でも返品が可能になりました。フェデックスも、来店者数の増加が期待される上に、ハッピーリターンズの技術を使用して、返品商品の梱包、仕分け、処理、輸送の返品物流プロセスを合理化することができ、コスト削減が期待できます。

ハッピーリターンズは、2021年9月にオフィス用品大手のステイプルズ(Staples)とも提携するとともに、1000ブースのリターンバーを増設したことで、ニュースリリースによると全米の返却ブースは約3800箇所に広がりました。現在、米国民の75%がリターンハブの10マイル以内に住んでいるということです。

これらの動きによって、消費者は返品を気軽に行えるようになり、小売事業者は返品に関わる顧客体験の向上とともに、返品処理に関わる多大なコストの低減を実現できるようになりました。

また、返品された製品を専用の倉庫に集約して仕分けることで、サステナビリティの観点においても、梱包などの材料の削減、発送数の減少によるCO2排出量の削減といった効果が期待できます。

今回は返品について取り上げました。米国では、日常的に行われる返品のプロセスや物流をITで効率化を図るとともに、無駄なコストを削減し、顧客体験の向上やサステナビリティへとつながる仕組みが構築されており、今後ますます発展していくのではないでしょうか。

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