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「Z世代」そう俯瞰する限り本当の姿は見えてきません|長田 麻衣

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"若者の聖地"として知られるSHIBUYA109を舞台に、毎月200人に上る10代後半~20代前半のZ世代の声を集め、その価値観や実態を浮き彫りにしている長田麻衣さん。未来の消費者として、組織のメンバーとして、Z世代とどう向き合うべきかを悩む企業に、アドバイスも届けている。長田氏が考えるZ世代との共創(協創)とは?

※本記事は2024年1月に掲載されたものです。
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    長田 麻衣

    SHIBUYA109 lab.所長

    大学卒業後、総合マーケティング会社勤務を経て、2017年に若者の聖地といわれるSHIBUYA109の運営会社のSHIBUYA109エンタテイメントに入社。マーケティング部を創設。翌年、around20の消費行動を探る「SHIBUYA109 lab.」を設立、所長に就任。著書は『若者の「生の声」から創る SHIBUYA109式 Z世代マーケティング』(プレジデント社)。

アンケートにはZ世代の志向は表れてこない

―SHIBUYA109 lab.(以下、ラボ)とは、どのような組織なのですか。

2018年に、東急グループの商業施設SHIBUYA109(以下、109)の運営会社であるSHIBUYA109エンタテイメントの中に立ち上がったマーケティング部門です。109のターゲット層であるaround20(15歳~24歳)、いわゆるZ世代に直接会って話を聞き、その消費行動や価値観を探って109のマーケティングに反映させています。Z世代について知りたいという外部の企業のコンサルティングなども行っています。

―どのように話を聞くのですか。

毎月200人に会うと決め、109館内で声をかけたり、LINEでつながった子に友達を紹介してもらったりして、トレンドやオシャレの楽しみ方などを直接ヒアリングしています。これまで1万人以上の声を聞きました。LINEでつながっている子も1000人以上います。

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―長田さんが、この取り組みに関わるようになった経緯は?

大学卒業後に総合マーケティング会社に入り、クライアント企業のPRのお手伝いなどをしていました。3年たって事業会社の中でマーケティングの実務を経験したいと思うようになり、たまたま109がマーケティング部を立ち上げるための人材を募っていたので応募しました。

入社して改めて、それまでマーケティングの担当部門がなかったことに驚きました。109といえば、1990年代には"若者の聖地"といわれた若者文化の発信拠点です。でもターゲットである若者の理解を深めるための接点はほとんどありませんでした。当時の現場のプロフェッショナルな感覚と、ご出店各社のご尽力やメディアの方々のお力添えにより、若者文化を象徴・けん引するような存在になりました。その後、全国に109を模した商業施設ができたりファッションの位置づけが変わるなど、若者の変化を捉えきれなくなった。そこで、きちんと若者と向き合おうと、マーケティング部を設立することになったのです。やがて、収集したデータを外部にも販売しようということになり、より研究に特化したラボを立ち上げ、所長に就任したという流れです。

―生の声を聞くことが大切なのでしょうか。

大事ですね。部の立ち上げ当初、好きなファッションブランドに関するアンケート調査を行ったんです。1位が「特になし」でした。この結果だけ見ると、Z世代はファッションに興味がないのかと思ってしまいますが、会って話すと「ブランドよりテイストを重視している」という声が多くありました。ブランドにこだわらないから「特になし」ですが、実際は各ブランドの好きなアイテムを組み合わせてファッションを楽しんでいるというわけです。これは生の声を聞いて初めて分かることです。

―現在のクライアントは、どのような業界が多いのですか。

食品やファッションメーカー、商社、物流企業など、様々です。Z世代は5年後や10年後に消費の中心になる世代なので、どのような考え方や価値観を持っているのかを知り、今のうちにアプローチして今後のビジネスのヒントを得たいという考えがあるようです。

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SNSはリアルな世界空気を読みつつ"ヲタ活"を楽しむ

―Z世代に見られる特有の価値観はありますか。

まず「いろいろな人がいていいよね」という考えが前提としてあります。同性を好きだっていいよね、こんな服を着てもいいよね、など。言い換えると、「こうあるべき」という考えがないんです。一緒にSNSを運営することになり、アカウントのトーン&マナーを決めようとしたところ、「最初から決める意味ってあるんですか」「やってみなきゃ分からなくないですか」と言われました。方針を決め、それに沿って進めるべきという発想をしない。
一方で、空気を読むことが非常に上手で、周りとの調和を乱さないことを大事にしています。

Z世代の消費行動における価値観
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―空気を読むという話は、よく聞きます。

私はSNSの影響が大きいと思っています。Z世代はデジタルネーティブで、彼ら彼女らにとって、SNSの世界はリアルなんです。友達をつくる場であり、コミュニケーションを取る場であり、自己表現の場でもある。でも、SNSでは空気を読み間違うと炎上してしまいますよね。だから空気を読むことが身についています。

