独自の手法で、経営者やアスリートなど計15,000人にカウンセリングを行い、その95%を回復に導いたという大人気の心理カウンセラー、中島輝氏。「マネージャー層こそ、自己肯定感をレギュレーションするスキルを磨いて欲しい」と話す。では、どうしたらいいのだろうか。そもそも自己肯定感とは? 中島氏に解説をしていただいた。
中島 輝
心理カウンセラー・作家
〈自己肯定感アカデミー〉代表。自己肯定感の第一人者。心理学、脳科学、 生理学、哲学などに基づいた独自の自己肯定感メソッドを提供。1万5000人超に独自の手法でカウンセリングを行い、回復率は95%に上る。『自己肯定感の教科書』(SBクリエイティブ)ほか、著書は累計60万部。
―自己肯定感という言葉は人によって解釈が違いますが、中島さんはどのように説明されていますか。
ひと言でいうと、"生きる"とか"幸せになる"力の根源だと説明しています。人間は、ネガティブな状況でも、ポジティブな側面を探して向かっていくことができます。「きっと大丈夫」「元気を出そう」と、見方を変換できる。だから幸せになっていけるのです。この変換する力の源が自己肯定感であり、人生の軸になるエネルギーといえます。
―自信とは違うのでしょうか。
私は、自信は自己肯定感の一部と位置づけています。例えば目の前に大きな山が出現した時。「よし、越えられるぞ」というのが自信です。それに対し、越えられそうにない山でも、「どうやったら越えられるのかな」と考えることができるのが自己肯定感です。
―自己肯定感が低いとどのような不都合が生じるのですか。
物事の否定的な側面ばかり見るようになるので、不安や劣等感、嫉妬心などネガティブな感情が高まります。先の山の例だと、「無理だよ」とか「なんで自分ばっかり」と諦めたり誰かのせいにしたり......。ビジネスパーソンでは、会社や上司あるいは部下の悪い面ばかりが目についてモチベーションが下がる、不安から消極的になる、判断力の低下、視野が狭くなって仕事が進まないということが起こり得ます。「がんばって完璧にしなくては」という発想にもなるので、相手にも完璧を求めてしまうことも出てくる。最終的には何に対しても感謝できなくなります。
―人間関係が破綻しそうですね。
そうですね。ただ、ここで知っておいてほしいのが、自己肯定感は誰でも上下するということです。
自己肯定感は総量が多い人と少ない人がいて、総量が多い人でも、その時々で上下します。だから、否定的な物の見方をしている自分に気づいても、気にする必要はありません。「今日は低いな」と自分を俯瞰して眺め、必要ならば、後述する自己肯定感を高める方法を実践すればいい。自己肯定感をコントロールしていくことは、激動の社会を生きるために必要なファクターです。
―中島さんは、どのような理由で、自己肯定感に着眼されたのですか。
生家が商売をしていて子育てに手が回らなかったので、里親に育てられました。その里親が、私が5歳のころに夜逃げしてしまったんです。この喪失体験から、自分は人に迷惑をかける存在、愛される資格のない存在だというアイデンティティができてしまいました。
自分を好きになれないから、他人も好きになれない。どうしたら自分を好きになれるのか、他人を良く解釈できるのかが、長年の私のテーマだったのです。それで、自己肯定感が大事だという考えに至りました。
―独自のカウンセリング方法は、どのように確立されたのですか。
パニック障がい以外にいくつもの疾患を持っていましたし、ギフテッド(突出した才能を持つ人)かつ、いわゆるHSP※でもあったので、人前に出ることが苦手でした。だから1人で本を読み、文献を調べ、自分で自分を被験者にして実験をしました。その中でうまくいったことを体系化し、心理カウンセリングとして提供したところ、たくさんの方から「回復した」との声をいただいたという流れです。
―自己肯定感の総量は、生まれ持ったものなのでしょうか。
先天的な要素も多少は関係しますが、むしろ後天的な要素の方が大きく影響します。具体的には、環境、特に周囲の人の言動です。
自己肯定感がもっとも高いのは、赤ちゃんなんですよ。高いからこそ、失敗したり転んだりしながらも、二本足で歩けるようになるのです。ところが、周囲の大人が「やめなさい」「ダメじゃない」とネガティブな言葉のシャワーを浴びせると、総量が低下してしまいます。
―総量が減ってしまったら、元には戻せないのでしょうか。
そんなことはありません。何歳になっても増やすことはできます。
その時もやはり、環境が重要になります。自己肯定感を育む環境とは、安心感を得られる環境です。
あるアスリートは、ネガティブな会話が多く自己肯定感が育ちにくい家庭で育ったそうです。でもその競技のコーチが自己肯定感の高い人で、いいところを探して褒めてくれた。「大丈夫だよ、うまくなるよ」「すばらしいね」と。結果、自信を持って練習や試合に臨め、世界的に活躍するようになりました。ただし自分が親になって子育てをする時には自信が持てず苦労したとのことです。
このように、人間は感情があるので、周囲に感化されやすく、自己肯定感が増えも減りもするのです。
―自己肯定感の高い人が、身近にいることが大事ですね。
そうです。組織の場合、リーダー層の自己肯定感が特に大事です。
リーダーが「大丈夫だよ」「失敗してもいいよ」と安心感を発信し、その人の優れているところや組織のいいところを言ってあげる。肯定的側面を見る例を示すのです。そうすればメンバーは安心して挑戦しようという気になるし、周囲の人も感化され組織全体がポジティブになります。まずはリーダー自身が、自己肯定感を増やし高めることが大切です。
―少し話がそれますが、日本人は概して自己肯定感が低いといいます。なぜ低いのでしょうか。
日本はハイコンテクスト※社会、空気を読む文化です。多様な人同士が言葉を使ってコミュニケーションを取るローコンテクスト社会と違い、調和を重んじ暗黙の了解で相手に合わせることが求められます。みんなと違うことをすると、排除されそうで怖い。これが自己肯定感の低下を招いているといえます。
でも、見方を変えれば、相手が求めていることや小さな違いが分かるわけです。この特性をポジティブに生かそうという発想にすれば、いい方向に展開できるのではないでしょうか。ビジネスでは、「どうしたらこの人のためになるのだろう」という発想に変えたら、アイデアも湧くし組織の改善も進むと思います。
―自分でできる、自己肯定感の高め方を教えてください。
方法としては大きく4種類あります。自己肯定感をじっくり育てていく持続型の方法と、持続性はないけれど、その場でパッと高められる瞬発型の方法、それぞれ自力で行う方法と、他の物や力を使って行う方法です(下図参照)。
瞬発型で他力に頼る方法として、物を使うというものがあります。SNSなどで好きな映像や写真を見る、いつもとは違う明るい色のマグカップを使う、花を買うなどです。気分がさっと変わります。
自分の力で、というのであれば、両手を上げて「ヤッター!」と声に出す方法がお勧めです。心理学者のアドラーが説くように、心と体はつながっていますので、「ヤッター」とポーズを取ると心も高まります。
持続型で、自力で行う方法には、自分にご褒美を用意するというものがあります。「if-thenプランニング」といって、「週末はあの店に食事に行く」と、先々の楽しみを常につくっておくのです。落ち込んでも、「これをクリアすれば食事が待っている」と気分を上げることができます。
他の力を使いたいなら、自分が好きな場所で好きな時間を持つこと。週に30分でいいので、カフェで好きなものを飲むなど、自分が楽しめる時間を持つといいでしょう。
―リーダーの自己肯定感が低く、自分で改善しようとしない場合は?
それならこの記事を読まれた方が、安心感を発信してください。必要に応じて「自己肯定感を高める4種類の手法」を実践し、自分の自己肯定感を高めつつ、周囲の人のいいところを言うことから始めてはいかがでしょうか。
相手のいいところを言うと、相手が安心感を抱くだけでなく、自分も高まるんですよ。なぜかというと、脳は人称に気づかないから。相手のいいところを褒めると、自分も褒められたと認識し、やる気がわきます。
―好循環が生まれ、いい雰囲気になりそうですね。今、多くの企業が、多様性を受け入れ、働きがいを感じられる企業になろうと努力しています。自己肯定感を高めることは有効ですね。
まさに、そうだと思います。特に多様性に関しては、捉え方を変える力が必要です。まずは気づいた人から実践してほしいですね。きっと組織が変わっていきますよ。
リモートワークの普及に伴い、チームの雰囲気作りに悩むリーダーが多いようです。中島さんは、上司の声掛け一つで相手に安心感を与えられると話します。「リモート会議に入る前に、"雨だね。農家の人は助かるね"など、肯定的側面から見る例を一言加えると、安心感が生まれます」。ぜひ試したいと、スタッフ一同頷きました。