―個性を尊重しつつ、調和も大事にしているのでしょうか。

そうです。人と違うことをする時も、コミュニティの中で浮かない程度に個性を出します。自分がどう見られるのかも常に意識しています。
さらに、これもSNSと関係しますが、Z世代は各自が"推し"を持っていて、"ヲタ活"には熱心にお金と時間を注ぎ込みます。

―"推し"とは何ですか。

"推し"は好きなアイドルやアニメ、世界観などの人やモノ。"ヲタ活"は"推し"を応援する活動ですね。"推し"を中心に、共感できる子たちがSNSで緩いコミュニティをつくり、"ヲタ活"の様子を投稿して、一緒にカルチャーを盛り上げるという楽しみ方をしています。

―どのようなものが"推し"の対象になっているのですか。

それこそ多様です。みんなと同じである必要はないと考えているので、自分が好きな世界観を見つけ、小さなコミュニティの中だけで楽しみます。
ただ"推し"になっている人やモノには共通点があります。身近で親近感を持てることと、その人やモノが成長していく過程が見えることなどです。オーディション番組出身のアイドルがいい例です。その成長に並走し応援のボルテージを上げることが楽しいのです。

―他に、Z世代が大切にしているものはありますか。

"リアルな体験"にも熱心ですね。どこかに行ったり何かを食べたり。でもそれもSNSのため。SNSに写真を上げ、同じ趣味の子と盛り上がる。そのきっかけのための体験といえます。ですから"ヲタ活"も、仲間のSNS投稿のまねをしたりグッズをつくったりと、体験の余地のあるものが人気ですね。

フラットな関係で共創(協創)する姿勢が新しい価値を生み出す

―多くの場面で、Z世代と向き合う機会が今後ますます増えてきます。コミュニケーションを取る上でのコツはありますか。

消費者という面でいうと、失敗したくないという気持ちが強く、非常にシビアに商品選びをする点が特徴の1つです。化粧品1つとっても、スマートフォンで情報を集め、評価を比較し、自身の肌診断結果なども考慮して決めます。SNSで商品説明や口コミを見て、いいことばかりが書いてあると、「嘘っぽいので買わない」そうです。いいことも悪いこともしっかり書いてある方が、手に取ってもらえるようです。
また志向が多様になっているので、万人受けを狙うと、結局、誰からも共感を得られなくなりかねません。

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―職場ではいかがでしょう。

組織の中で一番失敗しがちなことが、Z世代をひとくくりにすることです。
全体の傾向としてはお話しした通りですが、Z世代は本当に志向が細分化、多様化しているんです。社会課題に関心の高い子が多いのですが、そうでない子もいますし、飲み会を嫌うといわれていますが、連れていってほしいという子もいます。そういう子たちに「飲み会は嫌いなんでしょう」などと決めつけた言葉をかけると、空気を読んで調和を大事にするので、表面上、調子を合わせる。結局距離が縮まりません。

―いい関係を築くには、どうしたらいいのでしょう。

同じ目線に立ち、年代や性別ではなく、個々に向き合う姿勢を大事にするといいのではないでしょうか。相手のことが分からなければ、「こういうのがはやっていると聞くけれど、どうなの?」「飲み会って嫌なの?」ときちんと質問する。
何も、Z世代を正解にしなくていいんです。上の世代が持っている、社会を生きる上でのノウハウなどは、きちんと教えてあげた方がいい。一方で、SNSの使い方などZ世代の得意にしていることは任せてみる。それぞれの強みを活かす、フラットな共創(協創)の場にするといいのではないでしょうか。

―共創(協創)ですか。

はい。実は私も、Z世代と話していて、学ぶ点が多いと気づかされます。多様性を受け入れる姿勢もそうです。一昨年、若者向けのSDGs商品を開発しようと会話したところ、「かわいくて買ったら実はサステナブルだった、くらいがよくない?」といった声が出てきました。社会問題への意識は高いのですが、サステナブルを意識し過ぎて、自分が楽しくないのは本末転倒なのです。そこで、かわいさをメインに出したSDGsの取り組みにしようと、意見が統一できました。上の世代だけだったら、"かわいい"という発想が出なかったと思います。誰にとってもしっくりこない活動になっていたはずです。
実際にZ世代に向き合ってみると、上の世代が気づかない視点を持っています。先入観を持たず、一緒に考え、共創(協創)することで、新しいものが生まれ「未来の当たり前」がつくられるのではないでしょうか。

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取材後記

「Z世代はアンケートでも質問の意図を読んで本音を書かない」「志向が多様でマスが生れないからこそ、個人の意見に耳を傾けるべき」と、長田さん。デジタル化が進んだ今だから、あえてリアルな対話が大切なのだと、お話からよく分かります。Z世代と共創(協創)することが、多様性を受け入れ組織を強くするということにも納得しました。

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